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第170話:幻影の正体


「ノア、無事か!?」

「ラムダさん……ネクロヅマは?」

「倒したよ。もうあいつが現れる事は無い……永遠に……」

「そっか……良かった……」



 世界樹【ルタ・アムリタ】内部、魔王軍最高幹部の一角であるレイズ=ネクロヅマを倒した俺はノア達と合流して現状の確認をしていた。


 トリニティ卿はオリビアを連れて世界樹の奥にある女神アーカーシャの聖堂へ、デスサイズ卿は総督府の制圧へ、そしてミリアリアはストルマリアを食い止める為に世界樹の外で一騎討ちに。



「Mr.……ラムダァーーッ! よくも私を空中でポイ捨てしてくれましたね!! 危うく漏らすところだったじゃないですかーーっ!!」

「アスハも元気そうだな!」

「ぐぬぬ……ムカつくぅ……!!」

「まぁまぁ、アスハさんも無事だったんだから、ラムダさんを許してあげて……ねっ?」

「そうやって彼を甘やかすから調子に乗るんですよ、Ms.ノア……!」



 いたる所で始まった決戦、幻影に微睡む未来都市に眠るアーティファクト【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】と“嫉妬の魔王”インヴィディアを巡った戦い。


 その中で邪悪に笑む“何か”が俺の中で不安を募らせていく。



「ディアナ=インヴィーズは何処に……? 世界樹に俺たちが侵入したのは気が付いている筈では……?」

「…………知りたいですか、Mr.ラムダ? ディアナ=インヴィーズの『本体』が何処に居るのか……?」

「…………本体? アスハ、何か知っているのか……?」

「ええ……私に付いて来てください、Mr.ラムダ」



 未だに姿を見せないディアナ=インヴィーズ――――彼女がまだ“嫉妬の魔王”である以上、俺たちを妨害しようとして、隠しきれない程の嫌悪感をみせたトリニティ卿とストルマリアを始末しに現れると俺は考えていた。


 だから、彼女が姿を見せない事を不審に思っていたが、その『答え』をアスハは知っていた。


 付いて来てと言い世界樹の奥へと進むアスハに従って俺たちはトリニティ卿とオリビアが進んだと思われる遺跡を奥へ奥へと進んでいく。



「世界樹の壁に、特に樹木の部分には迂闊に触っちゃ駄目だ! レイズ=ネクロヅマは世界樹の樹木に直に触れたせいで取り込まれてしまったからな……!」

「なっ……!? そういう事は早く言いなさい、ラムダ卿! わたくし、危うく触ってしまうところだったわ!」

「組織の大半を機械化した影響で世界樹の生存本能が活性化しているのね……! ジブリール、世界樹の樹木のサンプルの回収を!」

「承知しました、ノア様……! 眼からビーム!」



 巨大な塔のような世界樹の内部、その深部へと続く階段を慎重に降りていく。


 大地から吸い上げられて大樹の中央を通る半透明なパイプを通じて組み上げられていく惑星ほし魔素マナ、その光景は強制的に魔力を搾取しているようで、第十一師団の全員が世界樹の痛ましい姿に言葉を失っていた。



「本来、エルフの里【アマレ】で執り行われた“嫉妬の魔王”降臨の儀式の中で世界樹は焼け落ちたと伝えられています……」

「それが本当ならこの世界樹は何なんだ、アスハ? 焼けた世界樹が、たったの300年でここまで成長するのか?」


「300年? いいえ、この世界樹は既に樹齢じゅれい千年を越えています……!」

「ハァ!? 辻褄が合わないぞ! 仮に焼け落ちた後に再生したとしても、その世界樹が既に樹齢千年を超える筈が……まさかッ!?」

「そう……()()()()()が『答え』です……! この街に隠された真実――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()です!」



