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第126話:少年と少女は大人の階段を登る


「ふぁ~……! 何とか第十一師団発足の計画書が書き上がったけど……むちゃくちゃ遅くなっちゃった……眠い……」



 ――――ラムダ邸、時刻は深夜。ルチアとの密会を済ませた俺はそのまま書斎でフレイムヘイズ卿に提出する第十一師団の計画書を書き上げて、ようやく終わらせたところだった。


 外はすっかり真っ暗闇でオリビアやコレットも既に自室でぐっすりと眠っている。


 俺は書斎の隅っこで本を読みながら寝落ちしたアウラに毛布を掛けて部屋を後にして、屋敷の最上階にある自分の部屋へと向かうことにした。



「思い出す……月明かりに照らされた夜の廊下……母さんが父さんに抱かれていたあの夜にそっくりだ……」



 月明かりに照らされた廊下を見ると、『あの夜』を思い出してしまう。夜、ひとり父さんの部屋へとおもむき、そこで男女の営みにふけっていた母さん。


 トリニティ卿やサンクチュアリ卿の証言から、母さんが騎士団時代に当時の上官だった父さんに何かしらの好意を抱いていた事はハッキリした。


 つまり母さんはある程度、父さんに気をやっていたから嫌とは言いつつも抱かれていた訳だ。かつて好きだった男に抱かれるのだ……たとえそれが、一時の快楽の為の、許されざる不逞ふていだったとしても。



「俺も……そんな大人になるのか……?」



 ふと……そんな事を考えてしまう。


 以前戦ったレイズは俺のことを『傲慢な男』と称した。その傲慢という言葉は――――俺がまさしくアハト=エンシェントに抱いている言葉そのもの。


 愛人を侍らせ、奴隷として売られていた母さんを買い取り、そのまま赤子おれを孕むまで抱いて、産まれた俺を自分とツェーン母さんの子と偽って、本当の母さんをメイドにして俺の教育係にして、俺が騎士になれなかったら手のひらを返して『ゴミ』呼ばわりして追放して、リリエット=ルージュを倒した途端に『息子』呼ばわりした……最低のクソ親父。


 俺はそんな冷酷な父親と同じような【傲慢】という大罪に身を堕とすのだろうか?



「…………分からないな……」



 自信は……無い。


 少なくても俺は6人の女性と何かしらの関係を持ってしまっている…………唯一、持っていないのは性交渉ぐらい。


 けど、そんな我慢もいずれ出来なくなる。俺だって年頃の男だ……内から溢れ出す情欲にいつまでも抗えないし、我慢もしたくない。



「はぁ……変なこと考えたら目が冴えてきた……んっ、ノア……?」



 そうやって悶々としながら廊下を歩いていると視界に飛び込んできたのは、廊下の窓から二つの月を見上げていたノアの姿だった。


 白い寝間着パジャマに身を包んだ薄幸の美少女……その表情はいつものお調子者の顔では無く、何かを思い詰めたような悲観的な表情で、だから声を掛けずにはいられなかった。



「――――ノア、こんな夜更けにどうしたの?」

「あっ……ラムダさん……」

「寝れないの?」

「ちょっと……ね……」



 俯きかげんで答えるノア。目に掛けた朱い眼鏡と耳に装着したアンテナがいつもと違う印象を俺に与える。


 それでもロクウルスの森で出逢って以降、苦楽を共にした大切な人だ。その想いは変わらない。


 そして、その憂いた彼女の表情は――――あの夜の日の母さんにとてもよく似ていて、それが俺の欲望に火を点けていくのが手に取るように分かってしまった。


 もう我慢できない、もっと確かな『愛』が欲しい。


 無意識の内に伸びた俺の右手はノアの白い手を掴んで、月を眺めていた彼女の視線を此方こちらと向けさせて、俺は彼女の視界すら独占していた。



「ノア……俺は、ノアに母さんの影を重ねていた……」

「母さん……それって……シータ=カミングさんの事ですか……?」

「そうだ。そして、母さんによく似た君を失うのが怖かった……」

「…………」

「棺の中で眠る君を観て、棺に納められて墓地に埋められた母さんを思い出して……そして……運命を感じた……」

「運命……」



 分かっている、そんな事を言われてもノアからしたらいい迷惑だろう。


 年頃の女の子に母親を重ねるなんてマザコンも良いところだ。まぁ、シータさんが実は母親だと知ったのは旅に出てからの話なのだが。


 そうであっても、ノアの雰囲気は余りにも彼女に似すぎていて、母さんを失った俺の心の傷は思ったより大きくて……だから、ノアを手放したくないと出逢った瞬間から感じてしまっていた。



