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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第191話:魔王の食卓


「さっさと起きんか、ラムダ=エンシェント……! 魔王を前にいつまで惚けとる気じゃ!?」

「うぅ……此処は……?」


「この【ヴィル・フォルテス】にある一番の料亭じゃ! 此処の肉料理は旨くてのぅ……これを目当てに獣国と友好関係を結んだのじゃ〜♡」

「魔王……グラトニス……? ぐ……っ!?」



 “暴食の魔王”ルクスリア=グラトニスとの最悪の遭遇エンカウント。その結果、幼き暴君の圧倒的な実力レベルの前に成す術なく俺は倒され、気が付けば俺は椅子に縛られた状態でグラトニスと食卓を囲まされていた。


 左腕アインシュタイナーは外されたままグラトニスの足下に、右腕の転送装置はグラトニスの手元に、右腕と両足はグラトニスの拘束魔法で縛られて動かせない。



「くっはっはー! お主の命、その生殺与奪は儂が握っておる。長生きしたければ大人しく会食に付き合うのじゃな……!」

「…………このっ!」


「あぁ、右手首なら引っ付けてやったぞ、出血で死なれても興醒めじゃしな……。それと、儂の可愛い駄犬の心配なら無用じゃ……あれは頑丈でな、ああして(しめ)ておいてもすぐに復活しおる」

「…………」



 椅子で縛られた俺をあざけるように揶揄しながら料理を口に運んでいくグラトニス。


 肉を口いっぱいに頬張り、はしたなく音を鳴らしながらスープを飲み、店員に次々と料理を運ばせる。その、まさに“暴食の魔王”の名に相応しい暴飲暴食っぷりには呆れるしか無い。


 食事をする様は育ち盛りの子ども、だがその実態は粗暴な魔族たちを力で統べた絶対強者。



「…………なんで殺さない? 俺は敵対国の騎士で、あんたの部下を何人も倒した男だぞ!」

「無論、お主が考えもなしに行動する浅慮せんりょで、古代文明から漁った『アーティファクト』で腕自慢したいだけの阿呆あほうなら即座に首を刎ねておったわ」


「…………どう言う意味だ?」

「即座に殺す必要の無い、『話し合い』が有効な相手と判断したから生かしたまでの話じゃ……! それで納得できたかの?」



 俺を相手に悠悠自適に食事に勤しみ、俺を『話が通じる』と断じて生かす余裕さ。そんなグラトニスの“王者の風格”のお陰で命拾いした以上、俺にはもうグラトニスを咎めることは出来なかった。


 心臓(λドライヴ)を動かして【オーバードライヴ】を発動させればまだ抵抗の余地はあるが、左腕もアーティファクトも没収されたままで戦えば敗北は必至。グラトニスの言うように大人しくするほうが賢明だと判断せざるを得なかった。



「話し合いとは? 俺に何を訊きたい?」

「クフフ、観念したか♪ では単刀直入に……ラムダ=エンシェントよ、儂の配下にならんか?」


「――――ハァ!? ふざけているのか、誰がお前なんかに……!!」

「ふざけてなんぞおらん……! 儂は優秀な人材を欲しておる……なら、我が部下を三人も倒したお主が儂のお眼鏡にかなうのは至極当然の事ではないと思わんか?」



 そして、俺が無駄な抵抗をしなくなったことに気を良くしたのか、グラトニスはジョッキに注がれていたジュースを一気に飲み干すと本題である『ラムダ=エンシェントの勧誘』について語り出した。


 耳を疑った……魔王軍の趨勢すうせいを乱しに乱しまくった“アーティファクトの騎士”を引き込もうとしているのかと、目の前で魚料理をフォークで突き刺している魔王に思ってしまった。



「リリエット=ルージュ、レイズ=ネクロヅマ、エイダ=ストルマリア……いずれも儂が世界各国の『強者』に対抗できると認めて【大罪】に加え入れた実力者じゃ! それを倒したお主なら新たな【大罪】に加え入れても十分に釣が来る……!」

「俺に祖国を裏切れと……? それに部下の仇討ちをしなくても良いのか……?」


「クッハッハ! 復讐なんぞして儂に何の得がある? それよりもお主を部下にした方が効率的じゃ! 死んだネクロヅマとストルマリアも満足してくれるじゃろう……!」

「この『効率厨』め……!!」


「クッフッフ……駄犬と呑気にデートをしていた所を不意打ちしたお陰で、儂は手傷を負うことなくお主を手中に収めた……。まさか魔王がこんな所に居るとは思わんかったじゃろ?」

