第1076話:VS.【暴食の魔王】ルクスリア=グラトニス“異聞”③/ “The Ball”
「連携で追い詰めるわよ、ルクスリア」
「フォーメーション:戯曲じゃな? よかろう」
――――グラトニスの援護として現れたのは、魔王軍のナンバー3である機械天使ルシファー。相棒と組んだ事でグラトニスの表情には絶対の自身が満ちていく。
これは信念を賭けた『決闘』ではない、勝利を貪欲に求める『殺し合い』である。グラトニスが仲間を募るのは何ら不思議ではない。なんなら、以前に戦った際には俺も仲間の援護を受けてグラトニスと戦ったぐらいだ。
「アーティファクト『叛逆地獄』――――転送」
「“十三使徒”――――“絶爪剣”!」
ルシファーは身の丈を超える大きさを誇る黒い大剣のアーティファクトを転送して装備し、グラトニスは“喰魔”ベルゼブブを魔爪形態に変化させた。
そして、ルシファーは大きく浮上すると、背部から展開したエネルギー状のウィングを大きく拡げ、エネルギーを集束させていく。まずは光弾による掃射を行なって機動力を奪うつもりだろう。
「とにかく右腕を……接続!」
近くに転がっていた右腕を回収して再接合し、ルシファーとグラトニスによる連携攻撃に備える。援軍は望めない、一人でグラトニスたちを相手取る必要がある。
壁際に避難したノアは眼を朱く光らせてコソコソと何かをしている。それが俺の助けになると信じて孤軍奮闘するしか選択肢は無い。
「“光の羽根”……発射」
そして、ルシファーの無機質な声と共に、彼女の翼からは真紅に輝く無数の光弾が撃ち出された。艦橋を真っ赤に照らしながら、光弾が雨のように振り注ぐ。
「シールド展開……くぅぅ!!」
接合し直した右腕の手甲に備えたエネルギー・シールドを展開して光弾を防御する。それと同時に、グラトニスへと視線を向けた。
「クハハハ! ゆくぞ――――“魔喰葬爪刃”じゃ!!」
グラトニスは魔爪形態にした左腕を地面を抉るように振り上げて、五つに連なる斬撃波を繰り出してきた。
シールドだけでは防げない威力の一撃だ。俺は右腕のシールドで光弾を防ぎつつも、左手に握った魔剣を振りかぶる。
「“天獄”! ズアッ!!」
ほんの一瞬だけシールドを解除して、迫りくる斬撃波に向かって魔剣を水平に振り抜いた。同時に魔剣から放出された魔力が広範囲を切り裂く不可視の斬撃になって放たれる。
グラトニスが放った斬撃波は魔剣から放たれた斬撃によってかき消された。そして、魔剣から放たれた斬撃はそのままグラトニスを斬らんと向かっていく。
「ハッ、そのていど視えておるわ、たわけめ!!」
しかし、グラトニスは迫りくる斬撃を見切っていた。彼女は大きく跳躍して斬撃を回避、魔剣から放たれた斬撃は艦橋に巨大な亀裂を入れただけの結果になってしまった。
跳躍したグラトニスはルシファーの目前に跳躍した。ルシファーは目の前に跳んできて、姿勢を倒して踵を向けてきたグラトニスに向かって左手を添える。
「打ち出すのじゃ、ルシファーよ!」
「斥力展開……ルクスリア射出」
ルシファーがグラトニスの踵に左手を添えた瞬間、彼女の手からは強力な斥力が発せられ、その勢いでグラトニスは光弾を超える速度で前方に射出された。
狙いは当然の如く俺である。俺に向かって急降下しながら魔爪を構え、グラトニスが不敵な笑みを浮かべながら身体を前転させていく。
「お返しじゃ――――“魔喰牙錬突”!!」
くるくると回転したグラトニスは強烈な踵落としを俺に向かって放ってきた。それを俺は可変銃のロングバレルで受け止めた。
蹴りを受け止めた瞬間、グラトニスの魔力を帯びた漆黒の稲妻が迸り、閃光が視界を一瞬だけホワイトアウトさせる。可変銃を通じて隕石を受け止めたような衝撃が全身に走り、踏ん張った荷重で足下の床が砕ける。
「切り刻む――――“魔喰残響弦”!!」
踵落としを繰り出し、可変銃のロングバレルを蹴ったグラトニスはその姿勢のまま左腕の魔爪を振り下ろしてきた。
魔爪はグラトニスの魔力によってピンク色の軌跡を描きながら迫ってくる。喰らえばまた身体が切断されてしまうだろう。
「させるか――――“視閃光”!!」
「なんじゃと! 眼からビーム……くっ!?」
しかし、咄嗟に眼からビームを放った事で攻撃を防ぐ事ができた。頭部を狙った不意打ちこそ躱されたが、上体を逸らしたグラトニスは魔爪による攻撃を中断せざるを得なかった。
そのままグラトニスは可変銃のロングバレルを踵で蹴って跳躍し、俺の目の前に着地しようとした。その隙を逃さず、俺は魔剣をグラトニスの着地に合わせて振り抜こうとした。
「ルクスリアに手出しはさせない……!」
「ルシファー……いつの間に背後に!?」
だが、そんな俺を咎めるように、ルシファーは俺の背後に立って大剣を構えていた。グラトニスの攻撃に対処している間に背後に回り込んでいたのだろう。
「死ね、ラムダ=エンシェント!」
「この……やられるかよ!!」
ルシファーは大剣を俺に向かって振り下ろしてきた。俺は素早く身を翻し、ルシファーの大剣を可変銃のロングバレルで受け止めた。
