第1071話:VS.【憤怒の魔王】イラ“異聞”⑤ / “WILD FANG”
「受けよ、我が憤怒――――“十の王冠”!!」
――――“黙示録の獣”より放たれたのは、まさに『この世の終わり』を形容するに相応しい一撃だった。九本の尻尾を頭部に添えて砲撃を放ち、それを口部から放たれる砲撃と共に王冠状の多重魔法陣で束ねる世界を灼く“憤怒”の焔。
金色に輝くその砲撃の名を“十の王冠”。束ねられ、“黙示録の獣”の巨躯を遥かに上回る巨大な魔力砲が轟音を鳴らしながら迫りくる。
「…………ッ!!」
防御に徹するか、攻撃を切り裂いて反撃に転じるか……否、それでは駄目だ。もっと獰猛に、怒りに身を任せて戦うべきだと俺の本能が叫ぶ。
イラは俺の大事な仲間であるコレットを内側から侵食する“本能”である。たとえ“異聞”の存在だとしても、イラとして振る舞う彼女を見たくはない。
「“神殺しの魔剣”……神喰形態!!」
可変銃と合体した魔剣、その切っ先を迫りくる砲撃に向ける。バックリと割れた魔剣の刀身が狼の顎のように唸り声をあげ、砲身に集束された魔力が蒼く発光していく。
恐れはある、しかしそれ以上の怒りがある。
狼のリーダーは群れの仲間を迫りくる驚異から護る。ならばこそ俺は護るべきだろう、コレットという仲間の“魂”を……彼女を蝕む“憤怒の魔王”から。
「正面から打ち破る気か……正気か、其方?」
「正気じゃねぇよ……だから正面からぶち抜く!」
ここでコレットの心を取り戻せないなら、それはラムダ=エンシェントの恥である。一歩退こうとする右脚を踏みとどめ、俺は大きく右脚を前に一歩踏み出した。
防御する“選択”も、斬ってやり過ごす“選択”もしない。いま放たれた一撃をそのまま喰らい、“黙示録の獣”が動けない隙を突いて内部のイラを引き剥がす。
「その心臓、ぶち抜く――――“神喰狼王”!!」
“黙示録の獣”から放たれた砲撃が直撃する刹那、魔剣からは蒼々しく輝く魔力が流星のように放たれた。
全てを飲み込もうとする“憤怒”の火焔の中央を、蒼き流星が貫く。その流星に護られて俺は砲撃をやり過ごしていた。流星が飲み込まれればそれ即ち俺の敗北である。
「小さい、あまりにも小さい“牙”だぞ……ラムダ=エンシェント! そのように矮小な“牙”で我が“憤怒”を覆せると思うたか!? 其方の“憤怒”とは斯様にか細いのか!?」
“黙示録の獣”の内部に居るイラが俺を挑発している。もっとできるだろうと言っているのだろう。
しかし、これが俺の全力だ。これ以上の出力は出せない、そして出す必要もない。何故ならイラは勘違いをしているからだ。
「俺は本気でキレる時、喚き散らさないタイプでな。そう言う時はクールになって考えるんだ……どうやって相手を仕留めるかって……!!」
「――――ッ!? なんだ……この殺気は?」
「牙が小さいって……そりゃそうだ。これは相手を威圧する虚仮威しじゃない……相手の心臓を一撃で穿つ“牙”だからな! 極限まで圧縮した一撃って事だよ!!」
俺が放った砲撃は、渾身の魔力を限界まで圧縮して束ねた一撃だ。
その全てを“貫通力”に注ぎ込んでいる。“黙示録の獣”の砲撃を貫き、そのまま内部のイラすらも撃ち抜く為に。
「狼の“牙”よ、我が敵を貫けェェ!!」
「しまっ、妾の一撃を撃ち抜い……あぁっ!?」
イラが俺の真意に気が付いた時にはすでに手遅れだった。蒼き流星は眩い閃光を発した瞬間に、“黙示録の獣”から放たれた金色の焔を内部から貫いた。
そして、勢いを増した蒼き流星はそのまま“黙示録の獣”の口部に直撃し、コンマ数秒もしない内に二百メートル以上の巨躯を貫通していった。
「ぐ、ぐが……!? ま、まさか……“黙示録の獣”が……力負けするなど……。あ、あり得ぬ……我が“憤怒”が……負けるなんて……!!」
「研ぎ澄まされた“牙”は巨獣すら貫く……」
アーティファクト“黙示録の獣”の頭部は吹き飛び、心臓部に結合していたイラが崩壊した胴体部分から剥き出しになっていた。
イラは心臓部を覆う無数の触手のようなケーブルに絡まって接合されている。簡単には身動きが取れない状態で、“黙示録の獣”崩壊の衝撃を受けて大怪我を負っていた。
「返して貰うぞ、イラ……コレットの心を!」
「馬鹿め……返す訳なかろうゥゥ!!」
剥き出しになったイラに向かって俺は跳躍を開始した。両足の推進器を一気に最大まで噴射して飛び出した。
対するイラは身動きできない状態ながら、口から全力の火炎放射を放って抵抗を見せてきた。“黙示録の獣”の尻尾一本分に相当する火焔が迫りくる。
「俺を甘く見るんじゃねぇ……イラァァアアアア!!」
魔剣を星の五角形をなぞるように素早く、音よりも疾く五回振り抜いた。イラが吐いた火焔は細切れになって斬り裂かれ、同時にイラを拘束していたコードもバラバラに引き裂かれた。
「…………なっ!?」
不意に解放されたイラが驚いた表情をしながら空中に投げ出された。それを確認した俺は魔剣を放り投げて、素手でイラに掴みかかった。
そのまま俺とイラは半壊した“黙示録の獣”の動力炉内部で掴み合う。逃げ場はない、お互い持ち得る武器は己の肉体のみとなった。
「放せ、この下郎が……ガルル!!」
「ぐっ……!? この……!!」
両肩を掴まれたイラが俺の首元に噛み付いた。突き立てた牙から焔を流し込んだのか、全身に耐えがたい激痛と高熱が走り抜ける。
意識が飛びそうになる。けれど、それでも俺はイラを睨み続けた。そして、右腕の腕力でイラを強引に引き剥がしていく。
「俺の“憤怒”はこの世の理不尽に……そして自分自身に向けられる。俺が抱く怒りは全て……この身体を動かす燃料として燃える!!」
「…………ッ!?」
「歯ぁ食いしばれよ、コレット! テメェの“憤怒”は全部、俺が受け止めてやる! だから……一発だけぶん殴らせろ! それであいこだ!!」
左腕をギリギリと音を立てながら振りかぶり、イラの顔面に向ける。今から何をされるのか理解したのかイラの表情は怯え、言葉も出ない状態になっていた。
そして、黒腕は音を切り裂いて放たれ――――
「ぶっ飛べ――――“餓狼牙”!!」
「やめ――――ぶべッ!!?」
――――イラの顔面に鉄拳が炸裂した。
殴られたイラは“黙示録の獣”の装甲をぶち抜いて勢いよく落下していき、そのまま瓦礫を巻き上げながら地面に数回バウンドして激突した。
地面に“大”の字になって倒れ、白目を剥いて口から泡を吹きながらイラは失神している。完全に戦闘不能になったからか、半壊状態のままだった“黙示録の獣”も消滅していく。
「ふぅ~……スッキリした!」
こうして、“憤怒の魔王”イラは、それ以上の“憤怒”を前に完膚なきまでに敗北して、かくして戦いは幕を降ろしたのだった。




