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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第182話:白銀の狼


「――――って、ごめん! 水浴びをしている子がいるなんて思ってなかったんだ! 決して覗きじゃ無いから怒らないで!!」

「んっ……? おいおい、見られて恥ずかしい貧相な肉体はしてないぜ、アタシ! なんならもっと見てくれても良いんだぜー?」


「あわわわわ/// 見せなくていいから、後ろ見るからーーッ///」

「――――プッ、アハハハハハ! なんだその反応、おもしれー奴だな♪」



 獣国ベスティアとグランティアーゼ王国の国境沿い、深い深い森林の中にぽっかりと空いた水辺、其処で俺は狼の亜人種の少女・ルリと出逢った。


 水浴びをしていたのか一糸纏わぬ姿で水辺に立つ白銀の狼、気恥ずかしさからすぐに目を逸らしてしまったが、その肉体は穢れなき純銀のように澄んでいてた。



「あ〜……あれか、アタシが服を着ないとコッチ向いてくれねぇ感じか?」

「その通り/// 申し訳ないけど、服を着て欲しいな///」


「――――っても、アタシの服、あんたのすぐ側にあるん

だ」

「あわわわわ/// ホントだ///」



 彼女の姿にしか目がいってなかった……よく見るとすぐ近くにある大きな石の上に彼女の物と思われる衣服が脱ぐ捨てられていた。


 俺から手渡すわけにもいかないし、裸の彼女を此方まで歩かせるのも申し訳ない。どうしよう……せめて誰かに同行してもらうべきだった。


 そんな事を頭の中でグルグルと考えていた時だった、一瞬だけ何もかもが凍りつくような強い冷気を背後から感じたのは。



「気にすんなって! そこに服を置いたのはアタシだから――――なっ!」

「――――いつの間に目の前に……!? 速すぎて反応できなかった……!」



 背中から吹き抜けた凍てつく突風、ほんの一瞬、凍土と化した森林、凍りついて身体が静止したような錯覚、そして音もなく眼前に現れた狼の少女。


 滝壺から俺の位置までは全力疾走しても数秒かかる――――その距離を彼女は瞬きよりも疾く移動してみせた。神秘的な肉体に見劣りしない、強靭な身体能力、一帯を一瞬でも凍らすような強力なスキル。


 間違いない……目の前のルリと名乗った狼の少女は、天性の捕食者たる『強者』だ。



「――――って、ギャーーッ/// 裸で俺の目の前にーーーーッ///」

「んだよ……めっちゃうるせえなコイツ……」


「俺は見知らぬ女性の裸は視ないようにしているんだーーッ///」

「…………『見知った女の裸は視ます』って暗に言ってやがる……。まぁいいや、三十秒時間くれ、着替えてやるから……!」



 ただ目の前に素っ裸の女性が堂々と居るのは思春期の少年には刺激が強すぎる。いかに夜な夜なノアやオリビアを抱いていたとしてもいただけない。


 ので、ルリには申し訳ないが服を着てもらう事にした。



「――――はい、着替えたぞ! ったく、いちいちアタシの裸ぐらいで大騒ぎすンなや!」

「すまない……『覗きは厳禁』だと母親に厳しく躾けられていて……」

「はー、『人間』にも“躾”の文化ってあるんだなぁ〜……!」


「『女性の裸が観たいなら口説き落として、ベットの上で服をひん剥きなさい』って母さんに常々言われたからね……」

「あんたの母親、馬鹿じゃねぇのか? 息子に教える内容じゃねーだろ……」



 そしてキッチリ三十秒後、俺の目の前には半袖短パンにノースリーブのベスト姿に着替えたルリが満面の笑みで立っていた。


 拳にメリケンサックが備え付けられたグローブを嵌め、つま先に金属製の装甲をあしらったブーツを履いた狼の亜人…………肉弾戦闘を好んだ格好スタイルなのは容易に想像がつく。



