第1062話:VS.【嫉妬の魔王】オリビア=パルフェグラッセ“異聞”④ / “Change the Future”
「どうやってインヴィーズを引き剥がす?」
「それは私に策があります。任せて下さい」
――――オリビアに憑依したディアナ=インヴィーズを分離させる為、俺はアスハとの共闘に臨んだ。どうやらアスハには二人を分離させる作戦があるらしい。
アスハは眼を蒼く輝かせながらオリビアを睨みつけている。何か解析しているのだろう。
「まずはMs.オリビアにダメージを与えて下さい。そうすればMs.インヴィーズとのシンクロ率が下がって結合が弱まるはずです」
「分かった。援護を頼む」
「お任せを。ミネルヴァ、戦闘モード起動! 婚約者を痛めつけるのは気が引けるとは思いますが……どうかお願いします、お父さん」
オリビアからディアナ=インヴィーズを引き剥がすには、オリビアにある程度のダメージを与える必要がある。そうすれば二人の融合が弱まるらしい。
アスハの命令を受けた機械梟ミネルヴァが眼を赤く光らせ、全身から電撃を放ちながら戦闘モードに変身する。
「わたしを倒せるものですか……!!」
「杖に魔力が溜まって……来るぞ!!」
俺たちが攻め込むと勘付いたオリビアは右手に握る杖に魔力を集束させ始める。杖にあしらわれた女性のレリーフがうめき声を上げはじめ、徐々に奇怪な音を増幅させていく。
そして、オリビアが杖を掲げた瞬間――――
「悶絶なさい――――“怨嗟の悲鳴”!!」
――――杖から怪音波が放たれた。
女性のレリーフから放たれた悲鳴のような音波が周囲をつんざく。空間がぐにゃぐにゃに歪み、立ってられないような不快な音が脳に響き始めた。
「こ、これは……!?」
「ぐぅ!? ミネルヴァ、障壁展開!」
全員で耳を塞いでその場に仰け反ってしまったが、機械梟ミネルヴァがバリアを展開して防御を施してくれた。
その間に俺は怪音波から身体を守る為に自己改造を施し、反撃の準備を整える。右手に握った可変銃をオリビアに向け、引き金を一瞬の躊躇いの後に引いた。
「オリビア……覚悟ッ!!」
「ふふっ……他愛たりませんね」
撃ち出された魔弾はオリビアに命中することなく、彼女の眼前で焔に灼かれて消滅した。おそらくは“嫉妬”の焔を防壁代わりに使っているのだろう。
だが、俺の狙いは別にある。
オリビアが魔弾を防ぐと同時に俺は空間転移を発動、オリビアの背後に転移して魔剣を一気に振り抜いた。
「無駄ですよ、ラムダ様……視えています」
しかし、オリビアは俺が転移すると同時に後ろに振り向き、手にした杖で魔剣による斬撃を防いでみせた。
「“時の歯車”による未来視か……!」
「わたしには全てが視えています……無駄ですよ」
アーティファクト【時の歯車“来”】による“未来視”、オリビアは俺が射撃に乗じて奇襲を仕掛ける事を予め観測していた。
未来が視えると言うのは戦闘に於いては絶大なアドバンテージを取れる。この未来視を上回りオリビアにダメージを与えるのは困難を極めるだろう。
「さぁ、わたしの“愛”を受け取って下さい!」
「また身体に焔が……くっ!?」
斬撃を受け止めたオリビアの瞳が妖しく輝いた瞬間、俺の身体に焔が包まれだした。彼女の術式による発火現象だ。
防ぎようのない焔が全身を灼いていく。皮膚を耐熱仕様にしてはいるがダメージを防げるものではない。俺はオリビアの目の前で僅かに硬直してしまった。
「これで……ッ!? 後ろから攻撃!」
「ミネルヴァ、ビーム発射!!」
オリビアが俺に追撃を加えようとした刹那、彼女は地上に居るアスハへと視線を向けた。未来視でアスハが仕掛けてくる未来を観たのだろう。
