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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第179話:堕天使から悪意を込めて


「…………んっ? もう朝か……! オリビア、オリビア起きて……もう朝だよ……」

「う~ん……むにゃむにゃ……ラムダ様……新婚旅行ハネムーンのご予定ですがぁ………Zzz」

「…………気が早い…………」



 ――――“嫉妬の魔王”討伐から六日後、王都【シェルス・ポエナ】へ帰還した翌日、ラムダ邸。


 エルフ族の聖地【サン・シルヴァーエ大森林】での過酷な任務を終えた俺は久し振りに自室のベットで深い休息を取っていた。


 任務の結果は『上の下』といった評価――――アーティファクト【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】の回収、魔王軍最高幹部【大罪】のネクロヅマとストルマリアの撃退、“嫉妬の魔王”インヴィディアの討伐。


 以上の功績を以って、俺たち第十一師団に新しい勲章が授けられた。


 ただし、損害は少なからず被っている――――第三師団団長であるトトリ=トリニティは消息不明、第六師団団長であるルチア=ヘキサグラムは“魔女の烙印”の後遺症で自宅療養を余儀なくされ、王立騎士団は【王の剣】を二人欠いた状態になってしまった。


 幸いなことに【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】自体はノアが管理するようにと国王陛下から進言を頂き、さらにフレイムヘイズ卿から指示があるまでは王都で滞在するようにと許可を貰えた。


 しかし、戦場にいるアインス兄さんやツヴァイ姉さんの事を考えるとやはり落ち着かない。俺個人の観望としては、王国軍の最前線に赴きたいのだが、それも難しいのだろう。


 さて……どうしたものか?



「た――――大変です大変です、ラムダ様ァーー、起きてくださーい!!」

「コ、コレット……!? いきなり俺の寝室に飛び込んでくるなーーッ///」



 そんな事をベットの上で思案していた時、ノックもせずに血相を変えて部屋に押し入ってきたコレット。


 慌てふためいた様子の彼女の表情かおから、なんとなく嫌な予感を感じてしまった。



「う、う~ん……何ですか、コレットさん……もうご飯の時間ですかぁ〜……」

「――――ハッ、ラムダ様とオリビア様が同じベットに……!?」


「邪推しなくて良いから/// それで、何があったんだ!?」

「そ、それが……ツェーネル様が……!!」


「ツェーネル卿……? 不毛地帯に居るはずの彼女がどうしたんだ……!?」

「それが……ツェーネル卿が血まみれで我が家の玄関に……!?」

「――――ハァ!?」



 その内容は魔王軍との戦争の舞台である不毛地帯【テラ・ステリリス】に居るはずの第二師団の副官・ツェーネルが重傷を負って我が家に現れたと言う衝撃的な内容だった。


 彼女はツヴァイ姉さんの片腕、嫌な予感しかしない。


 コレットの報告に飛び起きた俺は急いで私服に着替えて玄関へと向かうのであった。



 〜〜〜〜



「ラ……ラムダ卿……ご無事でなりより……」

「ツ、ツェーネル卿……酷い怪我じゃないですか!? 一体何が……!?」


「旦那様……この人……脈が弱っている……すぐに処置しないと……危険……!」

「分かっている、シリカ! もうすぐオリビアが着くから、ツェーネル卿を寝かせてあげて!」



 玄関に到達した俺が目撃したのは血まみれで俺を待っていたツェーネルの無惨な姿だった。


 あらぬ方向へと曲がった右腕、酷い火傷を負った両足、ズタズタにされた胴体、水晶のような物を埋め込まれて潰された右眼、折れて柄しか残っていない剣、そして開かれた玄関の向こうで息絶えた彼女の相棒である飛竜ワイバーン