「ふ~ん……胸とか尻みたいな女性的な部位パーツには目もくれず、手脚の装飾品を観て戦闘スタイルの分析か……あんたも中々の手練れのようだな?」

「生憎と、殺し合いの世界に生きてるもんでね。見ず知らずの女性に欲情する隙は晒せないのさ……!」


「――――気に入った! あんた名前は?」

「ラムダ……ラムダ=エンシェントだ」

「ラムダ? エンシェント? どっかで聞いた名前だな……?? まぁ良いや、よろしくなラムダ!」


「こちらこそよろしく、ルリ! 不躾な出会い方をしてしまって申し訳なかった」

「アハハハ、あんなの事故だよ事故! 気にすんな! さて……これでアタシたち『友達ダチ』だな♪」



 お互いに探り合い、それぞれを『戦士』と認め合い、固い握手と共に友情を縁結ぶ。


 真夜中の深い森の中での出逢い。

 ルリは俺を『友』だと認識してくれたみたいだ。


 狼系の亜人である以上、ルリは獣国ベスティアの出身に違いない。彼女に協力を取り付ければ、王立騎士団の動きも少しは良くなるだろう。



「……で、ラムダはこんな秘境に何しに来たんだ? 水浴びか?」

「いや……この辺りに自生している珍しい薬草を探していてね……知ってる?」


「珍しい……薬草……? あー……あるな、ラムダの探している薬草って『思出草おもいでぐさ』のことか?」

「それそれ! その薬草を探しているんだ、ルリは知っている?」


「知ってるぜー! って言うかアタシもそれ探してたんだ!」

「本当……! もう見つけたの?」

「おう、持ってるぜ♪ アタシはこの辺りの地形には詳しいからな!」



 そして、ルリとの出逢いがもたらした副産物が一つ、深い森に分け入って探していた薬草である『思出草おもいでぐさ』の発見。


 偶然にもルリも同じ薬草を探していたらしく、さらには既にお目当ての物を所有していたのだ。その証拠にと腰にかけていた小さなポーチから袋に入った黄金色に色付いた薬草を取り出して、自慢げに俺に見せびらかしてくるルリ。


 思出草おもいでぐさ――――摂取者の記憶からは忘れ去られた、けれど“魂”に刻まれた記憶を呼び起こす作用があると言われる希少な薬草。その“魂”に干渉する効能を利用した『賢者の石』こそが俺の求めている“不老不死”の霊薬。



「あの……その……ルリさん……///」

「なんだその媚びた表情かおは……!? あーあー、わーってるよ、欲しんだろコレ?」


「お願い……少し譲って貰えるとありがたい……! もちろん対価は払う!」

「ふ~ん……何を要求しても払ってくれるか?」


「…………善処する! お願いだ、ほんの少しだけで良い……その薬草を分けて欲しい……!」

「……………」



 ノアの為に是が非でも『思出草おもいでぐさ』が欲しい。だからルリの要求にもできる限り応じると約束して、必死に頭を下げた。


 今さら『手段』は選べない、何としてでもノアの命を『未来』に繋ぎたい、その想いでいっぱいだった。



「…………分かった! そこまで男に頭を下げさして断っちゃアタシの“女”がすたる。ただし、相応の対価は支払ってもらう!」

「ルリ……ありがとう……! 何を払えばいい? 君の望みを言ってくれ……!」


「――――殺して欲しい“ケモノ”がいる……! ラムダ=エンシェント、あんたを手練れの『騎士』と見込んでの要求だ……飲んでくれるか?」

「殺しの依頼……!?」



 そして、俺の願いを聞き入れたルリは『思出草おもいでぐさ』の譲渡を快諾してくれた…………ただし、その対価は重い。


 金品を要求するわけでも無く、希少品を求めるわけでも無く、彼女が俺に対価として提示したのは『殺し』だった。



「アタシの故郷を焼き払って、獣国ベスティアを『怒り』で喰い尽くさんとする破滅のケモノ――――“憤怒の魔王”イラ! あんたにはこの“ケモノ”を殺してもらおうか……!」

「“憤怒の魔王”……イラ……!?」



 その相手の名は“憤怒の魔王”イラ――――アワリティア、インヴィディア、グラトニスに続く四体目の魔王、“憤怒”の大罪を背負いし獣。


 ルリの要求はそんな魔王の討伐だった。



「怖気づいたか? 自信が無いなら無理にとは言わねぇ……だが、その場合は『思出草おもいでぐさ』は譲れないな。なにせアタシも()()()からの命令でこの薬草を探していたからな」

