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第154話:嫉妬の焔、燃え上がる


「あれが“虐殺聖女”……トトリ=トリニティ……!!」

「リリィ! アリアを急いで助けて!!」

「分かってるわ、御主人様ダーリン!」



 ミリアリアを狙ったストルマリアの聖槍を受け止めたトリニティ卿。


 エルフ族の大罪人である聖女は堕ちた勇者に優しく微笑む。



「やはりこの地に焼き付いた“焔”に釣られて来たのね……トリニティ!!」

「ええ……決着を付けに来ました……ストルマリアお姉様!!」



 トトリ=トリニティ――――王立ダモクレス騎士団の第三師団【破壊縋】を指揮するエルフの騎士。今回のアーティファクト探索任務に同行を命じられていない筈の彼女の登場に俺たちは動揺を隠せないでいた。


 シリカから送られたトリニティ卿の失踪情報、第三師団の部下たちを引き連れずに単独で現れたその行動、間違い無く彼女は騎士団の命令に背いて単独行動でこの街まで現れたのだろう。


 エルフ族の故郷に残した因縁に決着ケリを付ける為に。



「ごめんなさい、アリア……私のせいで……」

「ううん……僕が悪いんだ……僕が……悪いんだ……」

「…………あなたを守る…………それがあなたの故郷を滅ぼした私のせめてもの罪滅ぼし…………」



 高速で飛行して、トリニティ卿とストルマリアの間で倒れていたミリアリアをなんとか救出したリリィ。


 そして、彼女がミリアリアと共に大きく距離を取ったのを確認すると、ふたりのエルフはそれぞれの得物えものを振り抜いて大きく後ろに跳躍して体勢を立て直す。



「彼女は我らがグランティアーゼ王国の“希望”……! 害させないわ、ストルマリアお姉様!」

「あんな弱腰の勇者ちゃんが“希望”……?? あっははは……何の冗談かしら、トトリ?」

「堕ちたわたし達には分からない事よ、ストルマリアお姉様……!」

「そう……相変わらず理想主義者ロマンチストなのね――――ウザいったらありゃしない!! この裏切り者の聖女が!!」



 髪の毛が逆立つ程の魔力を放出して武器を構えるふたりのエルフ――――堕ちた聖女の瞳に映るは憐憫れんびん、堕ちた勇者の瞳に映るは嫉妬。


 かつてエルフの里で睦まじく寄り添っていた姉妹は、夜の摩天楼の下で再び死会う。



固有ユニークスキル【聖杯の泉(グレイル・フォンズ)】――――“魔力(MP)”を“筋力(STR)”に変換コンバート!」

固有ユニークスキル発動――――【断罪の極光ダムナチオ・アウローラ】!!」



 先に仕掛けたのはトリニティ卿――――魔力を消費して身体能力ステータスを任意に向上させる固有ユニークスキル【聖杯の泉(グレイル・フォンズ)】を発動させた彼女は大太刀『焔華エンカ』を振り抜くように構えた。


 次に動くはストルマリア――――聖槍を大きく頭上に振りかぶり、刃先に強く輝く“光”を集束させてトリニティ卿の攻撃への迎撃を整える。



 そして――――


「光を斬り裂け――――“哀歌あいか”!!」

「闇を斬り裂け――――“迷断まよいだち”!!」


 ――――両者は同時に得物えものを振るい、白き斬撃と白き極光は激しく斬り結ぶ。



「うわわッ!? ストルマリアの後方のビルに切り込みが入ったのだ!?」

「…………相変わらずお強いですね、お姉様……!」

「くだらない……! 私を侮っているのか、トトリ?」



 被害は甚大――――ストルマリアの光で防がれたトリニティ卿の斬撃は真っ二つに分離してそのまま後方に立っていたビルを切断、その衝撃で建物は崩壊を始める。



「まずい……! あのビルにもエルフが残っているかも……!! ミネルヴァ、時間停止結界を張りなさい!!」

「リリィ、アリア! 崩壊しかけたビルに残っている人の救助を頼む!!」

「任せて、御主人様ダーリン!!」

「あのエルフ……次代の“時紡ぎの巫女”か……? これは僥倖ね……!!」



 機転を効かせたアスハの『時間停止魔法』によって崩壊の止まった建物、俺の指示で内部に突入して取り残された人が居ないかを確認に向かったリリィとミリアリア、そして周囲にもたらした被害など気にも留めずに再び武器を構えるトリニティ卿とストルマリア。


 大きく地面を踏み込んで前方へと素早く跳躍したトリニティ卿は大太刀を地面を抉りながら斬り上げて攻撃。対するストルマリアは小さく横に移動して迫りくる斬撃を回避して素早く槍による頭部への刺突を試みるが、対するトリニティ卿は首を大きく傾けて槍を既のところで回避。


 トリニティ卿の斬撃は地面を大きく抉って上方の結界に亀裂を入れただけ、ストルマリアの刺突はトリニティ卿の頬を僅かに切って彼女の後方の地面を大きく抉っただけという結果になった。



