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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第189話:友として


「いや~、ちゃんと獣国に入れたみたいで安心したぜ〜……なっ、ラムダ?」

「よくもいけしゃあしゃあと……ルリの()()()のせいで酷い目にあったぞ?」



 ――――獣国ベスティア首都【ヴィル・フォルテス】市街地、時刻は夜。ルリに導かれて宿を抜け出した俺は、彼女と夜の街を散策しながら歩いていた。


 夜の街は静寂に……包まれることは無く、猫系獣人などの夜行性の住人が活発に活動していた。灯りの灯った建物、営業を続ける居酒屋、夜間に無理やり活動する人間とは違い、夜にこそ活動する者たちの華やかな『日常』が其処にはあった。


 狼の亜人であるルリも夜行性だから眠くは無いのだろう、ちなみに俺は眠い。だが、俺の眠気はさておき、目の前で両手を首の後ろに回して呑気そうにしている彼女には確認したいことがいくつもある。



「あ~……やっぱ気付くよなぁ……リリエット=ルージュは今はラムダの仲間だもんなぁ……」

「で、今さら俺に何の用だ、魔王軍最高幹部【大罪】、【破壊】のルリ=ヴァナルガンド?」


「あぁ〜ハイハイ、アタシが魔王軍最高幹部のルリ=ヴァナルガンドですよーだ! あんたが“アーティファクトの騎士”だって気付かなかったンだよぉ~……」

自棄ヤケっぱちになるな……って、まぁ俺もリリィからルリの情報を貰ってながら気付かなかったから同罪だな……」



 手始めに正体を暴かれて、ルリは借りてきた猫みたいにしおらしくなってしまった……彼女は狼だから“犬”なんだけど。


 ルリ=ヴァナルガンド――――魔王軍最高幹部【大罪】の一角、【破壊】の罪を冠した獣。リリィの話では敵対者を容赦なく痛めつけて再起不能、文字通り“破壊”する乱暴者……と聞いていたが、いま目の前でしょんぼりしているルリからはとても粗暴な印象は受けない。


 油断は出来ないが、彼女をまだ『敵』だとも認識できない。その危機感の無さが俺の“甘い”部分だろう。



「いや……あのさ……アタシとの『約束』……あんたどーすんのかなーって思ってさ……」

「…………“憤怒の魔王”の殺害か?」


「敵のお願いなんて聞ける訳ねーよなーって思ってさぁ……やっぱ断るよな?」

「…………」



 俺との『約束』を心配するルリ。その約束を確認をするためにわざわざ危険を冒してでも俺に会いに来たのだろう。


 お互いが敵同士と判れば俺が約束を反故ほごにして、譲ってもらった『思出草おもいでぐさ』を持ち逃げするのではと危惧しているのだろう。



「すでに報酬は貰っている、たとえルリが魔王軍の幹部だったとしても、俺は君との『約束』を無かったことになんてしない……!」

「ラムダ……あんた正気なのか……!? そりゃ、アタシはそう言ってくれたら嬉しいけど……もしアタシとつるんでいるのがバレたらヤバいんじゃ……!?」



 俺も甘く見られたものだ。


 ダモクレス騎士団の騎士としてルリと戦うことと、一人の人間としてルリを手助けすることは混同しない。助けれるなら『敵』であっても救う、それが俺の“騎士道”だ。



「ルリのことは信頼できる仲間には言ってある、それにもし君との関係を咎められても俺は『約束』を果たす……! 俺を甘く見ないでくれ……!!」

「…………なるほど、リリエット=ルージュがあんたに味方した訳だ……とんでもねぇ『大馬鹿』だな、ラムダ?」


「魔王軍最高幹部として道を塞ぐなら容赦はしない! けど、今みたいに『友達』として会いに来てくれるなら歓迎するよ、ルリ……!」

「参ったなぁ……『約束なんて破ってやる』って言ってくれたら、アタシも遠慮なくあんたをぶっ殺せたのに……そんな台詞、熱く言われたら殴れねーじゃん……!」



 そんな俺の熱意に根負けしたのか、ルリは『やれやれ』と呆れたようにため息をつくと拳に嵌めていた鈍器を外してふところにしまってくれた。


 どうやら俺のことを再び『友達』として信用してくれたみたいだ。



「ルリ……そこまでしてなんで“憤怒の魔王”を仕留めたいんだ? リリィが教えてくれたぞ、魔王グラトニスは半年前の『エピファネイア事変』で“憤怒の魔王”の覚醒を狙っていたって……!」

「それがマズイんだ、グラトニス様は“憤怒の魔王”の恐ろしさを分かっていない! あの『ケモノ』が話し合いの通じる知性体だって勘違いしてンだ!!」



 そしてルリが危惧していたのは“憤怒の魔王”の復活について。どうやら魔王グラトニスは“憤怒の魔王”をどうにかしたいみたいだが、ルリは魔王グラトニスの思惑が上手く進まないと考えているようだ。


 魔王軍の内部分裂……とまではいかない、あくまでもルリはルリなりにグラトニスを想って行動しているのだろう。



「“憤怒の魔王”の幼体をアタシは見たことがある……!」

「幼体……?」


「あぁ、“憤怒の魔王”に成る前の幼体だ! 姿はたしか……狐の亜人種だったかな……?」

「狐の……亜人種……?」


「今はもう廃墟になっちまったが、『獣国の公現祭エピファネイア』を執り行っていた【アウターレ】って村にその幼体が居たんだ! 獰猛で言葉も理解できない正真正銘の『ケモノ』で、放し飼いにすると住人を襲うからっていつも檻に入れられていた……」