機械天使の膂力から放たれる斬撃は重く、“ガキンッ!!”と重い金属音を鳴らして身体が沈む。可変銃の銃身は頑丈だが、俺の腕が衝撃で折れそうになった。
「背後に眼は付いてないかの? 隙だらけじゃぞ」
俺の背後ではグラトニスが魔爪の先端を一箇所に束ね、刺突の体勢を取っている。完全に挟撃の体勢だ、こうなっては二人の連撃を凌ぐだけで精一杯になってしまう。
「クハハハ!! “魔喰牙突爪”!!」
グラトニスは魔爪を渾身の力で突き出して攻撃を仕掛てきた。音の壁を突き抜けた魔爪が俺の心臓目掛けて向かってくる。
「――――くっ!!」
俺は魔剣を背後に向かって振り抜き、グラトニスの魔爪を弾いた。だが、防御の為に振り返れば、今度はルシファーから目を離す事になってしまう。
「アーム・ブレード展開……突き刺す」
ルシファーは右手で大剣を握ったまま、フリーにした左腕からエネルギー状のブレードを展開して俺の首目掛けて斬り掛かってきた。
「――――ッ! こんにゃろ!!」
「――――ッ!? 姿勢制御を……!」
咄嗟に右脚を振り上げてルシファーの腹部を蹴りつけた。その拍子にルシファーはバランスを崩し、振り抜いた手刀は俺の頭部を掠めていった。僅かに切断された前髪が周囲に散らばる。
「どうじゃ、儂らの友情パワーは!!」
「魔王が友情パワーとか言ってんじゃねぇ!!」
ルシファーを蹴っ飛ばすと同時に、再度身体を反転させてグラトニスの上段ハイキックを可変銃のロングバレルで受け止める。
蹴りを受け止めた瞬間に再び黒い稲妻が迸り、身体に痺れるような激痛が走る。防がれる事を承知で、衝撃が伝播するような蹴りを繰り出したのだろう。
「“重力力場”生成……展開!」
「これは……重力操作!? 身体が……!!」
グラトニスの蹴りを受け止めた瞬間、ルシファーは両腕をゆっくりと振り下ろす。同時に、俺の足下に円形状の力場が形成され、その場の重力が一気に十倍に跳ね上がった。
グラトニスは力場が展開される直前に数歩だけバックステップで距離を取り、影響範囲から逃れていた。ルシファーが何をするか即座に判断しての行動だ、恐るべきコンビネーションと言わざるを得ない。
「今よ、ルクスリア!!」
「任せるのじゃ!!」
ルシファーに促され、グラトニスが攻勢に転じる。“喰魔”ベルゼブブを変形させ、左腕を巨人を思わせるような巨大な腕へと変貌させる。
(まずはルシファーの力場を壊さないと……!)
ルシファーの力場に対処するか、グラトニスの攻撃を防ぐか。俺が“選択”したのは重力力場の破壊だった。
グラトニスから視線を逸らし、俺はルシファーに向かって可変銃の銃口を向けた。背後ではグラトニスが巨腕を振り被っている。
「ルシファー!!」
「――――うッ!?」
引き金を引いてルシファーに向けて魔弾を放った。跳ね上がった重力の影響を受けた魔弾は勢いを失いつつもルシファー目掛けて飛んでいく。
魔弾はルシファーの右脇腹を掠った。正確にはルシファーがギリギリで魔弾を躱したのだ。だが、回避と同時に重力力場は解除され、動きは軽くなった。
「装甲展開――――“巨人の腕”!!」
「ほう……儂と張り合うつもりかの!!」
力場を解除すると同時に魔剣から手を離し、追加装甲を纏わせて左腕を巨腕に変化させる。
グラトニスの巨腕はすでに放たれている、考えている猶予は無い。俺は目一杯、渾身の力で左腕を突き出した。
そして、二人の拳は激突し――――
「“至天の鉄槌”!!」
「“魔喰烈天掌”!!」
――――その場を凄まじい衝撃が包み込んだ。
殴り合った衝撃波でルシファーが耐え切れずに吹っ飛んだ。俺とグラトニスはお互いに地面に脚がめり込む程に踏ん張って、全力で力比べに興じた。
一瞬でも油断すれば殴り飛ばされる。ここが正念場だと、俺は歯を食いしばり、右脚を脛まで沈めながら力を込めた。
「この……やろーーーーッ!!」
「なっ、儂が押し負けて……のあッ!?」
巨腕による殴り合いを制したのは俺だった。俺が殴り抜けた瞬間、グラトニスは後方に向かって思いっ切り吹き飛ばされた。
グラトニスは左腕や口から血を流している。“喰魔”ベルゼブブも巨腕を維持できずに形状を変化させつつあった。
(――――ッ!? グラトニスが……笑っている!)
だが、その勝利に違和感があった。殴り飛ばされた筈のグラトニスが何故か笑みを浮かべている。まるでこの状況をわざと作ったかのように。
俺は直感した。グラトニスはわざと殴り負けた。何かを仕掛ける為に。しかし、それに気がつくのが僅かに遅かった。
「さぁ、ルクスリア……今よ!」
「ルシファー……くっ、離せ!!」
身構えようとした直前、背後からルシファーが組み付いてきた。俺を羽交い締めにすると同時に重力力場を再度展開し、身動きを取れなくしてきた。
同時に、待っていたとばかりにグラトニスは“喰魔”ベルゼブブを舌を伸ばした形態に変化させた。そう、殴り負けて巨腕が解除されたのではなく、最初から別の形態に変えている途中だったのだ。
そして、グラトニスは殴り飛ばされながらも“喰魔”ベルゼブブの舌を勢いよく伸ばし――――
「では頂くぞ……“神殺しの魔剣”をな!!」
――――空中を舞っていた俺の魔剣を奪うべく、“暴食”の舌で絡め取ったのだった。




