第1083話:VS.【星穿】アインス=エンシェント①“遺物”/ 〜Starlight BreakerⅡ〜
「アインス兄さん……俺はあなたを超えていきます!」
「ああ、超えていきなさい……出来るものならね!」
――――アインス兄さんとの決闘は鍔迫り合いから始まった。“神殺しの魔剣”ラグナロクと“救国の聖剣”ジャンヌ・ダルクの刃がぶつかり合い、ギリギリと音を立てる。
機械の身体から生み出される膂力をアインス兄さんは涼しい表情で受け止めている。魔剣はビクともせず、鍔迫り合いは拮抗状態だった。
「さて……では僕から仕掛けようかな……!」
その状態から先に攻勢を仕掛けたのはアインス兄さんだった。アインス兄さんは素早く後方へとバックステップで後退して俺との距離を取った。
そして、アインス兄さんは聖剣を突きの体勢で構え、ビリヤードをするかのように左手を聖剣の刃に添えた。
「行くよ――――“一式・疾風”!!」
左脚を踏み込んで地面を強く踏み抜いた瞬間、アインス兄さんは風よりも疾い速度で俺に向かって突進を開始した。
これはアインス兄さんが得手とする剣技、高速の刺突技だ。数メートルの距離をコンマ数秒で詰めてきたアインス兄さんに対して、俺は魔剣を身体の前に盾のように構えて聖剣を受け止めた。
「――――ッ! くっ……重い……!」
「防いだか……やるね。ならば……!!」
問題はここからだ。アインス兄さんが今しがた放った“一式・疾風”はコンビネーション攻撃の起点にすぎない。
技はここから三つに派生する。追撃の横一閃を放つ“二式・迅雷”、剣先から衝撃波を放ち相手の体幹を崩す“三式・怒涛”、相手の背後に回り込んで防御を捲る“四式・勁草”だ。
「これでどうだい……“三式・怒涛”!!」
「ぐっ……おぉッ!?」
アインス兄さんが選んだのは三式、聖剣の切っ先から放たれた強い衝撃波が魔剣はおろか俺の身体まで貫通していった。全身に馬車で轢かれたような重く鈍い衝撃が走る。
その衝撃で体幹が少し崩れた。踏ん張っていた足が滑り、俺の身体が僅かに反り返る。その隙を見逃さず、アインス兄さんは次の一手を仕掛けようとしていた。
「穿て――――“十二式・雷電”!!」
アインス兄さんが繰り出そうとしたのは聖剣に強力な雷の魔力を帯びさせた、一式よりもさらに刺突攻撃だった。
聖剣からは強力な稲妻が迸り、電撃属性の魔力を全身に帯びさせて身体能力を強化させたアインス兄さんが目にも止まらぬ突きを繰り出す。直撃すれば上半身が消し飛ぶだろう威力だ。
「この程度……なんて事はない!!」
「! 踏みとどまったか……だが!!」
俺は後ろに下げた片脚で地面を砕ける程の勢いで蹴りつけて、崩れなかった姿勢を無理やり戻した。アインス兄さんの剣を受け止める為に。
そして、体勢を立て直した俺は魔剣を左手だけで思いっ切り、目にも止まらぬ疾さで振り上げた。魔剣の剣閃の先には、今にも俺の身体を貫きそうな聖剣がある。
「――――うぉぉラァっ!!」
「くっ……十二式を無理やり……!」
間一髪、俺はアインス兄さんの聖剣を弾きあげた。魔剣で弾かれて攻撃の軌跡がズレたのか、聖剣は俺の右肩を掠めていった。
聖剣から放出される電撃が俺の身体を貫いていく。それだけでも体内に灼けるような激痛が走った。だが、直撃するよりはまだマシだ。
「やるね……それでこそ僕の弟だ!!」
聖剣を弾いたとて、アインス兄さんの突進が止まる事はない。弾かれた聖剣を凄まじい握力で握りながら、アインス兄さんは俺の腹部目掛けて膝蹴りを喰らわしてきた。
甲冑と甲冑がぶつかる重い金属音が鳴り響き、腹筋部分にアインス兄さんの膝がめり込んだ。鈍い激痛が広がっていく。
「お返しだ……だらァァ!!」
「――――ぐっ!?」
膝蹴りを喰らった俺はそのまま吹き飛ばされそうになった。だが、吹き飛ぶまでの刹那の間に、俺はアインス兄さんの顔面を右手で思いっ切り殴り飛ばした。
俺は腹部に膝蹴りを受けて、アインス兄さんは顔面に鉄拳を喰らって、お互いに後方へと吹っ飛んで行った。アインス兄さんは芝生を何度も転がり、俺はすぐ後ろにあった城壁に叩きつけられた。
