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閑話③:【ベルヴェルク】の乙女たち Part.2


「ふ~む……この『カタナ』と言う形状の武器は中々に興味深いですわね……! トリニティ卿の大太刀おおだち焔華エンカ』も似たような形状ですし……わたくしの武器の参考になりますわ……!」

「お~い、レティシア〜?」

「ちょっとお待ちを! こちらは……手裏剣しゅりけん……? これは……クナイ……? ほほぅ、投擲武器のたぐいですわね!」

「レティシア〜聴いてる〜?」

「なんですの、ラムダ卿?」

「お店の人が『何も買わない冷やかしなら帰ってくれ』ってさ……」

「あぅぅ……失礼致しました……こちらの『手裏剣』を購入させて頂きますぅ……」

「威厳のない王女様だ……」



 湯煙温泉街【ムラクモ】、とある武具屋――――俺はレティシアに連れられて彼女の新しい装備品の買い出しに来ていた。



「ふんふんふーん♪ 東洋風オリエンタルな防具に珍しい形状の武器……わたくしの戦いの才能にまた一つ磨きがかかってしまいましたわね……!」

「それは良かった……」

「強いて言えば、ラムダ卿が時折使っている『銃』にも興味がありますわ!」

「あれは“騎士”っぽく無いんだよな〜……! 四の五の言ってられないから使うけど……」

「甘いですわ、ラムダ卿……! 剣を使うから“騎士”なのではありません! 大切な人を護りたいのなら、どんな武器であっても扱うべきだとわたくしは思います……!」

「まぁ……確かに……!」



 俺の目の前で買い込んだ武器や防具に目を輝かせている金髪のポニーテールと淡いピンク色の瞳が印象的な白金はくきんの鎧を纏った少女――――レティシア=エトワール=グランティアーゼ。


 俺たちが住むグランティアーゼ王国の第二王女。


 享楽の都【アモーレム】で勃発した【死の商人】討伐事件は、悪しき死神に囚えられた彼女の救出作戦から始まった。


 ただ“正義”をなして気持ち良くなりたかっただけの『薄っぺらい正義』のせいで【黒騎士】ゼクス=エンシェントに返り討ちにされ、【機械天使ティタノマキナ】に殺されそうになって心を折られ、“アーティファクトの騎士”に感化されて再び立ち上がった未熟な『正義の味方』……それがレティシアだ。



「わたくしはもっともーっと強くならないといけません! あの時……ラピーナ城で戦った貴方の兄君あにぎみに『死にたく無かったら大人しく拘束されとけ。後で助けてやる』と言って手加減して貰えなかったら……わたくし、きっと死んでいましたわ……!」

「ゼクス兄さん……」

「申し訳ありません、ラムダ卿……わたくしは自身の愚かさ故に危機を招き、貴方の大切な兄を死に追いやってしまいました……!」

「それはレティシアのせいじゃないよ!」

「でも……わたくしは自身を責めずにはいられません! 逆光時間神殿での戦いでも、わたくしはジブリールに怯えてしまいました……そんな『弱い自分』が悔しいのです……!」



 だからこそ、レティシアは【ベルヴェルク】の誰よりも“力”を欲している。


 敗北、トラウマ、自己嫌悪――――多くの挫折を味わい、なおも奮闘する【姫騎士】。その意地こそが自信の『強さ』だともまだ気付かずに。



「俺もレティシアもまだまだ成長中の新米……そんなに焦らなくても良いよ……一緒に強くなって行こう……!」

「ごめんなさい……わたくし、また貴方にいらぬ世話を焼かせてしまいましたわね……」

「あはは……王女様をエスコート出来るんだ……これ程の名誉、俺には勿体ないぐらいだよ……!」

「あら、言いますわね……! 随分と女性の扱いが上手くなったご様子で……ラムダ卿?」

「そうかな?」

「えぇ、わたくし……恥ずかしながら、少しときめいてしまいましたわ///」



 麗しき姫騎士・レティシア――――いずれは立派な為政者いせいしゃになるであろう彼女と旅が出来るのは、きっともの凄い光栄な事なのかも知れない。



「王都に着いたら、早速お父様に紹介しますわ……わたくしの『旦那様』♡」

「うぅぅ……不敬罪で処されないかな……? 王都に行きたく無くなって来た……」



 〜しばらくして〜



「おーっ! 今は『グランティアーゼ王国』がこの地域を治めているのかーっ! ふむふむ……ツヴァイお姉ちゃんはその王国お抱えの騎士で、ラムダお兄ちゃんももうすぐそこに加わる……! で、ノアお姉ちゃんはなんとあたしよりもさらに昔の人間……とっても凄いのだ!!」

「勉強熱心だね、アウラは……俺は歴史書や魔導書のたぐいはどうにも苦手だよ……」

「エルフは寿命が長いから、たくさんお勉強すればいつかは【賢者】にもなれるのだ! まっ、100年前後で寿命が来る人間は、『自分に必要になる知識』と『基礎教養』をしっかりと修めれば良いのだ!」