「くそ……くそ、くそ、くそっ! こんな奴に……!!」



 徹底した『効率厨』――――ツヴァイ姉さんを餌に俺を獣国に誘き寄せ、さらに徹底して不意打ちまでかましてきた。


 魔王グラトニス……自身の強さに胡座をかくこと無く、二重三重に策を張り巡らせた相手。これほど迄に底知れぬ相手とは思ってもみなかった。



「儂は堅実に組織を運用して、『世界征服』と言う“浪漫ロマン”を成し遂げる器じゃ! どうじゃ、この儂の元で働いてみんか?」

「誰が……お前のせいでアリアは故郷を焼かれた! 俺だって左腕と右眼を失ったんだぞ!!」


「アリア……あ~、“勇者”ミリアリア=リリーレッドの事か。古来より『勇者』は『魔王』を討つと知られておったからの……儂の脅威になる前に排除しようと思うただけじゃ。もっとも、そのままお主の仲間になったから迂闊に部下を差し向けられんようになったがの」

「この……!」


「何じゃ、そんな事を気にしておったのか……? クハハハハ、これは愉快な話じゃ! いつまで『過去』を気にしておる、もっと『未来』に目を向けたらどうじゃ?」

「それとこれとは話が違う! これはお前が清算しなくてはならない『罪』の話だ!!」


「ほ〜……そこまで儂に『罪』を問いたいのなら……儂を倒してみる事じゃな、クハハハハハーー♪」

「グラトニス……馬鹿にしやがって……!!」



 自身の行いに一切の罪悪感を抱かず、『世界征服』と言う馬鹿げた偉業を成し遂げる為にあらゆる非道を行うことに躊躇ちゅうちょしない“純粋悪”。


 その無垢を感じさせる身体に詰め込まれた邪悪に俺は嫌悪感すら感じた。こんな奴の家来なんかに死んでもなりたくないと思うほどには。



「儂の魔王軍は好待遇♪ 最高幹部(クラス)なら毎月の給料は手取りで10万ティアで賞与は年3回、昇給有給ありの残業は基本なし、週休三日に長期休暇あり、希望者には自宅の融通あり、さらに【大罪】には領地をプレゼント……そしてもちろん重婚もありで子育て支援も充実じゃ!」


「うっ……そんな魅了的な報酬を出されても俺は屈しないぞーーーーッ!! うおーーっ、もう一声あっても屈しないぞーーーーッ!!」

「なんかいけそう……意外と俗物じゃなお主……」



 魔王軍の待遇がダモクレス騎士団よりも良い……だが俺は祖国を裏切らない。あと『伝説の聖剣をプレゼントしちゃうぞ♡』と言われていたら心が揺らいでいたがなんとか耐え切ったぞ。


 驚いた……魔王グラトニスめ、組織運用はホワイトもホワイトじゃないか。通りでリリィが今だに『グラトニス様』呼びしている訳だ……恐ろしいカリスマ性を感じてしまう。



「ええい、詰まらぬ意地を張るな、『騎士道』なぞ下らん……! それに……儂の元に来れば救ってやるぞ? お主の愛人……ノア=ラストアークを……!!」

「――――ッ!? ノアを……!?」



 そして、抜け目のない魔王は遂に俺の“急所”を突いてきた。


 魔王グラトニスの口から出た『ノア=ラストアーク』の名前、それに俺が動揺の表情かおを見せた以上、目の前の魔王は俺の“急所”を執拗に攻めてくるだろう。



「ルシファーから聞いておる……あの人形の残りの寿命、短いんじゃろ?」

「それは……」


「儂の元に下るならあの娘に“永遠の命”を授けてやらんでもないぞ? もちろん、お主の寿命に合わせた調整もしてやろう……!」

「ノアを……救えるのか……!?」


「儂を誰だと思うておる? どうする……お主が儂を“あるじ”と認めるだけで……お主の愛しいノアは救われるのじゃぞ?」

「あぁ……俺は……」



 その甘言かんげんはとろける蜜よりも甘く、俺の“矜持きょうじ”を腐らせる。ノアの延命を交渉材料として、魔王グラトニスは俺を魔王軍へと誘ってきたのだ。


 確証がある訳じゃ無い、グラトニスの小汚い“嘘”かも知れない、けれどグラトニスの瞳には一切の欺瞞ぎまんは無い。ただ純粋に『助けてあげる』と主張する曇りなきピンク色の瞳に、俺の心は魅了されかかっていた。



