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第117話:騎士の覚悟


「お初にお目にかかります! 私の名前はラムダ=エンシェント! これより、王立ダモクレス騎士団の【王の剣】として皆様と同じこころざしを持ってグランティアーゼ王国に尽くしますので、どうかよろしくお願い致します!」



 ――――王の居城・エトワール。そこの一角にある王立騎士団の円卓の間で、俺は夢にまで観た【王の剣】たちと一同に介していた。



「お久しぶり〜ラムダ卿〜♪」

「トリニティ卿……!」

「アモーレムでは一緒に戦ってくれてありがとう♡ こうして同士になれたこと……お姉さんとっても嬉しいわ〜♡」



 トトリ=トリニティ――――アモーレムで共に【死の商人】と戦った第三師団の騎士。巨大な大太刀とそれに似合わぬほがらかな笑顔が印象的な女性。



「ラムダ〜♪ このおやつ美味しいよ、食べる〜?」

「兄様! 此処はサートゥスの実家ではありません、なぜ平然と菓子を食べているのですか!? うぅ……」

「はぁ~い♡ ツヴァイちゃん、胃薬〜♡」

「ありがとうございます……トリニティ卿……」

「兄さん……姉さん……(泣)」



 アインス=エンシェントとツヴァイ=エンシェント――――いつも通りの兄と姉、本当にいつも通りだな……びっくりする。



「へぇ~、あんさんが“アーティファクトの騎士”かぁ……! うちはテトラ=エトセトラ……よろしゅうな!」

「儂はレーゼ=サンクチュアリ……よろしくのぅ、ラムダ卿や……」

「僕はウィンター=セブンスコード。お姉さんを僕にください……」

「ひとり自分の欲求に正直な人が居る……!?」



 独特のなまりで喋るドワーフ族の女性、テトラ=エトセトラ。長い口ひげが印象的な老父、レーゼ=サンクチュアリ。メガネを光らせながらツヴァイ姉さんをくださいと言っている青年、ウィンター=セブンスコード…………この人は真面目で優秀そうだから『ダメ男』好きな姉さんは振り向いてくれ無さそうだな。



「あなたがラムダ=エンシェント卿ね♡ あたしはルチア=ヘキサグラム……よろしくね、童貞くん♡」

「失礼だぞ、ヘキサグラム卿……! 失礼、私はノナ=メインクーンだ……よろしく!」

「えへへ……わたし……テレシア=デスサイズ……! あなたが……おか……メメントを斃した“アーティファクトの騎士”……えへへ……格好いい……」



 いきなり俺を『童貞』呼ばわりした赤い髪の少女、ルチア=ヘキサグラム。そんなルチアを咎めた猫耳の女性、ノナ=メインクーン。そして、くすくすと不気味に笑う喪服の女性、テレシア=デスサイズ。



「貴殿がラムダ=エンシェント卿か?」

「…………はい」



 最後に俺に挨拶をしたのは、いかつい表情でこちらを睨み付ける黄金の鎧の男性、ゴルディオ=オクタビアス。



「この10名がこれより貴殿の同士となる【王の剣】の先達だ……! 彼等に負けぬよう、精進して王国に仕えるように……!」

「――――ハッ!」

「な~んだ……もっと上から目線の傲慢野郎かと思ったのに、意外と教養あんのね〜つまんない〜!」

「ヘキサグラム卿……私の弟を侮辱しているのか?」

「まっさかー♪ 愛人を複数人(はべ)らせてるって聞いたから傲慢不遜ごうまんふそんな俺様系かと思ってただけ〜♪」

「あはは! 複数の愛人は間違ってないから、ラムダには耳が痛い話だね〜♪」

「それに……あたし好みのつらだ……! 例の愛人どもから寝取ってやれば面白いかも……うふふ♡」



 俺の顔をじろじろと物色しながら、何かを品定めしているような様子のヘキサグラム卿。参ったな……あの少女はどこかゼクス兄さんと同じ雰囲気を感じる。


 向けられた視線はまるで獲物を捉えた蛇の目のように鋭く光っている。



「おーッ! 噂通り、その左腕、アーティファクトの義手みたいやな!」

「えっ……? はい、そうですが……??」

「アーティファクトを身体に組み込むとは大胆な奴やな〜! どれ、いっぺん服脱いでうちに接続部分見してやー!」

「ちょ、エトセトラ卿!? 年頃の男子の身体をベタベタと触らないで下さい!」

「なんや、ツヴァイ卿? うちのような美女に触られるんやからラムダ卿も困らへんやろ? ほれほれ……はよ服脱ぎーや!」

「ひぃ……目が血走ってる……!?」



 そしてもうひとり、騎士団内で唯一アーティファクトについて詳しいと言われているエトセトラ卿は俺の左腕アインシュタイナーに興味津々のご様子で、俺の周りをくるくる回りながらしきりに服を脱がせようとしていた。


 こちらはこちらで活きのいい獲物を見つけた狩人ハンターのような眼をしている……怖い。



「しかし……ラムダ卿のあの顔……カミング卿を思い出すのぅ……」

「奇遇ですね、サンクチュアリ卿……! 実はわたしもなんです〜」

「トリニティ卿もか……! いや~懐かしいの〜……第二師団から無断で拝借した飛竜ワイバーンで王城を飛び回って、最終的に城のてっぺんに置き去りにされたのを思い出すの〜」

「ねー♪ 泣きながら『アハトさーん、助けて〜!!』って助けを求めましたねー♪」

「アハト卿はアハト卿で『そこで一晩頭を冷やせ、この馬鹿者が!!』って怒っておったの〜懐かしや懐かしや……おや、ラムダ卿、顔を赤くしてどうしたのじゃ?」

「いえ……なんでも……///」



 彼女は騎士団で何をしていたんだ?