「それって嫌味……?」

「まさかー! あたしはお勉強好きなエルフって話なのだ♪ それに……ラムダお兄ちゃん、実はお勉強よくしている方でしょ?」

「まぁ、それなりには……! 一番頭が良かったのはゼクス兄さんで、俺は二番手だったけど……」

「今のでツヴァイお姉ちゃんとアインスお兄ちゃんが『バカ』なのが分かってしまったのだ……」



 湯煙温泉街【ムラクモ】、小さな魔導書店――――買い漁った魔導書や歴史書を店内に設置されたテーブルで読み漁るアウラの横で、俺はついでに買った『異性の口説き方』なる指南書を読みながら暇を持て余していた。



「う~ん……あたしが神殿に籠もってから新しく開発された魔法もいっぱいあるのだ……! どれから覚えようかな〜♪ お兄ちゃんならどんな魔法が欲しい?」

「…………分身魔法」

「女性陣との連続デートに疲れてるのだ……!?」



 俺の隣で足をパタパタと揺らしながら熱心に本を読むエメラルド色の長い髪と金色きんいろの瞳が印象的なエルフの少女――――アウラ=アウリオン。


 3日前に逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】で仲間にした小さなエルフの【巫女】だ。


 女神アーカーシャによって禁忌のアーティファクト【時の歯車(クロノギア)】を身体にくみこまれ、何千年にも及ぶ長い時間を『今日』に縛られて生きていた孤独な少女。


 魔王軍最高幹部【大罪】がひとりである【冒涜】のレイズとの死闘、【竜騎士】ツヴァイ=エンシェントとの再会、【機械天使ティタノマキナ】ジブリールとの激闘、ノアの出生の秘密、旗艦『アマテラス』に封じられていた“終末装置アル・フィーネ”【光の化身(アルテマ)】との決戦。


 その果てに『明日』を手にした“時紡ぎの巫女”……それがアウラだ。



「ねぇ……お兄ちゃん……」

「どうしたの……? 顔を赤らめて……?」

「あたしがお兄ちゃんとキスしたのって……本当なの……///」

「え~っと……しました……///」



 そんなアウラが本に顔を隠しながら俺に尋ねてきたこと――――『キスをしたのか』について。


 結論から言えば、キスをした。

 一目惚れをしたと言うアウラの告白も込みで。


 ただ、その後すぐにアウラの時間が【時の歯車(クロノギア)】で巻き戻されたから所謂いわゆる“ノーカウント”だと思っていたが、どうも誰かから情報を仕入れたらしい…………まぁ、ノアの仕業だろうけど。


 その事をアウラは気にしているらしい。



「あぅぅぅ……/// なんであたしは告白しちゃったのだ……///」

「ま、まぁ……【光の化身】の攻撃で死に掛けた……ってか死んだし……気の迷いって事で穏便に……」

「う、うるさいのだ/// 一世一代の告白を忘れたとか……乙女にあるまじき醜態しゅうたいなのだ……」

「あはは……フォローできねぇ……」

「かくなる上は……お兄ちゃんには死ぬまであたしに付き合ってもらうのだ!」

「死ぬまでって物騒な……」

「お兄ちゃんが死んでもあたしは『その先』も生きてしまう。だから、せめてお兄ちゃんが生きてる内は……一緒にいて欲しいのだ……」

「アウラ……」



 人間とエルフの“恋”ほど『残酷』な恋愛は無いと、かつて母さんは俺に寝る前に語っていた。


 数百数千の年月を生きる長寿のエルフを前に、人間のたかだが100年前後の寿命など高が知れている。人間はエルフを残して逝くことを悔やみ、残されたエルフはそこからの永い年月を愛した者をしのびながら生きなければならないと。


 だから、あと100年もしない内に死ぬであろう俺を好きになったアウラは、俺の死後に悲しみを背負うのだろう。



「一緒に居るよ……だから、そんな悲しそうな表情かおをしないで、アウラ……」

「うん……ラムダお兄ちゃんは優しいんだね……! 命懸けであたしを救ってくれて、あたしに『明日』をくれて、こうして一緒に居てくれる……ありがとう……」

「どういたしまして、女好きの好色家こうしょくかで良ければどこまでも喜んでお供しますよ、マイレディ……」

「その手にした『異性の口説き方』を見て真似したのだ……」

「…………バレた?」

「はぁ~……とんだすけこまし野郎なのだ……」



 だからせめて……俺が生きている内はアウラの側に居てあげようよ思う。それで、彼女の長い人生みちの思い出の1ページになれればと思ったのだ。



「あっ……でもでも、あたしは子どもが欲しいからその当たりはよろしくなのだ!」

「なっ……子ども!?」

「……何か変か? お兄ちゃんが居なくなっても、お兄ちゃんとの子どもが居れば……あたしはきっと寂しくならないのだ!」

「………………あっ」



 俺の数倍十数倍は生きるであろうアウラのささやかな望みは『子ども』。確かに、人間とエルフの混血である『ハーフエルフ』なら純血のエルフにはやや劣るがこれまた長寿だと聞く。


