第1084話:VS.【星穿】アインス=エンシェント“遺物”②/ “Shielder of Kingdom”
「ぐぅぅ……オォォッ!!」
「つ……ッ!! ハァァ!!」
――――アインス兄さんが繰り出した聖剣による刺突攻撃を、俺は突き出した右足の踵で受け止めた。聖剣の切っ先と装甲の踵が衝突して閃光を放ち、白と黒の稲妻を迸らせる。
押し負ければ右脚が吹っ飛ぶだろう。そうならない為にも俺は全体重を乗せて聖剣を押し込み、アインス兄さんも足下の芝生が砕ける程に両足を踏み込んでいた。
「――――ッ!? これは……威力が……!」
「圧縮されすぎて爆弾に……うわっ!?」
そして、実力が拮抗した結果、聖剣の切っ先と右脚の踵に膨大な量の魔力と逃げ場のないエネルギーが圧縮され続け、爆弾と化した圧力は遂には爆ぜた。
俺は空中に大きく弾かれ、アインス兄さんは後方に芝生を擦りながら吹き飛んだ。俺は空中で回転して、アインス兄さんは踵で芝生を削るような強引なブレーキを掛けて体勢を立て直した。
「なんと荒々しい戦い方なんだ……それが君のスタイルのようだね、ラムダ? 僕とはまるで違う……いいや、僕では真似もできない戦い方だ」
「これが俺なりのやり方です……!!」
「自らが傷つく事も厭わず相手に喰らいつく……まるで“狼”のようじゃないか。やはり……君には王立騎士という『首輪』は枷に過ぎなかったか」
アインス兄さんは聖剣を素早く振って、自身の放つ威圧感を鋭く研ぎ澄ませた。軽く剣を振っただけなのに足下の芝生には無数の切り傷が入り、暴風が周囲を包み込む。
どうやら“小手調べ”は終わりらしい。アインス兄さんからは穏和な雰囲気が消え、見ているだけで萎縮しそうな程の殺気が放たれ始めていた。
「狼は躾ないとね……さぁ、来たまえ」
俺が獲物に荒々しく喰らいつく“狼”なら、アインス兄さんは獲物を一瞬で仕留めに掛かる“鷹”だろう。穏和な兄は今、目の前には居ない。
そこに居るのは魔物や悪党たちに怖れられたグランティアーゼ王国最強の“聖騎士”だ。実の兄だと甘く掛かれば一瞬で斬り捨てたられるだろう。
「躾れるなら……やってみろ!!」
アインス兄さんはその場で立ち尽くしている。俺が仕掛けてくるのを待っている。そして、迫りくる俺を迎撃するつもりなのだ。
その挑発に応えるように魔剣を振り下ろして斬撃をアインス兄さん目掛けて飛ばし、同時に俺も斬撃を盾にしながら一気に駆け出した。アインス兄さんが斬撃を弾いた瞬間に攻め込むつもりだ。
「ふっ、この程度の斬撃……止まって視えるよ」
アインス兄さんは聖剣を目にも止まらぬ疾さで振り抜いて、眼前まで迫っていた斬撃をいとも容易く粉砕した。俺との距離は僅かに二メートルだ。
一歩、大きく踏み込んで間合いを詰めて、アインス兄さんの胴を狙って俺は魔剣を振り抜いた。今しがた、アインス兄さんは聖剣を振り抜いた。反撃も防御も間に合わないだろうと予測して。
「ッ!? 魔剣が何もない空気に阻まれた!?」
しかし、俺が振り抜いた魔剣はアインス兄さんを捉える事はなかった。魔剣は何もない空間、アインス兄さんの右腕の手前付近で“ガキン”と音を立ててピタリと止まってしまったのだ。
魔剣を受け止めた何かは圧力を放っているのか、静止した魔剣は徐々に振動しながら押し返されていく。
「“八式・比翼”……」
「これは……二重斬撃!!」
魔剣を受け止めた何かの正体、それはアインス兄さんが振り抜いた聖剣から遅れて生じた斬撃だった。
初撃、振り抜いた聖剣で飛来した斬撃を粉砕し、遅れて発生した斬撃が俺の直接攻撃を防いでいた。よく見れば、聖剣の軌跡をなぞるように斬撃が発生している。
(八式が来たのなら……次に派生するのは!)
