第119話:終わりなき黄金郷
「絶剣――――“蒼穹百連”!!」
「――――いでよ、黄金盾!!」
《おおっ……これは凄い!! ラムダ卿、周囲に大量の蒼い剣を召喚しての一斉射出攻撃やーーッ!!》
《オクタビアス卿はすぐに脅威性に気付いて防御姿勢を取っていますね……!! あの黄金の盾こそ、オクタビアス卿の代名詞とも言える絶対防御の護り……ラムダ卿の苛烈な攻撃を難なく防いでいます!》
《代わりにオクタビアス卿ご自慢の歩兵たちはゴミみたいにぶっ壊されてんな~》
オクタビアス卿との一騎打ち、こちらの反撃の狼煙は蒼き魂剣による一斉掃射。しかし、オクタビアスは俺の攻撃を手にした黄金の盾で防ぎ冷静に対処していた。
俺が倒せたのは尖兵たる黄金兵のみ――――打ち砕かれて砕けた黄金の残骸が武舞台に散らばっていくのが見える。
だが、それで兵力を削ったと考えるのは早計だった。
「黄金の残骸が……蠢いている……!? まさか……!!」
《せやでー! その黄金はオクタビアス卿がスキルを解除せん限り無限に再利用できる代物や!!》
「貴様、エトセトラ卿!! 誰の味方をしているのだ!?」
《はーん! 国王陛下の命令と言えどラムダ卿にはハンデが付いとるんや! これぐらいのヒントぐらい許してやったらどうや?》
「――――チッ、アーティファクト見たさに肩入れしているな……あの拝金主義者め! まぁいい……叩き潰せ、黄金戦車!!」
「砕けた黄金が集まって……巨大な兵士に……!?」
オクタビアスの指示の下、砕けた黄金の残骸は集まって一つの巨人へと変貌する――――それは“戦車”と呼ばれた彼の操る『駒』の一騎。
ほんの10日前に戦った天を仰ぐような【光の化身】に比べれば可愛いものだが……アーティファクト無しなら中々骨が折れそうな相手だ。
「さぁ、遠慮は要らん――――夢見がちな小僧を叩き潰して愛人どもの元に丁重にお返ししてやれ!!」
「そりゃ良いな……価値のある黄金なら浪費家の彼女も喜んでくれそうだ!! 起きろ――――破邪の聖剣【シャルルマーニュ】!!」
『お任せを♪ 破邪の聖剣【シャルルマーニュ】――――ご主人様の命とあらば喜んで!!』
迫りくるは黄金の巨人が振るった巨大な金の大剣、迎え撃つは俺の背に携えた破邪の聖剣――――剣と剣がぶつかった瞬間、中庭を包み込むほどの黄金の閃光が激しく迸り、次の瞬間には巨人が振るった黄金の大剣は再び粉々の残骸になって地面へと転がっていた。
破邪の聖剣【シャルルマーニュ】――――古の勇者クラヴィスより授かった聖剣。
アーティファクトの使用を制限された俺が扱える最大の武器、世界でも持つ者は一握りとされている最上位の武器『聖剣』の一振り。
「馬鹿な……聖剣だと……!?」
「ア……アインス卿以外で……せ、聖剣持ちが……い、居るなんて……!?」
「そんな……【勇者】と【聖騎士】以外での聖剣持ちなんて……僕ですら把握していないぞ……! ラムダ卿……彼は本当にただの【ゴミ漁り】なのか……!?」
《聖剣ですとにゃ!? す、すごいにゃ……これはアインス卿以来、二人目の聖剣使いの登場だにゃーーッ!!》
《メインクーン卿……興奮して尻尾がモフッとる……》
「驚くのはまだ早いぞ! 固有スキル発動――――【聖剣投影】!!」
ざわつく観客たち、驚く王立騎士たち、狼狽えるオクタビアス……だが、ただ聖剣を見せびらかすだけじゃ無い。
この【破邪の聖剣】と共に勇者クラヴィスから受け継いだ固有スキル【聖剣投影】――――聖剣の影を実体として投影し使役するスキル。
そのスキルを駆使して俺の周囲に6本の聖剣の“影”を召喚させる。
「なっ!? ラムダ……そんなスキルまで……!?」
「へぇ~……面白いスキルだね~♪ 私の【救国の聖剣】にも使えるかな〜?」
《なんやなんや!? ラムダ卿が手にした聖剣が影として投影されたんか……!? ありえへん……アンタ、何個固有スキル持っとるんや!?》
「【自動操縦】発動! 行け、聖剣の影よ――――あの黄金の巨兵を斬り刻め!!」