「言葉も理解できない……正真正銘の『ケモノ』か……」



 そして、ルリから告げられたのは“憤怒の魔王”の幼体が存在すると言う事実。幼体と言うからには、“蝶”になる前の“芋虫”の形態を指すのだろう。


 狐の亜人種、その言葉を聴いて一瞬だけコレットの姿が思い浮かんでしまった。けど、コレットは言葉を理解できるし、獰猛な性格でも無い、そう思って俺は頭に浮かんだ“最悪の想像”から目を逸らした。


 言葉を理解できて性格も穏やかなのは『コレット=エピファネイア』の話であって、記憶を失う前の『彼女』がどんな人物だったかは一切分からないにも関わらず。



「アタシには理解わかる……もし“憤怒の魔王”が覚醒すれば、あの『ケモノ』は“本能”の赴くままに、燃え盛る“憤怒”のままに暴れまわるって! グラトニス様は“憤怒の魔王”を戦力にしたいみたいだけど、絶対に上手くいかない!!」

「それが魔王グラトニスの思惑か……!!」


「頼む、ラムダ! “憤怒の魔王”を何としてでも殺して欲しい……!! あの『ケモノ』が復活したら半年前みたいな一平原の消滅じゃ済まない、この獣国ベスティア自体が滅んじまう……!!」

「獣国ベスティア自体が……」



 ルリにも余裕が無いのだろう。彼女は切羽詰まった様子で“憤怒の魔王”の危険度を俺に必死に説いてきた。


 完全に覚醒すれば獣国ベスティアが滅ぼされかねない。思い当たる節はある――――“嫉妬の魔王”インヴィディアも()()()()()()()にも関わらず世界樹を丸ごと飲み込んで、幻影未来都市【カル・テンポリス】を大火で包まんとしていた。


 おそらくは“憤怒の魔王”にも同等の力があるのだろう。それに半年前の『エピファネイア事変』が“憤怒の魔王”絡みなら、広大な草原を“憤怒の魔王”は丸ごと焼失させたことになる。


 ルリの『直感』は間違っていない。



「獣国ベスティアが消えれば次に標的にされるのはグランティアーゼ王国だな……!」

「可能性は高い……! それにいま獣国中で『亡獣ホロウ・ビースト』の出現率が上がっているらしいンだ! きっと行方を暗ましていた“憤怒の魔王”の幼体が戻って来たんだ、もう時間がねぇ!!」



 迫る“憤怒の魔王”の覚醒の時、『獣国の公現祭エピファネイア』に隠された真実、そして獣国に姿を現した“憤怒の魔王”の幼体。


 ルリにとっては故郷の存亡が懸った大事なのだろう。俺の手を強く握って懸命に協力を訴える彼女の目には大きな涙が浮かび上がっていた。


 弱肉強食の非情な世界だけど、ルリにとっては大切な故郷だ。きっと護りたいのだろう、だから俺はルリの気持ちがよく分かった。



「分かっている……“憤怒の魔王”は一緒に倒そう!」

「ラムダ……本当に良い奴だな……! グラトニス様よりもあんたと先に逢いたかった……!!」


「魔王グラトニスの思い通りにはさせない! “憤怒の魔王”は俺が――――」

「――――儂を呼んだか、ラムダ=エンシェントよ?」



 ルリの為にも“憤怒の魔王”を倒すと誓った瞬間に、俺の背後から聴こえた少女の声。


 その声を聴いた刹那――――俺は“死”を覚悟させられた。


 陽気な夜の街を覆ったドロリとした空気、息を吸う権利すら剥奪されたような重圧感プレッシャー、俺の心臓に短剣ダガーが突き付けられたような鋭く冷酷な殺気。ルリに付いてノコノコと一人で出歩いたことを心底後悔した。



「なっ……あぁ……なぜ獣国ここに……?」

「ちと腹が減ってのぅ。もしや、男と逢い引きしている現場を観られて怖気ついておるのか、ヴァナルガンドよ?」


「ち、違います……! これは……理由が……!!」

「儂に敵対するグランティアーゼの“狗”……ましてや『特記戦力』たる“アーティファクトの騎士”との密会に正当な理由が有るのかの?」



 先程までの涙ぐんだ表情は一気に消え失せて、青ざめた表情かおで俺の後ろを見つめるルリ。身体はガクガクと震え、勝気な性格の彼女からは考えられないような怯えた声が声帯から漏れていた。


 そこまでルリを怯えさせる人物、俺が無意識の内に“死”を覚悟させられた人物が背後にいる。もう逃れられない……意を決して俺は後ろを振り返った。


 其処に居たのは小さな少女――――漆黒の髪、妖しく輝く金色こんじきの瞳、額から生えた漆黒の角、白い雪のような肌、そんな肌に相反する漆黒の王の装束、幼子のような身体からは考えられないような尋常では無い魔力を垂れ流しのように放出する悪鬼。



「魔王……グラトニス……!?」

「はじめまして、ラムダ=エンシェント。こうして直に逢う日を愉しみにしておったぞ……!」



 彼女の名はルクスリア=グラトニス――――魔界【マルム・カイルム】を統べる幼き皇帝、“暴食の魔王”と呼ばれた頂点捕食者。

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