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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第194話:亡獣狩り


「――――お待たせ致しました、グランティアーゼ王国の皆さま!」

「ライラプス卿、お呼び立てに応じていただきありがとうございます……!」

「先日の“狼王”の非礼を考えればこれぐらいお安いものですよ」



 魔王グラトニスとの遭遇から一夜明け、獣国ベスティア首都【ヴィル・フォルテス】の宿泊施設『サタン』、時刻は正午前。


 ツヴァイ姉さんの奪還と魔王軍の動向を探るべく、俺とレティシアは“狼王”の側近であるガル=ライラプスと秘密裏に接触していた。



「知恵出しならテウメッサの方が適任です。なぜ私に?」

「それが……騎士団にいるノナ=メインクーン卿がテウメッサさんとは因縁があるみたいで……」


「メインクーン……辺境の地で暴れていた野盗のかしらがそのような名だったような……? いえ、忘れましょう……昔の話だ……」

「それで二人を引き合わせると喧嘩になるので、ぜひライラプスさんにと……」

「なるほど、事情は把握しました。武器を振るうしか取り柄のない私ですが、精一杯のお力添えを致します!」



 先日の“暴食の魔王”グラトニスとの接触で俺はこっぴどく痛めつけられ、左腕と右手首を切断されてしまった。幸い、ノアが応急処置で腕を元通りにしてくれたが、それでも俺が『魔王グラトニスに不覚を取った』事実は変わらない。


 可能なら今はグラトニスに遭遇したくない、と言うのが俺の率直な感想だった。単純に今の身体能力ステータスでは歯が立たなかった上に、ノアの横槍が無ければ俺はグラトニスの配下として取り込まれていた可能性がある。


 最悪の場合シナリオを考えただけで吐き気がする。


 だから、俺はレティシアに協力をお願いして、ライラプスと内通する選択を取った。グランティアーゼ王国側にも真摯しんしな姿勢を見せているライラプスならこちら側の動きを魔王軍に報せることは無い、仮に密告するとしてもテウメッサよりは確率が低いだろうと判断したからだ。


 無論、危険性リスクが皆無な訳は無いが、騎士団だけで迂闊うかつに動いて再びグラトニスに捕捉されるよりはマシだろうと思う。



「ライラプス卿、単刀直入にお訊きしますわ! “狼王”からツヴァイ卿を解放していただく為の知恵をお貸し頂けますか?」

「ツヴァイ=エンシェント卿……! ふむ……“狼王”様は彼女を『気立てのあるメス』だと大層お気に召しています……やはり見返り無しに彼女を解放するのは難しいかと……!」


「見返り……やはりそうなりますわよね……。しかし、ラムダ卿も我らグランティアーゼ王国の“切り札”、おいそれと“狼王”に貢ぐ分けには……!」

「お気持ちが分かりますが、彼女は魔王グラトニス様からの『贈りもの』……獣国われわれに正当な所有権がある以上、あなた方の申し出は突っぱねられるかと……」



 そして、ライラプスを抱き込んだ肝心のツヴァイ姉さんの奪還だが、やはりと言うかなんというか、王の側近であるライラプスでも“狼王”を動かすのは難しそうだった。


 ツヴァイ=エンシェントの身柄の『所有権』は獣国ベスティアにある。ライラプスの言い方は少し酷に聞こえるが、事は国家間の問題故にライラプスも公人こうじんの立場としてそう言わざるをえないのだろう。


 談話室のテーブルを囲んでの密会は重い空気のまま進んでいく。



「何か妙案があれば……ううん、わたくしに出来ることは物資や金銭を獣国に捧げるぐらい……」

「生憎と獣国は金銭にも食糧にも困ってはいません。余計な品々を贈っても“狼王”を支える臣下たち……特にテウメッサがふところに仕舞い込むだけかと……」



 金銭や食糧の支援も期待薄、とは言え“狼王”の要求通り俺が身代わりになろうが別の誰かが身代わりになろうが、結局は『人質解放』の対象がすげ替わるだけだ。


 それでは意味がない。


 だが、ライラプスの言う通りツヴァイ姉さんに釣り合うだけの“対価”を支払わなくてはいけないのも事実。それが分かれば苦労はしないのだが……。



「あの〜……ラムダ様……レティシア様……お客様のお茶とお菓子をご用意したのですが〜……」

「あぁ、ありがとう、コレット……! ライラプスさん、我が故郷で採れた茶葉で淹れた紅茶と此処に居るコレット=エピファネイアが作った菓子です、どうぞ召し上がってください」