「最初に宿屋で一緒に寝た日を覚えてる? あの時、ノアが俺を必要としてくれて……すごく嬉しかった……」

「ラムダさん……」

「今度こそ護れる……母さんに似た君を護れるって……騎士になれるって……思った……【ゴミ漁り(スカベンジャー)】じゃなくて……【騎士】として俺を必要としてくれてるって思えて……救われたんだ……」


「でも私は……シータさんじゃ無い……」

「分かっている……でも、俺はずっとノアを失った母さんの『代わり』にしていたんだ……ごめん……」



 その笑顔も、その感情の変化も、何もかもがそっくりで、だから俺は……失った人の『代わり』をノアに求めてしまった。


 欠けた心の隙間を埋めて欲しかったから。



「けど、今は違う。ひとりの女性として、ノアを愛している……!」

「ラムダさん……」

「だから……俺は……君が……今すぐに……///」



 けど、今は違う――――旅をして、ノアの想いを知って、俺は『ノア』と言う少女を愛してしまった。


 だから、ノアの全てが欲しい。

 独占して『俺の女』だと言い張りたい。


 でも、肝心な言葉が上手く出てこない。

 どうした、俺は意気地なしか?



『だめだめ、全然だめじゃん、ラームダちゃーん!』


 とうとうしびれを切らしたのか、俺の中の悪魔がささやいてくる……って何だこの悪魔、どこか聴いたことあるような声だぞ?



『こう言う場面はな……思いっきりキスしてやれば良いんだよ! まったく、それでもあのクソ親父の息子か? 俺様の弟ともあろう者が情けねぇな…………ヒャッハハハハハハ!!』


 クソ……脳内の幻聴とは言えムカつくな!



『いけません、我が息子よ……! 乱暴なキスなど女の子は喜びません……もっと優しくねっとりとキスするのです……』


 次に囁いてきたのは俺の中の天使――――また身内っぽいぞ、どうなっているんだ?



『バーカ、女の事情なんて知るかよ! 本能に身を任せてキスするのが男ってモンだろうが!?』

『いけません、女の子は雰囲気ムードを重視します。王子様のような優しいキスは、全ての女の子の夢なのです!』

『オメェも親父に乱暴にキスされてた部類じゃねぇか……?』

『むきーーっ! 人が指摘されたくないことをズケズケとーーーーッ!!』

「ラムダさん……顔が真っ青ですよ……??」

「…………なんでもないよ……あはは……」


 俺の頭の中で天使と悪魔が喧嘩している……迷惑だ。



『良いからキスしろラムダちゃん! お前の可愛い人形が抱かれるのを待っているぜ?』

『優しくキスするのよ、ラムダ! そしてそのままベットに連れて行きなさい!』

『『抱ーけ、抱ーけ、抱ーけ、抱ーけ、抱ーけ♪』』



 うぉおおおお!?

 俺の中の天使と悪魔が手を組んで俺に囁いてきた!?


