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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十八章:虹を越えて、無限の彼方へ

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第1065話:明日に繋がる物語


「反応なし……私たちの勝利のようですね」

「そうだな……助かったよ、アスハ。ありがとう」



 ――――“異聞イフ”オリビア、ディアナ=インヴィーズは消え去って階層には静寂が訪れていた。周囲に敵が居ない事を確認した俺たちはホッと息を吐いて緊張を解いた。

 アスハは緊張を解いて機械梟ミネルヴァを撫でて労りながら、すぐに目の前にディスプレイの立体映像ホログラムを開いて何か作業をし始めた。



「さて……今のうちにこの出来事を記録に纏めておきましょう。後から書くとMs.バースデイに誂われかねませんからね」


「アスハはどうやって此処に? それに……」


「ああ、やっぱり気になりますか、お父さん? そうですね……これは私の推測交じりの話になりますが、それでも良かったら疑問にお答えしますよ」



 戦いが終わった事で俺はアスハに対する疑問をようやく伝える事ができた。疑問は二つ、アスハが“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトに時間を越えて現れた理由。そして彼女が以前の出来事を記憶している事だ。

 アスハは推測交じりの確証の無い話だと前置きしながら、俺の疑問に答えるように話しはじめた。



「まず私が此処に来た理由ですが……これは私がある依頼の為に、量子世界にダイヴしたのが原因ですね。実体から“魂”だけを抽出した際に、“時の歯車(クロノギア)”の『時間』を操る事象に干渉してしまったのでしょう……」


「つまりは偶発的な出来事だったと?」


「その通りです、Ms.ノア。本来はアルバート社が管理するデータ・クラウドに収められた機密情報を盗み見……コホン、拝見しようとしたのですが、その際に此処の量子空間にアクセスしてしまったようですね」



 どうやらアスハは別件で動いている最中に、再現されたアーティファクト【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】の機能に巻き込まれて過去に呼び寄せられてしまったらしい。


 つまりは偶発的な出来事だった。


 前回の事件の際は、アスハは事前に母親であるアウラから“嫉妬の魔王”の話を聞いていたので自発的に俺たちに協力していた。今回は彼女にとってもイレギュラーな事態らしい。



「そして、もう一つの疑問ですが……これは私が“時紡ぎの巫女”としての素質、時間を操る術式スキルを会得している事が理由ですね。前回、アーティファクト【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】が起こした事象は覚えていますか?」


「ええっと……」


「ディアナさんは壊滅したエルフの里をアーティファクトを用いて、本来は千年後の世界に存在する“幻影未来都市カル・テンポリス”のテクスチャに、そこに住む人々ごと上書きしたんですよ、我が騎士」


「ああ、そうだった!」


「あなた方が出逢ったのは……所謂『コピー&ペースト』された“幻影未来都市カル・テンポリス”の人々で……本来の時間軸にある街には何の変化も起こっていません。当然、私自身も含めて……」


「じゃあなんで憶えて……?」


「それは……やはり私が“時紡ぎの巫女”だからです。コピーされた私の記憶を“情報”として残し、千年後の本来の私に同期させた。これでお父さんとの出来事を継承したのですよ……忘れるのはもったいないですからね」



 そして、もう一つの疑問、前回の出来事を憶えている事を語ってくれた。どうやらアスハはあの時の出来事を保存し、時間を越えて持ち越して同期させていたらしい。

 あの出来事は本来、何もかも無かった事になる筈だった。それをアスハだけは憶えていた。



「そっか……憶えててくれたのか……」

「はい、もちろん……憶えていますよ」



 俺の顔を見て、アスハはにっこりと笑っている。俺から見れば彼女は未来の人間、いつか逢える人ではある。

 しかし、アスハから見れば俺は過去の人間、もう会うことのできない人物だ。そんな人物にもう一度逢えたのは、彼女にとってはきっと嬉しい誤算なのだろう。



《おい、アウリオン……大丈夫か?》


《もしもし〜、アスハちゃん〜、生きてるか〜い? ジョンくん、君もいっちょダイヴしてアスハちゃんを起こしに行ってくれたまえ》


《専門外だ。お前が行ってこい、バースデイ》


《ワタシもダイヴは専門外だよ、ジョンくん。なにせ生粋の魔女だからね、ワタシは。けど、ダイヴチェアに座ってぐったりしているアスハちゃんをこのまま眺めるのは退屈だとは思わないかい?》