()()()斬撃と刺突にしては……被害規模が大きいですわね……」

「……なのだ……怖いのだ……」



 されど威力は絶大にして、被害は甚大――――トリニティ卿の斬撃によって斬り裂かれた結界の切れ目から侵入してくる魔物モンスター、ストルマリアの刺突によって穿うがたれた地面から溢れた水道水が街にさらなる混乱を招いていく。


 鳴り響く警報、噴き出した水に曝されて激しくショートするネオン看板、そして要救助者の救出が完了しアスハの時間停止の解除と共に崩壊を始めるビル。


 たったふたりの戦闘で激しく形を変える【幻影未来都市カル・テンポリス】――――されどふたりのエルフの激突は止まる事なく続く。



「トリニティ卿!! 闇雲に闘わないでください!! 此処には大勢のエルフが居るんですよ!!」

「ごめんなさい、ラムダ卿……! これは――――わたしがやり残した『使命』なのです!」


「ストルマリア……目的は『ノア』……そんなエルフなんて放っておきなさい……!!」

「黙っていなさい、ネクロヅマ……! この女だけは私が始末するわ――――三姉妹の長女として!!」



 俺が諫めても止まらないエルフの聖女、ネクロヅマが咎めても止まらないダークエルフの勇者。


 徐々に険しくなるふたりの鬼気迫る表情は周囲には居る者たちに畏怖を与え、その殺気に俺たちは息を呑むしか無かった。



「“嫉妬の魔王”の言いなりになって同胞を殺めて……まだ正義の騎士を気取るか、トトリ!! お前のせいで私は【勇者】の使命を果たせずに女神アーカーシャ様に見捨てられたのだぞ!!」

「いいえ、わたしは()()()()()……魔王降臨の生贄にされた愚かな同胞達を……! わたしのせいで使命を『果たせなかった』なんて妄言もうげん……無様すぎて呆れるわ、お姉様……」

「――――貴様ァ……!! よくも……よくも……よくも、よくも、よくも……私の使命を嘲笑ったなッ!!」



 激しく激昂するストルマリア、呆れ果てた冷酷な表情をするトリニティ卿。



 両者の“溝”を加速的に深まっていき―――


「ラムダ=エンシェント……このままでは拉致が明なさそうね……」

「同感だな、ネクロヅマ……! あのふたりは引き合わせてはいけなかったみたいだ……!」


 ――――俺とネクロヅマが互いに手打ちを考え始める程だった。



 だが、燃え上がった“嫉妬の焔”は消えることなく燃え広がっていく。ボロボロになった街並みを背景に再び斬り結び始めるトリニティ卿とストルマリア。


 周囲の建物は瞬く間に斬り刻まれ、道路は見るも無惨な姿に変えられ、ネクロヅマの召喚した屍人ゾンビが戦闘の巻き添えを喰らって次々と細切こまぎれにされていく。


 無差別戦闘の極み――――既にダモクレス騎士団と魔王軍との戦闘は、エイダ=ストルマリアとトトリ=トリニティの一騎討ちへと様相を変貌させていた。



「――――燃え上がれ、【嫉妬の焔ヴァイオレット・エンヴィー】……!!」

「なんだ!? 紫色のほむらが急に……!?」



 そして、ふたりの死闘に引き寄せられて、“魔王”は姿を見せる。


 トリニティ卿とストルマリア、道路で戦うノア達を囲むように一帯を覆った紫色のほむら。周囲の建物すら“燭台”のように燃やして焔は炎上し、ネオンが輝いていた筈の夜の歓楽街は一気に禍々しい紫色の火焔に焼かれた地獄へと変貌する。



「ラムダ団長! 遅れて済まない、すぐに援護に入る!!」

「アンジュさん、此処は危険だ!! ラムダ=エンシェントの名において命じる――――指定地点(ポイント)への撤退準備を!!」

「――――ッ!! 承知!!」



 遅れて現場へと駆け付けたアンジュたちだったが、既に事態は深刻な領域へと突入してしまっている。


 燃え盛る市街、辺りから響き渡るエルフ達の断末魔、吸い上げられるエルフ達の高純度の魔力の心臓――――その全ての犠牲の行き着く先、炎上した一際ひときわ大きなタワーの頂点に立つは『魔女』。



「あれは……聖女ティオ様を殺した……燃える魔女……!! あぁ……あぁぁぁあああああ!!」

「なになに!? ラナっちどしたの!?」

「右眼が……右眼の烙印が……痛い……痛い……あぁぁああああ!!」



 紫色に燃え盛る魔女のローブに身を包み、黒い影で素顔を隠し、集めたエルフの“魂”を喰い散らかす『燃える魔女』。



「あれは……まさか……!?」

「遂に見つけたぞ――――“嫉妬の魔王”インヴィディア!!」



 ストルマリアの怒号と共に明かされた、その禍々しくおどろおどろしい雰囲気を纏った魔女の名は『インヴィディア』――――“嫉妬”の名を冠した魔王。


 俺が対峙した二人目の魔王の名だった。

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