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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第190話:最悪のエンカウント


「最悪だ……こんな所で魔王グラトニスと……!? ルリ、俺をたばかったのか!?」

「ち、違う!! アタシはそんなつもりじゃ無かった! お願いしますグラトニス様、ラムダを今日だけは見逃し――――」


「『貴様は黙っておれ、ヴァナルガンド』……!」

「――――ッ!? …………!? 〜〜〜〜!?」

「ルリ……!?」


「そしてお主は『おすわり』じゃ、“アーティファクトの騎士”よ……!!」

「なんだと――――って、ぐあッ!?」



 突如として出現した“暴食の魔王”ルクスリア=グラトニス。それは最悪の遭遇エンカウント、この戦争最大の仇敵との意図せぬ邂逅かいこうを意味していた。


 そんな異常事態ゆえに俺を見逃すように進言しようとしたルリだったが、グラトニスの『黙れ』と言う命令と共に妖しい魅力を放つピンク色のまなこが輝き、狼の亜人は『声』を奪われてしまう。


 原理は分からないが、『魅了チャーム』のたぐいを使用したのだろう。ルリは必死に何かをグラトニスに訴えかけていたが、声は音にならず、彼女はただ虚しく叫ぶ“素振り(ジェスチャー)”をしているようにしか見えなかった。


 そして俺も振り返ると同時にグラトニスの『おすわり』と言う命令に強制的に従わせられ、押し潰されるように地面へとうつ伏せに倒されてしまった。


 まるで大岩を背中に乗せられたような重圧、アーティファクトで強化された身体能力で抗ってもなお立てない程の質量が俺に襲い掛かっていた。



「ガァァ……!? 馬鹿な……俺に『魅力チャーム』なんて効かない筈なのに……!?」

「確かに……お主の精神なかにある“防衛機構プロテクト”が働いて、儂の『魅了チャーム』は効きが悪いのぅ……じゃから、()()()()()()()()()()()()()()()、お主を“おすわり”させたのじゃ!」


「周囲の空気に……『魅了チャーム』だと……!? そんな……ありえない……!?」

「クッハッハー♪ 儂を舐めておるのか……ラムダ=エンシェントよ? 儂は“暴食の魔王”……お主の安っぽい想像など簡単に凌駕した“領域ステージ”に居る存在じゃぞ?」



 地面に突っ伏した俺の頭部を小さな足で踏み付けて誇らしげな笑顔を見せるグラトニス。その無邪気な笑顔は子どもそのものだが、口から漏れる言葉は『強者』のそれ。


 生物では無く周囲の“空気”に『魅了チャーム』を掛けて地面への重圧を発生させて俺をひれ伏させる。そんな通常の淫魔サキュバスなどでは到底不可能な芸当を『出来て当然』と言わんばかりにやってのける。


 それが“暴食の魔王”ルクスリア=グラトニスの底知れぬ実力の片鱗。アワリティアやインヴィディアのような劣等感コンプレックスを曝け出して喚き散らすような素振りを見せない完成された落ち着きある精神。それが俺を足蹴にした幼き魔帝に感じた印象だった。



「〜〜〜〜ッ! 〜〜〜〜ッ!!」

「貴様への詰問きつもんは後じゃ、駄犬よ。儂が遠路はるばる獣国ここに足を運んだのは、“アーティファクトの騎士”とお喋りしたかったからでな……!」

「何だって……!? 貴様……まさか!?」


「クッフッフー♪ 如何にも如何にも……ツヴァイ=エンシェント、実姉じっしを人質にすればお主は必ずやこの獣国に足を踏み入れると思っておったわ!」

「ぐっ……俺がひのひらの上で弄ばれていたのか……!?」



 そして、金色こんじきまなこ一つでルリと俺を無力化した魔王の目的は『ラムダ=エンシェントとの接触』にあった。


 ツヴァイ姉さんを“釣餌つりえ”にして俺を獣国におびき寄せ、そこを魔王グラトニスが直々に狩る。俺はその策に完全に嵌められたことになる。


 油断した、まさか魔王グラトニスが獣国を悠然と闊歩しているなど想定もしていなかった。昼過ぎにテウメッサとライラプスが言っていた『もう一人の使者』こそが魔王グラトニスだったのだろう。