 ノアを抱けと、一線を踏み越えろと、はやし立てている。


 駄目だ……駄目だ駄目だ駄目だ。

 もう……我慢出来ない。



「ラムダさん……」

「ノア……俺はもう我慢出来ない!」

「ラム……ッ!? 〜〜〜〜ッ///」

『『いったーー!! 男らしいキスだーーーーッ!!』』



 そして、天使と悪魔に促されるまま、自身の本能の赴くままに、俺はノアの唇を奪う。


 悪魔が囁くように強引に、天使が囁くように優しく……俺の想いをノアに伝える為に、愛を込めて彼女の唇に自分の唇を押し当てていく。


 気が付けば、ノアもその気になったのか、俺の首に腕を回して身体を密着させて唇だけじゃなくて身体全体で俺を感じようとし始めていた。


 触れる唇、絡み合う舌、混ざり合う唾液、密着する身体、伝わる体温……その全てが愛おしくて、その全てに興奮を感じて、その全てを……奪いたくなる。



「ラムダさん……キス……激しい……///」

「…………嫌?」

「ううん、嫌じゃない/// でも……」

「…………でも?」

「もうキスだけじゃ満足できない/// お願い……キスの先も……して?」



 絡み合った舌を放して、月明かりに反射して光る唾液の糸に興奮を覚えながら、ノアも俺に『キスの先』を求めてくる。


 ずっと我慢していた……キスの先を。

 ノアにそこまで言わせて、手を出さなければ俺は“男”として失格だろう。


 あぁ……君が欲しい。

 ノアの全てを『ラムダ』の色に染め上げたい。


 そんな身勝手な本能に従って、俺はノアの華奢な身体を両手で持ち上げて、そのままノアを自分の寝室へと連れて行く。


 俺の腕にお姫様のように抱かれたノアの顔は赤く上気して、俺も彼女も心臓の鼓動が高鳴っている。きっと後戻りできなくなるだろう……健全な関係を望むならここで引き返すべきだ。


 けど、俺はもっとノアを激しく愛したい。

 もっと、ノアに愛されたい。


 父さん……俺は結局、あなたの『息子』だった。

 俺も女を泣かせるクズだ。


 好きになった人を、たとえ女神から奪ってでも欲しくなる――――俺の方が『幸せ』に出来ると思い上がっている。


 最低で最悪な寝取り男……それがラムダ=エンシェントの正体だった。


 けれど……それでも……俺は『愛』が欲しい。

 このささやかな『愛』を護る為に生きていたい。



「ノア……今から俺はノアを抱く……!」

「…………///」



 ベットの上にノアを優しく寝かせて、黒い肌着インナーを脱ぎ捨てて、ノアの腰の上に跨がって彼女の柔らかな手を鍛え上げた腕で押さえつける。


 もう逃さない、もう放さない、もう拒ませない。


 窓から差し込む月明かりに照らされたノアの白い身体、美しい銀色の髪、朱い瞳――――その全てがどうしても、今すぐに欲しい。



「ノア……俺は君の全てが欲しい。今から君の全てを俺が奪う……覚悟は良いな?」

「はい……私の全て、奪ってください……ラムダさん///」

「愛している……!」

「愛しています……優しくしてくださいね♡」



 ベットで横たわるノアに覆い被さってキスをして舌を絡めて、彼女の服を乱暴に脱がせていく――――そこから先は、忘れたくても忘れられない。


 夜の帳のその下で、二つの月が織り成す月光の下で、少年と少女は大人の階段を登って“男”と“女”になる。


 それまで、冒険の中で愛を知り、ただお互いを意識するだけだった俺とノアは、儀式を経てより深く結びつき、より深い絆で繋がった恋人になった。


 身を取り繕う衣も無く、お互いを偽る心のヴェールも無く、ただ生まれたままの姿で愛を確かめ合うふたりの男女。


 それが、ノアの望んだ『愛』なのかは分からないが、少なくとも俺はそんな『愛』が欲しかった。


 だから――――激しくした。



「酷い……優しくしてって言ったのに……(泣) 朝まで寝かしてくれないとか鬼すぎる……(泣)」



 朝、眠りに落ちる前にノアが俺の隣でそんな泣き言を言っていた気がするが、流石に疲れて分からなかった。


 聞かなかった事にしよう……今日のはまだ軽めだったし。



「ひぃ~ん……ラムダさんの鬼畜〜(泣)」

ロマンス要素強めの回でした。

少し攻めた話で、個人的には配慮しつつ執筆しましたが、際どいようでしたらご報告いただけるとありがたいです。


今後とも応援よろしくお願いします(^o^)ノシ


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