《アウリオンの顔に落書きしておいてよく言う……》



 そうして話していると、不意にアスハの肩に乗っている機械梟ミネルヴァから男女の声が聞こえてきた。

 片方はややぶっきらぼうな青年の声、もう片方は掴みどころのない女性の声だ。それを聴いたアスハは『やれやれ』とため息をついている。



「今の声は?」


「ええ、ええっと……いま私が仕事で関わっている依頼人クライアントです。“幻影未来都市カル・テンポリス”の総督、兼オフィサーであるお母さんからの命令で渋々……」


「なんだか訳アリそうな二人組ですね」


「そうなんですよ、Ms.ノア……片方は過去を忘れた記憶喪失の男、もう片方は過去を捨てた高額賞金首の魔女。まったく、お母さんも無茶振りしてくれますよ……」


「へぇ~……関わりたくねぇ」



 どうやら声の主はアスハと組んで仕事をしている怪しい連中らしい。彼等と関わる中で、アスハは過去の世界に迷い込んだようだ。

 まったく聞き覚えのない名前をしているので、きっと俺たちには関わりのない人物なのだろう……女性の方は何処かで聴いた声のような気がするが。



「そっか……アスハにはアスハの物語があるんだな」

「まぁ、そういう事です……不本意ですけどね」



 けど、それを聞いて安心した自分が居た。アスハはちゃんと自分の物語を生きている、決して過去に囚われている訳ではないのだと。

 そして、それを物語るように、アスハの身体も光の粒子になって消滅し始めた。きっとガーディアンが倒された影響で、現在と未来の繋がりも解けつつあるのだろう。



「そろそろ私もおいとまする時間のようですね……短い時間でしたが、またお父さんたちにに逢えて良かったです。この時代のお母さんにもよろしく伝えて於いてください」


「ああ、アスハ……元気でな」


「はい……お父さんもMs.ノアもどうかお元気で。前にもお伝えしましたが……おふたりの征く道の先で、私はお待ちしています。どうか悔いのない“選択”を……」



 アスハにとっては永遠の別れかも知れない。けれど、彼女には悲壮感は無かった。信じているのだ、俺とノアの“選択”した道の先が、自分たちの時代に続くことを。

 そして、アスハの生きる時代に繋がる世界を創る為に、俺たちは“選択”をしなければならないのだろう。彼女の時代にもきっとトラブルはあるだろうけど、それでも明日に世界を繋げる為に。



「おふたりがいま何をしているかは存じませんが……遠く未来の世界から無事を祈っています。それでは……これで。あっ、最後に一つ……お母さんに種付けは済みましたか、お父さん?」


「最後に交わす言葉がそれで良いのか……?」


「良いのです……むしろ死活問題です。お父さんがお母さんを妊娠させないと私が生まれないので。頼みますよ、ほんと……雄としての使命、果たしてください。ちゃんと交尾してください、交尾!」


「交尾って言うなし。恥ずかしいだろ」


「大丈夫ですよ、アスハちゃん。我が騎士……ラムダさん、ちゃんとアウラちゃんともズッコンバッコンしてますので♪ いや〜、期待されてますよ……パパさん♪」



 最後の最後に、アスハは思わず赤面してしまうような、他愛のない話をしてきた。顔を赤くしている俺を見て、ノアと二人で笑っている。

 別れ際に湿っぽくするのは嫌なのだろう。もうほとんど身体が消えているのにも関わらず、アスハは楽しそうにしていた。



「それじゃあお父さん、Ms.ノア……お元気で」


「アスハこそ元気でな……頑張れよ」

「アスハちゃん〜、元気でね〜♪」


「おふたりの旅の無事を祈っています……」



 そして、アスハは俺たちの前から姿を消して、元の千年後の未来へと帰って行ったのだった。

 もう階層内には俺とノアの姿しかなく、向こうの方で次の階層へと向かう為のエレベーターがドアを開いて俺たちを待っている。



「では行きますか、我が王……」

「はい、アスハちゃんの居る明日を目指して」



 ささやかな再会を噛み締めながら、俺とノアは次の階層に向かって歩きだす。自分たちの“選択”が、アスハの居る未来に繋がる事を祈りながら。

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