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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第204話:ある女の恩情


「コーホー……コーホー……うぅ……コレット……何処に行ったんだよぉ……コーホー……コーホー……」

「ラムダさんがずっと憂鬱ブルーになっていますね……あと呼吸音が面白い。まったく、コレットちゃんは何処に消えたのやら……!」


「やれやれ……【王の剣】であるラムダ卿が心身共にズタボロとは……これは僕たちが気合いを入れるしかないようだね、メインクーン卿?」

「ですね……それにコレット=エピファネイア……やはり“憤怒の魔王”イラの幼体でしたか。ツヴァイ卿め、これまた厄介な存在をメイドにしていたものだ……」



 ――――獣国ベスティア首都【ヴィル・フォルテス】、裏通り、時刻は日没後。王立ダモクレス騎士団の一行は宿場町での療養を予定より早く切り上げて首都へと戻り、第七師団と第九師団の騎士たちを首都郊外に潜伏させて第十一師団とセブンスコード卿、メインクーン卿での少人数で人気ひとけのない道をコソコソと歩いていた。


 コレットの失踪を理由に俺が帰還を強要したからだ。部下からは『まだ安静にしていろ、あと怪我している癖に女を抱くな!』と非難を受けたが、コレットが自身の正体に気付いた後に失踪した以上、のんびり怪我の回復を待つわけにもいかなかった。


 が、本来は『まだ安静にしなければならない』のは事実だ。装甲アーマーはまだ修理中で今の装いは冒険者時代の軽装、内臓もまだ回復しておらず口にはアーティファクト製の呼吸器で奇妙な呼吸音が鳴り響き、身体も禄に動かせずネオンの固有ユニークスキルで召喚された“自律騎士甲冑”『プロスタシア』に担がれている状態だった。



「あの様子ですとラムダ卿はしばらく戦線離脱ですわね……!」

「それはあなたもよ、ジブリールに背負われて文字通り“お荷物”になっているレティシア姫? まったく、禄に装備の調整も行わずにいきなり実戦投入するなんて何を考えているのかしら?」


「事前に『聖装ドレス』を試す機会が無かったので仕方のないことですわ、リリィ……! まぁ、もう少し【魂喰い・自壊セルフ・ソウルイーター】の練度は上げないといけませんね……」

「いくら時間が経てば擦り減った“魂”が回復するからってあんな無茶な戦法をするなんてレティシアお姉ちゃんは馬鹿なのだ! はぁ……障壁バリアで爆風を軽減したとは言え、あたしもボロボロなのだぁ〜」



 ガンドルフの爆発に巻き込まれた三名の内、戦闘が困難な状態なのはレティシアのみ。残りのアウラやリリィ、リンドヴルムに負傷させられたアンジュたちも回復していたがとても安心材料にはならない。


 獣国ベスティアに居る魔王軍の残存勢力は『ネビュラ=リンドヴルム』と『ルクスリア=グラトニス』の二名――――グラトニスは当然の事ながら、俺やリリィを赤子のようにあしらい、仲間を平然と盾にするような残虐性を持ったリンドヴルムが残っているのも厄介だ。


 リンドヴルムは単純に強い上に、卑怯上等な戦術をさも当然のように実行し、自身の安全を優先してか撤退の判断も早い。小物のようにさかしく動く『強者』、敵に回したくない最たる存在だ。



「リンドヴルムのクソ野郎……よくもガンドルフのおっさんを盾にして殺しやがったな! 今度会ったらアタシがボコボコにしてとっちめてやる……ガルルル!」

「はいはい……お前は“嗅覚”を使って僕たちを安全に拠点まで連れて行くのが仕事だよ、ルリ=ヴァナルガンド……! さもないと首輪から電流を流すからね?」


「ウッ……ちくしょう……! 覚えていろよダモクレス騎士団……捕虜を“鵜飼うかい”みたいに使いやがって……!」

「これでも恩情のある方にゃ~! エトセトラ卿に捕まったら人体実験の材料にされている所ですよ〜」



 だが、リンドヴルムが極悪非道だったお陰で、捕虜になったルリがやや協力的なのはせめてもの救いだろう。


 拘束具で手を背中側で縛られて、セブンスコード製の首輪と銀鎖ぎんさでスキル発動と身体の自由の大半を奪われ、ルリは得意の“嗅覚”を駆使した安全なルート探しに従事させられていた。



