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第114話:王都【シェルス・ポエナ】


「着いたーーッ! 此処が王都【シェルス・ポエナ】だーーーーッ!!」

「うわぁーーっ!! 大っきな建物が一杯だーーッ!! 流石は王都、僕ワクワクしてきた!!」



 ――――逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】を出立してから10日後、時刻は朝方。道中、温泉街で旅の疲れを癒した俺たちは、長い旅の果てに遂にグランティアーゼ王国の首都である王都【シェルス・ポエナ】へと到着した。


 王都の手前でアインス兄さんとツヴァイ姉さんと別れ、街を取り囲むような巨大な城壁を潜った俺たちの眼前に現れたのは綺羅きらびやかな美しい街並み――――景観を乱さぬように建築様式を揃えた建物が軒を並べ、隙間なく敷き詰められた石畳は靴の音を小気味よく響かせて、正面門から遠くに見える白亜の王城が荘厳そうごんたる王都の威厳を余所者へと知らしめる。


 活気溢れる住人たち、街の規模に唖然とする冒険者たち、馬車に乗って人々を尻目に街を横切る貴族、街の見回りを行う騎士たち――――これまでの街とは全く違う、規律と伝統を重んじる雰囲気が、俺たちをおごそかに出迎えていた。



「うふふふ……ようこそ、わたくしの故郷へと! 如何いかがです、この重厚な雰囲気、美しく整えられた街並み、まさしくグランティアーゼ王国の栄華を体現せし繁栄の都……!」

「とは言いつつ“摩天楼まてんろう”感は無いですね、ノア様ー?」

「駄目よジブリール、レティシアさんの自慢話の腰を折っちゃ……! まぁ、古代文明時代にあった超巨大人工島の都市の方がよっぽど凄かったですけど……(笑)」

「――――キッ!! ノアにジブリール……わたくしに喧嘩を売っているのなら、今すぐ言い値で買いますわよ……!!」

「「ひぃ……ごめんなさい〜……!」」

「喧嘩売った割には弱いのだ……」



 大手を降って街の中央を歩くレティシアのせいで近くの人々の視線が集中している。



「あの方って……レティシア様では……?」

「『神授の儀』で【姫騎士】の職業クラスを授かるやいなや、制止する衛兵を蹴散らして王都から飛び出していった第二王女のレティシア様……?」

「………………何の話かしら?」

「目を逸らしながらしらばっくれてる……」



 王都以外でも名の知れた存在なのだ、国王陛下のお膝元である王都でレティシアを知らぬ者は殆ど居ないだろう。


 そして、衆目が集まった以上、人々の関心は俺たちにも移っていく。



「じゃあ、あの金髪の少年が噂になっている“アーティファクトの騎士”なのね!」

「あっちは“時紡ぎの巫女”アウラ様じゃ無いか!?」

「目立とうとして必死にアピールしているあの銀髪の残念そうな子は誰だ……??」

「残念そうな子……!?」

「ぷふふふっ……! ノア様、知名度が足りていませんね〜(笑)」

「あの変な仮面付けた破廉恥ハレンチな格好の女はなんだ? 痴女か?」

「………………」

「ぷふふふっ……! ジブリール、破廉恥だって~♪」



 俺たちの周囲に徐々に徐々に距離を詰めながら集まってくる群衆ギャラリーたち。


 大方が尊敬や称賛、物珍しさから【ベルヴェルク】の面々を一目見ようと群れをなしている。



「あれま……! そこの金髪の旅人や……あんたもしかして……シータちゃんかい!?」

「…………シータ……!」



 その中で俺の気を引いたのは、今は亡き母さんの名を口にしたエプロン姿の老婆の懐かしむ声だった。


 俺の顔を見て遠い思い出の誰かと面影を重ねて涙を流すその女性に、不覚にも俺は視線を向けてしまう。



「その凛々しい顔立ち、綺麗な蒼い瞳……十何年も前に怪我をしたあたしゃの面倒を見てくれた王立騎士のシータちゃんにそっくりじゃ……!」



 王立ダモクレス騎士団第八師団所属の騎士・シータ=カミング――――父さんの部下として騎士団で武功を挙げて、陰謀に巻き込まれてエンシェント家のメイドに身をやつした……俺の本当の母親。


