第1075話:VS.【暴食の魔王】ルクスリア=グラトニス“異聞”②/ 〜Fallen AngelⅡ〜
「様子見はしない……このまま押し切る!!」
――――蹴り飛ばされたグラトニスは砕けた艦長席や機材の瓦礫に埋もれた。まだ生きているだろうが、彼女が体勢を整えるのを素直に待つほどの余裕は無い。
魔剣に魔力を注いで何度も素早く振り抜き、大量の斬撃をグラトニスに向けて放った。隙を見せれば狩られるのは俺の方だからだ。
「随分と警戒しておるのう……儂が怖いか?」
「これは……斬撃が吸い込まれてる……!?」
しかし、相手は魑魅魍魎たる魔界を統べる魔王、一筋縄ではいかないようだ。俺が放った斬撃の雨は不意に起こった風に煽られ、吸い込まれるように瓦礫に向かっていく。
その先にあったのは瓦礫の山から姿を現した異形の怪物の頭部、グラトニスの左腕である“喰魔”ベルゼブブだ。怪物は魔力で形成された斬撃を喰らっていたのだ。
「クハハハハハハハッ!! 儂に一発蹴りを見舞うとは……流石じゃのう! じゃが……この程度では満腹にはまだ程遠いの。腹の足しにもならんわ」
「斬撃の魔力を喰って回復したのか……!!」
「儂は“暴食の魔王”グラトニスであるぞ。この世の万物は我が食事にすぎん……お主の攻撃も殺意もな。クハハハ……実に美味なのじゃ!!」
そして、全ての斬撃を食い尽くし、瓦礫の山からグラトニスが姿を現した。蹴りのダメージなどすでに回復しきって、自信に満ちた表情で俺を見つめている。
「そぅら、お返しじゃ……喰らえ!!」
「――――ッ!! 俺の技を……!!」
“喰魔”ベルゼブブを振り被り、グラトニスが勢いよく左腕を振り抜いた瞬間、さっき俺が放った斬撃が吐き出されるように放たれた。
俺は攻撃を回避するように素早く下降し、グラトニスの追撃に備えた。状況は仕切り直された、まずは切り落とされた右腕を回収しなければならない。
「“十三兵装”……“背徳舌唱”!!」
「なんだ……“喰魔”から舌が伸びて……!?」
グラトニスは瓦礫の山に立ちながら、“喰魔”ベルゼブブを新たな形態に変化させた。怪物の頭部を唸り声をあげながら、唾液を垂らしながら舌を伸ばし始めた。
長さも計り知れない、まるで“鞭”のように伸びる舌だ。その舌を繰り出したグラトニスは俺に視線を合わし、不敵な笑みを浮かべる。
「躱せよ……“報復舌盗”!!」
「――――ッ!? 疾ッ……うおっ!?」
次の瞬間、“喰魔”ベルゼブブが伸ばした舌が俺に向かって急加速して襲い掛かってきた。初速の時点で音の壁を突き抜ける程のスピードだ。
何か猛烈に嫌な予感を感じた俺は慌ててその場にしゃがんで舌を躱した。すぐ真上で“ボンッ!!”と空気が爆ぜるように音がして舌が通過していく。
「これは……触れた物が刮げとられている!?」
そして、振り返って舌を目視した俺はある事に気が付いた。それは撃ち出された舌が軌道上に在った機材などを容易く貫き、触れた物体を消滅と見間違う速度で喰っている事に。
“喰魔”ベルゼブブが伸ばした舌に触れた瞬間、そのまま“喰魔”ベルゼブブに捕食されてしまうのだろう。そんな厄介極まる攻撃が音速以上の速度で飛んでくるのだ。
「お主を喰ろうてくれよう……“喰魔”!!」
グラトニスが叫ぶと同時に“喰魔”ベルゼブブがけたたましい鳴き声をあげた。そして、同時に“喰魔”ベルゼブブが伸ばした舌が再度急加速して俺に迫ってきていた。
「魔剣で斬って……」
俺は即座に魔剣を構えて舌を迎撃する体勢を整えた。如何に絡め取ったものを即座に捕食する攻撃であっても、斬撃を受ければ斬られる筈だと考えた。
「おおっと……ならばこれはどうじゃ!!」
「――なっ!? 直角に軌道を変えた!?」
だが、斬りかかろうとした瞬間、“喰魔”ベルゼブブの舌は俺の目の前で直角に軌道を変えて魔剣の射程から逃れた。
そのまま“喰魔”ベルゼブブの舌は目にも止まらぬ速さで俺の背後に回り込んでいた。がら空きの背後に向かって“喰魔”ベルゼブブの舌が猛スピードで突進してくる。
「これでどうじゃ!!」
「くっ……なめんなよ!!」
だが、“喰魔”ベルゼブブの舌に接触するよりも疾く、俺は大きく跳躍して回避行動を取ることができた。