 そして、世界樹の最深部で俺たちは幻影未来都市【カル・テンポリス】の真実と邂逅する。


 そこにあったのは――――焼け焦げた大樹の切り株の上で朽ち果てたエルフのミイラ、そのミイラを取り囲むようにようにして回る銀色の歯車、そして切り株のすぐそばで宙に浮かびながら佇むひとりのエルフの姿。



「いい加減諦めて死になさい、トリニティお姉様?」

「はぁ……はぁ……ガフッ……ゲホッゲホッ……! オ、オリビアさんの儀式が終わるまで……わたしは殺されても退きません……ディアナ……!」

「ふぅーん……相変わらず意固地なのね……あぁウッザ……! わたしはさっさとあの聖女見習いを“魂喰い(ソウル・イーター)”したいのに……お姉様ったら邪魔でしょうがないわ……!!」



 更に地下へと続く小さな聖堂の扉の前で血だらけで膝をついていたのはトリニティ卿――――身体の至る所にひどい火傷を負い、甲冑も素肌もボロボロにされながらも、麗しきエルフの騎士は聖堂の中にいるオリビアを護り通そうと懸命に持ち堪えていた。


 そして、そんなトリニティ卿を嘲笑うように痛めつけるは、歯車を模した片眼鏡モノクルのようなデバイスを右眼に装着したディアナ=インヴィーズ――――禍々しく紫色の焔を火球にしてトリニティ卿に向けて撃ち放っては、血反吐を吐いて苦しむ姉の無様な姿に愉悦を感じていた。



「やめろ、ディアナ=インヴィーズ!!」

「…………随分とお早い到着ですね、ラムダ=エンシェントさん? そんなに婚約者フィアンセの事が心配だったんですか?」

「貴様……!! よくも俺たちをたばかったな……!!」

「うふふ……お陰様で、ふたりの憎い姉と私の『夢』を邪魔だてしたアウラ=アウリオンへの復讐と……“嫉妬の魔王”への完全覚醒が果たせるわ!! ありがとう……“アーティファクトの騎士”様?」



 くすりとわらいインヴィーズは自身の目的を吐露する――――トリニティ卿とストルマリア、そしてアウラへの報復、自身の“嫉妬の魔王”への覚醒、それが彼女の願望であった。



「あの朽ちたミイラこそ、ディアナ=インヴィーズの本体……Ms.トリニティによって斃された貴女の真の肉体ですね?」

「アスハ……私が魔王だといち早くに感づいてグランティアーゼ王国と接触をはかった『不確定因子イレギュラー』……! あなたのせいで、私の計画は狂いに狂ったわ!」


「それは残念……! ()()()()()()()()()なら自身の正体を気取られないと思いましたか……?」

「本来、この時間軸には存在しない異物……“刻の幻影”風情が……!!」

「アスハが……未来の住人……? 何を言っているんだ……??」



 焼け焦げた切り株の上で朽ちたディアナ=インヴィーズの真の肉体、自身を『未来の住人』だと言い切ったアスハ、ふたりのエルフの間で繰り広げられていた静かな戦い。


 アスハが【サン・シルヴァーエ大森林】で俺たちに接触を図ったのはインヴィーズに先手を打つ為で、その結果として彼女は俺たちを特使として街に案内する羽目になった……らしい。



禁忌級遺物カラミティ・アーティファクト時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】を用いて、エルフの里【アマレ】の地に千年後に築かれた摩天楼【カル・テンポリス】を召喚した! それが貴女が行った大規模な時間魔法の正体ね、ディアナ=インヴィーズ……いいえ、“嫉妬の魔王”インヴィディア!!」


「ノア……! “アーティファクトの騎士”の愛玩人形が……私の魔法を解析したな……!」

「愛玩人形……? それを()()()()が言うの……? 機械の身体で活動する死にぞこないの亡霊が?」

「ディアナ=インヴィーズが……機械……? それに今の話が本当ならこの街は……!」


「そう、今より千年後の『未来』にある筈の都市、千年後の『未来』を生きるエルフなんですよ……街の全員も……そして私も……」

「そんな……アスハが……未来人……!?」

「ええ、その通り……実は私、この時代だとまだ()()()()()()()()()のですよ、Mr.ラムダ……?」


 

