第13話:ゴブリンを討伐せよ
「なっ……バ、バカな!? たったの一撃で同胞が殆ど消し飛んだだと……!?」
開戦の一撃、俺が放った朱い光量子の弾丸はゴブリン軍団の中央を通過、射線上とその周囲にいたゴブリンを纏めて消し飛ばした。
からくも攻撃範囲から外れていた五匹のゴブリン達は不意な仲間の消滅に驚愕して足を止めてしまい、額から冷や汗を流しながらこちらの様子を傍観している。
「ラムダさ~ん……討伐の証にゴブリンさんの身体の一部を持ち帰らないといけないんじゃなかったんですか?」
「あっ、確かに……これはやりすぎだ……」
ノアの方舟で修復された対艦砲撃光学兵装の威力は凄まじく、攻撃を受けたゴブリンは肉片一つ残さずに消滅していた。流石にそれは都合が悪い。
「折角、コイツを派手に使えると思ったんだけどな〜。はぁ、仕方ない――――格納!」
右手に抱えたビームライフルを量子変換してブレスレットに格納すると、俺は残ったゴブリンに視線を向ける。どうやらさっきの一撃で闘争心が消失したのか、ゴブリン達はこちらに向かうどころかジリジリと後退りを始めていた。
「なんだ……あのの男は? まさか……こいつが噂に聞く“聖騎士”アインスなのか……!?」
ゴブリン達は俺を見て恐れ慄き、一歩、また一歩と後ろへ後ろへとさがっていく。当然だが、連中を逃がす理由など無い。
「て、撤退だーーッ! 急いで拠点を放棄して本隊と合流するんだーーッ!」
「拠点? 本隊? こいつら野良のゴブリンじゃないな」
“逃げ”を決め込んだゴブリンから放たれた意味深な言葉。それはゴブリン達が何らかの意思を持って、洞窟を“拠点”にしていた事を意味していた。
「あっ、ラムダさん! 残ったゴブリンさんが散り散りになって逃げていきますよ!?」
「分かってる、一匹も逃がすもんか! 七式観測眼――――起動!」
的を絞らせないようにバラバラに逃走を開始するゴブリン達。あるゴブリンは木々に紛れようと、あるゴブリンは洞窟へと逃げ込もうと、あるゴブリンは崖を登ろうと、まるで蜘蛛の子を散らすように残ったゴブリン達は逃走を開始する。
その動きに対応するべく、俺は右眼に移植した戦局を分析するアーティファクト【七式観測眼】を起動させゴブリンの動きを予測する。
右眼に映るゴブリン達、彼等の取ろうとする行動が赤い幻影となって俺の視界に映し出される。
逃げる先が予測できれば捕らえる事は容易い。
俺は左腕を正面に構える。切断された左腕の代わりに装着されたアーティファクト――――【光量子展開射出式超電磁左腕部】、この腕に隠された機能の出番だ。
「――――射出ッ!!」
俺の号令と共に、光量子を噴射しながら発射される左腕――――肘から先の部分を分離して射出された左手が、超電磁のエネルギー線で繋がれた俺の意思に従ってゴブリンを追い掛ける。
「ひぃ……腕が分離し!? バ、化け物……!?」
「お前に言われたかねぇよ! 光量子輻射砲……照射!」
射出された左腕がゴブリンの頭部を掴んだと同時に放たれる高濃度の光量子による接射攻撃。それを受けたゴブリンは断末魔を上げる暇すら与えられずに霧散して爆ぜる。
「ラムダさーん! アーティファクトの性能を試したいからって無駄撃ちし過ぎです〜! ちゃんとゴブリンさんを残しといて下さいねー?」
「分かってるって……! 大丈夫、一匹残しとけば何とかなる筈さ!」
腰に手を当てて不服そうな表情をしているノアに相槌をうつと、回収した左腕を肘に装着し直して残り四匹のゴブリンに狙いを定める。
一匹目はノアの近くにいる斥候と思われる個体、二匹目は巨大な鉄製の棍棒を担いだ大型の個体、三匹目は鉄製の盾を構えた個体、最後の四匹目は弓を携えた個体。これなら十分、制圧可能だ。
「量子変換装置展開――――対機戦闘用閃光剣:アルトリウス!!」
『遺物――――認識。光学斬撃兵装、ライトニング・セイバー:アルトリウス――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動――――所有者をラムダ=■■■■■■に設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調率最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度及び技能の継承――――完了。技量スキル【剣術:Lv.10】【超反応:Lv.10】取得――――完了』
初めて扱うアーティファクト、右手で握った瞬間に発動する【ゴミ拾い】のスキル。頭の中に響く声が、掴んだアーティファクトの知識を俺に伝える。
斬撃兵装系アーティファクト【閃光剣】――――眩く輝く程に集束したプラズマによって形成された光刃を持ち、接触した瞬間に光刃から発する超高温の放電によって相手を焼き切る驚異の切断力が特徴の剣。
「わーっ、ラムダさーん! 格好いいー♡」
「ノア、危ないからそこから動かないで。さぁ……次はお前だ!」
右手に閃光剣を握り、俺は盾持ちのゴブリンに向けて左腕を構える。構えられた左腕が分離・射出されることを先の出来事で理解していた盾持ちゴブリンは、逃走行為を止めると盾を俺の方へと向けて防御姿勢を取り始めた。
盾持ちゴブリンの取る選択としては無難。遠距離からでも飛んでくる俺の左腕に逃走は不可能と考えたのだろう。
「光量子展開射出式超電磁左腕部――――射出!」
立ち止まるなら好都合、俺は左腕を盾持ちゴブリンに向けて再び射出する。相手は盾で俺の左腕に掴まれるのを防ごうと考えているのだろう。その選択が命取りになるとも気付かずに。
「な、何だ!? 腕が横を素通り――――」
「――――空間掌握!」
射出された左腕が盾持ちゴブリンの右横を素通りした瞬間、俺は開いた左の掌を思いっ切り握り締めて、何も無い筈の空間を掴む。
「爪先に備えた小型の次元断層機構を使った空すら掴む技術! もうそこまで光量子展開射出式超電磁左腕部を使いこなしているなんて……流石はラムダさん……!」
「――――――飛べ!」
そして、射出した左腕を超電磁エネルギー線を使って回収する機能を逆利用して、俺は空を掴んだままの左手に向かって勢いよく跳躍する。
「何ぃ!? だ、だが、たかが剣ぐらいじゃ、この盾は斬れないぞッ!」
「――――光刃展開!」
盾に身を屈めて俺の攻撃に備える盾持ちゴブリン。
その行動を見切り、俺は右手に携えた閃光剣を思いっ切り振りかぶる。
そして――――
「――――ガッ!?」
――――ゴブリンの構えた盾に光刃が触れた瞬間、激しく発光した放電と共に盾は瞬時に溶断され、そのままゴブリンの胴体すらも真っ二つに焼き切って、俺は剣を振り抜いた。
残るゴブリンはあと三匹。
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