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閑話⑤:ラムダ=エンシェントの女たち


「あ゛〜〜……疲れた~~! 魔王軍との小競り合いのつもりがまさか【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】の攻略までさせられるなんて〜〜」

「まったくですね、ツヴァイ卿……! はぁ……しかし、ラムダ卿や【ベルヴェルク】の皆さんのお陰でなんとか生きて帰れましたね」

「ホントね~♪ こうして温泉にも浸かれたし、ラムダ様々ね……」



 湯煙温泉街【ムラクモ】、高級旅館『マホロバ』露天風呂――――滞在2日目の夜。


 ツヴァイ=エンシェント率いる第二師団【竜の牙】と【ベルヴェルク】の少女たち総勢15名は街を一望できる崖上の露天風呂でゆったりとした時間を過ごしていた。



「こら、ノア! 湯船に浮かばないの! 恥部が丸見えになっていますわよ!」

「う~ん……極楽〜♪ そう硬いこと言わないでよレティシアさ〜ん……今は私たちだけの貸し切りなんだからさ~♪」

「やれやれ……ノア様にも困ったものですね〜。ジブリール様、なんとか言ってください~」

「いや~お風呂って気持ちいいですね~♪ 機械天使ティタノマキナだからって遠慮せずにもっと早くに入っておくべきでした~♪」

「ジブリール様はお尻を突き出して泳いでいます……」



 サートゥスから始まったラムダ=エンシェントの旅を彩った少女たちの至福の時間。旅で蓄積した疲労を落とすように、彼女たちは熱い湯に浸かって湯汗を流す。



「それにしても……オリビアさん、しばらく会わなかった間に随分、色っぽくなったのね…………おっぱい大っきいね……」

「うふふ……ありがとうございます、ツヴァイさん♪ ラムダ様に揉まれてたわわに実りましたので……♡」

「え゛っ……うそ……!?」

「嘘ですよ~ツヴァイ様〜! 真に受けてはいけません〜!」

「はぁ~……相変わらずツヴァイは単純ね!」

「何ですって、リリエット=ルージュ!?」

「あらら〜? 急に立ち上がってその貧相な貧乳を晒してどうしたの〜?? まさか……淫魔サキュバスであるうち肉体美プロポーションで勝負するつもりかしらぁ〜♡」

「うっ……デカい……/// くぅ〜〜……悔しいぃ~!!」

「あっ……ツヴァイさんが不貞腐れて湯船に顔まで沈んでしまいました……」



 普段は出来ないせき裸々(らら)な女たちの会話は続く。


 旧知の仲、因縁の相手、主従、戦友、恋敵――――別々の地で生まれ育ち、ひとりの少年を中心にして寄り添いあった乙女たち。


 裸の付き合いを通して、彼女たちはお互いの絆を深め合っていく。



「はぁ~♡ 極楽なのだ〜」

「あはは、アウラさんってばすごいリラックスしてるね」

「同然なのだアリアお姉ちゃん! エルフの里にも神殿にもこーんなおっきなお風呂は無かったのだ〜♡」

「同感ですねー♪ 弊機わたしも身体を洗うのは洗浄用のカプセルでしたし……これはこれで非常に気持ちいいですね~♡」

「なのだ♪ にしても……アリアお姉ちゃん……意外とお胸が大きいのだ……///」

「確かに……オリビアさんやリリィさんには及びませんが、いい線行ってますね~! マスターが見ればさぞ興奮なさるかと弊機わたしは思いますね〜」

「うぇぇ……/// そ、そうかな? じ、自分じゃそんな実感無いからよく分からないや……あははは/// あとアウラさん、褒めつつ僕の胸を揉まないで欲しいな……んっ、くすぐったいよ///」

「ほれほれー女の子同士で触り合ってもノーカウントなのだ〜♪ あたしにちょっとサイズを分けるのだ〜♪」

「オリビアさんが言っていますよ、『恋愛は臆せば負け』だって」

「臆せば……負け……」



 恋の話、自身の価値観――――団欒だんらんの中で少女たちはお互いを知って更に絆を深めていく。

 

 湯煙に紛れた女の園、そこにラムダ=エンシェントの姿は当然なく。



「さて、ラムダもちょうど居ないことだし……あなた達に単刀直入にくわ……!」

「何ですか、ツヴァイさん? ラムダ様が居たら訊きづらい事ですか?」

「えぇ、その通りよ、オリビアさん……! ずばり――――あなた達、ラムダのことをどう思っているの?」



 なら、彼女たちの話の種が『ラムダ=エンシェント』の事になるのは当然の流れだった。


 ツヴァイとしては【ベルヴェルク】の少女たちが弟・ラムダのことをどのように思っているのかが非常に気掛かりであったからだ。



「ラムダさんは……私の所有者です♡」

「ラムダ様は……わたしの生涯の伴侶です♡」

「ラムダ様は〜わたくしの愛すべきあるじです〜♡」

「ラムダさんは……僕の、じ……人生の……の……///」

御主人様ダーリンは……もちろんうちの飼い主よ♡」

「ラムダ卿は……わたくしの将来の夫です♡」

「ラムダお兄ちゃんは……あたしのパートナーなのだ♡」

「マスターですか? 弊機わたし雇用主エンプライヤーですが?」



 そして、少女たちはラムダ=エンシェントへの想いの丈を即答する。


 旅の中で芽生えた感情、死闘の中で育んだ恋、触れ合う事で確かめ合った愛――――ラムダ=エンシェントの独占欲の強さ故か、少女たちの激情の強さ故か、『仲間』という関係よりも強い“絆”。


