第1074話:VS.【暴食の魔王】ルクスリア=グラトニス“異聞”①/ 〜Gluttony EaterⅡ〜
「クハハハ! 感じるぞ、お主の激情を!」
「ああ、そうかい……そりゃ良かったな!!」
――――俺が振り抜いた魔剣をグラトニスは左手の刃のように肥大化した爪で受け止めた。魔剣と魔爪が火花を散らして競り合っている。
グラトニスはその華奢で小柄な見た目からは想像もできない膂力で俺に拮抗してきている。おそらくは“暴食の魔王”の権能でたらふくに飯を喰らい、魔力を限界まで蓄えているのだろう。
「まずはその左腕を切り落としてやる……!!」
「面白い……やってみせよ!!」
グラトニスを魔王たらしめる力は多岐に渡る。その中でも最も厄介なのが彼女の左腕として機能する怪物、“喰魔”ベルゼブブだ。
あらゆるものを捕食し、喰らったものを吐瀉し、その形状を異形の怪物を含めた様々な形態に変える事ができる、グラトニスのもう一つの顔。それを攻略が最優先になるだろうと俺は考えた。
「クハハハ――――“魔喰崩天牙”!!」
「――――ッ! 短けぇ脚で健気だな!」
魔爪で力いっぱいに俺を押し込んで姿勢を崩すと同時に、グラトニスは身体を捻りながら右脚を素早く蹴り上げて、俺の顎目掛けて開脚けりを放ってきた。
その蹴りを顎を引いてギリギリで躱しながら、俺は可変銃の銃口をグラトニスに向ける。超至近距離での射撃、見てからの回避の防御も間に合わない。
「“十三使徒”……“金羊毛殉教砲”!!」
「――――ッ!? 読まれていたか……!!」
対処するとすれば、俺の攻撃に先置きで攻撃を仕込む事ぐらいだろう。開脚げりの反動で身体を空中で捻らせながら、グラトニスは左腕を大砲に変化させていた。
決戦兵装“十三使徒”、“喰魔”ベルゼブブはグラトニスの意思に応じて形態を変える。俺を狙う大砲もその内の一つ。怪物の頭部を模した大砲は砲身を開き、舌が変形した砲口が俺を狙う。
「そぅら、消し飛ぶのじゃ!!」
「くっ……魔弾、発射ッ!!」
グラトニスは空中で身体を捻らせながら魔砲を俺に向けて放ち、同時に俺も引き金を引いて可変銃から魔弾を撃ち出した。
一メートルにも満たない距離で発射されたお互いの攻撃が激突し、同時に俺とグラトニスは吹き飛んだ。俺が撃った魔弾は砲撃を突き抜けてグラトニスに命中し、砲撃は俺を呑み込んだからだ。
「――――ぬぅ!? 相討ち上等かの……!」
「ぐっ……この程度じゃもの足りねぇぞ!」
魔弾を左肩に受けて吹き飛びつつも、姿勢を立て直したグラトニスは再度左手を魔爪に変え、地面を抉りながら爪を振り上げていた。。
一方の俺もバク転の要領で跳躍して体勢を立て直し、可変銃による銃撃を構えた。遠距離を撃ち抜く狙撃モードでだ。
「三枚おろしにしてくれる――――“魔喰葬爪刃”!!」
「狙い撃つ――――“雷光”!!」
グラトニスが魔爪を振り上げた瞬間、俺に猛スピードで向かってくる巨大な五つの斬撃波が放たれた。
同時に、可変銃からは雷光を思わせるような閃光を発しながら、真っ白に輝くレーザーが撃ち出された。レーザーは斬撃波をすり抜けてグラトニスに向かう。
「“喰魔”ベルゼブブよ……喰らうのじゃ!!」
レーザーに対してグラトニスは左腕を素早く怪物形態へと変え、バックリと開いた怪物の口でレーザーをパクリと喰らってしまった。
「ちっ……当たらないか!!」
攻撃を防がれたのを目視で確認しながら、俺は魔剣を横一閃に振り抜き、発した斬撃でグラトニスが撃ち出した斬撃波を全て薙ぎ払った。
「それはお互い様じゃ!!」
斬撃波を薙ぎ払って視線を向ければグラトニスは左腕を砲撃形態に変え、小さく絞った砲口に血液のような液状のエネルギーを集束させているのが視えた。
