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第132話:11番目の【王の剣】


「これより、王立ダモクレス騎士団に新設される第十一師団【ベルヴェルク】の発足式と、ラムダ=エンシェント卿の王立騎士並びに【王の剣】への叙任式を執り行う! 第二王女レティシア様……お願い致します……!」

「ラムダ=エンシェント卿、そして第十一師団【ベルヴェルク】の栄えある騎士たちよ――――前へ!!」

「――――イエス・ユア・ハイネス!」



 ――――ラムダ=エンシェント暗殺未遂事件から2日後、エトワール城、謁見の間。


 そこでラムダ=エンシェントの正式な王立騎士と【王の剣】への叙任式アコレードと、第十一師団【ベルヴェルク】の発足式が今まさに執り行われようとしていた。


 玉座の脇に控えるは王立ダモクレス騎士団の総司令であるレイ=フレイムヘイズ、純白のドレスで着飾った第二王女であるレティシア=エトワール=グランティアーゼ、そして部屋の最奥、玉座に座すは国王たるヴィンセント=エトワール=グランティアーゼ。


 その玉座の間に向けて朱いカーペットを踏みしだき歩み征くはラムダ=エンシェント……そして、俺が率いる第十一師団【ベルヴェルク】の精鋭、レティシアを除いた35名。


 白銀の騎士装甲を纏い、その背にグランティアーゼ王国の紋章をあしらった蒼いマントを羽織り、先頭を歩く俺。


 そして同じく白を基調としたそれぞれの礼服を身に纏い俺の後ろに付くノアたち――――なお、シャルロットの従者20名には威厳を醸し出すためにフルフェイスの甲冑を着用してもらった……ゴメンね。



「あれがアハト卿の末子……“アーティファクトの騎士”……」

「第一師団のアインス、第二師団のツヴァイ……【死の商人】を命と引き換えに討った“死神殺し”ゼクスに続く、4人目のエンシェントの騎士か……」

「あの奇怪な鎧はアーティファクトか……末恐ろしい……あの風貌、まるで魔王だな……」

「元老院の貴族達を軒並み摘発したと聞いた……【快楽園メル・モル】壊滅と言い、王国の“暗部”を根こそぎ平らげる様はまさに“秩序の破壊者”だな……怖い怖い、臭いものには蓋をしとけば良いものを……」



 玉座の間に集った貴族たちから漏れる畏怖の声――――未だ、俺は貴族達からは歓迎されてはいないらしい。


 王国を蝕んだ【死の商人】の死と引き換えに各地に散らばった悪の芽、不穏な動きを見せる魔王グラトニス、“光の巨人”を始めとした天変地異の数々、産声をあげ始めた古代文明の遺物『アーティファクト』――――グランティアーゼ王国建国以来の動乱、その中心に立った男。


 辺境の街【サートゥス】で生まれ落ちたアハト=エンシェントとシータ=カミングとの間の“不義の子”、世界でただひとりの“アーティファクト使い”、『災いを引き起こす者(ベルヴェルク)』の体現者、傲慢の魔王――――名をラムダ=エンシェント。


 ほんの少し前まで、王立騎士になるのを夢観ていただけの子どもだった筈なのに……気付けば俺の手はドス黒い返り血に塗れていた。


 ガルム、ゴブリン、オーク、勇者クラヴィス、魔王アワリティア、リティア=ヒュプノス、グレイヴ=サーベラス、ゼクス=エンシェント、死神メメント、アズラエル、アシュリー=シュレイル、レイズ、アルテマ――――数え切れない生命いのちを殺めて、俺は栄光の騎士を拝命する。



「ラムダ=エンシェント、第十一師団【ベルヴェルク】の騎士一同……此処に参上致しました……!」

「父上、つるぎを」

「…………うむ。ラムダ=エンシェントよ、余の前に……」

「――――イエス・ユア・マジェスティ!」



 玉座に座す国王陛下の前に片膝をついて俺はひざまずき、レティシアが献上した朱い鞘に納められた素朴な銀色のつるぎを引き抜いて、国王陛下は俺の前へと歩を進める。


 跪いた俺の頭上に掲げられたつるぎ、王家に代々伝わる建国の王の儀礼剣――――この真の“王の剣”に見初められて始めて、俺は国王陛下の懐刀ふところがたなである精鋭【王の剣】として認められる。



