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第21話:蠢く悪意


「ふむ、参ったな……この森にいるはずの魔狼ガルムを探しに来ただけなのだが……よもやこんなわらべたちと鉢合わせになってしまうとは……」


「えっ? オークが喋っていますよラムダ様ー……!?」



 目と目が合い、お互いに緊迫した沈黙が数十秒ほど続いた後、最初に口を開いたのはオークの方だった。



「はてさて……どうするべきか? 将軍ジェネラルからは『目撃者は全員殺せ』とおおせつかっているが……この場合はどうなのだろう?」



 オークは俺たちを見ながら何かをブツブツとつぶやき、頭を指で掻きながら困惑した様子を浮かべている。


 この場所で俺たちと会ったことは、どうやらオークにとっては想定外の事態だったらしい。



「ズズズゥ〜(嚥下音)……ぷはぁ/// さっきから何かブツブツ言ってますね、あのオークさん」


「さっきから呑気に紅茶を(すす)っているノアよりかはマシだと思うよ、俺は。後、紅茶飲んだぐらいでいちいち色っぽい声を出すな、気が散る」



 何かを悩んでいる、オークの困惑ぶりはそう見えた。


 その確たる証拠として、奴は最初に『ここにガルムを探しに来た』と言っていた。俺が右眼と左腕を引き換えに倒したガルムと見て間違い無いだろう。


 つまり、このオークはあのガルムと何かしらの関わりが魔物モンスターと言う事になる。俺はオークの存在に、()()()()()を感じずにはいられなかった。



「ふむ……こうしよう。あー、そこの子供達よ……ここは一つ、『我々は会ってなかった』事にしないか? ここで我に会った事は忘れ、ここで我に会った事を口外こうがいせず、ここで我に会った事を無かった事にする。そうすれば、我は何もせず、そなたらを見逃そう」


「いきなり何を言っているのですか、このオークは?」



 そんな驚異を誤魔化したいが故か、オークは俺たちに対して『ここで遭遇したことを無かった事にすれば見逃す』と譲歩じょうほしてきたのだ。



「黒、黒、黒の真っ黒くろすけ、何かを()()()()()()()()のは明白ですね、ラムダさん?」



 ノアの指摘通り、これはオークの浅はかな誤魔化し、俺たちを見くびっているが故の下策げさく



「どうだ? この場は立ち去って貰えぬだろうか? 我も探しものがあるのでな……」


「そういう訳にはいかないな。何故なら……お前の探し物は一生、見つからないからな」


「? どう言う意味だ、金髪の小僧よ?」



 ただ、オークがガルムを探している以上、その魔物モンスターを討伐した俺には『責任』がある。


 もし、オークが既に居なくなったガルムを探して当てもなく森を彷徨い、何の罪も無い人々に危害を加えれば、それこそ()()()()()()だ。



「そのガルムは、俺が倒したからな!」


「ふえぇええええええーーっ!? まじですか〜ラムダ様ーー!?」


「…………ほう」



 ガルムの討伐――――俺は事実を宣言する。


 しかし、オークは俺をまじまじと観察すると、鼻で笑いながら口元をニヤつかせる。俺の話を真に受けてはいないのだろう。



「貴様がか……? ハッハッハ、女子おなごはべらせているからと言って、大見得おおみえを切るのは良くないぞ、小僧? 我らの部隊が連れてきたガルムはLv.(レベル)50は下らない上級魔狼。貴様らのような低レベルのひよっ子が敵う相手ではあるまい……」



 見下し、侮蔑ぶべつし、嘲笑ちょうしょうするオーク。俺たちではガルムに勝てないと高をくくっている。その慢心のせいか、失言はもう一つ。


 我らの部隊――――つまり、このオークは何かしらの組織に属し、ガルムを意図的にこのロクウルスの森に放った事になる。


 そこまで考えて、俺は昨日の依頼クエストを思い返す。

 


「我らの部隊……? まさか……昨日、オトゥール郊外の洞窟を拠点にしていたゴブリンの集団もあんたらの差し金か……!?」


「……なに?」



 オトゥール郊外の洞窟を『拠点』と言い、撤退時に『本隊』への合流を図ったゴブリンの集団の事だ。


 もしかしたら、ゴブリン達の言っていた『本隊』とはこいつらの事かも知れない。そう思って俺がゴブリンの存在を口に瞬間、オークの表情は一気にくもっていった。


 聞き捨てならない事を俺から聴いてしまった様に、オークは目頭を押さえてやれやれと首を振ると、静かに俺たちに視線を向ける。


 そこに籠もっていたのは殺気――――先程までは事を穏便おんびんに済ませようとしていたオークは、手にしていた()()()棍棒メイスを構えて俺の顔を凝視ぎょうししていた。



「参ったな……ゴブリンの精鋭部隊の事まで知っているとは。これは最早『無関係』とは言ってられんな。仕方がない……殺すか……!」


「その棍棒メイスに付いた血――――何の血だ?」



 最早、戦闘は必至。俺はオークから出来得る限りの情報を引き出そうとこころみる。



「なんの血だと思う……?」


「お前が来た方向にはラジアータの村がある。そこで何をしている、言え!」


「我が来た方向には小さな農村、我の武器に付着した血痕けっこん――――武器を持ったオークの集団が人間の村ですることなど一つしかあるまい?」



 そして、オークの口から溢れたのは残虐ざんぎゃくな笑み。人間をゴミか何かだとしか認識していないような、慈悲の欠片も無い魔物モンスターの本性。


 それを聞いた瞬間――――俺とコレットは全身に勢いよく血を巡らせて、目の前のオークへの敵対心を剥き出しにする。



量子変換装置ガジェット・ツール起動――――来い、対式連装衝撃波干渉砲ヴァリアブル・トリガー!!」


固有ユニークスキル発動――――【玖色焔狐・煉獄焔尾エストゥス・イラ・ヴルペス】!!」



 コレットは尻尾に真っ赤に燃える赤いほむらを灯し、俺は実体化させた二丁拳銃を手に取って、オークへと対峙する。



「悪く思うなよ? これも、我が主……ルージュ様の為ッ!!」



 そして、棍棒メイス大きく振り上げて、オークは咆哮する。これは『狩り』だと矮小わいしょうな人間へと思い知らせる為に。


 開戦――――これから始まる長い戦いの前哨戦ぜんしょうせん、その火蓋ひぶたは切って落とされた。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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