 いつ死んでもおかしく無い予断を許さない状況――――そんな重傷を負った彼女がわざわざ時間を掛けて王都まで戻ってきたのだ……良い報せを持ってきた訳では無いのだろう。



「なぜ前線で治療を受けなかったのですか!? それに……姉さんは……!?」

「も、申し訳ございません……ツヴァイ卿が……敵にかどわかされました……!」


「なっ……姉さんが……捕虜に……!?」

「部下たちを庇って……! 奪還を試みましたが……私もこのざまです……」

「そ……そんな……!」



 そして、ツェーネルの口から語られたのは、我が姉であるツヴァイ=エンシェントが魔王軍の手に落ちたと言う信じがたい内容だった。


 部下たちを庇って囚われて、奪還を試みたツェーネルを瀕死の状態にまで追い込んだ。そんな相手が居る……その事実に俺の中で小さな“怒り”が込み上げてきた。



「ツヴァイ卿を倒した奴から……ラムダ卿に渡すようにと……これを……!」

「右眼に埋め込まれた……水晶……?」

「これ……古代文明で使っていた『録画水晶レコーディング・クリスタル』です、ラムダさん……!」


「力……及ばず……申し訳ありません……」

「ツェーネルさん、しっかりして、ツェーネルさん!! オリビア、早くツェーネルさんに治癒を!!」

「は、はいラムダ様! わたしに任せてください!!」



 右眼に埋め込まれた水晶を強引に取り出して、そのまま意識を失ったツェーネル。彼女を寝かせて大急ぎで治癒に当たるオリビア。


 そして、ツェーネルが取り出した血まみれの水晶を受け取ったノアは強く握って起動させ、強く発光しだした水晶はひとりでに浮かぶと、俺たちの目の前に大きな立体映像ホログラムを投影し始めた。


 そこに映っていたのはひとりの天使――――黒と白の四枚の翼をはためかせ、朱い“一つ目(モノ・アイ)”が妖しく光るバイザーから不敵な笑みをみせた金髪の少女。



『ハロー、ラムダ=エンシェント♪ 当機わたしが贈ったメッセージビデオ、観てくれているかな〜♪』

「…………ルシファー…………!!」

「あいつがノアの言っていた、旗艦『アマテラス』に配備していたもう一機の【大天使アーク・エンジェル】か……!」


当機わたしは魔王軍最高幹部【大罪】が一角……永遠なる闇より顕現せし破滅の使徒……悠久の彼方より蘇りし至高の兵器――――名を【†ルシファー†】……!!』

「半分ぐらい何言ってるか分かんねぇ……!」



 彼女の名はルシファー、ノアが古代文明時代に作成した“名前持ち(ネームド)”の機械天使ティタノマキナ大天使アーク・エンジェル】の一機。


 魔王軍で【堕天】の罪を冠した、魔王グラトニスの最高戦力の一角だ。


 そんな相手がツェーネルを見せしめのように痛めつけて猟奇的な方法で俺にメッセージを送り付けて来た。あまり想像したくは無いが、良からぬことを言うのだろう。



『今日〜あなたに“恋文ラブレター”を贈ったのは〜、見て欲しいものがあるからなの♪』

「見て欲しい……もの……?」


『くすくす……これだ~れだっ?』

「あっ……姉……さん……!?」



 そして、映像越しに笑い掛ける堕天使ルシファーの右手に映っていたのは、血まみれにされたツヴァイ姉さんの姿だった。


 大枚を叩いて買った剣は無惨にへしゃげ、鎧もその下の肌着インナーもズタズタに引き裂かれ、ルシファーの首根っこを掴まれた状態で姉さんは力無く空中にぶら下げられていた。