「ごめん……ルリ……」

「チッ、湿気たツラで謝んなやラムダ! それに……女の腹に容赦なくパンチをブチ込んで今さら『友達面ともだちヅラ』か?」


「うわぁ……女の子に腹パン……!? ラムダ様ったら鬼畜ですぅ……」

「あ、あんな場面で手加減なんてできる訳ないだろ……! オリビア……そんな冷たい目で見ないでよぉ〜(泣)」


「ともかく……やれって言うなら大人しく従ってやるさ! その代わり……」

「分かっている……戦争が終わったら恩赦おんしゃを受けれるように俺が国王陛下に働きかけるよ。だから少しだけ我慢して欲しい……」

「くそ……グラトニス様への利敵行為に加担させられるなんて……!」



 ルリ本人は『グラトニス様への背信行為だ』と文句を言っているが、こちらとしても勝つためにはやむを得ない。


 一応、戦争終結時にグランティアーゼ王国側が勝利した場合にルリに掛けられる刑罰を軽減する“恩赦”で渋々了承してもらったが、不貞腐れた表情かおをしたルリを見るのは少し心苦しいのも確かだ。


 彼女の言うように、ダモクレス騎士団に協力すると言う事は、魔王グラトニスを裏切ると言うことなのだから。それでもルリは『ラムダをグラトニス様に引き合わせた埋め合わせ』と言ってくれた。


 その義理堅さを無駄にはしたくない。



「さて……魔王軍の見張りは居るかい?」

「居る居る、うじゃうじゃいんぞ……! この匂いは……ガンドルフのおっさんの部下だな……! 路地裏にも捜索の網を張ってやがる!」


「我々が拠点にした宿に戻るのは危険ではにゃいですか、セブンスコード卿?」

「ハッ、ラムダの匂いを追って宿を特定したアタシはともかく、連中がこの街にある建物からあんた等を探し出すのは無理だな、まず人手が足りねぇ!」


「なら迂回してでも宿に戻るべきだな。ルリ=ヴァナルガンド、案内を!」

「アタシに命令すんな、クソ眼鏡! って……この匂い……人間の匂いだ……!」



 街中ではガンドルフの敵討ちを狙う魔王軍の獣人部隊が血眼になって俺たちを探しているらしい。どう考えてもリンドヴルムの奴が『ガンドルフはラムダ=エンシェントに殺された』とうそぶいているのだろう。


 流石に敵陣営から『ガンドルフはリンドヴルムの盾にされて命を落とした』なんて言われても魔王軍は素直には信じないだろうし、ここは素直に隠れてやり過ごすしか無い。


 そんな中だった、ルリが何処からともなく流れてきた何かの“匂い”に反応したのは。



「クンクン……ドブの匂いに混じった人間の血の匂い……誰の匂いだ?」

「どれどれ……クンクン……んっ、これはツヴァイ卿の匂いだ! ファンクラブ会員番号1番の僕が言うんだから間違いは無いぞ!」


「この人キモいよぉ〜(泣) なんで姉さんの匂いをルリよりも正確に嗅ぎ分けているんだよ〜(泣)」

「おおぅ……オメェの姉ちゃん、変な奴にモテてんだな(汗) まぁいいや、こっちだ!」



 セブンスコード卿曰く、ツヴァイ姉さんの匂いらしい。狼系亜人種のルリよりも精密に嗅ぎ分けて、ツヴァイ姉さんの匂いだと断定したセブンスコード卿は少し気持ち悪い。


 だが、二人の反応が事実ならツヴァイ姉さんが王城の外に居ることになる。


 匂いの元が俺の姉であると知ったルリは気を使ったのか、ツヴァイ姉さんの居ると思われる場所へと進路を変更して案内を始めてくれた。



「あれ……城の堀に浮かんでるのって……死体かしら?」

「若い人間の女か……可哀想に……」


「ラムダ……あれ……もしかしてあんたの……」

「…………姉さん……ツヴァイ姉さん!!」

「あぁ、アカンで団長! あんたは怪我人やろ、無茶したらアカンて!」



 そして……王城【アングルボザ】を囲む堀の水面に彼女は浮かんでいた。


 白い拘束具を着せられ、首輪を装着されたピンク髪のツインテールの女性。間違い無く、ツヴァイ=エンシェントだ。


 水面にうつ伏せで浮かぶ姉さんを発見して無我夢中で俺は堀に飛び込んで、姉さんの所まで泳いでしまった。身体中がきしむように痛み、呼吸を荒らげた瞬間に肺に激痛が走る。それでも、姉さんの安否を確認したいと言う思いでいっぱいだった。


