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第139話:VS.【戦闘卿】ガンドルフ=ヴォルクワーゲン


「【GSアーマー】装着……各種武装(アーティファクト)充填……e.l.f.(エルフ)起動……」

「正門……間もなく開門します! 第十一師団【ベルヴェルク】団長、ラムダ=エンシェント卿……前へ!」



 魔王グラトニスによる宣戦布告の翌日――――王都【シェルス・ポエナ】正門、時刻は朝。


 魔王の名代であるガンドルフ=ヴォルクワーゲンとの決闘を控えた俺は、第十一師団の部下たちに見守られながら、閉ざされた正門の前で静かに息を整えていた。



「気を付けて、御主人様ダーリン。【戦闘卿】ガンドルフ=ヴォルクワーゲンはうちと最後まで【大罪】の座を争った猛者もさ……【暴虐】の名を冠した戦士……油断しないで……」

「分かっているよ、リリィ。此処で待っていて……必ず生きて帰って来るから!」

「ご無事で……私の愛しき人……!」



 俺を案じて寄り添ったリリィに軽くキスをして頭を優しく撫でて、俺はゆっくりと門に向かって歩き始める。



「ご帰還をお待ちしています、ラムダ団長!」

「行ってきます、アンジュさん……!」



 見送るのは俺が心を許した仲間たち――――アンジュ、エリス、シエラ、キャレット、ラナ、ネオン、リヴ、シャルロット、親衛隊たち。



「行ってらっしゃい、ラムダさん……!」

「ラムダ様……ご武運を……!」



 俺の愛しき人たち――――オリビア、コレット、ミリアリア、リリィ、レティシア、アウラ、ジブリール、そして……ノア。


 俺の贈った純白のローブを纏ったオリビアの左手薬指に光る婚約指輪エンゲージリングをそっと撫でて、ノアの綺麗な銀色の髪に手を触れながら、皆に見送られ、白銀のバイザーを装着して、俺は戦場いくさばへとおもむく。



「――――正門開け!」

「正門――――開け!」



 俺の合図とともに門番によって王都の正門は開かれていき、少しずつ広がる隙間から眩い朝日が王都へと差し込んでくる。


 そして、眩い逆光を背に俺を待ち受けるは燕尾服を着たひとりの獅子――――【戦闘卿】ガンドルフ=ヴォルクワーゲン。



「――――逃げずによく来たな、ラムダ=エンシェント卿よ」

「――――それは私の台詞だ、ガンドルフ=ヴォルクワーゲン殿」



 魔王軍最高幹部だったリリィと最後まで【大罪】の座を賭けて争った荒ぶる獅子。


 搦手からめてを得意としたリリエット=ルージュの計略で敗北こそしたものの、単純な戦闘力なら【死の商人】の“契約”で強化ドーピングされた当時の彼女すら上回る生粋の武人。