これで俺の切れる手札はあと一つ――――そのとっておきの“切り札”をオクタビアスに叩き付ける為にも、何とかしてあの黄金の盾を打ち砕かなければ。
「くっ……!! 我が黄金戦車が押されているだと……!?」
《動きが鈍重なせいでラムダ卿の召喚した聖剣の影に翻弄されていますにゃ……》
《いいでーやったれやったれ!!》
「仕方あるまい……黄金騎兵、黄金司祭!!」
「追加か……!? 数が多い……!?」
だが相手もまだ手札を残していた。
オクタビアスを取り囲んでいた城壁から切り離された黄金の塊から精製されていく黄金の騎馬兵と杖持ちの僧兵…………その数は8騎。
先程の歩兵よりも強力な手駒だろう。
「【破邪の聖剣】、一気に畳み掛けるぞ!」
『了解しました! 聖剣…………解放!!』
《おお~っと! ラムダ卿の聖剣が輝き始めたで〜!》
《これは……アインス卿の【救国の聖剣】と同じ……聖剣の解放だにゃ!!》
「これなるは破邪撃滅の聖剣…………彼岸より来る厄災を討つ神の剣……」
故に、こちらも最大火力で迎え撃つ。
聖剣の影に斬り刻まれて崩れ落ちる黄金の巨兵、俺に向かって迫りくる黄金の騎兵と僧兵、黄金の盾を三枚に増やして防御を固めるオクタビアス――――全て打ち砕いて、俺は王立騎士団へと入る。
「廻りて来たれ、集いて廻れ、星の息吹よ高らかに…………破邪、撃滅!!」
「私を見くびるなよ――――このゴミ漁りがッ!!」
「いくぞ――――【君臨せよ、偉大なる大帝よ】!!」
《おっほーーッ/// これは凄いで〜〜!! ラムダ卿の聖剣から虹色の斬撃が放たれたーーーーッ!!》
《これは……観客や国王陛下は巻き添えを喰らうのでは……?》
《そんなん対策しとるに決まってるやろ! 武舞台の周りには超強力な結界を張っとるから安心や!》
「我が黄金の盾を……見くびるなぁああああああ!!」
撃ち出された虹色の斬光は迫りくる黄金の兵隊を消し飛ばし、せり上がった黄金の城壁を打ち砕きながら、オクタビアスが構える黄金の盾に激突して眩い光を放つ。
「きゃあ!? 眩しくて前が視えませんわ!?」
「聖剣まで扱うか……! 素晴らしいな……“アーティファクトの騎士”は……!!」
「視えない……! ラムダ……ラムダーーーーッ!!」
「観てるかい、【救国の聖剣】……あれが私の自慢の弟だ……!」
ひび割れていく黄金の盾――――だが、流石は騎士団長、オクタビアスもただでやられる気は無いらしい。
ひびこそ入れど砕けぬ黄金の盾。騎士団長としての意地の現れだろうか…………だが、聖剣の斬撃を黄金の盾が防ぐのは想定の範囲内だ。
眩い光に全員の眼が眩んでいる隙に聖剣を構えてオクタビアスに向けて走り出す。狙いは接近戦、堅牢な盾の向こうに居る黄金の騎士。
「ぬぉぉ――――なぁめるなぁあああああ!!」
《おおーッ!! オクタビアス卿、黄金の盾を一枚残してラムダ卿の聖剣の光を防ぎきりおったでーーーーッ!!》
《しかし残った盾もボロボロ……! そして、ラムダ卿が霧散した光に紛れて突撃して来た!!》
「残った盾も剥がさして貰うぞ! 墜ちろ――――“滅びの剣”!!」
「――――この!? アハトの倅がぁ!!」
《そして……ラムダ卿の召喚した巨大な大剣がオクタビアス卿の盾を完全に砕ききったでーーッ!!》
「あれは……昔にカミング卿が儂に見せてくれた必殺技じゃ……! よもや……ラムダ卿は……!?」
オクタビアスの頭上に召喚した蒼き大剣を叩き落して残された黄金の盾を完全に砕き切る。
そして、砕かれて散らばった黄金の残骸を踏み台にして俺は聖剣を振りかぶりながら姿勢を崩したオクタビアスへと斬り掛かる。
「本体による突撃が本命か! 聖剣の光すら捨て札にするその合理的さ、嫌いでは無いが――――黄金大剣!!」
《至近距離での剣撃……! 決着の時にゃ!!》
「ラムダ卿……負けないで、ラムダ卿ーーーーッ!!」
「これで終わりだ――――ゴルディオ=オクタビアス!!」
