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序幕:【王の剣】


「さてさて……この円卓に【王の剣】が全員集うのは何年ぶりか……」

「一ヶ月ぶりですよ、フレイムヘイズ卿♪ 前回の議題は『えっ……リリエット=ルージュって負けたの?』でしたよねー♪」

「兄様! 前回は私が居なかったでしょ!!」

「はぁ……もう帰りたい……」



 グランティアーゼ王国・“王都”【シェルス・ポエナ】――――王城内のとある一角いっかくにある騎士たちの会合場。


 円卓上になった大きなテーブルに座るは11人の騎士たち――――【王の剣】と呼ばれた王国最強の騎士たちと、曲者揃いの騎士たちを取りまとめるひとりの女エルフ。



「えへ……えへへ……だ、第十師団【死せる巨人】団長……テ、テレシア=デスサイズ……こ、此処に……えへへ……」


 黒い喪服のドレスに身を包み、ベールで顔を隠した黒い長髪と朱い瞳をした女性――――“死神”テレシア=デスサイズ。



「第九師団【暗夜夜光あんややこう】団長、ノナ=メインクーン……此処に!」


 薄手の甲冑に身をくるんだ灰色の髪と金色こんじきの瞳、猫耳と尻尾が特徴の猫系亜人種の女性――――“夜のとばり”ノナ=メインクーン。



「第八師団【黄金の盾】団長、ゴルディオ=オクタビアス……此処に!」


 黄金の鎧を纏い、くすんだ金髪と灰色の瞳で周囲を威圧する壮年そうねんの男――――“黄金卿”ゴルディオ=オクタビアス。



「第七師団【白銀歌劇団】団長――――ウィンター=セブンスコード……此処に」


 白を基調とした燕尾服で着飾り、煌めく白銀の髪と深い青い瞳をした眼鏡を掛けた青年――――“しろがねの錬金術師”ウィンター=セブンスコード。



「第六師団【魔女の夜会(ワルプルギス)】団長……ルチア=ヘキサグラム、此処に……キャハハ♪」


 血に濡らしたような真っ赤なドレスを身に纏い他者をあざけるように笑う赤い長髪と金色きんいろの瞳をしたハーフエルフの少女――――“あかの魔女”ルチア=ヘキサグラム。



「フォッフォッフォッ……第五師団【禁書目録インデックス】団長……レーゼ=サンクチュアリ……此処に……」


 長く蓄えた白髭しろひげを触り目を細めながら笑う白いローブ姿の老父ろうふ――――“図書館”レーゼ=サンクチュアリ。



「はいはい、第四師団【絡繰からくり機巧(きこう)戦隊(せんたい)】団長、テトラ=エトセトラ……ちゃ~んと出席しとるで〜!」


 小柄な身体を大きく振りながら独特のなまりで挨拶をするのはオレンジ色の髪と緑色の瞳が特徴的なドワーフ族の女性――――“歩く要塞”テトラ=エトセトラ。



「第三師団【破壊縋はかいつい】団長、トトリ=トリニティ――――此処に」


 大太刀を椅子の側に立て掛けて穏やかな表情で名乗るは、美しき白金しろがね色の髪と青い瞳をしたエルフの女性――――“虐殺聖女”トトリ=トリニティ。



「第二師団【竜の牙】団長……ツヴァイ=エンシェント、此処に!」


 白い軽甲冑を纏い、長いピンク色のツインテールとエメラルド色の瞳をした女性――――“閃刀騎”ツヴァイ=エンシェント。



「第一師団【聖処女】団長……アインス=エンシェント、此処に♪」


 白銀の騎士甲冑に身を包み、麗しき聖剣を携えた金髪碧眼の青年――――“星穿ほしうがち”アインス=エンシェント。



「総勢10名のダモクレス騎士団の精鋭……全員揃ったな……!」


 円卓の上座かみざ、女神アーカーシャの奉った像に最も近い席で【王の剣】たちを静観する燃えるようなの紅い髪と金色こんじきの瞳をした甲冑姿のエルフの女――――“王立騎士団総司令”レイ=フレイムヘイズの指揮の元、一堂に会した騎士たちは緊急の議題を始めていく。



