第116話:招集
「どうも〜! 王立レイチェル家具店の者です~! オリビア=パルフェグラッセ様よりご注文頂きました家財道具をお持ちしました~!」
「…………はい……どうぞ……」
「お支払いは第二王女レティシア様から頂戴していますので、こちらでのお支払いは結構ですよ~♪ 毎度あり〜♪」
「失礼致します。私、王立ホーエンハイム錬金術店の者です。此方にお住まいのノア様からご注文頂きました魔導具のお届けに上がりました」
「…………はい……どうぞ……」
「代金は第二王女レティシア様より頂いております。それでは、今後ともご贔屓にお願いします」
「ウッス! 王立エトセトラ商会の者ッス! ミリアリア=リリーレッド様がご注文されました『技術習得石』をお持ちしましたッス!」
「…………はい……どうぞ……」
「代金はミリアリア様のご要望通り第二王女レティシア様宛で頂戴していまッス! またのご来店、お待ちしていまッス!」
「こんにちは~! 王立魔導図書館の者ですー! アウラ=アウリオン様がご注文された魔導書、店主であるサンクチュアリ様より貸し出しの許可が下りましたのでお持ちしましたー!」
「…………はい……どうぞ……」
「魔導書の返却や新しい書物をご要望の際はまた図書館にお越し下さーい!」
「うふふ……ど~も、リリス“裏”魔導具店で〜す♡ え~っと……リリィ様よりご注文承りました~魔導具……厳重な封印を施した箱に入れてお持ちしました~♡」
「…………ぜってーエッチな魔導具だ……」
「こちらにサインをお願いします〜♡ それじゃ……今後ともご贔屓に〜♡」
〜しばらくして〜
「シリカさん、この荷物はオリビア様のお部屋に、こっちはミリアリア様のお部屋、この荷物は……封開け……キャー/// 何ですか、このエッチな小道具は/// どうせリリィ様の物でしょう……さっさと運びますよ〜!」
「メイド……ふたりじゃ足りない……(泣) 増員希望……」
「可哀想……」
王都に到着してから数時間後、俺の屋敷に大量に運び込まれてくる王都各地の商店からの届け物。俺とコレットが屋敷の下見をしている間にノア達が買ったであろう品物が大挙して押し寄せてきていたのだ。
それをふたりで齷齪と運ぶコレットとシリカ……手伝ってあげたいのは山々だが、生憎と俺はこの買い物をした連中の説教で手が離せなかった。
「申し訳ございません、ラムダ様……せっかくの新居なので奮発してしまいましたぁ……(泣)」
「ごめんなさい……僕、調子に乗りすぎてしまいましたぁ……(泣)」
「ごめんね、御主人様……どうしても興味あって……♡」
「反省しているのだ……! 今度から読み切れる量だけ借りるのだ……!」
「そもそも……なんで揃いも揃ってレティシア名義で買い物してるんだ!? 彼女は【ベルヴェルク】の『財布』じゃ無いぞ!? 第二王女を出汁に使うとか正気かお前ら!?」
「だって……レティシアさんの名前出したら商店の人が『レティシア様のお連れですか!? なら支払いはレティシア様宛にしておきますね』って薦めてきましたので……」
「そうやって誘導されて高い商品を買ったんだろ、オリビア!? 第一、商家の娘であるオリビアがなんでそんな初歩的なビジネストークに引っ掛かってるんだ……!?」
「うぅぅ……面目ございません……(泣)」
暖炉の前で正座するオリビアたちに俺は説教を続ける……ノアとジブリールが地下に籠もったまま出てこないのは癪だがあのふたりは後だ。
無駄遣いならともかく、『レティシア』名義で買い物されたとあらば俺の信用問題に直結する。この件はきっちりと締めておかないと。
「王立騎士団で働き始めたら俺にもそれなりの給料が出るんだから、買い物はそこからでも良かっただろ!? ちゃんと俺が買ってあげるから……!」
「やだ……御主人様が甲斐性の塊みたいになっているわ……///」
「ともかく! レティシア名義での買い物は金輪際しないように……分かった!?」
「「「はいぃ〜……申し訳ございません〜(泣)」」」
「やれやれ……先が思いやられる……」
少し目を離しただけここまで無駄使いされるとは……少し怖くなってきた。
【逆光時間神殿】での活躍の報酬がグランティアーゼ王国から出るとアインス兄さんが言っていたが、この調子だと一瞬で無くなりそうだ。
「ふぃ〜……やっと片付きました~……!」
「旦那様……少し遅くなりましたが……お昼……」
「お疲れ様、コレット、シリカ! さて……ノアとジブリールも呼んでお昼にしようか……! ふたりに働かせた分、お昼は俺たちで用意するからな!」
王都での新生活を考えると頭が痛いが、まずは荷運びをしてくれたコレットとシリカを労うのが優先だ。
正座で脚が痺れたのかみっともない体勢でもがいているオリビアたちに発破を掛けながら、俺はキッチンで昼食の準備を進めていく。
幸い、先んじてシリカが用意してくれていた食材があったので作るものに困ることは無いが……さて、何を作ろうか?