「我をリリエット=ルージュより劣ると侮るなよ? 油断すればその素っ首……喰い千切ってくれるわ!」

「この首級しゅきゅう――――獲れるものならやってみろ!」



 王都の門から見守るノア達、王都の城壁の上から静かに静観する【王の剣】たちの視線の中で、騎士と戦士は静かに抜刀する。



「――――ウォォォォオオオオオオオッ!!」


 背にした大斧を手に、丸太のような腕を荒々しく振るい、上半身の服を脱ぎ捨てて縛られた筋肉を解き放ち、雄々しく咆哮をあげて大地を震わすは猛る獅子。



「我が名はラムダ=エンシェント!! グランティアーゼ王国を護る“星々の騎士(ステラ・エクエス)”!! いざ尋常に――――推して参る!!」


 聖剣を手に高らかに叫ぶは白銀の騎士――――愛しき“星々(ステラ)”を護る為に戦うアーティファクトの騎士。



 王都を囲む草原になびく風、白亜の城壁を黄金色こがねいろに染める朝日、朝露あさつゆの残る草花――――その壮麗そうれいたる風景は、今から血に染まる。


 手に武器を、脚に力を、心に闘志を――――雄叫びと名乗りの後に訪れた静寂は、俺たちの緊張感を極限まで張り詰めさせる。


 恐れるな、躊躇うな、戸惑うな……愛する人を護る為、愛する人と生きる為、『甘さ』を抱えて剣を振れ。



 俺が『覚悟』を決めるのを待っていたかのように、草原に吹いた一迅いちじんの風――――


「「――――覚悟ッ!!」」


 ――――それが、開戦の狼煙。



 大地を踏み砕き、大量の土を巻き上げながら駆けるはガンドルフ。


 白く輝く光の翼をはためかせ、大地を征くはラムダ=エンシェント。


 力と力の衝突、意地と意地の激突――――互いに勝利を譲る気は無く、互いに退く気は無く、脇目も振らず、怯えず、ただ己の勝利を信じて接敵と共に武器を振るう。



「「――――ウォォオオオオオオ!!」」



 開戦の狼煙は鋼と鋼がぶつかる重低音と共に。


 獅子の戦斧いくさおのと騎士の聖剣はその刃を克ち合わせ、その衝撃で大地はヘコむようにえぐれ、暴風のように吹き荒れた衝撃が戦いを見守る者たちの髪を乱すように吹き抜ける。



「――――重い……!」

「その細腕で我が一撃を防ぐか……! 流石、【大罪】を2人も破っただけの事はあるな!!」



 左腕アインシュタイナーの腕力が無ければ確実に俺の腕がもげているような重い一撃。


 迂闊にガンドルフの攻撃を防ごうものなら、下手な人間なら全身が粉々に吹き飛んで即死するだろう。


 大地を穿うがち、鋼鉄を砕き、生命いのちを屠る暴虐の一閃――――膨れ上がった筋肉に嘘偽りは無く、猛る獅子はまさしく戦士なのだろう。


 相手にとって不足は無い。



「ご自慢の怪力を俺みたいな優男に止められて怖気づいたか?」

「フハハ! 否、それでこそ殺し合う価値がある!!」

「そうかよ……【ヴァリアブル・トリガー】発射!!」

「――――遅い!」



 そして、それはガンドルフも同じこと。


 俺の挑発に不敵な笑みを見せ、腰部ようぶに備え付けた可変銃ヴァリアブル・トリガーによる不意打ちが発射されるよりも疾く後ろに跳躍して距離を取り、獅子は狩りをする獣の眼光と、肉を喰い千切らんとうずく牙を俺へと向ける。



「獣の本能と人の理性か……手強いな……」

「フッ、感心するのはまだ早いぞ、“アーティファクトの騎士”よ……! 固有ユニークスキル発動――――【獅子咆哮レオ・ルジェット】!!」

「――――うわッ!?」



 小さく笑みを浮かべ、固有ユニークスキルを発動させ、大きく口を開いたガンドルフ。


 何かがくる――――そう思って身構えた俺を襲ったのは、獅子の雄叫びのような轟音ととも襲来した、空間を歪めるほどの衝撃波。



《聴こえる、御主人様ダーリン!! ガンドルフの【獅子咆哮レオ・ルジェット】は『圧縮してた空気を一気に開放させて爆発的なパワーを得る』固有ユニークスキルよ!!》

「そう言う事は……先に教えて欲しいな……!! なんだよこれ……台風か何かか……!?」



 【獅子咆哮レオ・ルジェット】――――空気を圧縮し、“開放”によって爆発的なパワーを引き出すスキル。


 ガンドルフの肺内で圧縮された空気が弾けて、空気の大砲になって奴の口から放たれたのだ。



「いや~……飛ばされちゃう〜〜!?」

「俺の背中に張り付いて、e.l.f.(エルフ)! そのままセイバービットを攻撃範囲(レンジ)外に飛ばして、そこからガンドルフに攻撃を……!!」

「り、了解〜〜!! 行きなさい、セイバービット!!」



 とっさに聖剣を地面に突き刺して凄まじい空気の圧力に抵抗する。もし吹き飛ばされれば俺はあっという間に空の彼方かなたまで運ばれてしまうだろう。


 それに【GSアーマー】のお陰でダメージこそ無いが、この咆哮には高い攻撃性がある。この白銀の甲冑アーマーを纏っていなければ全身がズタズタにされていた程に。


 反撃の隙を作るために、俺の背後に隠れたe.l.f.(エルフ)に支持を出して背面のウィングに格納していた駆動斬撃刃セイバービットを四基、大きく迂回させるように飛ばしてガンドルフの側面へと配置していく。


