第12話:初めてのクエスト
「ふんふんふ〜ん♪ 今日のご飯は何にしよっかな〜? ハンバーガー? フライドチキン? ラーメン? 何が良いかな、何が良いかな、チャララランラン、チャラララン♪」
「ハンバーガー? フライドチキン? ラーメン? そんな料理、今の時代に存在しないぞ」
「あ~~~あぅあぅあぅ、私の愛しのジャンクフードが一つも存在してない〜〜〜っ!?」
上機嫌に歌っていたノアが俺の一言でこの世の終わりみたいな表情になる。
もうこの頃になるとだいたい扱いが分かってきたのか、俺はノアの百面相を愉しむ様になっていた……慣れって怖いね。
それはさて置き、俺とノアはオトゥールの街を離れて街外れにある小さな洞窟を目指していた。理由は勿論、ギルドで受注した依頼を攻略する為だ。
「で、ノア、何の依頼を受注したんだ?」
「しくしく……ジャンクフード……っと、そうでした! えーっと、私たちが今からやるのは……Eランク討伐依頼――――ゴブリン退治です!」
「ふーん、ゴブリン退治ねぇ……」
ゴブリン――――緑色の肌をした小鬼の様な人型の魔物で、一応【妖精】に分類される。一匹一匹では大した脅威では無いが、徒党を組み弱い獲物を標的にして狩りを行う粗暴な生物。
「流石にガルムよりかはマシだけど……まぁ、油断しないにこしたことない相手か……」
「へーそうなんですね」
「そうなんですねって、下調べしてないのか?」
「? もちろんしてませんよ? 私、賢いので観てから判断します」
「死亡フラグなんだよなぁ、その台詞……」
依頼の内容はこうだ――――『最近、街の外れにある洞窟にゴブリンの巣が作られてるみたいなんだ。このままじゃ、知らずに巣に近付いた女子供が危険に晒される可能性があるから討伐して巣を駆除して欲しい』と。
「報酬額で決めたんじゃないだろうな?」
「もちろん報酬額で決めましたけど? この依頼、オトゥール全体が出資してるのでぇ~報酬額は確か……5000ティア……『ティア』って単位であってましたっけ? えーっと、私たち時代換算だと……10ティアがだいたい1$ぐらいかな……?」
5000ティア――――初めての依頼、ましてやEランク相当の討伐依頼としてはやや破格の様な気もするが、ゴブリンの危険性を憂慮し街全体で報酬を出資したならまぁ納得はできる。
それだけ早期に解決を図り、事態が悪化するのを防ぎたいのだろう。
「まぁ、ガルムを即死させた位強力なアーティファクトもあるし……大丈夫かな?」
「まぁ、いざとなったら巣ごと“ボーンッ!”って爆破しちゃいましょー♪」
「いやいや……討伐の証にゴブリンの身体の一部を持っていかないと……」
「えっ……? やだ、汚い、不潔、臭そう……写真に取ればいいじゃないですか?」
「…………」
何か見落としてる気もするけど、依頼を受注した以上、途中放棄は違約金が発生するからしたくない。
そう思って、俺はこれ以上ノアに依頼の詳細を訊く事はしなかった。
〜〜〜
「あそこがゴブリンの巣になってる洞窟だな」
暫くして、俺とノアは依頼にあったゴブリンの巣と思しき洞窟の近くに到着していた。
木々に囲まれた崖沿いにひっそりと空いた洞穴。確かに、ゴブリンが根を張るのにうってつけの場所だ。
そう確信して俺は作戦を練り始めたが――――
「こんにちわ、緑色の小人さん♪ 私、ノアって言います! あのー、私たち『ゴブリン』って言う魔物を駆逐しに来たんですけど……あなたは『ゴブリン』ってどんな姿してるか知っていますか?」
「ゴブッ!!??」
――――俺の目の前でノアが野良ゴブリンに『ゴブリンって知ってます?』と尋ね始めていた。
「ッ!?? な、なにしてんのーーッ!? そいつがゴブリンだっつーの!!」
「へー、そうなんですね。私、ゴブリンってうまれて初めて見ましたー」
ノアは全然、危機感を感じてない。今も平然とゴブリンの頬をツンツンしている。
「ゴブッ!? ゴブブッ……!?」
そんなノアの奇行に困惑して狼狽えるゴブリン。
そりゃ普通なら逃げるか攻撃してくるかだもんな。まさか物珍しそうな表情してくる奴なんて見たことも無いわな。
緊張感は解けないが、俺はノアに絡まれているゴブリンに少し同情してしまう。
「ねーねー、ゴブリンさん? 他に仲間は居ないんですかー?」
「ゴブ……ッ!? ……や、野郎どもーーッ、敵襲だーーッ!! 人間共が攻めてきたぞーーーーッ!!」
「って、喋れるんかーい!? 何なんださっきの『ゴブ……ゴブッ!!』みたいな鳴き声は!?」
「あー! 見てみてラムダさん、洞窟からいっぱいゴブリンさんが出てきましたよー!」
「チッ! 勝手に洞窟から出てくるなら、わざわざこっちから危険な巣穴に飛び込む手間が省けるってか!」
ノアの指摘通り洞窟から徒党を成して現れるゴブリンの集団、数にして五十匹。それぞれが、剣、棍棒、盾、弓矢など思い思いの武装をしており、その全匹が俺とノアへの殺意を剥き出しにしていた。
「えへへ~、こっちの時代での初戦闘……楽しみ〜」
「なるほど、ノアは根は戦闘民族って訳か」
「いいえ? 平和主義者ですけど?」
「じゃあ、なんでそんなに余裕そうなんだ?」
迫りくるゴブリンを前に涼し気な笑顔をみせるノア。その余裕はどこから来るのだろうか?
「だって……ラムダさんは強いんですから♪」
答えは単純明快――――ノアは俺を信頼していた。多分、俺自身よりも……『ラムダ』と言う人間を信用していたのだ。
なら期待に応えてやるのが、俺の役目だろう。
「分かった分かった……やってやるよ! 量子変換装置――――展開!」
右手を天高く掲げ、俺は手首に巻いたブレスレットを起動させる。
アーティファクト【量子変換装置】――――対応した『遺物』を量子状に変換し格納するブレスレット型の小型収納装置。任意のアーティファクトを再構成する事で取り出すことかでき、一度に複数個の装備を持ち運ぶことが可能。
そこから俺が取り出すのは戦闘用のアーティファクト。迫りくるゴブリンを掃討する為の武器。
「射撃武装アーティファクト――――対艦砲撃光学兵装:アーラシュ、展開ッ!」
手にしたのはガルムを撃ち倒したライフル銃、俺の窮地を救った愛用の一品。
ここから先は無双の時間――――この俺、ラムダ=エンシェントが成り上がっていく英雄譚、その記念すべき最初の戦い。
【この作品を読んでいただいた読者様へ】
ご覧いただきありがとうございます。
この話を「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしたりブックマーク登録をして頂けると幸いです。