 目の前の女性が俺をシータと見間違えるのも無理はない。血を分けた肉親なのだから。



「あの……私は……」

「あぁ……済まんのぅ、旅のお方。むかし見た騎士の少女に見間違うてしもうたわい……! あぁ……あの子は今、何処で何をしとるんじゃろうか……元気にしとったらいいのう……」

「ラムダ様……」

「分かっているよ、オリビア……」



 シータ=カミングは既に亡くなっている。目の前の女性の願いが叶うことは無い。



「麗しき御婦人……私は、シータ=カミングの息子です……」

「ちょ、ラムダ様!?」

「良いんだ、オリビア……良いんだ……」

「ほんとかい!? あぁ……こんな凛々しい男子おのこが居たなんて……シータちゃんも幸せになれたんだねぇ……!」

「えぇ、母さんも貴女のご顕在をきっと喜んでくれるでしょう」

「うんうん……! あの子が失踪して、ずぅっと気掛かりじゃったんじゃ……! これで、思い残す事も無くなったのぅ……」



 だからせめて……ささやかな優しい『嘘』を。


 母さんは居なくなったけど、彼女の残したものがあるとささやくように伝える。


 遠い空の下で彼女の記憶に残る騎士は幸せに過ごしていると思って欲しくて。



「母を覚えていてくれてありがとうございます……御婦人……! それと、私と母の関係は訳あって世間には内密にしていますので、どうかご容赦を」

「ははぁ~……坊や、アハト卿とシータちゃんの子だね? なるほど……あの頑固な白騎士様の後ろに子犬のように引っ付いていたシータちゃんがねぇ……!」

「あはは……」

「良いさ、あんたの秘密は墓まで持っていくよ! 頑張りな、若人わこうど!」

「ありがとうございます……貴女もお元気で……! 何かあればすぐに呼んでくださいね」

「うっふっふ……年寄りを誂うもんじゃ無いよ、坊や……!」



 2つ、3つと言葉を交わし、老女は手にした杖を掲げながらその場を去っていく。


 母さんが王都で王立ダモクレス騎士団に属していたと言う何よりも証言。そして、そんな騎士団にこれから俺も加われるという期待に、何とも言えない高揚感を感じていた。



「っていうか、ラムダさんの『他所用よそよう』の言葉遣いって私、始めて見ました///」

「確かに……! てっきり『俺口調』のぶっきらぼうかと僕思っていたよ……!」

「失礼な……! 場所と相手に合わせて口調を変えていただけだよ……!」

「そう言えば、アインス相手には『僕口調』だったよね、御主人様ダーリン?」

「まぁ、兄さん相手には強がる必要無いからね……」



 しばらくして、群がった群衆ギャラリーをようやく捌き切りようやく一息ついた俺たち。


 流石は王都と言ったところか……レティシアの帰還という噂は瞬く間に都市全体に伝播し、道行く人々は常にこちら側に視線を送っているのが分かった。



「うむむ……こう注目されると落ち着かないなぁ……」

「人集りが出来ていたので何事かと思えば……やはりラムダ卿でしたか……!」

「…………あなたは、何処かで……?」

「えぇ、【享楽の都(アモーレム)】で一度。わたくしはシャルロット=エシャロット伯爵令嬢の使いの者です……!」

「…………シャルロット!」



 そんな折に俺たちに近付いてきた人物がひとり――――シャルロット伯爵令嬢の使いを名乗るメイドの女性。


 シャルロット=エシャロット――――以前、享楽の都【アモーレム】での戦いで行動を共にした渦巻ドリル状に巻かれた金髪が特徴的な貴族の少女で、エンシェント家とは従兄弟いとこに当たる血縁者。


 そんな彼女がわざわざ俺に贈り物とは何だろうか?