 ガンドルフは未だに俺への咆哮を止めておらず、咆哮で視野が狭くなったのか奴はセイバービットを認識することは無かった。


 獅子の死角へと刃を配置し、光で精製された切っ先を首筋に向ける。一瞬で決着を付けるために。



 しかし――――


「今だ、e.l.f.(エルフ)!!」

「セイバービット……ゴーッ!!」

「――――【野生の勘(ワイルド・センス)】!」


 ――――ガンドルフは死角から迫ったビットの攻撃を脇目も振らずに小さく上体を反らすだけでかわしてみせた。



 常時発動パッシブスキル【野生の勘(ワイルド・センス)】――――亜人種、獣人種系が有する『直感』のスキル、野生の本能による驚異的な危機察知能力。


 咆哮による視野角の萎縮など最初から関係は無く、ガンドルフにとって俺が放ったビットは奇襲でも何でもない『単純な攻撃』でしか無かったのだ。



「躱され――――」

「“裂蹴脚れっしゅうきゃく”!!」

「――――た!?」



 そして、奇襲を躱された俺が声をあげたその刹那だった――――ガンドルフが俺の眼前に目にも止まらぬ速さで現れたのは。


 足裏に圧縮した空気を弾かせての高速移動――――大きく振りかぶった戦斧を構えた獅子が視界に入った直後、俺の聴覚をつんざいた爆音と吹き荒れる突風。


 音速を超えた神速での跳躍――――俺の装着した仮面バイザーによる【行動予測】で察知しても尚、反応しきれないようなスピード。



「先ずはその奇っ怪な白銀の鎧、剥がさせて貰うぞ!」

「これはノアがくれた大事な物だ! おいそれと壊すわけにはいかないな!!」

「――――“裂苛刃れっかじん”」

「【大型左腕部セファール】装着――――喰らえ、光量子波動砲フォトン・ノヴァ!!」



 だが、俺とて【王の剣】――――ここで無様を晒すことは許されない。


 咄嗟とっさ左腕アインシュタイナーに追加装甲を重ねて、ガンドルフが両手で力いっぱいに振り下ろした戦斧に左手をぶつける。


 斧の刃に圧縮されていた空気の爆弾は弾けて、俺の左手から放たれた光の奔流ほんりゅうは眩く輝き、ぶつかりあった獅子の一撃と騎士の一撃は水風船のように炸裂して大地を砕いていく。


 切り裂かれた緑の草原、隆起した大地、衝撃で傷まみれになっていく王都の城壁――――長きに渡り平和を謳歌していた荘厳たる王都の景観を汚していく野蛮な戦いの痕跡。


 それが、強者と強者の戦いがもたらしたもの。



「フハハハハッ! これ程の強者つわもの――――かの“吸血王”アケディアス=ルージュとり合って以来だ!! ラムダ=エンシェント……我は愉しいぞ!!」

「俺は楽しくねぇよ、この戦闘狂が!!」



 ふと、よそ見をすれば、そこには心配そうに戦いを見つめるノアたちの姿が。


 愛する人たちの憂いた表情を観て、俺の本能が叫ぶ。


 俺は『最強』にならなければならない――――ノアの旅の果て、俺の『夢』の果てに待つ女神にも負けない為に。


 だから、俺はこんな所でつまずいてはいられない。



「準備運動は終わりだ、ガンドルフ! 行くぞ――――【オーバードライヴ】!!」

「――――ぬぅ!?」



 弾ける鼓動、白く輝く鎧、溢れ出る光――――さぁ、みちを切り開こう。


 今こそ、俺の希望を護るために戦う時だ。

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