 先立つ俺がアウラに残せるものは……きっと彼女に寄り添う次代の生命いのちなのだろう。


 これは……俺も『覚悟』を決めたほうが良さそうだな。



「ところでアウラ……子どもの作り方はご存知で……?」

「絶対に馬鹿にされているのだ……! それぐらい知識はあるのだ! あたしの見た目で判断するなのだーーっ!!」



 〜しばらくして〜



「こちらが複数の目標ターゲット捕捉ロックオンし小型ミサイルを発射する背部武装【マイクロミサイル・ランチャー】。こっちのが駆体周囲に極度の“光の屈折現象”を発生させてステルス状態に移行できる【ミラージュ・ジャマー】。そしてこちらが備え付けた鉄杭バンカー超電磁砲レールガンで撃ち出して目標の重装甲を撃ち貫く手甲型迫撃兵装【リニア・パイルバンカー】。でもってこちらは光量子フォトンを纏う事で理論上どこまでも規格スケールと質量を大きく出来る鉄槌型兵装【ルミナリオン・クラッシャー】。そしてそして〜……こちらが同じく光量子フォトン螺旋(ドリル)状に形成して目標を貫通して打ち倒す兵装【ギガンティック・ブレイカー】!」



 湯煙温泉街【ムラクモ】、最高級旅館『マホロバ』最上階・ラムダの宿泊部屋――――みんなで夕食を食べ宴会を行った後、俺はジブリールが旗艦『アマテラス』から持ち出してくれたアーティファクトの受け渡しを行っていた。



「おぉぉぉ……! こんなにもアーティファクトが……!!」

「他にもまだご用意していますが、お気に召しましたかマスター?」

「ジブリールが使っていたなんとか粒子砲とか杖は?」

「荷電粒子砲【ソドム】【ゴモラ】と斬砲撃杖【アヴェ・マリア】ですか……? まぁ、構いませんが……追加でレンタル代を頂戴しますね♡」

「うっ……現金な奴だ……!」



 布団に新しいアーティファクトを自慢げに広げ、バイザーから覗く朱い“一つ目(モノ・アイ)”をチカチカと点滅させてながら俺に商談を持ち掛ける水色とピンク色のグラデーションが鮮やかな髪とぴっちりとした白いボディースーツが特徴的な天使。


 ジブリール――――逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】の最深部にて古代文明の戦艦『アマテラス』を守護していた人型戦闘兵器【機械天使ティタノマキナ】の一機。


 神殿の攻略と【光の化身】の討伐を果たし役目を終えた彼女を、俺は『ノアの護衛』として雇ったのだ。



「しかし【機械天使ティタノマキナ】であるお前がお金なんて収集してどうするんだ?」

「それは秘密です♡ 乙女の秘密をあばこうなんて、マスターも中々の鬼畜ですね~♡」

「興味があっただけだよ……」

()()()()()()()()()、既に『この女は俺の物だ、秘密も全部俺が握ってやる、グヘヘヘへ〜』って言う下心の現れですね!」

「お前の中の俺のイメージってそんな下衆野郎なの……!?」

「機械である弊機わたしがどん引きするレベルで女性を喰い物にしているハーレム野郎がなに寝言言ってるんですか?」

「ハイ、大変申し訳ございません! わたくし、ラムダ=エンシェントは下衆野郎にございますーっ!!」



 アウラといいジブリールといい忌憚きたんのない意見を率直に言ってくるタイプの助成に俺は弱いのかも知れない。


 そもそも、指摘されたら困るような後ろめたい事をするなと言えばその通り……こと『女性関係』については特にだが。



「まぁ、弊機わたしとしてはマスターがノア様をしっかりと幸せにしてくれさえすれば、どこの誰と“ずっこんばっこん”しようが知ったことではありませんがね……」

「言い方……」

「逆に……ノア様をないがしろにするような事があれば、その時はマスターを“ボコボコ”にしばき回して、ノア様は弊機わたしがお連れするので……あしからず……!」

「言い方ぁ……」



 そして、ジブリールの懸念事項はノアのことのみ……彼女の『幸せ』こそがジブリールの『幸せ』なのだろう。


 俺にとってジブリールは『ノアの護衛』兼『ラムダの監視役』――――言われ無くともそうするつもりだが、ノアを護り幸せにして、目の前で朱い“一つ目(モノ・アイ)”を光らせる天使の期待に応えるとしよう。



「さて……最後はノアの所に行かなくちゃ……」

「了解しました、マスター!」



 残る【ベルヴェルク】の乙女はあと一人。

 ノア――――俺の旅の始まりにして、俺の旅の全て。


 始まりの……“アーティファクトの少女”。

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