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幕間:暗躍するは希望


「起きなさい、トトリ! 起きなさい、トトリ=トリニティ!!」

「う、う~ん……駄目です、カミング卿……おハーブは適当に混ぜても美味しくはなりません……直接(かじ)っても美味しくはありません……」

「何の夢だ!? 早く起きろ、トトリ!!」

「――――ふにゃ!? お、お姉様……??」



 ――――エルフの聖地【サン・シルヴァーエ大森林】の何処か。ラムダ=エンシェント率いる王立ダモクレス騎士団が森を後にして数時間後。


 森の一角で湧く源泉の近くでトトリ=トリニティは親愛なる姉の一喝で目を覚ました。



「此処は……天国かしら……? でもストルマリアお姉様が居るから……地獄……??」

「当たり前のように私を地獄行きにしたな……! まぁ、闇堕ちして魔王軍に在籍した以上、地獄行きもやむ無し……か……」



 世界樹【ルタ・アムリタ】と融合したディアナ=インヴィーズを止めるために炎上した大樹に飛び込み、そのままラムダ=エンシェントの鉄槌にもろとも潰されて昇天したと思われた二人。


 しかし、トトリ=トリニティもエイダ=ストルマリアも、この世から退場すること無く、何故か大森林の中の泉に流れ着いていた。


 武器を失い、衣服を焼かれ、生まれたままの姿で広大な大森林に放り出されていた二人は、その奇っ怪な状況に頭を抱える。



「なぜ……裸なのかしら……? まさか、わたしが意識を失っているのを良いことに、お姉様が強姦を……?」

「するわけ無いだろ!? “嫉妬の魔王”に乗り込んだ時に装備が燃えたからだ馬鹿者! 気にするにはそこでは無いだろうが……!!」


「粗雑なお姉様はなぜ魔王軍にいる時に“妖艶な美女”みたいな失笑ものの性格キャラを演じていたのか……? 無理してる感あって笑ってしまいましたわ(笑)」

「殴り倒すぞ、貴様ーーッ!! なぜ、私たちは生きているかだ!! 今の恥ずかしい状況も、私の魔王軍での素行も、後で考えなさい!!」


「確かに……! ラムダ卿も『さようなら、トリニティ卿! 死ね、ストルマリア!!』って殺す気満々だったし……」

「勝手に他人の台詞を改竄かいざんするな! 貴様は私を何だと思っているんだ!?」


「豆腐メンタルの、エッチな格好だけが取り柄のアホ……」

「貴っ様ァァーーーーッ!!」



 本来ならば、ラムダ=エンシェントの攻撃に巻き込まれて死んでいても不思議では無い状況だった。


 しかし、二人は生きていた。


 ラムダ=エンシェントが“嫉妬の魔王”討伐の為に二人への巻き添えをいとわない一撃を放っていた以上、彼が細工をしたとは二人には考え難かった。



「…………『お姉様と同じ日に死ぬなんて屈辱、まっぴらごめんだわ。私に張り合いたかったら、子供ガキの一人でも孕んでから来なさい独身の負け犬ども』…………」

「やれやれ……トトリも同じ嫌味を聴いていたのね……」


「じゃあ……ディアナが……!?」

「しか無いでしょ? 嫌われたな……私たち……」

「…………そうね…………嫌われてしまったみたいですね…………独身…………(泣)」

「独身……(泣)」



 そして、二人の脳裏にぎるは聞き慣れた、もう二度と聞くこと叶わない妹の幻聴。


 二人を死の淵からすくい上げた、“優越感”とほんの少しの“嫉妬”を含ませた女の声。その声に導かれて自分たちは生還したのだと、トリニティとストルマリアは感じ取っていた。



「はぁー……! やっと死に場所を得たと思ったのに……皮肉なものね……“不死”のネクロちゃんは死んだのに……私は生き残るなんて……」

「お姉様……私も同じです。ずっと死に場所を探して……お姉様に殺されるのを願っていました……あの日の償いがしたくて……」


「あのねぇ……私を出汁に死のうとしてたの……? 嫌味な妹ね……」

「くすくす……意味もなく生きていたお姉様も同じ穴のムジナですわよ?」

「――――ふん! 私は……あなたに大罪人の業を背負わせた女神アーカーシャに復讐したくて、グラトニス様の配下になったのよ……! ぶらぶらしていた訳じゃ無いわ!」



 けれど、生還したところで、二人には問題が山積していた。



「――――で、これからどうしようかしら、トトリ?」

「…………と、言いますと?」

「任務は失敗、ネクロちゃんは死亡、敵である筈の『勇者』をまんまと強化してしまう……この体たらくでは、いくら寛大なグラトニス様相手でも処罰は免れないわ……」


「それは……わたしも同じですね。待機命令に背いての単独行動……王都に帰ればわたしは確実に処罰される……下手をすれば王立騎士団から解雇ね……」

「「はぁ〜……どうしよう……」」



 ストルマリアは任務の失敗、トリニティは命令違反、このまま自軍へと帰還すれば二人は処分を受けることになるだろう。


 それが二人には憂鬱ゆううつで堪らなかった。


 陽光が木々の隙間から差し込む澄んだ泉のほとりうずくまって今後の進退を思案する二人――――しかし、妙案は浮かばず時間だけが過ぎていく。



 そんな時だった――――


「なら……オレの所に就職しねぇか? トトリ=トリニティに、エイダ=ストルマリア?」

「――――誰だっ!?」


 ――――二人に語り掛ける少女の声が聴こえたのは。



 水辺で身体を濡らす絶世の美女たるエルフの姉妹に近付く少女がひとり。


 肩まで伸びた少しハネ気味の淡い金髪、血をこぼしたような朱い瞳、右眼の下に刻まれた個体識別用のバーコード、耳に装着した通信機、黒地のシャツに朱く発光する模様が刻まれたミニスカート、同じく朱く発光する模様の入ったハイソックス、瞳のように朱いネクタイを締めた白い肌の“人形”のような少女。


