幕間:冒険の終わり、戦いの始まり
「おのれ……おのれ……! よくも……よくも……わたしから“夫”を奪い……わたしの経歴に傷をつけたな……ラムダ=エンシェント……!!」
逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】より少し離れた朝日も陰る森の中、そこに黒い血を流しながら傷だらけで倒れる青い肌の少女がひとり……レイズが大事に抱えていた少女・ネクロ。
アインス=エンシェントの聖剣の輝きから辛くも逃れた彼女だったが、先の戦いで受けた傷、顔面に放たれた天使の鉄拳、聖騎士の攻撃の余波に晒されてボロボロになった死者たちの“妻”は動けない状態にまで疲弊していた。
「あんら、あらあら~……随分と無様な姿になったのね、ネクロちゃ~ん?」
「何の用……エイダ=ストルマリア……?」
「あら~? あなたの愛しい旦那様はどこに消えたのかしら……魔王軍最高幹部【大罪】がひとり――――【冒涜】のレイズ=ネクロヅマちゃん?」
「うるさいわね……墜ちたダークエルフ……【凌辱】のエイダ=ストルマリア……!」
そんな彼女、魔王軍最高幹部【大罪】に名を連ねる“死霊使い”たる【不死者】レイズ=ネクロヅマに近寄る女がひとり。
すらりと伸びた手脚、赤いピアスが印象的な長く尖った耳、褐色の肌を惜しみもなく晒した煽情的な衣装、夜の如く艶めく藍色の長髪、男を惑わす金色の眼、禍々しき朱い宝玉を柄に嵌めた双刃の槍を携えた妖艶なる美女。
名をエイダ=ストルマリア――――魔王軍最高幹部【大罪】がひとり、【凌辱】の“罪”を背負ったダークエルフの女。
「任務に失敗したわたしを嗤いにきたの?」
「くすくす……いえいえまさか……あなたを迎えに来たのよ~……レイズちゃん♪」
「あっそ……あぁウザ……やっぱり生きている雌……嫌い……!」
地面に大の字で横たわる青い肌の不死者を見下してくすくすと嗤うストルマリア、視界いっぱいに広がるダークエルフの顔に心底嫌そうな表情をするネクロヅマ。
お互いの仲の悪さは【大罪】では日常の風景――――ある1名を除いた誰も彼もが次代の“魔王”の座を狙う破滅の軍勢。
それこそが、グランティアーゼ王国が敵対する魔王軍の実情。
「――――で、【大罪】がわざわざわたしを呼びに来るなんて……一体何事……?」
「うふふ……我らが魔王……グラトニス様が【大罪】を招集しているわ」
「グラトニス様が……?」
「えぇ……いよいよ、グランティアーゼ王国と『戦争』をおっ始めるつもりよ……あの大喰らいの魔王様は……!!」
「…………っ!」
凌辱者はクスリと嗤い、舌なめずりをする。予見しているからだ――――魔王グラトニス率いる魔王軍とグランティアーゼ王国との戦争を、巻き起こる惨劇を。
「“アーティファクトの騎士”ラムダ=エンシェント…………いよいよ、件の『危険人物』、禁忌の遺物『アーティファクト』を操る少年が我々に牙を剥く……うふふ、ゾクゾクするわ♡」
「あいつは……危険……! 放おっておけばいずれ“魔王”に成りかねないわ……!」
「えぇ、そのようね……! まったく、可愛い可愛いルージュちゃんも厄介な男に惚れたみたいね……」
深い森の中で不死者とダークエルフは、ほんの少し先で愛する仲間たちと笑い合う少年に殺意を向ける。
やがて、自分たちと覇を競う事になる【ゴミ漁り】の少年の胎動に、愉悦と僅かながらの恐怖を抱きながら。
「あぁ、あと……リリエット=ルージュの寿退社のご祝儀のカンパを【大罪】のみんなから回収してるからネクロちゃんもよろしくね〜♡」
「えぇ……キーラの報告を冗談半分で送ったのに……鵜呑みのしたんだ……グラトニス様……」
〜時を同じく〜
「うふふふ♡ まさか……弱体化していたとは言え、あの【光の化身】を討伐するなんて……流石は“アーティファクトの騎士”の異名を付けられた事はありますね……ラムダ=エンシェントさん」
逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】――――【光の化身】によって壊された神殿の瓦礫の影に隠れて銀髪朱眼の少女と唇を重ねる“アーティファクトの騎士”を遠くから見張る少女がひとり。
「【神官】の視察の際に偶然、アーティファクトの義手を付けた貴方を観て、このオリビア=パルフェグラッセを“監視”として同行させたのは正解でしたね。まぁ、まずは【終末装置】の討伐……おめでとうございます……」
朱い瞳を輝かせ、雪のように真っ白な長い髪を風に靡かせる少女、オリビア=パルフェグラッセ――――その身体を乗っ取って喋る『何者』か。
「それに……私が旧世代の愚かな人類を滅ぼした際に消えた筈の人形……生きていたのですね――――『ノア=ラストアーク』……!!」
ノアの素性をラムダ=エンシェントより熟知した何者かは不敵に笑みを浮かべて、“アーティファクトの騎士”の唇を生き急ぐように貪る『壊れかけた人形』に朱い瞳を向ける。
「“アーティファクトの騎士”に“最後の希望”ねぇ……本来ならば【月の瞳】を使って諸共消し飛ばすのが安全ですが、今はまだ泳がせましょうか……その方が愉しそうですし♡ それに、あと2年足らず……せいぜい儚い『夢』を観て逝くと良いわ……ノア=ラストアーク……お母様♡」
オリビアを騙る何者かは現状を愉しむ。
この先に起こる出来事に期待と関心を寄せながら。
「あなた達の旅の結末――――この女神アーカーシャが裁定しましょう……! うふふ……あははははははは!!」
女神は笑う――――ふたりの旅路の最果てで、ふたりが『神の御園』にやって来る日を心待ちにしながら。
「さっきからオリビアさんがラムダさんとノアさんのキスシーンを覗き見して大爆笑しているよ……」
「ミリアリア様……オリビア様はきっと嫉妬しているのですよ……!」
「にしてはだいぶ悪役みたいな笑い方ですわね、オリビア……?」
「私には分かるわ……オリビアはきっとこのネタで御主人様を強請る気よ……!」
「「「なるほど〜! 私たちと同じ考えか〜!」」」
オリビアの身体を乗っ取った『何者』かのせいで彼女はしばらく『ラムダとノアのキスに嫉妬して大爆笑した女』扱いされるのだが、それはまた別の話。
「よって集ってラムダお兄ちゃんとノアお姉ちゃんの密会を覗き見してるのだ……! この人たち頭おかしいのだ……!」
「それは弊機たちも同じでは無いでしょうか……? おおっ、ふたりが舌を絡め始めましたよー……“録画”♪」
「うんうん……我が弟は父に似て恋に情熱的なようだ……羨ましい(爽やかな嫉妬)」
「うぅぅ……私の可愛い弟が……この短い期間に4人の女性とキスをするなんて……! 私……まだラムダとしかキスしたこと無いのに〜(泣)」
「なんでこの人たちも居るのだ……?」
「ラムダさん……複数の視線を感じます……」
「俺もだよ……」
本日中にもう一話投稿しますのでしようよろしくお願いします。