「おぉ……良い匂いだ……! 頂いてもよろしいのですか?」

「ええ、もちろんですわ。ぜひグランティアーゼのグルメに舌鼓をうってくださいませ」



 そんな折に鼻腔をくすぐる甘い香りを漂わせながらコレットが現れた。ライラプスが宿を訪れた際に彼女に頼んでおいた紅茶と焼き菓子がようやく届いたからだ。


 ライラプスの前に用意された赤い色のアイスクリームのような菓子とそれに反する熱めの紅茶。それを犬特有の優れた嗅覚で堪能し、興奮から尻尾をフリフリと振りながらライラプスは目を輝かせていた。


 どうやら獣戦士ライラプスはあま~い菓子に目がないご様子。“餌付け”と言うのは失礼な言い方だが、これで少しでも取り入れれば良いのだが。



「ノア様がご用意してくださった古代文明のレシピから再現したアイスクリームの『パルフェグラッセ』になります……! お気に召していただけると嬉しいのですが……」

「まぁ、オリビアの名字ファミリーネームに由来するお菓子ですか……!? くぅぅ……美味しそう……今度わたくしにも作ってください!」


「因みにオリビア様が『わたしの名を冠したお菓子なら、わたしが作ります!』と言いながら唐辛子を混ぜようとしたので騎士団総出で食い止めました〜〜」

「騎士団総出……?? オリビア……『聖女』に覚醒しだして手が付けれなくなってきたな……」

「貴方の婚約者ですよ? 責任をもって面倒みてくださいね、ラムダ卿?」



 この菓子の裏で起こっていたオリビアの奇行に俺が頭を抱えている内に、ライラプスは菓子と紅茶を口に運んでいた。


 上品にフォークを駆使して菓子を切り分けて口に運び、優雅な仕草で紅茶をすする犬の獣人。所謂『犬食い』と言う品の無い食べ方をしないあたり、ライラプスもしっかりと教養のある御人だと言うのがよく分かる……犬食いすると思っていた。



「う~ん……旨い! これを献上すれば“狼王”も少しはお喜びになるだろう……ツヴァイ=エンシェントの解放とまでは言いませんが……」

「褒められました~ラムダ様〜♪」


「コレット=エピファネイアさんでしたね? 素晴らしいご馳走をありがとう……んっ、あなた……どこかで……?」

「…………? ライラプスさん……コレットがどうかされましたか?」



 ライラプスからの評価は上々。コレットの作った『パルフェグラッセ』なる菓子が“狼王”への献上品にも出来ると太鼓判まで貰えた。


 ただ、ライラプスがコレットの顔を見たときに、彼の顔色が変わったのが少しだけ気になった。



「もしかして……彼女のことをご存知なのでしょうか? 実は彼女は半年前に獣国ここで起きた『エピファネイア事変』に巻き込まれて当時のツヴァイ姉さんに拾われたんですよ!」

「半年前の『エピファネイア事変』に巻き込まれて……生き残った……? あの黄金の焔に灼かれて生存出来る筈が……まさか……!」


「ライラプス卿……どうなさったのですか?」

「グランティアーゼが獣国に近付いてから『亡獣ホロウ・ビースト』が活性化……狐の亜人種……ふふふっ、なるほど……テウメッサめ、これで俺を出し抜くつもりだったか……!」