「アレは……リリィの術式か……!」
「【術式喰らい】――――発動!!」
その血液を操る術式はグラトニスのものではない。彼女の配下であるリリエット=ルージュが得手とするものだ。だが、それをグラトニスは使役できる。
それがグラトニスの権能の一つ【術式喰らい】。その身に受けた術技や術技を己のがものにする“暴食”の権能、それを用いたのだろう。
「超高血圧、寸断する――――“血ノ切撃”!!」
「水圧カッター……疾ッ!? くっ……!?」
グラトニスが放ったのは真紅のレーザービームだった。それは血液を超高圧で放つ事で、あらゆるものを切断する水圧カッターを模した攻撃だった。
とんでもない速度で飛んできたレーザービームを俺は身を捻って躱したが、反応の遅れた右腕はレーザービームで切断されてしまった。激痛が走り、可変銃を握った腕が地面に転がっていく。
「クハハハ! まだ終わらんぞ!!」
右腕を切り落とされたのも束の間、グラトニスは大きく跳躍して十メートルほど跳び上がった。そして、空中で砲身に魔力を集束し、地面に居る俺に砲口を向ける。
可変銃を落とした今なら遠距離攻撃で優位に立てると考えたのだろう。グラトニスはそう言う奴だ、勝つためならどんな手段も使う。
「振り注げ、光の雨よ――――“天泣”」
「今度はエイダさんの術式を……うわっ!?」
グラトニスが左腕から撃ち出したのは、何百本にも及ぶ光の“杭”の乱射だった。光り輝く棒状のレーザーが拡散しながら降り注ぐ。
“機神装甲”に装備された光の翼を拡げ、俺は猛スピードで前方へと移動して振り注ぐレーザーを回避した。だが、グラトニスは俺を仕留めるべく、光の杭を撃ち続けていた。
「儂から逃げれると思うな、クハハハ!!」
「――――ッ!! この……!!」
飛び回る俺をグラトニスが射撃で追いかける。ドーム状の艦橋は戦うには十分な広さがあるが、高速で飛び回るには狭い。
加えて、グラトニスの攻撃にノアを巻き込む訳にはいかない。このまま回避を続けてもいずれは追いつかれて撃ち抜かれてしまうだろう。
「このまま撃ち落として……ぬっ、砲撃じゃと!?」
故に、仕掛ける判断は即座にせねばならなかった。グラトニスの意識も視線も壁際を飛ぶ俺に向いた瞬間、グラトニスの左腕に魔弾が襲いかかった。
銃撃を受けたグラトニスが見下ろした視線の先には、さっきのレーザービームで切断された俺の右腕が可変銃を握った状態で浮かんでいた。そう、彼女に銃撃を加えたのは俺の右腕だ。
「まさかお主……自らを囮にして……!?」
「切り落としたからって油断したな……!!」
俺が猛スピードで飛行して回避を試みたのは、グラトニスの意識を切断された右腕から逸らすため。俺の身体は切断されても引っ付くし、なんなら遠隔で操れる。痛み自体は感じるから率先してしたくないだけだ。
だけど、切られてしまったのなら話は別だ。
隙の無いグラトニスの意表を突くべく、俺は切断された右腕を遠隔で操って、グラトニスを意識外から銃撃した。おかげでグラトニスの射撃は中断され、彼女に隙が生まれた。
「量子残光……これで!」
「しまった……いつの間に!?」
グラトニスの意識が一瞬逸れた隙を突いて、俺は彼女の目の前に転移した。それでもグラトニスは超速度で反応し、左腕で俺を迎撃しようと試みていた。
だが、俺は魔剣を振ってグラトニスの左腕を弾いた。そのまま彼女の腹部目掛けて思いっ切り蹴りを放った。
「喰らえ、グラトニス!!」
「この……ぐおぁッ!!?」
そして、腹部を蹴られたグラトニスは猛スピードで地面に落下、さっきまで自分が座っていた艦長席に激突し、悲鳴をあげつつ椅子を粉々に粉砕したのだった。




