第22話:フェイタル・バレット
『遺物――――認識。可変式銃撃兵装・対式連装衝撃波干渉砲:ウル――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動―――所有者をラムダ=■■■■■■に設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調率最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度及び技能の継承――――完了。技量スキル【空間認識:Lv.10】【早撃ち:Lv.10】【精密射撃:Lv.10】取得――――完了』
可変式銃撃兵装:対式連装衝撃波干渉砲――――古代文明の技術で作製された軽量合金で造られた黒い二丁銃。
大の大人の肘から手先程の長さのある銃身が特徴で、圧縮形成した光量子の弾丸による射撃攻撃はもちろん、丈夫な長い銃身を活かした白兵戦にも対応出来る武器。
「精密射撃!」
「――――ぐッ!?」
可変銃を手にした俺は素早く弾丸を三発発射。オークの両手首を撃って武器を弾き飛ばし、続く三発目で弾かれた棍棒を精確に撃ち抜き破壊する。
「魂を焼く“朱”の焔――――“狐火・赤”!」
得物を破壊され、両手首の関節を狙撃によって粉砕されて悶えるオークに間髪入れずに襲い掛かるのはコレットの狐火。
コレット=エピファネイアが女神アーカーシャより授かった固有スキル【玖色焔狐・煉獄焔尾】――――治癒・精神攻撃・腐食・活性化・防御など、“色”によって割り振られた効果を持つ焔を全九色操る事が出来るスキル。
その内の一つ、相手の肉体には傷を付けず『相手の精神を直接燃焼させる』効果を持つ朱い焔がオークの顔面に直撃する。
「グオッ……!? この……小癪な……!!」
「あれ……? ラムダ様ぁ……コレットの焔、あんまり効いて無さそうです〜」
しかし、顔に降り掛かった焔を鬱陶しそうに払い除けようとするだけで、オークにはダメージで苦しむ素振りは見受けれない。
「もぐもぐ……コレットちゃんとあのオークさんのレベルに“差”が空きすぎているんじゃないでしょうか?」
「そんな……オークなんて弱い個体はせいぜい討伐推奨レベル15ですよ〜!」
「じゃあ、思っている以上に『強い個体』って訳だな!」
レベル差による攻撃威力の減衰――――お互いの能力値に雲泥の差があるせいで、レベルの低い方から高い方への攻撃が効きにくくなる現象。
エンシェント家でのゼクス兄さんとの喧嘩の際、俺が放った渾身の右ストレートが殆ど効いていなかった理由だ。
「じゃあ……ラムダ様はあのオークにダメージを通せるほど強いって事でしょうかー!?」
「まっ、今のラムダさんは『アーティファクト』を装備しているからね♪ あの程度の雑兵なんて話にもなりません! だから私はサンドイッチを食べるのですっ!」
などと俺を立てつつこっそりとコレットのサイドイッチをつまみ食いするノアの食い意地はともかく、彼女の考察は正しい。アーティファクトを手に入れた事で俺の戦闘能力は大幅に向上している。
事実、俺の右眼が有する『相手のステータスを確認する』スキル【二次元の傍観者】で観測したあのオークのレベルは【60】――――あのガルムよりも強く、通常レベル10〜15の通常個体のオークからは考えられない強さをしている。
そんな強敵を相手に、俺は難なく戦闘を行えている。
改めて、古代文明の『遺物』の桁違いの性能に驚かされる。こんな兵器が当たり前の様に存在していた時代があったことにも。
「コレット、そのまま焔を浴びせ続けるんだ!」
「り、了解ですー、ラムダ様〜! うりゃー!」
そうと決まれば、あのオークへの決定打は俺が打つ必要がある。そう考えた俺はコレットにオークへの追撃を指示し、次なる攻撃の準備へと着手する。
「対式連装衝撃波干渉砲、形態変化――――対艦砲撃形態!!」
俺は両手に掴んでいた可変銃の互いの上部を連結させ、高火力が売りの対艦砲撃形態を起動させる。
身体の正面に構えられた連結砲がコレットの焔に囚えられたオークの身体を捕捉した瞬間、銃身先端がスライドして高火力砲撃の砲身が露わになる。
変形を確認した後は、反動に備え、両足を深く踏ん張りながら、俺はオークの意識が完全に逸れるのを待つ。
そして――――
「対艦砲撃――――発射ッ!!」
――――オークの意識がコレットの焔に完全に向いた瞬間、連結した可変銃の両方の引き金を同時に押し込んだ。
引き金を引くと同時に撃ち出された真紅に染まった光量子の弾丸は1秒も掛からずオークに着弾、怪物の胴体に大きな風穴を開けて貫通。
オークの背後にあった木々すら撃ち抜きながら空へと消えていった。
「す、すごい……ラムダ様、一昨日までとはまるで別人みたいです〜……!」
「ば、ばかな……!? 我が……こうも容易く……負けるなど……」
「悪いな……こっちも急いでいるんだ!」
致命傷を受け、痙攣を起こしながら徐々に姿勢を崩していくオーク。
自身の強さを過信していた魔物は、手も足も出せずに敗北を喫したことに驚愕し、最期の力を振り絞って俺の事を睨みつける。
「ふっ……ふはは……! 我を倒したからと言って……いい気にならぬ事だな、小僧……! ラジアータの村には我の同胞が二十は居るぞ……!」
負け惜しみか、忠告か――――オークはラジアータの村に同族が多数いることを俺に伝える。怖気づくか、自身の強さに慢心するか、どちらかを期待したのだろう。
「あぁ、油断はしない。全力で倒させてもらうよ」
しかし、俺の返答はどちらでも無い。
油断はしない。ほんの僅かな隙が命取りになることを、俺は右眼と左腕を失ったからよく痛感している。
「そうか……良い心掛けだ。小僧、名を……我を倒した男の名を、冥土の土産に教えてくれ……!」
「ラムダだ」
「ラムダか……見事なり、強者よ……」
最期に俺の名を訊いて、戦いの結末に、或いは戦士の誉れを持って死ねる事に満足したのか、口元をニヤリとさせてオークの戦士は絶命した。
俺が知る単細胞な魔物とは一味違う礼節を重んじるあり方に、俺は一抹の不安を感じずにはいられない。
こいつらは、ただの魔物では無い。
「ここまでお喋りなオーク……コレットは見たことありません~」
「同感。どうやら、ラジアータを襲った連中は只者じゃ無さそうだ」
息絶えたオークの亡骸を見ながら、焦燥感に駆られる俺とコレット。これは急がないといけない。
「ラムダさんのサイドイッチも食べちゃった〜/// どうしよう……なんて言い訳すれば……」
「ノア、急いで出発する! ラジアータの村が危ない!」
「は、はい! すぐに準備しますね……! ばれてない? セーフ……!」
いまだにシートに座っているノアを促して、俺たちは足早にこの場所を後にした。目指すはラジアータ。大きな脅威が迫っている小さな農村。
拭いきれない不安を胸に、俺たちは前へ前へと駆け抜けていった。
「ノア様……何が『セーフ』ですか〜? ラムダ様のサンドイッチまで手を付けた手癖の悪さ……後で折檻ですねー(怒)」
「ひえ~、バレてた~(泣)」
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