なんじ――――余の剣としてグランティアーゼ王国、そこに住まう全ての民に忠誠を誓う者か?」

「我――――ヴィンセント=エトワール=グランティアーゼ陛下のつるぎと成りて、全ての民に忠誠を誓う者なり……!」

「宜しい――――ラムダ=エンシェントよ、貴殿を我がダモクレス騎士団の新たなる【王の剣】へと任ずる!」

「――――ハッ!」



 騎士の誓いを宣言し、国王陛下は手にした剣のひらで俺の両肩を叩く――――その儀式をもって、俺は長年追い求め続けた【王の剣】になった。


 母さんの死と引き換えに目覚め、『神授の儀』で夢を踏みにじられ、ノアの騎士として再起し、数多の死を乗り越えて、俺はグランティアーゼ王国の最高位の騎士に任じられた。



「余の剣よ……皆に顔を……!」

「――――イエス・ユア・マジェスティ」



 国王陛下に促され、立ち上がって振り返ればそこには俺の行く末を見届けた人々の姿――――俺を信じて付いて来てくれた【ベルヴェルク】のみんな、俺を迎えてくれた王立騎士団の団長たち、式典に招かれた貴族たち、そして……最前列で涙を流しながら、静かに祝福してくれたノア。


 済まない……俺は君だけの騎士だった筈なのに、王立騎士団に席を置いてしまった。


 本当なら、君の旅の為に俺は王立騎士団への勧誘を断らなければならなかった――――それでも、君は笑って俺を祝福してくれるのか、ノア。



「皆のもの……新たなる【王の剣】の誕生に祝福を……!」

「………………」



 そして、俺の背後で国王陛下が新たなる【王の剣】誕生を祝い、謁見の間に集まった来賓らいひん達から小さな拍手が木霊し始める。



「…………オクタビアス卿……」



 始めに手を叩いたのはゴルディオ=オクタビアス、次にアインス兄さんとツヴァイ姉さん、ふたりに続いてルチアやトリニティ達【王の剣】が、そして、残った貴族たちも次々と釣られるように拍手を重ねていく。


 謁見の間におごそかに響き渡る手拍子――――それは『称賛』では無く『期待』の感情のこもった音。


 グランティアーゼ王国の安寧を護る『つるぎ』として粉骨砕身の想いで尽くせとはやし立てる重責の音。



「期待しておるぞ、我が盟友アハトの子、世界から忘れられた遺物アーティファクトを手に蘇りし騎士よ……」

「必ずやご期待に添うてみせます、国王陛下!」

「愉しみにしているぞ、ラムダ=エンシェント卿……! さて、次は我が娘からそなたに授与する者がある」

「レティシア様からですか……?」

「そうだ――――我が娘レティシアよ、前へ」

「承知しました、父上……」



 そして、万雷ばんらいの喝采に満足した国王陛下は俺の肩を優しく叩くと、玉座の脇に控えていたレティシアに合図を送り、蒼い布に包まれた何かを手に第二王女はゆっくりと俺の前へと歩み寄る。



「蒼い剣と白い翼を象った星の紋章エンブレム……!」

「――――ステラ・エクエス勲章。王国の危機に立ち向かった気高き騎士に贈られる“星々の騎士”の名を冠した名誉の勲章……これを貴方に授けます、ラムダ=エンシェント卿……!」

「エンシェント家でも授与された者は居ない最高位の騎士勲章……我が家の悲願だった名誉の証……」



 蒼い布の包から取り出され、レティシアの両手の平に添えられたのは蒼い剣と白い翼を象った【ステラ・エクエス】と呼ばれるグランティアーゼ王国最高の騎士勲章。


 騎士の名家と謳われたエンシェント家ですら与えられた者なき最高の騎士のほまれ――――授けられた者は王国の歴史にその名を刻まれると言われた名誉の証。



「王国を脅かした【死の商人】を討ち、我が娘レティシアを死の危機より救い、“時紡ぎの巫女”を解放し、王国に破滅をもたらさんとした“光の巨人”を討ち倒しし英雄よ……貴殿にこそ、この星の証は相応しい……」

「ラムダ卿、わたくしの『理想の騎士』よ……さぁ、次の『夢』を目指して羽ばたきなさい……! グランティアーゼ王国の希望の星――――輝ける“星騎士セイクリッド”よ!」

「――――勿体なきお言葉……! おふたりのご期待にこのラムダ=エンシェント、必ずやお応え致します!」



 レティシアの手で俺の鎧の胸元に付けられた星の勲章。この勲章を与えられた者は人々からこう謳われる――――“星騎士セイクリッド”と。


 それが、ラムダ=エンシェントの新たな始まり。


 綺羅星きらぼしが如く輝く星々の騎士として、激動の時代へと飛び込んだ俺の第二幕の開幕の合図。

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