 駄目だ、恥ずかしくなってきた。


 俺の出自を知っているのがアインス兄さんとツヴァイ姉さんだけなのがせめてもの救いか。



「下らん話はそこまでだ……! ラムダ=エンシェント、私は貴殿の騎士団入りを認めてはいない!」

「――――ッ! オクタビアス卿……それは、私には荷が重いと言う事でしょうか?」



 予想と違い和気あいあいとした雰囲気が流れていた円卓の間だったが、その緩んだ空気は突然キツく締まり始める。


 ゴルディオ=オクタビアス――――父さんの跡を継いで第八師団の団長に就任した騎士。元は政治家一家であるオクタビアス子爵家から騎士団に入った異端児だと聞いている。


 そんな男が、ただひとり俺の騎士団入りに『待った』を掛けた。



「そも、貴殿の職業クラスは【ゴミ漁り(スカベンジャー)】だと聞いている……間違いないな?」

「はい……! そして、卑しい身分で『騎士』の真似事をしているだけとも重々承知しています……!」

「なら、アーティファクトのお陰で成り上がったとも?」

「認識しています。この職業クラスでアーティファクトを使いこなせたからこそ、今の私があります! それを威張るつもりもなければ、否定する気もありません……全てを受け入れて、ただがむしゃらにここまで走り抜けたのが、此処に居るラムダ=エンシェントです!」

「――――なるほど、ただ思い上がった小僧では無いか」



 その真意は俺の『在り方』について――――【ゴミ漁り(スカベンジャー)】であることを自覚しているか、『アーティファクト』の性能のお陰で王立騎士にまで成り上がれた事を自覚しているかと。


 もちろん自覚している。


 だが、それを鼻に掛けて高慢ちきになる気も無いし、今更アーティファクト無しで戦っていける気も持ってはいない。


 一度は『ゴミ』として見捨てられ、アーティファクトと共に舞い戻った“アーティファクトの騎士”……それが今の俺だ。



「オクタビアスおじさま……そこまで『自覚』のあるラムダ卿をなじったんだから、きっちり詫びでもいれたらど〜お? まっ、プライド()()は高いおじさまには無理な話か……きゃはははは♪」

「くだらんな、メスガキ……! まだ私はラムダ卿の『覚悟』しか見ておらんぞ……」

「それは……どういう意味でしょうか、オクタビアス卿?」

「簡単なことだ…………私、ゴルディオ=オクタビアスは貴殿に『決闘』を申し込む――――“アーティファクトの騎士”ラムダ=エンシェントよ!」

「なっ……!?」

「…………うそ?」



 そして、俺の覚悟を知ったオクタビアス卿は着けていた手袋を俺の胸元へと投げつけてきた――――断交の宣言、『決闘』の合図。


 そう……第八師団の団長・オクタビアスは俺に決闘を申し込んできたのだ。



「なっ……正気かオクタビアス卿!? 貴殿はどこまでラムダを邪険に……!!」

「待ちなさい、ツヴァイ……!」

「兄様……? でも……」

「これは好機だ……ラムダが我々にその実力を示す絶好のね……」

「くっ……!」



 アインス兄さんの言う通り、これは俺にとっても好機だ。王立騎士団の一員として恥ずかしくない実力を示して、ここに居る全員を納得させる絶好の舞台。



「貴殿が勝てば私は貴殿を誰よりも歓迎しよう! ただし、負けた場合は…………即刻、王都より去ってもらうぞ!」

「――――上等! 受けて立たせてもらう、オクタビアス卿!」

「おっ、18年ぶりの入団を賭けた決闘やな♪」

「これは興味深い……! ラムダ卿の実力を測る絶好の機会だ!」

「あらあら……大変な事になったわ……」

「良かろう……! では国王陛下にもご足労いただき、『御前試合』としてラムダ卿の実力を示して貰おうか! 急ぎ中庭の武舞台の準備を……!」

「承知しました、フレイムヘイズ卿!」



 ざわつく騎士たち、静かに闘志を燃やす俺とオクタビアス、決闘の準備を進めていくフレイムヘイズ卿。


 王都に到着して俺が最初に剣を振るうは王立騎士団への入団を賭けた大一番、“黄金卿”と謳われた騎士・オクタビアスとの一騎打ち。


 ここで負ければ俺の夢を儚く潰える。

 故に、負ける訳にはいかない。



「辞世の句でも考えておけ……ラムダ=エンシェントよ」

「今から負け犬の遠吠えの練習をしておけ……ゴルディオ=オクタビアス……!」



 お互いの矜持プライドを賭けた戦いが間もなく始まろうとしていた。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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