 それこそが、ラムダが旅で得たものなのかも知れない。



「駄目そうですね、ツヴァイ卿(笑)」

「う゛~~! 私、まだ彼氏できたこと無いのに……なんでラムダばっかりこんなにモテてるの……!!」

「ツヴァイ卿は……性癖が特殊ですので……よほどの方で無いと……」



 ――――が、彼を溺愛する姉のツヴァイにとっては頭の痛い話だ。


 なにせ、恋愛感情が無いと思われるジブリールと()()()()関係の『線引き』が出来ているコレットを除いても最低でも6名の女性とラムダは浮き名を流している事になるのだから。


 

「お父様も複数の愛人が居て、最終的にお母様との間にアインス兄様が出来たから観念して結婚したぐらいなのに……」

「このままでは複数の女性に子どもを産ませそうですね……あなたの弟は……(笑)」

「あら? 何か問題があるのですか、ツヴァイ卿?」

「レティシア!? 問題大ありです! と言うよりも、レティシア様はそれでよろしいのですか!?」

「…………?? よろしいも何も――――わたくしと結婚してラムダ卿が次期国王になれば『側室』娶り放題ですよ?」

「あーーーーッ!! レティシアさんすっごい頭良いーーーーーッ!!」

「良くない良くない!? 落ち着きなさいノアちゃん!」



 それも、誰ひとりとして他の女性陣を蹴落としたりせず、仲良くひとりの男性を分け合う徹底っぷり。


 数々の死線を潜り抜けた勇者パーティー【ベルヴェルク】の少女たちの横の繋がりの強さも、ラムダの女性関係の過激さに一役を買う原因になっていた。



「レティシア様とラムダ様が結ばれれば……コレットは王宮務めに!?」

「僕たち複数同時に結婚してもオッケー……!?」

「王国の国庫が弊機わたしの物に……!?」

「つまり……わたしも『王族』になれるチャンス……!!」

「ほほぉ〜〜つまりこれは所謂『国家転覆』の談合なのだな♪」

「ギャーーッ!? 私とした事が……取り返しのつかない悪知恵をこの子たちにぃ…………」

「ツ、ツヴァイ卿ーーーーッ!? ツヴァイ卿が気絶して湯船に浮かんでしまったーーーーッ!?」

「きゃはははは♪ ざまぁないわね、ツヴァイ!! ジブリール、アホづら晒して湯船に浮かぶツヴァイの痴態ちたいをカメラに収めておきなさい……!!」

「了解しました、リリィさん♪」



 ラムダ=エンシェントを巡り(らん)痴気(ちき)(さわ)ぎを繰り広げる女性陣たち。



「だ、第二師団! 急いでツヴァイ卿を湯船から引き揚げるぞ、急げーーッ!!」

「くふふふ♡ これで憎っくきツヴァイの“弱み”を握ってやったわ……あーっはっはっはっは!!」

「リリィさんがまた悪い顔をしていますね、アリアさん……」

「懲りない淫魔サキュバスだなぁ。あれ……ノアさんは……?」

「ツヴァイさんを運んでいた第二師団に踏んづけられて湯船の底に沈みましたよ」

「ぎゃーッ!? ノア様、しっかり〜……あっ、ここで裸を撮って映像をマスターに買い取ってもらいましょう……」

「ごめんなさい〜……もうお風呂で浮かびません〜〜(泣)」



 湯煙に紛れて楽しい時間は過ぎていく。


 長旅を終えた【ベルヴェルク】の安らぎの一時ひととき、熱い湯に浸かりこれまでの疲れを落として、少女たちは新たなる冒険への英気を養っていく。


 王立ダモクレス騎士団に加わることになったラムダ=エンシェントの次なる戦いに、期待と不安を感じながら。



 一方その頃――――


「…………寂しい。はぁ……同性の仲間が欲しいよぉ……」


 ――――隣から聴こえる女子たちの黄色い声にわびしさを感じながら、ラムダはひとり男湯で孤独な時間を過ごしていたのだった。



「寂しいの御主人様ダーリン? 女湯こっちに来る?」

「ぎゃーーッ/// なに覗いてんだリリィ!?」

「だって御主人様ダーリン覗きに来ないんだもん……変なところで律儀なんだから!」

「当たり前だろ!? 良いから早く戻れ、このスケベ淫魔サキュバス!!」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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