「グランティアーゼ王国はノアもお主もていのいい『駒』として使い潰すつもりじゃ。儂の元に来い……儂の元で愛しいノアと共に『理想の騎士』になれば良いのじゃ……!」

「でも……俺が魔王軍に下ればグランティアーゼ王国は……それは出来ない……!」


「なら……グランティアーゼ王国を攻め落としたあかつきには……王族を隠居させてお主をグランティアーゼの領主にしてやろう!」

「俺を……グランティアーゼの領主に……?」


「そうじゃ! まつりごとは今までの伝統を続ければ良い、お主が目指したダモクレス騎士団も存続させい、グランティアーゼの人間を奴隷にするのも儂が禁じてやろう……! ただグランティアーゼ王国が我が『友好国』になって、ちょびっと税を魔界マカイに納めるだけ……それでお主は全ての『夢』を叶えられるのじゃぞ?」

「うっ……あぁ……」



 魔王グラトニスの口から紡がれるのは俺に都合の良い提案、それでいてあまりにも現実的な計画ばかりだった。


 魔王グラトニスにとってグランティアーゼ王国の資源も人材も『どうでもいい』ものなのだろう。だから、俺の都合の良いような案が出せるのだ。


 その甘いささやきが俺の意志を鈍らせる。


 祖国が滅びる訳じゃ無い、レティシアや国王陛下たちが処刑される訳じゃ無い、ダモクレス騎士団が解体される訳じゃ無い、ノアが魔王の『道具』にされる訳じゃ無い……むしろ誘惑を蹴った方が被害が大きいと錯覚させられてしまう。



「儂はな……女神アーカーシャを殺すのが目的なのじゃ……!」

「女神……アーカーシャを……!?」


「世界を征服し、全世界を一致団結させて、儂は女神アーカーシャを討つ! どうじゃ、とても“浪漫ロマン”溢れる話じゃとは思わんか?」

「その為に……世界征服を……!?」


「女神アーカーシャを創造した『ノア=ラストアーク』の騎士よ……お主もまた“神殺し”を目的にした同志ではないか? 利害は一致しておると思うが……?」

「うっ……」


「世界を気紛れで滅ぼせる『機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ』なぞ我らには不要……儂らは“神殺し”と言う大いなる目的の為に手を組むべきじゃ……!」

「俺は……俺は……」


「あんな馬鹿げた女神を信奉しておるこの世界は狂っておる……共に戦おうではないか、“アーティファクトの騎士”よ? さぁ、儂の手を取れ……お主を新たなる【大罪】の一人……【傲慢】として迎えてやろう……!!」

「俺が……【大罪】……!?」



 魔王グラトニスの真の目的――――世界を征服し、全人類を一つに纏め上げて女神アーカーシャを討つ軍勢を築くことだった。


 それは……ノアの旅の最終目的にも通じる。いいや、ノアの故郷を滅ぼした女神を俺が討ちたいだけだ。


 魔王グラトニスの俺の『目的』は一致している。それならば、目の前でテーブル越しに俺に手を差し出した幼き暴君と組んでも良いのだろうか?



「堕落した女神を撃ち落とす“魔王のつるぎ”……その名誉をお主に授けよう……!! そして、ノア=ラストアークを『過去』の呪縛から解き放ってやるがいい!!」

「グラトニス……様……」



 いつの間にか拘束は外されて、俺の右手は自然とグラトニスが差し出した手へと伸びていく。


 ノアが救えるなら、俺はどこまでも堕ちていけるのだろう。魔王グラトニスの部下として女神アーカーシャを倒し、ノアを本当の意味で『幸せ』に出来る。


 その感情だけが、今の俺を支配していた。



「歓迎するぞ……ラムダ=エンシェント……」

「――――私の大切な『騎士』を惑わせて愉しい? ルクスリア=グラトニス?」



 けれど、まだ俺は自身の『運命』から逃げれない。

 魔王の手を取るなと俺に叫びかける。



「――――ノア……?」

「ほぅ……儂の背後を取ったか。少し戯れが過ぎたようじゃな……のう、ノアよ……!」

「よくも私のラムダさんを奪おうとしたな……!!」



 混濁した意識の中で響いた声、虚ろになった視界に映った銀色の髪の少女……ノアが其処に居た。


 椅子に座っていた魔王グラトニスの後頭部に左手で握った拳銃の銃口を押し当てて、怒りに満ちた表情で魔王を睨み付けたノア。その顔を見て俺はようやく正気を取り戻せたのだった。

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