「さて……お主には色々と訊きたい事があるのでな、少し儂の散歩に付きおうて貰うとするかの……!」

「――――ふっざけるな!! 誰がお前なんかに――――“時限停止干渉波ギア・ステイシス”!!」



 だが、俺だって黙って良いようにされる訳にもいかない。グラトニスが俺の頭から足を浮かせた一瞬の隙を突いて、左腕から相手の『時間』を遅延させる“時限停止干渉波ギア・ステイシス”を魔王に撃ち込むことに成功した。



「まだ抵抗を……ぬっ、これは……なん…………じゃ…………!?」

「――――ッ、グラトニス様の『魅了チャーム』が解除された、喋れる……!!」

「動ける……!!」


「これは渓谷林で『亡獣ホロウ・ビースト』に使った奴か! ラムダ、アタシがグラトニス様を説得するからあんたは一先ひとまず退け!」

「魔王グラトニスを倒す千歳一遇の好機チャンスを……って、グラトニスはルリのあるじだな……!」


「判ってんなら結構! 今回は無用心に誘ったアタシの落ち度だ、この埋め合わせは後で必ずする!!」

「分かった……グラトニスの顰蹙ひんしゅくを買って解雇されたら俺の所に来い、ルリ!!」



 グラトニスの時間が停滞した事で解除された『魅了チャーム』。すかさず動きの遅くなったグラトニスにトドメを刺そうとしたが、彼女の配下であるルリも動けるようになった以上、ここでグラトニスを排そうとすればルリと刃を交える事になる。


 もしルリと交戦状態になって、長引かせてグラトニスに掛かった“停滞ステイシス”が解除されれば今度こそ俺は仕留められる。


 幸いなことにルリは俺を『友達』として逃してくれるらしい。その提案に乗っかって、俺はルリに後ろを任せて撤退することにした。



「何じゃ……逃げるのか? “アーティファクトの騎士”ともあろう男が……情けないのぅ……」

「――――ッ!?」



 結果論で言えば、ルリの勧告に従い一目散に逃走を選んでも、魔王グラトニスの首を刎ねようとしても、それは意味をなさない選択だった。


 背後で聴こえた幼い少女の嘲笑ちょうしょうの声、その瞬間に俺の左脇を掠めるように飛んでいった白い物体、そして遅れるように背中に掛かった血飛沫。



「…………ルリ?」



 思わず立ち止まってしまった――――俺の脇を通り過ぎていった物体は“ガシャン”と大きな音を立てて目の前の建物の壁にぶつかって静止して、其処には大きくめり込んだ壁の中にめり込んで血塗れになったルリの姿があったから。


 何が起こったか理解できなかった。魔王グラトニスはまだ“停滞ステイシス”状態にある筈、ルリに何かされても抵抗できる筈ないと高をくくっていた。


 けど、彼女は目の前で壁に埋められて気絶している。その異様な光景が俺の中で“恐怖”を掻き立てていた。



「お主に尻尾を振った恩知らずな犬の“しつけ”は暴力これで良いのかの? まぁ、たかが()()()()()()じゃ、大丈夫じゃろう……?」

「………………ッ!」



 背後から迫り来る声――――時間の停滞などどこ吹く風とばかりに、歌うように聞こえる少女の弾んだ声が聴こえる。


 背後から迫る来る足音―――ゆっくりと砂利じゃりを踏みしだき、自身が俺に近付いて来ることを丁寧に主張した軽やか音が聴こえる。


 その声と足音になぜ俺は言いようのない“恐怖”を感じているのだろうか。心臓は鼓動を早め、額からは冷や汗が止まることなく流れて、生存本能が極限にまで研ぎ澄まされていく。