 小さく独り言を呟きながら時折含み笑いをするライラプス。どうも彼の中で何か閃きがあったようだ。


 ガル=ライラプスと言う獣人が被った『強者の仮面』に隠された本性、獰猛な“狩人”の眼光が鋭くコレットを射抜くのを俺は観てしまった。



「ラムダ卿、王女レティシア様、私にツヴァイ卿を解放する妙案が浮かびましたよ……!」

「本当ですか、ライラプス卿……!? まさかお菓子を食べてIQが向上してしまったのですか……!?」


「ははは……そうかも知れませんね? それでですが……ダモクレス騎士団の皆さま、ツヴァイ=エンシェント卿の解放の為に、私と『亡獣狩り』など如何ですか?」

「猛獣狩り? いや、『亡獣ホロウ・ビースト』のことか……!!」


「――――然り。半年前から獣国各地に出没するようになった魔物モンスターである『亡獣ホロウ・ビースト』……テウメッサの報告ではあなた方は既にこの『ケモノ』とは相対したそうですね?」

「ええ、国境沿いの渓谷林にて……! 一匹だけでも随分と手こずりましたわ!」



 そして、ライラプスの口から出たのはツヴァイ姉さんの解放を賭けた『亡獣狩り』への誘い。


 獣国各地に出没する『亡獣ホロウ・ビースト』を共に狩ろうと彼は俺たちに持ちかけてきたのだ。



「『亡獣ホロウ・ビースト』は獣国でも【真鍮オリハルコン】以上の強者つわもの以外は立ち向かうことを禁じている怪物。もし、この凶悪な『ケモノ』を一掃出来たのなら、“狼王”も心を動かされ必ずやツヴァイ卿を解放してくれるでしょう……!!」

「まぁ! それは願ったり叶ったりな条件! 魔物モンスター退治ならダモクレス騎士団の得手ですわ!」


「本当に『亡獣ホロウ・ビースト』を退治……この国から一掃できればツヴァイ姉さんを解放していただけるのでしょうか?」

「私から“狼王”に進言します! それに『亡獣ホロウ・ビースト』は“狼王”も頭を悩ます獣国の死活問題……それを解決したとなればあなた方に大きな“借り”を作ることになりますからね!」



 ライラプスの申し出は確かに渡りに船、“狼王”が抱えている問題をグランティアーゼが解決したとなれば、俺たちに報酬を要求する権利が与えられるだろう、そしてその報酬としてツヴァイ姉さんを取り戻せる。


 だが、何かが引っ掛かる……ライラプスの提案は突如閃いた妙案では無く、コレットを見て思い付いたものだ。


 ある程度、ライラプスにも益になること、彼の台詞を考えれば同僚のテウメッサに“差”を付けたい思惑があるようだが、果たして理由はそれだけだろうか。



「如何です? ぜひとも私の『亡獣狩り』にご協力お願いします……!」

「ラムダ卿、ご判断を! わたくしはライラプス卿の提案に賛成ですわ!」


「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』か……。分かりました、ライラプスさん……その提案、乗らせて頂きます!」

「――――交渉成立ですね。早速、私の配下を動かしますので、ダモクレス騎士団の皆様もご同行お願い致します」



 だが、他に道が見当たらないのも事実――――危険は承知の上で、今はライラプスの提案に乗るしかない。


 俺たちがライラプスを抱き込んでツヴァイ姉さんの奪還をはかったように、彼もまた俺たちを利用して手柄をあげるつもりなのだろう。それはそれで良いのかも知れない。



「実はこの首都から少し東にある小さな村に出没した『亡獣ホロウ・ビースト』を狩りに赴く予定だったのです。あなた方には此度の討伐にご同行していただきましょう……!」

「承知しました。こちらもすぐにダモクレス騎士団を動かしますわ……ですが、魔王軍との接触は避けたいので隠密に動かせていただきますのでご了承お願いします」



 獣国ベスティアでの亡獣狩り、それは危険な匂いが漂う『強者』たちの戯れ。


 其処で俺たちを待つのは如何なる危険か、はたまた困難か。それを知るのは『ケモノ』たちのみ。

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