 そして、ノアの口から語られた全ての真実は明かされた。


 アーティファクト【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】を使用して召喚された千年後の未来都市【カル・テンポリス】、そして機械の身体を使って活動していたディアナ=インヴィーズ。


 彼女が召喚した街に住む『未来』に生きていた筈のエルフ達、その内のひとりだったアスハ。それが、図書館の司書を務めていた彼女の正体だった。



「トリニティお姉様の大太刀で斬られて世界樹と心中仕掛けた私だったけど、【死の商人】から手に入れたアーティファクトのお陰で生き延びれたわ……!」

「そして貴女はこの【サン・シルヴァーエ大森林】の生き物たちを喰い荒らして何とか生きていた……!」


「けど、それじゃただ惨めに生きているだけ……魔王への覚醒には遠く及ばないわ……!」

「だから貴女は『聖女狩り』を始めた。より高位の“魂”を喰らって失われた魔力を取り戻す為に……!」


「ええ……! “魔女の烙印”を刻んで放流しておいたティオが図らずも『聖女』になっていたお陰で、乗り移って他の『聖女』を喰い漁るのには苦労しなかったわ……! もっとも、一番殺したかったトリニティお姉様は心が折れて教団から姿を消していたのは業腹ごうはらだったけどね……」

「ティオが……『聖女狩り』の犯人……!? そんな……嘘よ……嘘よ……!!」

「落ち着きなさい、エリスちゃん!」


「ディアナ……うぅ……わたしは……あなたを……愛していたのに……」

「愛していた……? はぁ……本当に忌々しい……!! “時紡ぎの巫女”になれなくて、族長の愛人をしていた私を見下していた癖に!! あなたも、ストルマリアお姉様も……自分の『夢』を叶えたからっていい気にならないでよ!!」


「エイダとトトリに嫉妬していて、魔王になって見返そうとしたのか……ディアナ……?」

「その通りよ、アウラ=アウリオン! 魔王になれれば、勇者になったストルマリアお姉様にも、聖女になったトリニティお姉様にも引けは取らない……だから私は魔王になりたいのよ!!」

「この……大馬鹿者ォォーーーーッ!!」



 明かされていく真実――――300年前の悲劇を生き残ったインヴィーズの動向、『聖女狩り』の犯人とその目的、そしてインヴィーズがふたりの姉に抱えていた劣等感から生じた『嫉妬』の感情。


 勇者になったストルマリアを、聖女になったトリニティ卿が羨ましくて、悔しくて、妬ましくて、そんなささやかな『嫉妬』が生んだ悲劇、それがこの街で燻っていた“嫉妬の焔”の正体だった。



「いい加減にしろ、ディアナ=インヴィーズ!! お前の身勝手な嫉妬に付き合うのはうんざりだ!!」

「お願い……ラムダ卿……ディアナを止めてあげて……!」

「私を止める……? アハハ……アッハハハハハ!! 出来るかしら……あなた達に……?」


「ノア、俺に【時の歯車“古”クロノギア・エンシェント】を!!」

「分かりました、ラムダさん!」

「さあ、いよいよ“嫉妬の魔王”の降臨よ!! その為の“薪”となりなさい――――【カル・テンポリス】のエルフどもよッ!!」



 ディアナ=インヴィーズの身体は燃え上がり、そこから現れたのは紫の焔を荒ぶらせた『燃える魔女』――――その名を“嫉妬の魔王”インヴィディア。


 エルフの里に芽吹いた“悪”の芽。

 “嫉妬”の感情が生み出した厄災の化身。


 幻影の中で燃え盛った焔は伝播して世界樹へと燃え広がっていく。その中で、嫉妬に狂ったエルフに……最後の引導を。

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