〜しばらくして〜
「ラムダさんが料理も出来たなんて……うぅ、僕はいま非常に心が折れそうです……」
「冒険してる時にコレットに教えてもらっただけだから……」
「貴族なのに料理出来るのっておかしくない、御主人様? ふんぞり返ってメイドに作らせるんじゃ無いの〜?」
「リリィは貴族を何だと思っているんだ!? 料理ぐらい作るさ…………いや、俺の兄弟で料理出来るのゼクス兄さんだけだったわ……」
「あのイキリチンピラ、意外とハイスペックだったのね。私の認識阻害の魔法を一瞬で看破して脳天に短剣を投げてきたし……惜しい人を亡くしたわ……」
「そう言えば……結局ノアさんとジブリールさんは地下に籠もったままでしたね、ラムダ様」
「はぁ……料理が冷める前に持って行ってあげるか……」
「さて……料理を作ってもらいましたし、後片付けはきっちりと行いますよー!」
「後片付け……多い……旦那様……メイド増員……して……」
ラムダ邸、ダイニングルーム――――少し遅めの昼食を摂った俺たちは紅茶を啜りながらまったりとした時間を過ごしていた。
俺が作った食事の評価は概ね好評、何故か一部から『料理もできるなんてズルい』と嫉妬の声が上がったのは気になるが……今度、コレットに頼んでレシピを纏めてもらってそれをみんなに配っておこう。
「そう言えば……肝心の王城にはいつ行くのだ、ラムダお兄ちゃん?」
「さぁ……アインス兄さんは『使いが来る』って言っていたけど中々来ないね……?」
さて……王都について暫く、屋敷で久々にのんびりとした時間を過ごさして貰った訳だが、王城からの使いがやって来る気配が無い。
どうなっているのだろうか?
アインス兄さんは『先に【王の剣】による緊急の会議がある』と言っていたが、それが長引いているのか。
「はぁ〜……まさかこのまま放置じゃ無いだろうな……」
「あの……旦那様……! お、お客様が……お見えです……!」
「失礼する……! こちら、ラムダ=エンシェント卿の自宅で間違い無いないでしょうか?」
「紅い髪の……エルフ……!?」
そんな折にシリカに案内されて現れたのはひとりのエルフの女性――――スラリと伸びた手脚、動きやすい黒地のコート、燃えるような紅い長髪、輝くような黄金の瞳、長く尖った耳に飾られた焔を象ったピアス、やややさぐれているのか気怠そうにした表情。
いかにも覇気が無さそうな、しかし内に激情を秘めていそうな苛烈な女性が、シリカに案内されて俺の前に姿を表した。
「いきなり押し掛けて申し訳ない。私の名は――――」
「王立ダモクレス騎士団総司令……レイ=フレイムヘイズ卿……ですね?」
「――――知っているか、流石はアインス卿とツヴァイ卿の弟だな……!」
「はい、貴女の話は兄と姉からよく聴かされていましたので……! 私がラムダ=エンシェントです……よろしくお願い致します、フレイムヘイズ卿……!」
レイ=フレイムヘイズ――――王立ダモクレス騎士団を総括するエルフの女性騎士で、これから俺の上官になる女性。
「貴殿がシャルロット伯爵令嬢からこの邸宅を贈られたと聞き及んだのでな、少し時間を開けて訪ねたのだが……早かっただろうか?」
「いいえ、丁度良い頃合いでした。お気遣いありがとうございます……! シリカ、フレイムヘイズ卿にお茶の用意をお願い」
「承知しました、旦那様……!」
