第124話:ノアの研究所
「はーい! ノアちゃんの研究所にようこそ、ラムダさん♪」
「うわ!? 屋敷の地下室がとんでもない事になってる!?」
ラムダ邸地下、第十一師団の選抜から3日後、ノアに呼ばれた俺が屋敷の地下室で見たのは、いつぞやの旗艦『アマテラス』にあった研究室に匹敵するような未知の技術の宝庫と化したノアの研究所だった。
所狭しと並べられたPC、ノアの身体を調整する為の例のシリンダー、壁に埋め込まれた装置に保管された俺の本来の左腕と【エクスギアス】、透明なケースに陳列されたノアの発明と思われる機器の数々――――薄暗い空間に敷き詰められたのは“開発者”ノアの趣味嗜好がこれでもかと詰め込まれた、まさに異空間と言える場所だった。
「どうですか、ラムダさん? 旗艦『アマテラス』から量子変換で回収した機材で作り上げたこの研究所は……凄いでしょー?」
「あぁ……びっくり……!? っと……どうしたんだノア、その眼鏡と耳の装置は?」
「んっ……え~っと……これは……」
そんな空間に満足気に胸を張るノア……の小さな変化に俺はつい目が行ってしまった。
瞳と同じ朱いフレームの眼鏡、両方の耳に装着されたアンテナのような装置――――今の今までそんなものをしていなかったのに……ノアの新しい発明だろうか?
「これは……その……い、一種の解析装置のような物です!」
「なるほど……! なるほど……?」
「ですので……ラムダさんは気にしなくて大丈夫ですから……あはは……!」
「ノアさーん! この機材は何処に置けば良いですかー?」
「その機材は右にあるモニターの横に繋いでください、ネオンさーん!」
「ネオンももう此処で働いているのか?」
「ハイです! しかし……置いてある物が全て高度技術の塊なんで、ドワーフ族の私でもさっぱりですぅ……」
曰く解析装置らしい……この研究所で作ったものなのだろう。
よく見たら助手であるネオンにも似たようなゴーグルとヘッドセットが支給されている。
なら、大丈夫だろうか?
「……で、俺を此処に呼んだ理由は?」
「あ~そうでした! 実は……ラムダさんに色々と贈り物がありまして……」
「贈り物?」
「これです、じゃ~ん! 私がラムダさん用に開発した戦闘用の機械装甲です!」
そして、ノアが俺を呼んだ理由、彼女からの贈り物――――ドヤ顔で近くに置かれていた物体から布を剥がしたノアが俺に見せたのは、白銀に輝く鎧。
今まで装着していた冒険者用の軽装とは全く趣が異なる重厚な甲冑が其処には鎮座していた。
「おおっ♪ 格好いいー!」
「ぬふふ♪ これぞ【王の剣】となったラムダさんに相応しき白銀のアーティファクト――――全域対応型高機動自在戦闘装甲! 名付けて、【GSアーマー】!!」
「じー……えす……アーマー……!?」
「では簡単にカタログスペックから……」
名を【GSアーマー】という俺用に開発された戦闘用の装甲らしい。デザイン的にも騎士甲冑を模してあるので、団長として騎士団を率いる俺にも似合いそうだ。
「まず装甲から――――こちらは対光量子物質である『星屑の因子』を配合した超合金で作った特製素材!」
「特性として高い物理防御性能に加えて、魔法による干渉を著しく緩和させる対魔法反射装甲【アンチ・ユグドラシル】を搭載するに至りましたー♪」
「お次に武装――――【GSアーマー】自体の武装として、ラムダさんの光量子展開射出式超電磁左腕部を強化させる大型左腕部武装【セファール】を搭載!」
「より大型の相手を掴めるように手部の巨大化させる追加装甲、及び爪部に光量子による光刃の発生機構を新たに内蔵しましたー♪」
「次いで右腕部――――アーティファクト【徹甲錘撃右腕部】を常備武装として一体化。さらに遠距離攻撃用の武装として、電撃杭を射出する【GSステークキャノン】を追加しました!」
「お次は腰部――――アーティファクト【対式連装衝撃波干渉砲】を両腰に装着できるように装甲を設計。腰部装着時にも射撃が行えるように固定部分は回転するようにしてありまーす♪」
「次に背面――――アーティファクト【ルミナス・ウィング】の改良型【ルミナスウィングⅡ】を装備。こちらはアーティファクト【光量子自在推進式駆動斬撃刃】を格納する事が可能で格納時はビットを補助スラスターとして使用できます!」
「さらにウィング機構に内蔵して対障壁破壊用実弾砲撃機構【レーヴァテイン】を搭載! こちら、オリビアさんの固有スキルによる結界を2発で粉々に粉砕できますよー♪」
「お次は脚部――――各部にバーニアを装着した高機動戦闘を実現し、周囲に電磁パルスを展開する発生装置を内蔵しました! これで電気ショックによる雑魚の無力化を容易に行え、さらに索敵系スキルの妨害を行う事もできます!」
「さらに脚部を始めとした腕部、腰部、肩部、脚部の四箇所計八基に空間掌握機構を内蔵したワイヤー射出機構【ヤマタノオロチ】を装備! ラムダ団長の戦闘をサポートしまーす♪」
「さらにとっておき……胸部装甲を開くとそこにはノアちゃん特製の高出力小型相転移砲【アイン・ソフ・アウル】! この火力なら巨大なドラゴンでも一撃で倒せますよ! ただし……ラムダさんの心臓から直接出力を頂戴するので闇雲には使わないでくださいね♡」
「そして極めつけが装甲による負担補助での【オーバードライヴ】の制限解除! 3分間までなら【オーバードライヴ】をデメリット無しで行使可能になりましたー♪ って、オーバードライヴとは何でょうか、ノアさん?」
「如何ですか、ラムダさん? 新しい【王の剣】に相応しい甲冑でしょ?」
「盛りすぎてて怖い……」
「因みにこちら……水中・宇宙空間にも対応出来るようにフルフェイスになりますー♡」
「うおーーッ!? か、格好いいーーーーッ!?」
目の前でガチャガチャと変形してフルフェイス状態に移行した装甲…………実に良い。
これなら新しい騎士団長としての威厳も保てるだろう…………これ作るのに幾ら掛かったかは聞きたくないが。
「お次はこれ! ラムダさん用の騎馬です!」
「なっ……!? 馬までこの研究所で……って……んっ??」
そして、ノアが次に俺に紹介したのは騎馬。俺の愛馬となる乗り物の紹介。
鎧と同じ白銀のボディー、前後に取り付けられた大きな黒い車輪…………馬??