「――――ッ!!」
城壁が大きくへこみ、俺はそこに張り付いていた。背中に痛みが走る、だが同時に俺は即座に反撃に転じる事ができた。
アインス兄さんが芝生の上で片膝をついているのを視認すると同時に、俺は城壁を思いっ切り踏んで跳躍した。その拍子に踏み切り台にした城壁が音を立てて崩れていく。
「うぉぉーーーーッ!!」
「ラムダ……そうくるか!」
大きく跳躍した俺は魔力を注いだ魔剣を両手で握り、アインス兄さんに向かって魔剣を振り下ろしながら攻撃を仕掛けた。
俺が頭上から落下攻撃を仕掛ける事を視認したアインス兄さんは聖剣を頭上に構え、左手で聖剣の刀身を支えるようにして防御姿勢を取った。
「叩き割れ――――“翼竜閃”!!」
「――――ッ!? なんのこれしき……!!」
魔剣は赤黒い魔力を纏い、竜の翼を思わせるようなエフェクトを発しながら聖剣に向かって振り下ろされた。
魔剣を受け止めた瞬間、アインス兄さんの身体は大きく沈み込み、足下の芝生には大きなクレーターが出来上がった。だが、アインス兄さんの姿勢は一切崩れていなかった。
「おぉぉ……!!」
アインス兄さんは膝を折り曲げて衝撃波を逃がし、そして今度は膝を伸ばして俺を押し返し始めた。バネのように衝撃を吸収し、反動で俺を弾くつもりなのだろう。
「――――ッ!!」
その事を瞬時に悟った俺はアインス兄さんが膝を伸ばすと同時に、魔剣で聖剣を押し込むように力を込めて身体を持ち上げる。
そして、そのままアインス兄さんの身体を踏み切り台にして再度浮かび上がり、空中で回転しつつアインス兄さんの背後にふわりと着地してみせた。
「――――ハッ!!」
「ズアッ!!」
着地と同時に俺とアインス兄さんは同時に、振り返りつつ剣を振り抜いた。聖剣と魔剣が火花を散らして交差する。
同時に俺はアインス兄さんに向かって駆け出した。振り抜いた魔剣を上半身を捻りながら持ち上げ、思いっ切り振り下ろしつつ。
「――――ッ!!」
アインス兄さんは即座に数歩分、後方にバックステップして魔剣による攻撃を避けた。魔剣が芝生に突き刺さり、地面に十数メートルに掛けて亀裂が走る。
攻撃を避けられたのを確認すると同時に、俺は魔剣を突き刺した時の反動を利用して跳躍した。そのまま空中で一回転しつつ、再度アインス兄さんに空中から斬りかかる。
「やるね、しかし――――“五式・陽炎”!!」
しかし、アインス兄さんは冷静に対処をしてきた。空中から攻撃を仕掛けてくる俺に対して、アインス兄さんは聖剣を地面を抉るように振り上げてきた。
同時に、聖剣から放たれた炎属性の魔力が瞬時に壁を形成して俺を阻んできた。炎の壁による防御技だ。炎に遮られて迂闊に攻撃できず、炎に遮られてアインス兄さんの姿は視認できない。
「この程度の炎、今の俺の妨げにはならない!!」
炎を前に尻込みすれば、アインス兄さんに反撃の隙を与えてしまう。俺は魔剣を空を薙ぐように振り抜いて、その剣圧で眼前の炎の壁を無理やり斬り裂いた。
「どうやら……大きく成長したようだね」
「迎撃の姿勢……読んでいたんですか!」
どうやら、アインス兄さんは俺が炎の壁を切り裂く事を信じていたようだ。炎の壁の向こうから現れたのは、聖剣をビリヤードのように構えていたアインス兄さんの姿だった。
「なら……これはどうですか……!!」
「聖剣による突きを……足で受け付ける気か!」
魔剣は振り抜いてすぐには持ち直せない。ならばと俺は右脚を思いっ切り振り上げた。脚力で聖剣を受け止める気概だ。
アインス兄さんが驚いた表情をしていた。流石に聖剣による刺突を脚だけで受け止めるつもりとは思っていなかったのだろう。だが、少ししてアインス兄さんは微かに微笑んだ。
「ならば受け止めてみせよ――――“一式・疾風”!!」
「言われずとも……受け止めてみせます!!」
そして、アインス兄さんが聖剣を打ち出すと同時に俺は右脚を勢いよく突き出して、切っ先と踵を打ち合わせて激突させるのだった。