「ふむ……竜人のメイドとは珍しい……」
「まぁ、立ち話もなんですし、応接室へ案内致します」
「かたじけない……! いやぁ……弟は真面目そうで良かったぁ〜(泣)」
「今ので騎士団内での兄さんと姉さんの立ち位置が分かってしまった自分が憎い……!」
シリカに饗しの用意を頼みつつ、俺はフレイムヘイズ卿を応接室に案内する。
「いきなりプライベート空間に踏み込んで済まなかった……」
「あはは、構いませんよ。私もメイドもまだ家の構造を把握しきれていませんので……」
「心遣い恐れ入る……! さて、では本題に移ろうか……!」
そして、案内した応接室でテーブルに置かれた紅茶を啜りながら、俺とフレイムヘイズ卿は話を進めていく。
フレイムヘイズ卿は王立騎士団の総括。恐らくは俺の進退に関する内容だとは思うが。
「まずは……貴殿の【王の剣】、及び、新たに創設される第十一師団の団長への任命――――これは了承していただけるかな?」
「――――喜んで! 我が命、我が魂、グランティアーゼ王国と全ての民の為に賭す事を誓います!」
「…………よろしい。第十一師団の正式な発足と共に、国王陛下による貴殿への就任式で国民に対しても大々的に【王の剣】着任の発表を行うので、そのつもりで……!」
「ありがとうございます!」
「それと……この後、王城に出向いていただき【王の剣】達との面通しをしていただきたいのだが、構わないか?」
「はい、問題ございません!」
内容は予想通り、【王の剣】就任の確認と国王陛下主導の就任式の案内、そして現役の【王の剣】たちとの面会――――あぁ、夢みたいだ。自分がまさかこんな大舞台に登れるなんて。
ロクウルスの森で途方に暮れてたのが嘘みたいだ。
「大丈夫か、顔が呆けているぞ……?」
「…………大丈夫です、問題ありません!」
「分かった……では、屋敷の外に馬車を停めてあるので、それに乗って王城に向かうとしようか」
「はい!」
フレイムヘイズ卿から直々に【王の剣】への就任が告げられたのだ。善は急げ――――王城に行って早く他の騎士たちにも挨拶をしよう。
俺ははやる気持ちを必死に抑えながら、身支度を整える。
「ラムダ様……王城へ向かわれるのですか?」
「うん、アインス兄さんやツヴァイ姉さんにも挨拶してくるよ、オリビア!」
「分かりました……! では、帰りを此処でお待ちしていますね。行ってらっしゃいませ……あなた♡」
「ちょ……オリビ……///」
「ワォ! 15歳でもうキスで送り出してくれる嫁が居るのか? アインス卿、ツヴァイ卿と違ってラムダ卿は果報者だな! あっはっはっは!」
フレイムヘイズ卿が見ている中で俺にキスをして出発を見送るオリビア…………その後ろの柱に隠れてミリアリア、リリィ、アウラが恨めしそうな表情でオリビアを見ていることは黙っておこう。
そしてそのままオリビアに見守られながら俺はフレイムヘイズ卿が用意した馬車に乗って王城へ。
「いや~、やっとまともな人材が入って私も一安心だ! これでひとりツッコミの地獄から解放されそうだ…………なぁ、ラムダ卿?」
「圧が怖い……」
行く先はグランティアーゼ王国の政の中心地たる王城、そこに待つのは10人の【王の剣】たち。
これからの長い戦いを共にする戦友たちと出逢うことに、俺の胸は期待で高鳴っていた。




