第118話:VS. 【黄金卿】ゴルディオ=オクタビアス
《さぁさぁ、お集まりの皆さん! 間もなく“黄金卿”ゴルディオ=オクタビアス卿と、“アーティファクトの騎士”ラムダ=エンシェント卿との決闘……国王陛下が見守る『御前試合』が始まるでー♪ 司会は実況である第四師団の団長、テトラ=エトセトラと〜》
《解説役の第九師団団長、ノナ=メインクーンの2名で送らせていただきますにゃ……こほん、いただきます!》
エトワール城中庭、武舞台――――元々、騎士たちの模擬戦や催し物の際に使われる観客席付きの大きな石舞台であり、今回は俺とオクタビアスとの決闘に使われる。
そして、周囲には騒ぎを聞き付けた王立騎士団の騎士たちや貴族たち、果ては【ベルヴェルク】の面々までもが駆け付けていた。
「フレー、フレー、ラ・ム・ダ! 頑張れ♡ 頑張れ♡ ラ・ム・ダ、ひゅーーッ♪」
「ノア様、チアコスも似合ってますよーーッ♪ しっかりと録画してますので、後でマスターに観てもらいましょうねーーッ♪」
「この古代文明人ふたり……アホなのだ……」
「現役の【王の剣】との一騎打ち……ラムダさん、大丈夫かな……?」
「ラムダ様……頑張ってください……! わたしが応援してますからね!」
観客席の一画で事態を見守るオリビアたち。
そして、謎のコスチュームに着替えて蒼いポンポンを振り回すノアと、迷惑そうな表情でノアを睨みつける彼女の真後ろの貴族……ごめんなさい。
「いや~、入団を賭けた決闘なんていつ以来じゃったかの〜?」
「18年前のシータちゃんと、当時の第三師団団長のサーベラス卿との決闘以来ですよ、サンクチュアリ卿」
「おおっ、そうじゃったそうじゃった! 確か……『アハトの女誑しが連れ込んだ田舎臭い小娘なんぞ高潔たる王立騎士団に入れられるか!』とグレイヴの奴が反対しおって……」
「それにあの娘が『よくもわたしのアハトさんを馬鹿にしたな! ボコボコにしてやる!』って怒って喧嘩を売ったのよね〜♪」
「……で、結果はカミング卿がグレイヴを宣言通りボコボコ」
「負けて威厳の無くなったサーベラス卿は拗ねてそのまま騎士団を裏切って【死の商人】の配下に……」
「――――駄目じゃね、この決闘?」
そして、【ベルヴェルク】とは別の位置の席から聴こえるトリニティ卿とサンクチュアリ卿の会話…………なるほど、だからラピーナ城で戦ったグレイヴ=サーベラスは母さんの事を目の敵にしていたのか。
そして、俺はいま母さんと同じ道を辿っている。その事実が、俺の気を引き締めていく。
「ラムダ卿ーーッ! 頑張ってくださいねーーッ! 応援していますわーーーーッ!!」
「レティシア……!」
深呼吸して気持ちを整える俺に掛けられる声――――武舞台の上に立つ俺に声援を送るのは少し高い位置にある観覧席から手を振るドレス姿のレティシア。
そして、レティシアの横で座具に腰掛けて静かに舞台を見守る綺羅びやかな赤い衣に身を包み、輝く王冠を冠った白髪の男性――――ヴィンセント=エトワール=グランティアーゼ、この国の王。
国王陛下直々に俺の戦いを観るのだ、恥ずかしい試合は出来ないな。
「逃げずに舞台に上がった度胸は認めてやろう……! だが、貴殿の英雄譚はここで終わりだ!」
「どうかな? その強気な台詞、最後まで言えると良いですね、オクタビアス卿?」
張り詰める空気、高鳴る鼓動…………あぁ、俺はいま興奮している。これ程の舞台を前に立てることに喜びを感じている。
冒険者としての旅も楽しかったが、やっぱり……俺には『騎士』としての性があるのだろう。
早く剣を振るいたくて仕方がない。
《さーてさてさて〜! これから決闘……の前に、国王陛下よりご挨拶があるのでよーく聴いときや~!》
「…………陛下から?」
そして、間もなく始まる決闘――――その前に差し込まれた国王陛下からの言葉。
座具から立ち上がり、武舞台を見下ろした陛下は俺を見据えて静かに告げる。
「我が新たなる剣、ラムダ=エンシェントよ……貴殿にはこの決闘……アーティファクトを使わずに乗り越えてもらう……!」
《――――ハァ!? せっかく生でアーティファクトの性能拝める思うたのに〜》
「なっ……!? ラムダからアーティファクトを取るなんて……!」
「余は貴殿の持つ『本来の力』が観たい……! 応えてくれるな、アハトの子よ……?」