「ツ、ツヴァイ様……!? 王立騎士団の団長であるツヴァイ様が……あんな無惨な姿に……!?」

『あはは♪ この女、当機わたしに勝てないと瞬時に判断して開戦前に部下を逃したわ。部下想いの良い上司ね……けど、上官としては落第点!』


『グッ……ラ、ラムダ……私のことは見捨てて……こんな奴の脅しに屈しちゃ駄目……!』

『煩いぞ、人間……! そのまま首を捩じ切ってやろうか?』

『ガッ……アァ……ゲホッ……!』



 不毛地帯の上空で行われる凄惨な拷問――――機械天使ティタノマキナの握力で気道を締められて窒息で苦しむ姉、その様子をニヤニヤとしながら見つめる堕天使。


 その敗者を痛め付ける悪辣な行為に思わず強く拳を握ってしまった……爪が皮膚に喰い込んで血が滲むほどに。



『シュララララ……! よせルシファー、その女騎士は“狼王”への大事な“生贄プレゼント”だ……! 無闇に傷を付けるんじゃ無い!』

『貴様は黙って【聖騎士パラディン】を抑えろ! もう少しで“アーティファクトの騎士”へのメッセージが撮り終わる!』


『そうは言うがあの聖騎士パラディン、自陣から此方に向けて聖剣を乱射しまくっているのだ。あんな猛攻、オレ様だけではとても凌ぎきれん!』

『フン、これだから純兵器じゃ無い生命体は嫌いなのよ! 安心しな、この女は五体満足で“狼王”にくれてやるさ……!!』

「画面外に誰かいる……それに聖剣って兄さんの事か……!!」



 聴こえてきた男の声とルシファーの会話で聴こえた内容――――ツヴァイ姉さんは“狼王”なる人物への供物くもつにされたこと、その為に命の保証はされていること。


 つまりこの映像は、ツヴァイ姉さんの身柄を人質にした『脅迫状』だ。



『ラムダ=エンシェント、お前の姉はこれから【獣国ベスティア】の“狼王”に生贄として捧げられる。それが嫌ならば獣国に足を運ぶと良い……』

「獣国ベスティア……! 魔界と同盟を結んで、グランティアーゼ王国と敵対姿勢を取った敵国じゃないか!!」


『勿論、従者共の同行は許してあげる♪ 早くしないとあなたのお姉さんが“狼王”に乱暴されちゃうかも知れないぞ♪』

「この……ルシファー……!!」


『シュラララ……! 急げルシファー、聖騎士パラディンが怒り心頭だぞ!』

『ハイハイ……この竜騎士はあんたに預けるわ、ネビュラ! じゃ、この映像、ラムダ=エンシェントに配達お願いね……ツェーネル=バハムートさん?』


『やめろ……何をする……あぁ、あぁぁぁああああああ!?』

『うふふ……ねぇ、観ているノア様? そんなつまらない男なんて“ゴミ箱”に捨てて魔界こっちに来てよ? どうせ……長くは保たないんでしょ? あはは……あっはははははは!!』



 そして、映像はツェーネル卿の悲鳴と、ルシファーからノアに向けられた猟奇的な笑い声とともに途切れて玄関に静寂が戻った。


 魔王軍最高幹部【大罪】の一角であるルシファーによるツヴァイ=エンシェントの捕縛と獣国への移送、姉さんの身柄を使っての俺への呼び出し。


 分かっている、十中八九『罠』だ。けれど、俺を誘き寄せる『罠』と判っていても行かないと姉さんが危ない。



「あぁ……ラムダさん……ごめんなさい……ルシファーのせいで……」

「ツヴァイ様が……グゥゥ……わたくしの命の恩人が……!!」


「コレット……?」

「助けないと……でも、獣国あそこには……帰りたくない……!!」



 囚われたツヴァイ姉さんの救出、姉を供物として欲した“狼王”の思惑、怒りと恐怖に苦しむコレットの異変、無邪気に邪悪を撒き散らす堕天使が仕掛けた『罠』。


 姉さんが連れ去られたのはケモノたちが生きる“弱肉強食”の楽園【獣国ベスティア】――――次なる戦いの舞台にして、あるケモノの“憤怒”が忘れ去られたように残った因縁の地。


 これは『野生』に生きるケモノ達の祭事、“憤怒”と共に顕現する破滅の獣の誕生を祝う血みどろの祝祭、『獣国の公現祭エピファネイア』――――開幕。

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