「…………」


「殺しとは釣り合わねぇか?」

「いや……その要求、飲むよ。“憤怒の魔王”を殺せば良いんだな?」


「…………へー、てっきり忌避すると思ったんだけど意外だな……」

「声に僅かに“怒り”の感情が籠もっている……動機は『復讐』だね、ルリ?」


「…………鋭いな。あぁ、その通り……アタシは故郷ふるさとを半年前の『エピファネイア事変』で焼かれてね……」

「その『エピファネイア事変』の被害を被った者が俺の連れにもいる……! こっちの仇討あだうちに相乗りさせてもらおうって寸法さ!」

「良いねぇ……アタシを上手く使ったみてぇだ! よし――――じゃあ交渉成立だな、『思出草おもいでぐさ』は前払いで渡しておくぜ……!」



 今まで出逢った『魔王』に碌な相手はおらず、戦闘を避けられもしなかった……恐らくは“憤怒の魔王”との戦闘も避けては通れないだろう。


 なら、ルリの要求を飲んだ方が得策だ。


 復讐が動機とは言え進んで『殺し』に関与するのは気が引けるが、ルリの証言が確かならコレットが巻き込まれた『エピファネイア事変』に“憤怒の魔王”が関与していたことになる。


 コレットから故郷と記憶を奪った相手、それならば“憤怒の魔王”は俺にとっても倒すべき敵だ。



「ひぃ、ふぅ、みぃ……あ~、二人分ぐらいあれば満足か?」

「構わないよ、ありがとう!」


「じゃあ約束の品だ! あぁそれと、“憤怒の魔王”の件……アタシとあんたの秘密オフレコで頼む……!」

「…………良いけど? 何か理由が……?」


「アタシが属している組織に気取られたくねぇーんだ……! これはアタシの個人的な話だかんな!」

「分かった……俺の仲間にも隠したほうが良いか?」

「出来たらな……けど相手は魔王だ、二人じゃ手に余るだろうなぁ……」


「なら心配するな、俺は“強欲の魔王”と“嫉妬の魔王”を討伐した実績を持っている! ルリは運がいいぞ?」

「――――魔王を二人も……!? へぇ……アタシは随分と頼りがいのある『男』を見つけたようだ……『思出草おもいでぐさ』だけじゃ報酬、釣り合いそうにねぇな……」



 ルリから『思出草おもいでぐさ』を受け取り、彼女との契約は交わされた。


 ツヴァイ姉さんの救出、“嫉妬の魔王”イラの討伐――――この先の獣国ベスティアでも血を血で洗う戦いが始まりそうだ。



「さて……じゃあ、()()()()()()()()()()()ケモノ』の討伐と洒落込むか!」

「――――んっ、何かが居る……!?」



 そして、俺の予感に応えるように、獣国ベスティアへと向かう騎士たちを出迎えるように、その『ケモノ』は現れる。


 ルリが浴びていた滝の上、眩く輝く月光を浴びながら俺たちを見下すように佇む一匹の獣――――黄金の焔で形どられた狐のような魔物モンスター



「焔の……狐……?」

「あれは『亡獣ホロウ・ビースト』――――さっき話した“憤怒の魔王”イラの眷属……アタシたちの故郷を蝕む怒りのケモノだ!」

「…………早速、魔王の歓迎か……!!」



 その怪物の名は『亡獣ホロウ・ビースト』――――“憤怒の魔王”イラの操る怪物らしい。


 姿を現したケモノを前に尻尾の毛を逆立てて、鋭く尖った犬歯を剥き出しにして戦闘態勢へと移行したルリ。その鬼気迫る表情を見て、俺も『亡獣ホロウ・ビースト』がそこいらの雑魚とは訳が違うことを察した。


 森中に響き渡った梟の警笛、焔の狐のいななきと共に高温で沸騰して蒸発した滝の水、そしてルリの目の前に瞬間移動した『亡獣ホロウ・ビースト』。



「餌が欲しいか? 生憎と……亡獣テメェを喰うのはアタシなんだよッ!!」



 亡獣ホロウ・ビーストが向けた黄金の焔で形成された“牙”を、冷気を纏った拳で受け止めたルリ――――瞬く間に焔に包まれ、一瞬で氷漬けになっていく森林。


 獣国ベスティアを巡る戦いは、ここに始まった。

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