それは俺に課せられた制限――――アーティファクトの使用の禁止。陛下は俺に【ゴミ漁り】としての実力を示せと言っているのだ。
当然、アーティファクトの使用制限など俺にとっては死活問題。右眼も左腕も使えなくなるのだから……流石に心臓は止めれないからノーカウントって事で黙っておこう。
「……だ、そうだ? アーティファクト無しの貴様はただの【ゴミ漁り】――――怖気付いたか?」
「――――いいや、燃えてきた!」
「その威勢や良し! 口先だけの男では無いことを祈るぞ?」
けど、闘志は更に昂ぶる。少し前の俺なら狼狽えただろうが、今は違う。
アーティファクト無しでも戦えるって事を全員に見せつけてやる。
「良き闘志だ……! エトセトラ卿、試合開始の宣言を……」
《承知しました、国王陛下! それでは~、ゴルディオ=オクタビアス卿とラムダ=エンシェント卿の一騎打ち……》
そして、運命の時はやって来る。
司会であるエトセトラ卿の掛け声と共に静寂に包まれる舞台、固唾を呑んで見守る観客、互いに緊張の糸を張り詰めるふたりの騎士。
《――――始めッ!!》
それぞれの思惑は交錯し、司会であるテトラの宣言の元――――戦いの火蓋は切って落とされる。
「固有スキル発動――――【終わりなき黄金郷】!!」
「なんだ!? オクタビアス卿の周りに黄金の壁が……!?」
先手を取ったのはオクタビアス――――スキルの発動と同時に現れたのは黄金の城壁のような壁。
そして、彼の眼前に無数に湧いて出てくる黄金でできた兵隊たち。球体や三角錐、四角形で構成されたチェスの駒のような兵隊が同じく黄金で出来た剣や槍を構えてオクタビアスを護るように列を成す。
《いきなり出たでー! アレが第八師団の長、ゴルディオ=オクタビアス卿の固有スキル――――【終わりなき黄金郷】やーーーーッ!!》
《自らの魔力を黄金の物質へと変換するスキルだにゃーーッ! そして、あれはオクタビアス卿の最も得意とする戦術、『黄金城と黄金兵団』の合せ技だにゃーーッ!!》
《メインクーン卿……興奮して語尾がネコになっとるで……》
《――――はっ/// 失礼しました///》
なるほど、固有スキル【終わりなき黄金郷】――――黄金を操るスキル。オクタビアスの周囲を護るのは黄金の城壁で、眼前の兵隊は敵を追い詰める黄金兵と言う訳か。
流石は王立騎士団の団長、規格外のスキルだ。
「ふははははは!! さぁ、どう戦う……ラムダ=エンシェントよ!?」
「ふぅー……いくよ、母さん……! 固有スキル発動――――【煌めきの魂剣】!!」
「――――なっ!? その剣は……カミング卿の……!?」
「なんじゃと!? 何故、ラムダ卿があの娘の剣を真似できるのじゃ!?」
だが、そんな事では臆せない――――大きく深呼吸をして両手に召喚するは我が魂を切り取った蒼い剣。我が母より継承した固有スキル【煌めきの魂剣】。
アーティファクトの使用が制限されようとも、俺の固有スキル【ゴミ拾い】で得たスキルは使える。
「アハトが連れて来た天才騎士、シータ=カミングの再来のつみりか……? 構わん、黄金歩兵共、敵はただひとり……囲んで潰せ!!」
「あの召喚された兵隊にはゼクス兄さんの“針”は聞かなさそうだな……仕方がない、丁寧に潰していくか!!」
ジリジリと俺を囲みながら距離を詰めてくる黄金兵たち……表情こそ無いが、ある程度思考能力があると思しきその動きはさながら本物の騎士のようだ。
手にした簡素な作りの武器をこちらに向けて威圧するように迫る敵……だが、こちらとて相手のペースに嵌まる気は無い。
大丈夫……剣の鍛錬も集団戦も子どもの頃から彼女に叩き込まれている。そもそも、本来なら俺はアーティファクト無しで王立騎士団に上り詰めるつもりだったんだ。
自分を信じろ、ラムダ=エンシェント。
「今だ、一斉に飛び掛かれ!!」
「甘く見るな、オクタビアス卿!! 花開け、蒼き魂剣よ――――“蒼花弁”!!」
《おおーっと、ラムダ卿の周りから大量の蒼い剣が出現してー!?》
《そのまま飛び掛かって来た黄金兵を蹴散らしたにゃー!!》
「――――チッ! ちょこざいな……!!」
「さぁ、吠え面かかしてやる……ゴルディオ=オクタビアス卿!!」
迫りくる第一波は蹴散らした。
ここからはオクタビアス本人の攻略を視野にして動く。
さて、どうするべきか?
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