二重の斬撃で俺の攻撃をいなし、アインス兄さんは聖剣を大きく振り上げていた。聖剣の刀身には魔力が集束している。
まだ発生した斬撃が消えぬ内にアインス兄さんは聖剣を振り下ろした。何が来るのか分かった俺は素早く後方にバックステップして距離を取った。
「“九式・連理”!!」
「――――ッ!!」
素早く振り下ろされる斬撃、八式とセットで繰り出すコンビネーション攻撃だ。その一撃こそ距離を取って回避したが、この斬撃にも遅れて発生する斬撃が隠れている。
聖剣が芝生を深々と抉り斬ったと同時に、再び魔力で構築された斬撃がコンマ数秒遅れて発生する。そして、その斬撃はいまだに残っていた最初の斬撃に重なり合った。
「派生、撃ち落とせ――――“墜式・比翼連理”!!」
次の瞬間、十字の形に折り重なり合って巨大化した斬撃が、一気に加速して俺に迫ってきた。たった二振りの剣撃で五つの斬撃を発生させる、それがアインス兄さんが放った剣技だった。
「ぐっ……うぉぉ!!」
十字になった斬撃を魔剣で受け止める。その斬撃は二倍ではなく二乗の威力で放たれる特殊な斬撃。俺は斬撃の圧力で後方にどんどん押されていっていた。
「さぁ、我が剣技どう打ち破る!」
アインス兄さんは次の攻撃の体勢を整えている。ここで斬撃の対処に手間取れば、次の攻撃を受けてしまう可能性がある。
息をつかせぬ連続攻撃、隙に無い連携による攻めの継続。洗練された剣技こそがアインス=エンシェントの戦い方だ。ならば、こちらはさらに荒々しく、そして獰猛に攻めねばならない。
「こい……“可変銃”!!」
「…………ッ! それは……リボルバー!」
魔剣を左手だけで握り締め、空いた右手にもう一つの武器を転送する。長い銃身が印象的な回転弾倉式の拳銃型アーティファクトだ。
可変銃を装備した俺は即座に銃口を斬撃に向けて引き金を引いた。次の瞬間、弾倉内に込められた魔力を帯びた弾丸が放たれ、迫っていた斬撃を粉々に砕いてみせた。
「…………これは驚いた。剣と銃の二刀流かい? そんな戦い方は王立騎士だった頃はしていなかったように記憶しているけど……」
「最近はこのスタイルに落ち着きましてね……」
「なるほど……それが今のラムダの戦い方か。いいや、構わないさ……剣を振るだけが騎士ではない。様々な武器を操り、あらゆる武術に精通してこそ最強の騎士を名乗るに相応しいだろう……」
魔剣と銃器による二刀流、それは“ノアの騎士”として戦うと決めた俺の戦闘スタイルだ。その戦い方でアインス兄さんを打ち負かす。
アインス兄さんは俺が遠距離にも対応した武器を出した事で驚いた表情をしつつも、少しだけ楽しそうに笑みを浮かべた。そして、アインス兄さん聖剣を右手だけで握ると、左腕を突き出した。
「なら……僕も装備を整えようか。これを使うのは久々だ……さぁ、起きなさい、聖なる盾よ! 今こそは解放の時! 御旗振るう聖処女を護る盾となれ!」
「あれは……盾!」
「これは“救国の聖剣”と共に編んでもらった聖盾……我がもう一つの武器! ラムダ、君が“攻撃”に特化するのなら……僕は“守護”にこそ真価をみせよう!」
そして、アインス兄さんが左手に魔力を込めた瞬間、彼の左手に純白に輝く巨大な盾が現れた。アインス兄さんの身の丈ほどもある白亜の盾、アインス兄さんが“救国の聖剣”ジャンヌ・ダルクと共に授かった聖遺物の一つ。
その聖盾を手にした瞬間、アインス兄さんの傷が瞬時に癒えた。身に纏っていた鎧すらも傷一つ無い状態に修復されていく。絶対守護を体現する、“聖騎士”に相応しきアインス兄さんの切り札だ。
「主よ、我らを護りたまえ……“救国の聖盾”!」
その盾の名は“救国の聖盾”マルグリット。アインス=エンシェントという騎士が全身全霊を賭ける時のみに装備するという聖なる盾。