 行儀悪くガムを噛みながら現れた少女は剣と魔法の世界には相応しくない、先に消えた“幻影未来都市”に相応しそうな装飾で着飾った不思議な出で立ちをした存在であった。



「何者ですか……? 見たところ……ただの人間とは思えませんが……!」

「我々の素性を知っているんだ……どうせ碌でもない奴だろう……」

「オイオイ、素っ裸の痴女が武器も持たずに、デケェ乳ほっぽり出してなに偉そうに御託並べてんだ? 迫力に欠けんだよ……いや、乳は迫力満点だな、アッハハハハハ!」


「この方……ヘキサグラム卿並みに口が悪い方ですね……!」

「あぁ、何だよ『ⅩⅠ(イレヴン)』……!? はいはい……『トリニティ卿とストルマリアさんが警戒しているから、自身の素性と要件から話せ』だって? あー……わーったよ、うるせぇ“AI”だな!」

「なんだ……誰かと喋っている……??」


「あ~……え~っと……先ずは自己紹介からだな! オレの名前はホープ……ホープ=エンゲージだ!」

「ホープ……エンゲージ……?」

「オレはただのしがない“人形マキナ”……ある人物……さっきオレが喋ってた『ⅩⅠ(イレヴン)』って奴の依頼であんたらを引き抜き(ヘッドハンティング)しに来たのさ!」



 少女の名はホープ=エンゲージ――――『ⅩⅠ(イレヴン)』なる人物から依頼を受けて、トリニティとストルマリアの勧誘にやって来たと言う“人形マキナ”を名乗る者。


 彼女は迷いの森たる【サン・シルヴァーエ大森林】を単独で練り歩き、お目当てのトリニティとストルマリアが“しがらみ”から解き放たれて、尚且おなかつ自陣に戻れずに路頭に迷っていた瞬間をピッタリと突いて現れたのだ。



「見るからに不審な人物……脳筋なストルマリアお姉様が信じてもわたしは信用できません!」

「私も信用して無いわっ!! 勝手にお馬鹿キャラにしないで!!」

「ぷっ――――アッハハハハハ!! あ~……確かにあんた等の言う通り、オレは確かに『不審者』だな!」



 当然、そんな人物をトリニティとストルマリアが信用する筈も無く、二人の警戒した表情かおにホープはギザギザした歯を見せながらゲラゲラと笑うだけだった。



「じゃあ、こう言おうか? オレは――――『ノア=ラストアーク』の関係者だと!」

「ノア……ラストアーク……? まさかノアさんの知り合い……!?」

「貴様……何者だ!? あの“アーティファクトの少女”の縁者だと……デタラメを言うな!」

「アーティファクト……?? あ~……()()()()()()()の残骸の総称か……!」


「オレたちの時代……!? まさか……あなたは……!?」

「如何にも! オレは十万年前の文明……テメェ等で言うところの『古代文明』で造られた“人形マキナ”さ!」

「馬鹿な……ノア=ラストアーク以外にも……生き残りが居るなんて……!?」

「ビビったか? まぁ、オレもつい最近まで『とある戦艦』でスヤスヤ寝てたんだがな……ここに来てお仕事って訳さ!」



 驚愕の表情で“人形”を見つめる二人と、得意気な表情で笑うホープ――――古代文明のもう一人の生き残り、ノアを識る少女は二人に何をもたらすのか。



「さぁ、もうすぐ始まるぜ……世界を巻き込んだ大戦争が! テメェ等の闘志ハートにまだ“焔”が灯ってんのなら歓迎するぜ――――我らが旗艦、世界に残された“最後の希望”……機動戦艦【ラストアーク】へとな!!」


「戦艦……ラストアーク……!! ノアちゃんの名字ファミリーネームかたどった……兵器……!!」

「ルシファーの報告にあった超兵器……グラトニス様が欲した古代文明の方舟アークか……!!」



 “希望ホープ”の名を持つ人形は不敵に笑い、行き場を失ったトリニティとストルマリアは導かれるように運命へと飲まれていく。


 ラムダ=エンシェントの預かり知らぬ所で動き出す運命の歯車。


 分かたれた聖女と勇者が再び“アーティファクトの騎士”とまみえる『未来』はまだ遠く。



「ところでホープさん……服をお貸し頂けないでしょうか……?」

「は、裸ではこの森から出れん///」

「…………あっ? 知らねぇよテメェ等の服なんざ……! 葉っぱで乳首と局部だけ隠しとけや!」


「は、葉っぱ……!? 解放的過ぎますぅ……///」

「ふざけるな! まだ裸の方がマシだわ、そんな破廉恥な格好をするぐらいなら!」

「じゃ、裸なー! オレは替えの服なんて持ってねぇーし、金もねぇーから、頑張ってなぁー!」


「「いやぁー!? 全裸で人前に駆り出されるぅーー(泣)」」

「ケヒヒヒ……これが『ⅩⅠ(イレヴン)』の言ってた羞恥プレイってやつか♪」

これにて第六章『刻の幻影』終了です〜(^o^)/


そして次回からは第七章『獣国の公現祭エピファネイア』が始まりますので、よろしくお願い致します。

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