数メートル跳び上がりながら宙返りし、天地逆さになりながらグラトニスに視線を向ける。
「逃さんのじゃ!!」
「喰らえ――――“超電磁聖剣砲”!!」
“喰魔”ベルゼブブの舌が再度軌道を変えて空中に居る俺に向かって舌を伸ばしてくる。
それと同時に俺は左手に握っていた魔剣を猛スピードでグラトニスに向かって撃ち出した。今なら“喰魔”ベルゼブブでの防御はできないと判断したからだ。
「はっ、甘いわ! “魔喰崩天牙”!!」
しかし、魔剣が撃ち出された事に反応したグラトニスは“喰魔”ベルゼブブの舌を伸ばしつつも見事な開脚蹴りを放ち、魔剣を真上にはじき飛ばした。
蹴り飛ばされた魔剣はグラトニスの頭上をくるくると回っている。そして、俺の背後には“喰魔”ベルゼブブの舌が迫ってきていた。
「これで終いじゃ……」
「量子残光……!!」
「……消えた!? 何処に……上か!」
だが、間一髪、俺は“喰魔”ベルゼブブの舌を躱して転移に成功した。さっきグラトニスに向かって射出した魔剣に転移の座標を合わせていたのだ。
そのまま転移と同時に魔剣を掴み取り、俺はグラトニスの頭上を取った。“喰魔”ベルゼブブの舌もまだ遠い、至近距離から攻撃を叩き込む隙は十分にある。
「さっきの攻撃はこの為に……!」
「そう言うこった……覚悟しな!!」
魔剣を手に俺はグラトニスに向かって急降下する。そのまま兜割りを喰らわせればグラトニスに大ダメージを与える事ができるだろう。
グラトニスは慌てて“喰魔”ベルゼブブの舌での迎撃を試みたが間に合わない。だが、“喰魔”ベルゼブブの舌よりも高速で接近する何かを俺は見落としていた。
「まったく……何をしているの、ルクスリア?」
「――――ッ!? 伏兵だと……ぐあッ!?」
急速で接近してきた“彼女”は俺の脇腹に強烈な蹴りを叩き込んで、俺を勢いよく蹴り飛ばした。そのまま俺は艦橋中央の投影装置を壊しながら地面に転がっていった。
伏兵からはまったく気配も殺気も感じなかった。いきなり目の前に現れて、まるで機械のように感情の乗っていない攻撃を加えてきた。
「お前は……!!」
「起動、起動、起動……」
俺を蹴り飛ばした相手はグラトニスの頭上で浮遊している。まるで彼女を守る守護天使のように。彼女を俺はよく知っている。
漆黒のボディスーツを纏い、手脚には機械式の装甲を装着し、背中からは白と黒の四枚の翼を輝かせ、目元を朱く輝く“一つ目”が印象的なバイザーで隠した金髪の少女。
「ルシファー……!!」
彼女の名は機械天使ルシファー。ノアが開発した人型戦闘兵器『機械天使』の一機にして、魔王グラトニスの左腕を務める魔王軍のナンバー3。
どうやら“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトはグラトニスだけでなく、ルシファーも“異聞”として再現したらしい。
「余計なお世話をしおって……無愛想天使が」
「あら……威勢の割には苦戦していたのは何処ののじゃロリかしら? 相手は魔王軍を単騎で壊滅させる可能性を秘めた怪物よ……当機も手伝った方が確実だとは思わない?」
「おいおい……冗談じゃない……!!」
「はっ、確かにのう……あやつ、どうやら儂が思うてるよりずっと強敵なのじゃ。そなたの言うとおり……勝ちに拘るなら二対一で攻めた方が確実じゃのう。ならば手を化してくれるかのう、ルシファー……我が最大の相棒よ」
「ええ、仰せのままに……ルクスリア」
グラトニスは僅かにプライドを見せたものの、確実な勝利を物にすべくルシファーとの共闘を選択した。
そして、堕天使は“暴食の魔王”を護るように、バイザーに輝く“一つ目”で俺を睨みつけた。
「起動、起動、起動……魔王軍最高幹部、大罪が一つ【堕天】――――機械天使ルシファー! 起動開始……これより対象を殲滅します」
「――――ッ!!」
「当機のルクスリアを傷付ける者は何人たりとも許さない。お前は八つ裂きにしてやるわ、ラムダ=エンシェント……覚悟しなさい!」
戦場に舞い降りた堕天使が翼を広げ、無慈悲な殲滅を宣言する。こうしてルシファーという強敵を加えて、戦いは次のフェーズへと移行したのだった。