「抜かせ、小僧ぉ…………なっ!?」
宙に飛んだ俺を迎撃しようと足下に散らばった黄金をかき集めて黄金の大剣を精錬したオクタビアス――――だが、その大剣が俺に振られる事は無い。
自身の身体に起きた変化に驚愕の表情を浮かべ、彼は手にした剣を地面へと落とした。
「【衰弱死針】……まさか、ゼクスの固有スキルまで使えるのかい……ラムダは……?」
「まさか……!? ラムダ……あなた、ゼクスの意志を……!!」
そう、【衰弱死針】――――亡き我が兄・ゼクスから引き継いだスキルこそが、俺の“切り札”。
“滅びの剣”で黄金の盾を完全に砕いた瞬間にオクタビアスの身体に射ち付けた衰弱の“針”が彼の身体から自由を奪っていく。
そうだ――――アーティファクト以外にも俺には『剣』がある。それを見くびったお前の負けだ、オクタビアス。
「馬鹿な……馬鹿な……!! 王立ダモクレス騎士団の現役の団長であるこの私が……この私がぁああああ!!」
「喰らえ手加減技――――“聖剣ビンタ”!!」
「――――ブッ!?」
《決まったーーッ!! ラムダ卿の聖剣による平打ちビンタが決まったでーーーーッ!!》
《オクタビアス卿、武舞台の外に吹っ飛びましたにゃーーーーッ!!》
俺が振るった聖剣の平打ちで頬を打たれて吹き飛んだオクタビアス、その瞬間に湧き上がる実況役のエトセトラ卿とメインクーン卿、ざわめく貴族たちと【王の剣】たち、感極まって駆け出したレティシア。
それぞれの思惑が溢れ出す中で、武舞台の外に放り出されて気絶した黄金の騎士の姿を見て、俺は自身の勝利と成長を確信する。
《ゴルディオ=オクタビアス卿、戦闘不能!! 勝者――――ラムダ=エンシェント卿ーーーーッ!!》
「やったわ兄様!! ラムダが勝ったわーーーーッ♡」
「あぁ……観ていたよ……! 強くなったね……ラムダ……」
「ラムダ卿、ラムダ卿ーーーーッ!!」
「おわっ!? レティシア……急に抱きつく――――ッ///」
《な、なんとーーッ!? ラムダ卿に抱きついたレティシア様がそのままキスしてしもうたやとーーーーッ!?》
《こ、国王陛下……!? こ、これは一体全体……!?》
そして、メインクーン卿による俺の勝利宣言とレティシアからの熱い口づけの光景に湧く会場。
――――って、国王陛下の前で第二王女のレティシアとキスしたのは不味いんじゃ?
「見事だ、ラムダ=エンシェント卿! よくぞ余の我儘に応えてくれた!」
「国王陛下……!」
「皆のもの! 彼こそが“アーティファクトの騎士”にしてグランティアーゼ王国の新たなる【王の剣】! さぁ、新たなる英雄の誕生を盛大に歓迎しようではないか!!」
「…………ッ!!」
だが、国王陛下はレティシアに抱き締められたままの俺に拍手を贈り、唖然としていた観客たちにこう言ってのけたのだ――――『ラムダ=エンシェントは新たなる【王の剣】である』と。
その瞬間、国王陛下に認めてもらえた瞬間、俺の眼から涙が流れた。
幼い時から夢観て、父さんと約束し、彼女の墓標に誓った最高の騎士の称号……そこに遂に手が届いたのだから。
「ラムダ卿……」
「うぅ……うぅぅ……母さん……俺……約束……守れたよ……!!」
「えぇ、見事です……! わたくしが祝福しますわ……王立ダモクレス騎士団の新たなる【王の剣】……ラムダ=エンシェント様……!」
《それではお集まりの皆さまー! うち等の新しい同士に盛大な拍手をお願いやでーーーーッ!!》
《手の空いた騎士はオクタビアス卿を医務室に!》
かくして、万雷の喝采と共に俺は【王の剣】として祝福された。
嬉しそうに賛辞を送るアインス兄さんとツヴァイ姉さん、新たな同士を快く迎え入れてくれた【王の剣】たち、少しばかり苦虫を潰した顔をしながら拍手を送る貴族たち、そして、期待に満ちた眼差しで俺を見つめる国王陛下。
多くの期待を背負い【王の剣】ラムダ=エンシェントは誕生する。
――――さらなる“高み”を目指す、その第一歩として。