「さて、ずは確認を……此度こたび、国王陛下の“勅命”にて【王の剣】として我らに加わる“アーティファクトの騎士”ラムダ=エンシェント……貴殿等の弟で相違無いな、アインス卿、ツヴァイ卿? 私の記憶ではアハト卿とツェーン婦人との間の子は3人だったと思うが……?」



 議題は当然、【王の剣】と謳われる誉れ高き騎士たちに突如加わることになった成り上がりの冒険者・ラムダ=エンシェントについて。


「相違なく――――ラムダ=エンシェントは私とツヴァイ卿の実弟じってい……“白冷はくれい”アハト=エンシェントの第四子にて……」

「ラムダは……いえ、ラムダ=エンシェントはお父様が故郷に戻られてから生まれた子なので、フレイムヘイズ卿の記憶に無いのは致し方ない事かと……」

「ふむ……アインス卿、ツヴァイ卿に続きまたもやアハト殿のせがれとは……いやはや、流石は騎士の名家と謳われたエンシェントの血筋じゃのう……」



 総司令・フレイムヘイズの懸念はラムダ=エンシェントの血筋、彼が真に『エンシェント』の血族であるか。しかし、幸運な事に彼の血筋を保証するものが騎士団には居り、ラムダの出自を疑う者は皆無に等しかった。


 グランティアーゼ王国に代々仕えてきた騎士の名家・エンシェント――――若くして騎士団に入り、驚異の早さで【王の剣】へと至ったアインスとツヴァイ、その2名すら凌駕した存在。


 彗星の如く現れた“アーティファクトの騎士”に【王の剣】たちの関心が向くのも至極当然の流れであった。



「同感です、サンクチュアリ卿……! それも一月ひとつき前に『神授の儀』を終えたばかりの新米……僕の調べが正しければ、15歳でのダモクレス騎士団への入団は18年前にアハト=エンシェント卿が地方騎士団からスカウトしたシータ=カミング卿の16歳の記録を超える異例の若さだ」

「ふ~ん……しかもいきなり【王の剣】なら、あたしとアインス卿の持つ18歳での団長就任記録も超えるわね……なるほど、そこまで破格の待遇で迎えるのなら……ただの『ハッタリ』で成り上がった雑魚じゃないって訳ね……♡」



 15歳と言う異例の若さで【王の剣】へと至った少年に驚嘆の声を漏らすはセブンスコードとヘキサグラム。エンシェント兄妹と同じく若くして団長を務める両名は他の団長よりも強い関心をまだ見ぬ“アーティファクトの騎士”へと向ける。



「オトゥールでの【吸血淫魔ヴァンパイア・サキュバス】の討伐、エルロルでの『勇者事変カラミティ・トリガー』の解決と【勇者】ミリアリア=リリーレッドの勧誘、アモーレムでの第二王女レティシア様の救出と【死の商人】メメントの討伐、先の【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】での“光の巨人”の討伐と“時紡ぎの巫女”アウラ=アウリオンの解放……彼が挙げた功績はいずれも“英雄”と呼ぶに相応しい活躍ですニャ……こほん、ですね……!」


「わたしはアモーレムで実際に彼にお会いしましたが、あの勇猛果敢ゆうもうかかんさ……“魂剣こっけん”と謳われたカミング卿を思い出しましたね……」

「それに……ウチがどんなに研究しても理解できんかった『アーティファクト』を使いこなす異端者……なるほど、国王陛下が手元に置きたい訳や!」



 ラムダ=エンシェントなる人物が挙げた功績に関心を示すメインクーン、トリニティ、エトセトラの3名。


 四つの都市で挙げた四つの功績――――いずれもが【王の剣】たる自分たちですら挙げれなかった戦果だったから。


 ツヴァイ=エンシェントがついぞ仕留め切れなかったリリエット=ルージュの討伐、王立騎士団の派遣前に解決へと至った『勇者事変カラミティ・トリガー』、王立騎士団が長年捕らえれなかった【死の商人】の討伐、王立騎士団が不関与を決め込んだ“時紡ぎの巫女”の救出。