 ここで戦わないと――――俺は殺される。



「“光量子輻射フォトン・ウェ――――」

「その左腕は没収じゃ! ほれ切断♪」

「――――イブ”…………えっ?」



 その思って左腕アインシュタイナーを構えながら振り返り、すぐ後ろに迫っていたグラトニスを視界に捉えた瞬間だった……俺の左腕が音もなく切断されて地面に落ちたのは。


 上腕から先が無くなった左腕、小さく小石を跳ねさせて機能を停止させたアーティファクトの黒腕、俺の狼狽えた表情を見てクスリと笑ったグラトニス。



「くっ――――来い、“流星剣メテオザンバー”!!」

「剛腕の左腕で剣を振らんで良いのか? ほれ、剣が軽いぞ?」

「あっ……“流星剣メテオザンバー”が……折られ……」



 そして、咄嗟に右手に“流星剣メテオザンバー”を握って目の前の魔王に振り下ろしたが、グラトニスがくうを撫でるように振った右の人差し指に当たった刀身は“パキンッ”と軽々と氷が割れるように砕けて散っていった。



「悪さをしたのはその右手首の装置デバイスか、それも切断じゃ♪」

「待て―――グッ、アァァアアア!?」


「そしてもう一度、『おすわり』じゃ!」

「グッ――――アァ!?」



 極めつけは右手首の切断――――魔王グラトニスが左人差し指で再びくうをなぞった瞬間に俺の右手首は切り落とされ、断面から血が溢れて激痛が込み上げて来た。


 なす術なく左腕アインシュタイナーを落とされ、無惨に右手首を斬られ、再び俺は地面にひれ伏させられてしまった。


 なんと無様な光景だろうか……“アーティファクトの騎士”と謳われて、グランティアーゼ王国最高の騎士【王の剣】に選定された筈の俺が、今は潰されたカエルのように倒れている。



「なぜ……動ける……!? 俺が放った“時限停止干渉波ギア・ステイシス”は効いている筈なのに……!?」

「あぁ、効いておるぞ……!」

「なら……何故……!?」


「簡単じゃ……動きが遅くなるなら、()()()()()()()()()()()……なっ、簡単じゃろ?」

「そんな……!?」


「立場をわきまえたかの、“アーティファクトの騎士”? お主はアーティファクトで強くなったやも知れんが、お主がようやく立ち入った『強者』の領域は、儂らが当たり前のように対処できる程度の世界じゃ……まだぬるい……!」

「あぁ……あぁぁ……」



 もう自分が無様を晒した『理由』を尋ねるぐらいしか出来なかった。地面に倒れた俺を見下した魔王は無邪気な笑顔を見せながら語った……俺の実力はまだ足りていないと。


 ノアが開発した【時の歯車“造”クロノギア・イミテーション】による“時限停止干渉波ギア・ステイシス”はいとも容易く対処され、俺の強さを支えた左腕アインシュタイナーも“流星剣メテオザンバー”も今は地面に転がって『ゴミ』と化している。



「助けは呼ばんのか? お主の大好きな『ノア=ラストアーク』を呼んでくれれば儂も助かるのじゃがの……」

「………………っ!」



 助けなんて求めれない――――騒ぎを目撃した住民たちは一目散に逃げ、グラトニスの部下であるルリはデコピン一発で瀕死にされた。この上で味方に助けを求めれば、さらなる蹂躙が待ち受けているだろう。


 そんな事は出来ない……倒されるのは俺だけで良い。



「緊急通信……ノア……逃げろ……!! 魔王グラトニスが……獣国に……居る……!」

「ほぉ~! 死ぬのは自分だけで良いと申すか……見上げた『騎士道』じゃ、ラムダ=エンシェント……!!」


「貴様に俺の『ノア』はやらない……! 俺の命で満足しておけ……!!」

「クッフッフー♪ では遠慮なく……お主の命、頂くとするかの!!」

「ごめん……ノア……」



 振り上げられたグラトニスの右脚、それを見た俺は『覚悟』を決めて、そしてノアに謝った。こんな道半ばで死ぬことを、ノアの旅を見届けられなかったことを。


 そしてグラトニスの右足は俺の頭部に振り下ろされて、激痛と共に俺の意識は途絶えたのだった。

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