「それで……シャルロット伯爵令嬢の使いの人が私に何か……?」

「シャルロットお嬢様から貴方様宛に贈り物が御座います……こちらを……」

「何だ……? 手紙と……鍵……??」

「シャルロットさんの部屋の合鍵ですよ、きっと……! ラムダさんに夜這いに来いって誘ってるんですね♪」

「んな訳あるかよ……」

「ではわたくしはこれで失礼致します、ラムダ卿」

「あっ……行っちゃった……」



 手紙と鍵を俺に手渡すとそそくさとその場を後にするシャルロットの使い。手元に残ったのは真新しい銀色の鍵と、シャルロット本人が綴ったと思われる手紙。


 状況が良く分からないが、この鍵が彼女の贈り物なのだろうと思い、俺は手紙に目を通していく。



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 おーっほっほっほ! 

 お久しぶりですわね、ラムダ卿!


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「ちょっと待って下さい!? 手紙に『おーっほっほっほ!』って笑い声が入るのおかしいでしょ!?」

「ノア、それは俺も同感だけど、一々(いちいち)そんなの気にしてらんないよ!」



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 さる情報筋から貴方が国王陛下から直々に【王の剣】に任命されたと聞き、居ても立っても居られずにふみを送らせて頂きました。


 おめでとうございます、ラムダ=エンシェント卿。


 つきましては、これより王立ダモクレス騎士団の騎士と成られます貴方様に、わたくしからささやかな贈り物として王都での生活の為のお屋敷を贈らせて頂きます。


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「…………お屋敷をプレゼント?? ねぇ、ラムダさん……貴族って簡単に家をホイホイくれるの? 僕の両親が汗水垂らして家を買った話する?」

「ちょっと待って! そんな眼をギラつかせないでよ、アリア……!」



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 我がエシャロット家が管理している幾つかの物件の内の一棟で、所謂中古物件となり非常に心苦しいのですが、元々対して人も出入りもなくわたくしの方で綺麗に清掃を行っていますのでご安心を。


 この手紙とご一緒に貴方様にお渡しした鍵がお屋敷の鍵になりますので、王都貴族街十一番地の大きな池のあるお屋敷でお使いください。


 アモーレムでわたくしを救ってくださった英雄に少しでも恩返しが出来たのなら幸いです。


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「…………シャルロット……」

「意外と義理堅いのね、シャルロットさんは……! てっきりエシャロット伯爵のような旁若無人な方だと思っていましたわ……」

「ラ、ラムダ様! コレットは早速、そのお屋敷に行ってみたいのですが~」

「そうだな、荷物も纏めたいし……一度、シャルロットがくれた家に行ってみるか!」



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 あと、【快楽園メル・モル】壊滅の際に救出された者たちの中に、どうしても貴方様の元で仕えたいと言って聞かない者が居りましたので、その者を屋敷専属のメイドとして派遣しています。


 屋敷同様、大切にしてあげてください。



     ――――シャルロット=エシャロットより


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「なっ……メイド!? コ、コレットの存在意義が危ぶまれる……!?」

「ありゃ……流石は御主人様ダーリン! 行いにちゃんと結果が付いてきてるのね〜♡ しかも【メイド】だから可愛い女の子で確定ね……うふふ♡」

「そのメイドにも挨拶しないとな、行くよコレット!」

「じゃあ、弊機わたしたちは少し王都を見て回りましょうか、ノア様?」

「わたくしは王城へ……さっきから近衛兵がチラチラ様子をうかがっているので、強制的に連れて行かれる前に行ってきますわ!」

「分かった! じゃあみんな、また後で!」



 シャルロットから贈られた鍵を握り締めて俺とコレットは王都のさらに奥、貴族たちが住まう場所に在るという屋敷に向かって歩いていく。


 新しい環境、新しい舞台、新しい出会い――――王都での生活、これから始まる王立騎士としての生活に胸を高鳴らせながら、俺は陽気に歩を進める。


 その水面下で、ラムダ=エンシェントを巡る陰謀が蠢いていることもまだ気付かずに。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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