 一つとっても“英雄”と呼ぶにあたいする武功。故にもたらされた栄光の騎士団へのきざはし



「ふむ……各地で名を挙げた“アーティファクトの騎士”を騎士団に取り込んで、その功績をものにしたいのかのぅ、国王陛下は……」

「えへへ……え、英雄を傘下にしたとあらば……こ、国王陛下の信頼も……き、急上昇……えへへ……」


「なるほど……冒険者ギルドでも名うての“アーティファクトの騎士”を傘下にしたとあらば、良い政治的宣伝プロパガンダににゃりま……なりますね……!」

「だとしても、此度こたびの決定……私はいささ承服しょうふくしかねますな……!」

「オクタビアス卿……? 貴殿はラムダ=エンシェント卿の騎士団の入団に異議いぎがあるのか?」


「当然です、フレイムヘイズ卿……! そも、この議会……()()()のものでは?」

「鋭いな……! あぁ、ラムダ卿の【王の剣】就任は国王陛下の独断だ! 故に、我々は見極めねばならない……ラムダ=エンシェントなる人物が、真に【王の剣】に相応しき“器”の持ち主であるか否かを……!」



 しかし、王立騎士団も一枚岩では無い。


 ラムダ=エンシェントを歓迎する者、その真価を値踏みする者が居れば、その存在に異を唱える者も居る。


 第八師団の団長・オクタビアスはラムダの騎士団への参入に異を唱えた人物。



「失礼ですがオクタビアス卿……その物言い、我が弟の実力をお疑いで?」

「その通りだ、アインス卿! そも、彼の職業クラスは【ゴミ漁り(スカベンジャー)】と聞いたぞ……! そのような人物がどうやって四つの重大事件を解決したのだ?」


「はぁ~、もしかして……エルロルに派遣予定だったのに手柄を横取りされて嫉妬してるの〜? オクタビアス……お・じ・さ・ま♡ きゃはははは、受ける〜!」

「貴様は黙っていろ、ヘキサグラム卿! この生意気なメスガキが……!!」

「まっ、雑魚のおじさまにはラムダ卿の挙げた功績なんて想像もつかないことよね〜、仕方ないよね~、そんなんだからいつまで経っても大した成果も挙げれないのよ……このザ〜コ♡」


「ヘキサグラム卿、口が過ぎるよ……オクタビアス卿がお怒りだ……」

「――――チッ! はいはい、アインス卿はお優しい事で……」

「アインス卿の言う通りだ、ヘキサグラム卿! 場を弁えろ!」



 挑発を繰り返すヘキサグラム、怒りを露わにするオクタビアス、割って入るアインス――――曲者揃い故の不協和音、そんな10名を総括するフレイムヘイズの心労は想像にかたくない。



「そもそも、くだんのリリエット=ルージュ……今はラムダ=エンシェントの情婦になっていると聞いたぞ! ツヴァイ卿、これはどういう理由わけだ!?」

「そ、それは……ラムダ卿がリリエット=ルージュを改心させたからと聞き及んでいます……」

「馬鹿が……!! 無辜の民を殺して周り、騎士団からも多くの殉職者を出したリリエット=ルージュを改心させただと……何の冗談だそれは!?」


「お、お待ち下さい、オクタビアス卿! リリエット=ルージュにはラムダ卿に逆らえなくするための“隷属印”と“首輪”が付いています! その安全は私が保証しますのでどうかご容赦を……!!」

「どうだか……魔王軍と結託してグランティアーゼ王国を密偵スパイする気では無いのか、貴様の弟は? リリエット=ルージュは淫魔サキュバスだ……ラムダ=エンシェントがあやつの肉欲に溺れて傀儡かいらいになっているやも知れんぞ……!?」