「これ馬じゃ無くない……?」
「悪路を駆け、壁や天井も何のその、荒んだ大地を走る二輪駆動車……!」
「やっぱ馬じゃねぇ……」
「その名を【スレイプニル】!! 因みにさっき紹介した【GSアーマー】の大型支援機も兼ねたとっておきのユニットです!!」
スレイプニルと名付けられた俺の愛馬(?)――――どうやら装甲と合体するらしい。
まぁ、普段使いには困らない……いやデザインが世界観にそぐわないから目立つな。どう見てものノアに教えてもらった古代文明の乗り物の二輪駆動車じゃん。
「馬ですよ? ボタン、ポチッと……!」
《ヒヒーン!(※電子音)》
「…………えっ? これで騙せるとでも??」
「…………ポチっと」
《僕ハ馬ダヨー♪(※電子音)》
「…………えっ?? 余計怪しくなったけど??」
「…………だって……普通の馬じゃラムダさんのスピードに付いて行けないって……思ったもん……(泣)」
「あわわ……! 泣かないで、大事に使うから……ねっ?」
「うん……」
危ない……ノアを悲しませるところだった。
まぁ、見た感じ性能も悪く無さそうだし、デザインも流線型で格好いいから良いか。
「――――で、次が最後の贈り物♪」
「テンションが元に……さっきのは演技か……??」
「うふふ……カモン、e.l.f.ちゃん!」
「はいな♪ 自立支援型光量子妖精……起動開始♪」
「おわっ!? 急に妖精みたいなのが!?」
そしてノアの最後の贈り物――――それは彼女の合図と共に俺の目の前に現れた手乗りサイズの虹色の羽の生えたピンク色の髪と虹色の瞳の小人の少女。
属に『妖精』と呼ばれる存在。
「この子は……?」
「私が作製した電子妖精【Emotional Luminous Fairy】――――その頭文字を取って、e.l.f.! ラムダさんのアーティファクトの運用を支援する妖精型の支援ユニットです♪」
「…………e.l.f.?」
「はい、e.l.f.で〜す♪ 改めてよろしくお願いしますね、ご主人様♡」
「改めて……? それにその声……!? お前まさか……【破邪の聖剣】か!?」
「ピンポーン♪ まぁ、聖剣に内蔵されていた疑似人格を抽出したのが私なんですけどね~♪」
妖精の名は【e.l.f.】――――俺が勇者クラヴィスから受け継いだ聖剣【シャルルマーニュ】に内蔵されていた疑似人格をノアが抽出して作り上げた人工生命体らしい。
「先ほどのスレイプニルの自動運転やビット等の支援兵装の操作、銃火器の照準合わせ等、ラムダさん一人では負担の大きい作業をサポートする支援機と思っていただければ結構ですよ♪」
「そゆこと♪ これで直に触れ合えますねご主人様♪ もちろん、聖剣のバックアップもこの状態で出来ますのでご安心してくださいね♡」
「…………マジか……!?」
聖剣から内蔵されていた人格を抜き出すなんて、ノアめ……なんて恐ろしい事を。
しかし、俺が差し出した手のひらで踊るe.l.f.の姿はどこか楽しそうだ。なら……これはこれで良いのだろうか。
あの世のクラヴィスに後で怒られるような気がしなくも無いが……ううん、怖いな。
「ともかく、前々から考えていたラムダさんの強化がこれでやっと出来ました♪ これで向かうところさらに敵無しですね――――っとと、デスクに置いていたスパナを手で弾いて落としちゃった……!」
「危ないな……ちゃんと見とかないと!」
「すみません…………ちょっと感覚が…………」
「あっ、そうだ! オリビアさんやミリアリアさんにもノアさんから強化用の装備をお渡しすると伝えて頂きますか、ラムダ団長?」
「あぁ良いよ。後で研究所に行ってもらうように言っておく」
はしゃぎすぎて目の前に置いてあったスパナを手で弾いてしまったノアに声を掛けつつ俺は研究所を後にする。
少しずつ整っていく第十一師団発足の準備。
もうすぐ、俺だけの騎士団が出来上がる。そんな期待で俺は胸が一杯だった…………ノアに起きていた小さな変化にも気付けないほどに。
「ノアさん……大丈夫ですか? 眼鏡と補聴器の感度、もっと上げときます?」
「…………平気。まだ大丈夫だから……まだ……平気……」
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