第1063話:VS.【嫉妬の魔王】オリビア=パルフェグラッセ“異聞”⑤ / “I love You”
「おお、やったか……!?」
「それフラグです、お父さん……まだです!」
――――機械梟ミネルヴァから放たれた極大のビームがオリビアに直撃した。発射時の轟音を伴う衝撃波で周囲の建物の窓ガラスが粉々に割れ、着弾時の衝撃波でアスファルトの地面が大きく割れた。
周囲に土埃が立ち込めている。アスハの表情がまだ険しい以上、オリビアはダメージこそ負ったがまだ倒れていないのだろう。
「ぐっ……おのれ、わたし身体に傷を! わたしの身体に傷を付けて良いのはラムダ様だけ……それを娘を名乗る精神異常者風情が!」
「他人を異常者呼ばわりとは……感心しませんね」
「許せない、許せない、許せない!! わたしとラムダ様の時間を……“未来”を邪魔する人は全員許せ……ゲホッ!? うっ……身体が……!?」
ビームの直撃で全身に火傷を負いながら、オリビアはアスハに向けて怨嗟の声を上げていた。相当のダメージを負ったのか、叫ぶと同時に吐血していた。
そして、ダメージを負った事で憑依していたディアナ=インヴィーズにも影響を及ぼしたのか、オリビアの身体からは黒い靄が分離するように溢れ出していた。
「オリビアとのリンクが……乱れる!? やはり我が血族ではない小娘では……我が“器”には相応しくないと言うの……」
「ディアナさん……“時の歯車”の制御を奪わないで……」
「黙りなさい、人間風情が……これは私が所有するアーティファクト。決してお前の持ち物じゃない……碌に扱えない素人が偉そうな口を叩くな!」
依り代であるオリビアがダメージを負った事で、ディアナ=インヴィーズの憑依が乱れつつあるのだろう。彼女はオリビアから“時の歯車”の制御を奪取していた。
どうやらオリビアとの関係に亀裂が入ったようだ。アーティファクトを奪われ、オリビアはディアナ=インヴィーズに見下されるような暴言を吐かれていた。
「今です! 拘束術式……発動!!」
「ぐっ!? ……これはいったい……!?」
その瞬間、オリビアとディアナ=インヴィーズの“魂”が分離した瞬間を狙ってアスハは術式を行使、何重にも張られた光輪でディアナ=インヴィーズを拘束したのだった。
「これでMs.インヴィーズは捕縛しました! Ms.オリビアをお願いします、お父さん! 私はこのままMs.インヴィーズを叩き潰します!」
「オリビアは俺の女だ……返して貰うぞ!」
「これは……“時間静止”の拘束陣か!? おのれ……腐っても私とて“時紡ぎの巫女”! この程度のチンケな魔法に負けるものかァァ!!」
そのままアスハはディアナ=インヴィーズを拘束した魔法陣を高速で回転させて攻撃を開始した。ディアナ=インヴィーズが抵抗する為に激しく魔力を放出している。
その間に俺はオリビアを止めるようアスハに促された。ディアナ=インヴィーズと切り離され、アーティファクトの制御を奪われた今、彼女は恐ろしく無防備だ。
「オリビア……いま助けるからな!!」
「ラムダ様……っ! わたしに近寄らせないで!!」
俺が駆け出すと同時に、オリビアは手に焔を集束させて投げ付けてきた。その焔を俺は脚を止めることなく、迷うことなく魔剣で斬り捨てた。
焔を斬った瞬間、焔が弾けた。その爆風でダメージを負ってしまう。それでも俺はオリビアに向かって走ることをやめず、彼女に向かって勢いよく斬り掛かった。
「オリビア……君をそんなにしてしまったのは俺の責任だ! 俺の馬鹿みたいな生き方が君を地獄に引きずり込んでしまった……本当にすまない」
「ラムダ様……今さら懺悔ですか……!!」
「そうだ……今さら生き方は変えれない。俺は“ノアの騎士”として生きると誓った以上、片時も外れずに君と寄り添うことはできない……だからごめん!!」
俺は魔剣で斬り掛かり、オリビアは杖で応戦する。お互いに得物で応酬し合いながら、俺はオリビアに懺悔の言葉を口にしていた。
たとえ“異聞”とは言え、彼女を“嫉妬の魔王”にしてしまったのは俺の“選択”のせいだろう。なら謝らなければならない。“ノアの騎士”として生きる事を選んだ事を、そしてオリビアの人生に影を落とした事を。
「恨むなら俺を恨んでくれ! 他の誰も恨まないでくれ……世界の事も、ノアの事も! 君の恨みつらみは全て……俺が受け止める!!」
「わたしはそのあなたを失ったのよ……!!」
「君の前から居なくなった俺の分まで、この俺が受け止める! だからもうやめてくれ……みんなを傷つける君の姿を……俺は見たくない」
魔剣と杖が幾度となく激突し、鈍い金属音が鳴り響く中で俺は精一杯オリビアに呼び掛けた。彼女が忘れ去ってしまった優しさを呼び起こす為に。
“異聞”オリビアはディアナ=インヴィーズにつけ入られて堕ちてしまった。けど何よりも、俺を失った事が何よりも耐えがたい苦痛なのだろう。だから呼び掛けた、居なくなった“異聞”の俺の分まで、俺が責任を負うのだと。
「だから……だから辛いのです、だから恨むのです。そこまで言ってくれるあなたが居ない事が……わたしは耐えられない」
「こんな生き方しかできない俺を……許してくれ」
「ラムダ様……あなたが歩む道は過酷な道。あなた自身だけでなく、あなたに関わる人間全てに苛烈に襲い掛かる。あなたの人生は……あなただけのものではないのです」
「分かってる……それでも行かなきゃならないんだ」
「ノアさんが生きている限り……ラムダ様の命が続く限りですか。本当に……あなたは不器用な人ですね、ラムダ様。そんなあなたを愛したわたしもきっと……不器用なのでしょう」
そう懸命に伝えた時、不意にオリビアから狂気が途切れた。ほんの一瞬だけ、俺がよく知るオリビアになったような気がした。
魔剣を杖で弾くと同時にオリビアは後方に跳躍して俺から距離を取った。そのままオリビアは俺に対して微かに微笑んだ。
そして、オリビアは懐から短剣を取り出すと――――
「ラムダ様には……妻殺しは相応しくありませんね」
「やめろオリビア、何をしている……やめろ!!」
――――それを自分の胸に突き立てたのだった。