「私もリリエット=ルージュと直に会って危険性が無いことは確認しています!」

「わたしもツヴァイ卿の肩を持つわ。【死の商人】相手に彼女は精一杯戦っていたわ……このトトリ=トリニティもリリエット=ルージュの改心を信じています……!」



 オクタビアスの懸念はラムダ=エンシェントが『清廉潔白せいれんけっぱく』で有るかどうか。


 こと魔王軍最高幹部【大罪】が一角であるリリエット=ルージュを手籠めにするなど疑われても仕方のないこと。ツヴァイとトリニティが必死にラムダとリリエット=ルージュを擁護するがオクタビアスの険しい表情は中々崩れない。



「ふむ……ツヴァイ卿とトリニティ卿がそこまで言うならリリエット=ルージュの件は問題ないと僕は思うが……」

「そりゃ、あんたがツヴァイ推しだからでしょ? 『ツヴァイ=エンシェント・ファンクラブ』会員番号1番の……ウィンター=セブンスコード卿……?」


「なっ……/// 失礼だな、ヘキサグラム卿! 僕はただ純粋にツヴァイ卿の真摯な態度を買っているだけだ///」

「あらあら、駄目ですよセブンスコード卿? ツヴァイ卿の好みは『まるで駄目な男』ですからね♡」

「トリニティ卿!? 私は決してそのような男性など///」


「ええい、ごちゃごちゃと五月蝿うるさいぞ貴様等!! 我らはグランティアーゼ王国の安寧を護る忠臣ちゅうしん義士(ぎし)で在らねばならん! アインス卿、ツヴァイ卿、貴殿等の弟――――まことにグランティアーゼ王国に忠を誓える者か?」

「――――必ずや、陛下のご期待に添えうるでしょう……我らの弟は!」



 話は平行線――――ラムダを歓迎する者と敵視する者、両者の意見は真っ向からぶつかり、円卓内はぎくしゃくした様相を呈してくる。



「…………ふぅ、やはりこうなったか。仕方あるまい……こうなればラムダ=エンシェント卿を直接問いただす必要があるな……!」

「えへへ……ア、“アーティファクトの騎士”……な、生で観られる……えへへ……た、楽しみ……!」

「せやな! アーティファクト使い……是非とも間近で分析したいわ〜♪」


くだんの英雄、私も会うのは楽しみですにゃ……ですね……!」

「オクタビアス卿もそれで宜しいな? これ以上の議論は不要だろう?」

「どーせ後で()()()()エシャロット伯爵に袖の下でも通して元老院でも糾弾きゅうだんする気なんでしょ〜? あ~みみっちい、これだから中年のオッサンは嫌なのよ……死ねば?」

「ヘキサグラム……貴様……!! 若いからと言って図に乗りおって……!!」


「駄目よ喧嘩は〜? ヘキサグラム卿もお口が過ぎますよ〜?」

「――――黙ってろ、年増……! サンクチュアリ卿のじじいよりも年上の分際でかわいこぶってるんじゃねーよ!」

「…………うふふ……殺します……!!」


「そこまで! 今日の会合はここまで……フレイムヘイズ卿、よろしいですか?」

「その通りだアインス卿……今回はここまで、解散! これ以降のいざこざは処罰の対象にする!」



 アインスの鶴の一声で静まり返った円卓、すかさずフレイムヘイズから発せられた解散の号。


 多くの者が渋々とその場を後にして各員に与えられた持ち場へと帰っていく。



「まったく……毎度毎度! 一悶着ひともんちゃく起こさんと気が済まんのか、ここの騎士たちは……うぅ……実家に帰りたい……!」

「兄様……」

「何やら不穏な空気だね……」


「どうしよう……不安だわ……」

「なに、私たちで護ってやれば良いさ……ねっ、ツヴァイ?」

「――――兄様が一番の不安材料なのよ……」



 渦巻く陰謀、見え隠れする思惑――――ラムダ=エンシェントがこれより踏み込むは華やかしい栄光とは無縁の、選ばれし強者たちの血みどろの社交界。


 彼に微笑むのは天使か悪魔か、はたまた……天上の女神か。


 ラムダ=エンシェントが紡ぐ『人間神話ヒュムノシス』――――その第二部、これより開幕。

いよいよ第二部が始まりました。


これまでと変わらず執筆していきますので、よろしくお願いします(^o^)/

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