 けど、随分と長い時間放置されていたらしい。身体を抱きかかえて顔を水面から引き上げた時には、ツヴァイ姉さんは息をしていなかった。



「あぁ……姉さん……? 嘘だ……嘘だよね……?」

「…………」


「しっかりしてよ……アインス兄さんが悲しむよ……!」

「…………」



 腹部に残った火傷の跡、冷水に浸かって冷え切った身体、そして姉さんの皮膚に僅かに感じる硬い“空気の層”のような感覚。


 傍から見れば確実に死んでいる。けれど、それを俺は受け入れれずに、咄嗟に紫色に変色してしまった姉さんの唇に自分の口を押し当てて人工呼吸を始めてしまった。



「そんな……ツヴァイ卿が……!? 僕の……歌姫が……!」

「“狼王”……! ツヴァイ卿をなぶり殺しにしたのか……!!」


「なっ……ツヴァイ……!? なんでお前が……そんなボロ雑巾みたいな姿になっているんだ……? 私との勝負はどうしたんだ、聞いているのか!?」

「ツヴァイ……あんたを倒すのはうちの役目でしょ……? なにこんな所で死んでいるの……弟を放って逝く気なの……あんた馬鹿でしょ!!」


「ルルにぃ固有ユニークスキルはあらゆる生命体を縛り自由を奪う“鎖”のスキルで、血中属性もアタシと同じ“氷”の筈……あの女に火傷なんて負わせれる筈が……?」

「あぁ……僕はツェーネル卿になんて報告すればいいんだ?」



 堀の上からはセブンスコード卿やアンジュたちの悲観の声が聞こえてくる。誰もがツヴァイ姉さんの悲劇的な末路を覚悟したのだろう。息を送り続けても息を吹き返さない姉さんの姿に、俺自身も最悪の未来を想像する程には。


 けど、俺はどうしても諦めたくなかった。


 どんな時も俺を支えてくれて、『神授の儀』のせいで故郷から追放されてた時も最後まで俺を案じ続けてくれた姉さんをどうしても失いたくなかった。



『あー、あー……聴こえておるか、ラムダ=エンシェントよ? その女は儂からのプレゼントじゃ……いつか恩を返しに来い……いな?』

「この声……グラトニス……!?」


『あと儂はまだすんごい下痢じゃ! あのアホバカマヌケの人形にいつか仕返しをしてやると伝えておけ……いなーーッ!!』

「うるせぇ! 仕返しぐらい自分でやれ……いや、ノアには手を出すな! 俺が代わりに文句を言っといてやるよ!!」



 そんな中、ツヴァイ姉さんに懸命に人工呼吸を続けている最中に脳内に響いたのはグラトニスの声。


 近くに居るのか、はたまた姉さんに纏わせていた“空気”に含まれていたのか、真相は定かでは無いが、この状況でグラトニスから『恩を売ってやった』と言わんばかりの“伝言メッセージ”が聴こえたと言う事は……結果は一つしかないだろう。



「…………うっ……ゲホッ……!」

「――――ッ! 姉さん、しっかりしてツヴァイ姉さん!」


「まさか……ツヴァイ卿……生きているのかにゃ!?」

「すぐに引き上げる! ラムダ卿、ツヴァイ卿を抱えたまま僕の鎖を掴んで!!」



 ツヴァイ姉さんは生きていた。


 体内に含んでしまった水を吐き出して、微かに息をし始めた姉さん。弱々しくだが、ゆっくりと呼吸を始めた姉さんの姿を見て俺は思わず涙を流してしまった。


 失わずに済んだと、そう安堵して。


 そして同時に、ツヴァイ姉さんを陰ながら守ったグラトニスに小さな感謝の念を抱いてしまった。


 きっと、俺を懐柔かいじゅうして引き込む為の策略で、グラトニスにとって姉さんは『生きていても死んでいても支障の無い存在』だから生かされたのだろうけど、それでも彼女の与えた恩情に俺の心は救われてしまった。


 だから……俺はいつか“暴食の魔王”に、受けた恩を返さなければならないのだろう。

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