その未来視が正しいと告げるように、アスハの頭上に浮遊する機械梟ミネルヴァは口部を開き、高出力のビームを放ってきた。
「鬱陶しい……効きませんよ、そんなもの!!」
機械梟ミネルヴァから放たれたビームを、オリビアは焔を盾にして防いだ。焔で弾かれたビームが光の粒子になって周囲に拡散していく。
「未来が視えるわたしに隙など……ッ!?」
「だからどうした! 攻め続けるだけだ!」
オリビアがビームを防いでいる間に、アスハが施してくれた時間魔法で全身に付いた焔を消し去り、俺はオリビアに斬り掛かっていた。
アーティファクトで奇襲を未来視したオリビアは再度杖を振って魔剣を防いでみせたが、その表情には焦りが見えていた。
「いつの間に回復を……くっ!?」
防御が僅かに遅れたのか、オリビアは魔剣による斬撃の威力を相殺できずに地面に叩き落とされていた。
ダメージを負っている訳ではないが、何か思う所があるのだろう。着地したオリビアは自身の背後で回る“歯車”の魔法陣を一瞥し、そしてノアへと視線を向けた。
「これは……“時の歯車”に動作が鈍って、未来視の精度が……! まさか……ノアさんの仕業ですか……!?」
ノアは目の前に立体映像でディスプレイを展開し、遠隔でオリビアの所有するアーティファクト【時の歯車“来”】に干渉を行なっていた。
アーティファクト【時の歯車“来”】の開発者はノアである。彼女なら開発者権限を用いて干渉する事が可能なのだろう。
「させません、“愛憎の焔”……」
「オリビア!!」
「……っ、ラムダ様!? 邪魔をしないで!!」
オリビアはノアを焔で灼こうとした。だが、攻撃を仕掛ける前に俺が斬り掛かったせいで、オリビアはノアへの攻撃に失敗していた。
オリビアは杖で魔剣を受け止めつつ、後方に跳躍して距離を取った。そして、俺は立ち止まる暇もなくオリビアへと突撃を開始した。
(我が王の干渉で“時の歯車”の発動が乱れてきている。絶え間なく攻撃を仕掛てオリビアにつけ入る隙を与えさせない!!)
“未来視”には僅かに時間を有する。だから絶えず攻撃を仕掛ければ、オリビアは俺の攻撃を観測し続ける必要を要し、ノアへの対処ができなくなる。
オリビアの背後では杖にチップをインストールし、その形状を射撃武器に換装したアスハが攻撃体勢に入っている。そして、俺の攻撃に合わせてアスハは杖のトリガーを押し込んだ。
「さぁ、防げるもんなら!」
「防いでみなさい!!」
俺が斬りかかると同時に、アスハの杖からは魔力によるビームが発射された。挟み撃ちの攻撃を“未来視”で観測したオリビアは両腕を拡げ、焔の盾を構えて防御の姿勢を取った。
「この程度の攻撃でわたしが……っ!?」
憑依させているディアナ=インヴィーズの魔力も纏いながら、オリビアは俺の攻撃とアスハの射撃を防いでみせた。
しかし、防御した瞬間にオリビアは驚愕の表情をした。“未来視”で攻撃が視えたのだろう。そして、彼女は見落としていた事実にようやく気が付いた。
「挟撃を防ぐために防御した……これで身動きは取れない。どうだ……“未来視”ができても、回避も防御もできない状況じゃどうしようもないだろう!」
「しまった……!?」
「そう言う訳です、Ms.オリビア。目の前の攻撃を防ぐのに夢中で、大局を見誤りましたね! ミネルヴァ、魔弾装填……攻撃準備!」
挟撃を防いだせいでオリビアは身動きが封じられた。その隙を突いて、空中に舞い上がった機械梟ミネルヴァが胸部装甲を開き、内部に内蔵された砲撃機構をオリビアへと向けた。
そして、オリビアが反応するより疾く――――
「Ms.オリビアから離れなさい、Ms.インヴィーズ!」
「これは防げ……ぐっ、あぁぁ!?」
――――機械梟ミネルヴァから撃ち出されたビームがオリビアに直撃したのだった。




