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第169話:限界を超えて、君は未来へと羽ばたく《SIDE:ミリアリア》


「ぐ……うぅ……うぉぉぉおおおおおお!!」

「勇者ミリアリア、私の“正義の天秤(ユースティティア)”の直撃でまだ消滅しないの!?」



 ストルマリア必殺の一撃、天から降り注いだ“光”の一撃を受けてわたしの身体は悲鳴をあげる。


 皮膚が灼かれ、肺が焼かれ、嫉妬に心を妬かれ、今にも死にたくなる程に痛くて、苦しくて、辛い。



瞬間強化レベルアップ・ブースト……! あぁっ、あぁぁああ……ッ!!」

身体能力ステータスを底上げして無理やり耐えているの……!? なんて往生際の悪い……さっさと諦めなさい!! これ以上苦しんだって、これ以上戦って、『勇者』である以上、もっともっと辛い現実に直面するだけよ!!」


「そうだと……しても……僕はここじゃ終われない……!!」

「……そうやって私も足掻いて……結局無駄だった……! トトリの心も、生き残った同胞の心も、魔王になったディアナの心も……何一つ救えなかった……救えなかったのよ!!」



 地の底まで堕ちた気高きエルフの嘆き悲しみ、救えなかったと悲観して『未来』に背を向けたストルマリアの心の傷、その全ての怨嗟の焔がわたしの臓腑ぞうふ精神ココロを容赦なく焼いていく。


 あぁ……痛いのは嫌いだ。

 何故、こんなにも苦しい思いをしているのだろうか。


 ほんの少し前まで、『神授の儀』を受ける前まで、わたしが想い描いていた『未来』には微塵にも考慮されていなかった痛みが、わたしの意識を鈍らせる。



『アリア、俺たちと一緒に行こう……どこまでも遠くに……!』



 でも……今、わたしが歩いている人生みちは、とても苦しくて、でも胸が踊る。


 暗い絶望の底に沈んでいたわたしの手を引いてくれた“星”のようなあなたと、わたしはもっと一緒にいたい。



「――――ガフッ……!! 我が魂よ……我が命よ……輝け……輝け……輝けぇぇーーーーッ!!」

「――――キャア!? そ、そんな……私の“正義の天秤(ユースティティア)”よりも強い光を……放っているの……!?」

固有ユニークスキル【強化充装填レヴィタス・インプレオ】――――“限界突破オーバードライヴ”!!」



 白く輝き全てを染める“光”すら塗り潰して、わたしの身体は朱き魔力の“光”をほとばしらせる。


 薄れていく自我の境界、ひび割れていく身体、わたしの限界を超えてみせる死力の業。ラムダさんの全力を()()()()()()()()()()全力全開。


 ミリアリア=リリーレッドの全てをもって、わたしはエイダ=ストルマリアを討つ。



「させるか……!! 聖槍……解放……!!」



 そして、わたしの全力を一切の慢心なく迎え撃つために、ストルマリアも最大の“切り札(ジョーカー)”を切ってみせる。


 大きく跳躍したストルマリアは遥か上方で必殺の一撃を構える――――両腕を頭上に伸ばし、そのしなやかな両手で折れた聖槍の片方を強く握り締め、大きく上体をしならせて、あらん限りの魔力を注ぎ込んで、ダークエルフの勇者はまるで太陽のように白く輝く。


 稲妻のように荒々しく弾ける魔力、魔力を込められ過ぎて発光する槍の穂先、激しく震動する大気、剥離して浮かび上がる土瀝青アスファルトの破片、ストルマリアの激情の具現が聖槍を禍々しい狂気へと変えていく。



「これなるは因果断いんがだちの聖槍……彼岸より来たる厄災を討つ神の槍! 穿ちて裁け、殺して救え、星の意志よいざ輝け――――因果、切断!!」

「我が“魂”よ、限界を超えて輝け――――【瞬間強化・限界突破オーバードライヴ・ブレイヴハート】!!」



 そして、わたしの身体は限界を超えて、常人が到達出来る『レベル』の“壁”を乗り越えて、朱く輝きながら魔力を放出ほうしゅつする。


 勇者と勇者の決闘の結末――――それはこの一撃が決する。



「――――“討ち穿け、(クルージン・)光り輝く剣(カサド・ヒャン)”!!」



 ストルマリアの両腕から投擲されて、白き光を纏いながら飛来する聖槍。溜め込んだ力を開放して朱き光を放出して“光”の檻を吹き飛ばして此方へと飛来する聖槍へと飛び出したわたし。


 まるで隕石のように荒々しい白光はっこうを撒き散らしながら迫る聖槍――――圧力だけで大地はひび割れて、周囲の建物はボロボロになっていき、取り囲んでいた治安維持部隊のエルフ達は風圧で飛ばされていく。


