第15話:ささやかな祝勝会
「ふぅ~、食った食った。ごちそうさまでした!」
「あっ……すみませーん、店員さーん。このお肉の丸焼き一つ追加お願いしまーす!」
「まだ食うのッ!? 俺の二倍ぐらい食ってない!?」
ゴブリン退治終了から三時間後、オトゥールの街に帰還した俺とノアは街一番の食堂で少し遅めの昼食にありついていた。
古びた木製のテーブルに向かい合わせで座った俺とノアは、目の前に広げられた料理に舌鼓をうった……筈だったが、俺以上に食事をかきこんでいたノアはあろうことか追加注文を行い、既に満腹の俺は手肘をついて暇を持て余す事になってしまった。
「いいじゃないですか〜ラムダさん。折角の初報酬ですし〜パーッと使っちゃいましょ、パーッと!」
「あ゛〜、ノアと一緒にいると食費が嵩張りそうな気がする……」
「そ、そんなことありませんよ/// こう見えても私、コロニー生活時代は簡易食ばっかしで、全然食費が掛からない優良物件だったんですからね///」
「あー、抑えつけられていた反動でドカ食いしてるのか……」
「ひ、酷い!? ラムダさんは美味しいものたくさん食べて、『たわわ♡』になった私を見たくないんですか!?」
「いや、別に? 今のままでいいじゃん?」
「はぅ/// 今の私を全肯定する無自覚な口説き文句――――好き♡ でも食べる!」
「えぇ……(困惑)」
ノアが仕留めた斥候ゴブリンをギルドに引き渡し、そのゴブリンから巣にいた仲間の全滅を証言させた事で依頼は無事に達成。
支払われた5000ティアを受け取った俺たちは、空腹に耐えかねて食堂に駆け込むことになったのだ。
「しっかしあのゴブリン、最後まで背後に誰がいるのかに関しては口を割らなかったな……」
「そうですね。せっかく私が色仕掛けまでしたのに『喋ったら殺されるから嫌だ』って言って、私の事を見ようともしませんでしたもんね〜」
「色仕掛けってあの『うっふ~ん♡』とか『あっは~ん♡』とかやってたやつか? なに変な嬌声上げてくねくね踊ってんのかと思ったら……あれ色仕掛けだったのか? 全っ然、色っぽくなかったぞ」
「〜〜〜〜〜〜っ! 身体の調整中に恋愛ドラマを観て懸命に覚えたのに〜〜〜〜っ! いつか素敵な彼氏が出来たら誘惑しようと思っていたのに〜〜〜〜っ!!」
「おっ、おぉ……わ、悪かったよ。そ、そんな歯軋りするぐらい怒らなくても……」
ノアが追加注文した肉料理が到着するまでの間、俺は彼女を宥めながらゴブリン達の奇妙な行動を振り返る。
本来、ゴブリンは森や洞窟を“巣”として根城にしている。
しかし、あの洞窟に居たゴブリンの集団は洞窟の事を『拠点』と称し、撤退時には『本隊』への合流を図ろうとしていた。野生のゴブリンならまず考えられない行動だ。
「本隊ってことは、あのゴブリン達はどこかの『組織』に属している小隊だったって事になるよな?」
「ムス〜……まぁ、そうですね。何者かから指示を受けたゴブリンさん達はあの洞窟を遠征の為の前哨基地にしたと言うのが一番可能性が高そうですね。あっ♡ お肉きたきた〜、いっただきま~す♡」
「おっ、機嫌治った。……っと、そっか……やっぱ裏で陰謀が動いてるのか。どうする、王立騎士団……ツヴァイ姉さんに相談したほうが……」
裏で何者かが暗躍しているのなら、俺たちが遂行した討伐依頼は必ず次の事件へと繋がる。
そう考えた俺は、依頼がなければ動きがない冒険者ギルドでは無く、独自の裁量で動ける王立騎士団に頼ろうかと思案していた。
エンシェント家から縁切りされたとは言え、この国最高峰の騎士団である王立騎士団には俺の兄姉が二人在席している。
その二人を頼れば、今回の一件に繋がる陰謀を暴ける筈だと俺は考えたからだ。
「うーん……何とかして王立騎士団にコンタクトが取れないものか……」
「むしゃむしゃ……誰かと連絡取りたかったら、電話すればいいじゃないですか?」
「電話……あぁ、離れた位置にいる相手と会話できるアーティファクトだっけ? この時代にそんな便利なのは無いよ。せいぜい、伝書鳩ぐらいかな~あるの」
「伝書鳩……!? ま、まさか……私の時代でも古代技術扱いのあの伝書鳩ですか……!?」
「まぁ……そうだけど。王立騎士団に伝書鳩を飛ばせるのは、街の領主や村長・町長ぐらいの身分・立場じゃないと。少なくても爵位を剥奪された今の俺じゃあ、王立騎士団に直接アポイントメントを取るなんて出来ないさ」
しかし、俺が取れそうな手段は無く、王立騎士団への申告は困難。ノアが目の前に据えられた肉料理を頬張っている間、俺は頭を抱える羽目になってしまった。
「〜♪ いや〜食べました食べました♡ ごちそうさまでした~♪」
「はいはい……お粗末様でした」
暫くして、漸く追加注文した肉料理を完食したノアは、鼻歌交じりに幸せそうな表情でお腹を撫で回していた。
「ところで〜ラムダさん、これからどうしましょうか? 私はもう依頼には行きたくないので、どこかの宿でお休みしたいのですが……」
「依頼に行きたくないのは俺も同感。でも、俺は宿の前に服を買いたいな〜。よく考えたら俺の来てる服、礼服だし……」
これからの予定を思案する俺とノア。互いに依頼に『行きたくない』は一致、後は宿に直行するか装備屋に行くかで討論になっていた。
感じている危機への対処も肝心だが、いまや一介の冒険者でしかない俺では出来る事もたかが知れている。なら、今は一時の休息も大切ではないかと思い『問題』を棚上げすることにした。
「取り敢えず、精算をして店を出よっか? いつまでも食堂で駄弁ってる訳にもいかないしな」
「ですねー♪ じゃあじゃあ、ササッと――――」
などと、俺とノアは他愛ない無駄話に花を咲かせつつ席から立ち上がった瞬間――――
「あ゛ぁ゛!? 何だって報告にあったロクウルスの大型魔物が居ねぇんだ!? どうなってやがる、偵察に行ったオーキスのクソ野郎はどこに行きやがったッ!?」
――――遠くのテーブルから聴こえてきた聴き覚えのある罵声。
「ふーん、この時代にもあんな粗暴な殿方が居るんですね~。まったく……ご家族の方の顔がみたいですわ〜」
「あの声、もしかして………!」
ノアが眉間に皺を寄せ露骨な嫌悪感を表情に出すほどの、聞くに耐えない罵声を撒き散らす男性の声。その声に俺は聞き覚えがあった。
「手前ェ等も見落としたんじゃねぇだろうなぁ!? まったく……揃いも揃って役に立たねぇボンクラ共が!!」
「も、申し訳ございません、ゼクス様っ!」
「ゼクス兄さん………!」
テーブルに両足を乗せて部下の騎士達に当たり散らすガラの悪い黒甲冑の騎士――――ゼクス=エンシェント、昨日ケンカ別れした俺の実の兄だ。
「えっ!? あの人、ラムダさんのお兄さんだったんですか!? あわわ…………い、いや〜、ラムダさんに似て非っ常ぉーに、格好いい?ですね〜(汗)」
「『ご家族の方の顔がみたいですわ〜』って言っちゃったこと気にして、手をもみもみして俺に胡麻すらないで良いから……」
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