 あぁ……すごく怖い。

 けれど、負ける気はしない。


 眩い“光”の中に微かに観える折れた聖槍。如何に勇者として全力を振り絞った一撃と言えど、今のストルマリアの聖槍は半分に織れて出力が落ちている。


 一縷いちるの望みをそこに賭けるしかない。


 わたしの限界、決死の限界突破オーバードライヴ――――この一瞬で勝負を決めれなければ、死ぬのはわたしだ。



「さぁ、死になさい――――勇者ミリアリア!!」

「――――うぉぉぉおおおおおお!!」



 両手でしっかりと握った聖剣リーヴスラシルを構えて、全身にこれでもかと力を込めて、わたしは聖槍がこちらへと来るのを待ち構える。


 目に映るには光を放つ聖槍、血走った目で勝利を確信したダークエルフ、そしてその先で駆動二輪に跨って宙を走る愛しき人の姿。


 わたしが生きたいと思える確かな『理由』になった人。



「僕の邪魔をするな、ストルマリアァァーーーーッ!!」

「なっ……私の聖槍が……弾かれ――――しまったッ!?」



 ラムダさんと一緒なら、わたしはどこまで行ける。

 あなたと一緒なら、わたしは“勇気”が湧いてくる。


 だから、負けない。


 ストルマリアの聖槍を聖剣で打ち払って、わたしは愕然とするストルマリアの目の前に到達する。



「そんな……勇者である私が……魔王グラトニス様の最高幹部たる私が……こんな小娘に……負けるの……!?」

「僕にお節介を焼いて、()()()()()()()()()()()()()、ストルマリア!!」

「…………私は…………私は…………!!」



 大きく右腕を振りかぶって、ストルマリアへと決着の一撃を見舞う体勢に入る。


 迷いのあったわたしに覚悟を促して、自身が果たせなかった『勇者』としての完成を見届けて、引導と共に闇の中で彷徨う自身の運命を終わらせて欲しいと無意識に望んだダークエルフの勇者。


 今その暗い運命に決着を。



「歯を食いしばれ、ストルマリア! そして、一からやり直して、今度こそ“嫉妬の魔王”を討つんだ!!」

「やめて……やめてぇぇーーーーッ!!」

「必殺――――“星屑の彼岸花(ストルマリア)”!!」

「――――ガッ!?」



 全力を振り絞って放つ鉄拳制裁――――左頬をぶん殴られて白目を剥いて気絶したまま地面へと落下したストルマリア、その瞬間に消え去った“光”の柱。


 魔王軍最高幹部【大罪】の一角、エイダ=ストルマリアが敗北した瞬間。そして、わたしが『勇者』として世界へと名乗りを上げた瞬間。


 地面へと降り立ったわたしの目の前に広がっていたのは、大の字になって倒れたストルマリアの姿。



「満足した……? もう、あなたが『勇者』の重荷を背負わなくても良いんだよ……」

「………………」

「僕が……ミリアリア=リリーレッドが……今代こんだいの『勇者』として……あなたの使命を引き継ぐから……!」



 気を失っているストルマリアに語り掛けても返事なんてある訳が無い、ただ自己満足の為にわたしが言葉を紡いでいるだけだ。


 でも、ストルマリアにわたしは言葉を語り掛けたかった。

 わたしに道を示した彼女に、道を示す為に。


 300年間、絶望の闇の中で彷徨い続けた彼女の心を少しでも救う為にと。



「もし……あなたにまだ『勇者』としての矜持があるのなら……一緒に戦おう……! そして……あなたが無くしたもの……少しでも取り戻そう……!!」



 一緒に戦おう――――それだけ伝えて、わたしはボロボロになった身体を引き摺って世界樹へと歩き出す。


 正直言ってもう休みたい気分だけど、あそこには【ベルヴェルグ】のみんなが居る。まだ戦っているみんなの為にも、わたしもまだ頑張らないと。



「はぁ……はぁ……待ってて……ラムダさん……オリビアさん……僕もすぐに向かう……から…………」



 けど、どうやら少し無茶をしすぎたみたいだ。


 自身の限界を越えて、格上であるストルマリアを下した大金星。その代償としてわたしの身体は酷い虚脱状態に陥って、ほんの少し歩いただけでわたしの全身は強烈な痛みと倦怠感けんたいかんに襲われてその場に倒れ込んでしまった。



「――――戦闘終了を確認。至急、あのニ名を拘束しろ!!」



 世界樹の“ゲート”を包んでいた静寂を打ち破るように徐々に大きくなっていく複数の軍靴の音。わたしとストルマリアを捕らえようとする治安維持部隊のエルフ達が近付いてくる音だ。



「くそ……身体が……動かない……」



 脅威が迫ってくるのが分かっているのに、身体が一切動かない。限界突破オーバードライヴの後遺症でボロボロになったわたしの身体では、治安維持部隊を振り解くことは出来なさそうだ。



「ラムダさん……ごめん……ストルマリアを倒すだけで……精一杯だった……」



 薄れていく意識の中でわたしが最後に見たのは――――此方へと迫る複数人の重兵装のエルフ達の姿と、その背後で鎌を構えた『死神』の姿。



「まだ、お休みには早いですよ……勇者ミリアリアさん?」



 そして、『死神』が鎌を振るって治安維持部隊を薙ぎ払ったその光景を目に焼き付けながら、わたしの意識は落ちていったのだった。

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