第1056話:VS.【黄金卿】ゴルディオ=オクタビアス“異聞”③ / “Soul Edge”
「剣を突き刺して武舞台を溶岩化したのか!?」
「これでご自慢の駒はトロトロになったぞ!」
――――突き刺された魔剣から発せられた高音が武舞台をマグマに変えていく。武舞台は鈍い赤色で光り、オクタビアス卿が召喚した“駒”は足下からの高温で赤熱化していっていた。
これで逐一直接攻撃せずとも、マグマ化した地面が自動的に“駒”を熱してくれる。そして、魔剣と一緒に左腕を切り離した事にも意味がある。
「なら、その剣を除去するだけ……なっ!?」
魔剣の柄を握り続ける左腕からは強力な電磁波が発生し始めた。触れたものに対して強力な電撃を見舞う即席のトラップだ。
それに気が付いたオクタビアス卿は魔剣による攻撃を中止した。赤熱化して脆くなった“駒”では電撃に耐えきれないと考えたからだ。
「魔剣と腕一本、これであなたの戦術は弱体化を余儀なくされた! さぁ、どうします……その状態で俺を止める事はできますか?」
「片腕だけの状態でよく吠える……!」
「腕一本……利き手が残っていれば俺は戦える! 腕一本でも残っているなら俺は戦う……たとえ死んでも蘇って戦う! 俺が戦いを止めるのは……諦めた時だけだ!!」
魔剣をどうにかするよりも、片腕だけになった俺を倒す方が早いと考えたのだろう。赤熱化した“駒”たちがぎこちない動きながらも、俺に向かってゆっくりと迫ってきていた。
しかし、武器が無くなった訳ではない。俺が残った右手に意識を集中すると同時に、右手に蒼く光り輝く剣が出現し始める。
「固有スキル【煌めきの魂剣】――――発動!」
「シータの術式か……なるほどな」
右手に輝くのは蒼き剣、自らの“魂”を刃として具現化する【煌めきの魂剣】。亡き母から受け継いだ術式だ。
蒼く輝く魂剣を見て、オクタビアス卿は少しだけ懐かしむような表情をした。かつて共に戦った騎士を思い出し、その面影を俺に重ねるかのように。
「行くぞ、オクタビアス卿……覚悟ッ!!」
「猪突猛進……それでこそ彼女の子だ!!」
手にした魂剣を眼前の“歩兵”に投げ付けると同時に駆けだす。オクタビアス卿は母さんが使っていた術式を知っている。初見殺しはできない。
魂剣が刺さった“歩兵”が粉々に砕け、同時に二騎の“騎士”が大きく跳躍して攻撃の準備に入った。
(“騎士”の狙いは……地面の粉砕!)
“騎士”の駒は俺を直接は狙っていない。脆くなっている状態では俺に返り討ちに遭うだけと判断したのだろう。
狙いは着地と同時に武舞台を叩き割って、俺の足取りを乱す事だ。マグマ化した武舞台自体も脆くなっている。“騎士”の着地と同時に破壊は可能だろう。
「“騎士”よ、地を砕けッ!!」
二騎の“騎士”が俺の目の前に着地すると同時に、その衝撃で周囲数メートルが粉砕して隆起し始めた。そして、使命を全うした“騎士”は着地の衝撃に耐え切れずに瓦解した。
足下の武舞台が不規則に隆起している。まともに走ることは出来ないし、無理に走破しようとしても自ずとルートが限られてくる。つまり、オクタビアス卿に動きが読まれてしまう。
「ならば……跳ぶまで!!」
「跳べば格好の的だぞ!」
壊れた武舞台に足下を掬われる前に、地面を蹴って俺は大きく跳躍した。数メートル跳んで盤面を俯瞰する。
オクタビアス卿の召喚した“駒”の全てが俺を狙っている。“歩兵”たちは剣を構えて着地を狩る用意を、“女王”と“僧正”は手にした杖を俺に向け魔法を撃つ用意をしている。
(着地する前に“駒”を全て破壊する!)
着地地点はオクタビアス卿の目の前だ。だが、着地する前に“駒”を全て破壊する必要がある。
俺は魂剣を三本、柄を指で挟むような形で生成して握り締める。そして、身体を捻って空中で回転しつつ魂剣を三方向に向かって矢継ぎ早に投擲した。
「翔べ――――“葬蒼三散華”!!」
投擲した魂剣はそれぞれ二騎の“僧正”と“女王”の頭部をに突き刺さった。
“僧正”は魂剣が突き刺さると同時に崩れ落ちて壊れた。だが、“女王”の駒だけは他よりも頑丈なのか壊れず、なおも魔法を放とうとしていた。
「“女王”は簡単に落ちん……“黄金雷撃”!!」
「ぐっ……この!!」
反撃とばかりに“女王”の手にした杖から雷が放たれて襲い掛かってきた。全身に凄まじい電流が流れ、激痛が走って動きが鈍る。
このまま無抵抗のまま落下すれば、待ち構えている“歩兵”たちが一斉に襲い掛かってくるだろう。だから俺は歯を食いしばり、さらに攻撃を加える準備をした。
「魂剣展開……!」
「これは……!」
自分の周囲に短剣を模した魂剣を大量に生成する。その数は百本、正確に狙いを付ける必要も無い、ただオクタビアス卿を巻き込むように斉射すればいい。
「“蒼穹百連”!!」
「これは……ぐっ、おぉぉ……!?」
右腕をオクタビアス卿に向けた瞬間、周囲に浮かんでいた百の魂剣が一斉に射ち出された。雨のように振り注ぐ刃は武舞台に立つ“駒”を次々と破壊していく。
七騎の“歩兵”はあっという間に、最初の投擲を耐えていた“女王”も斉射には耐え切れずに崩壊した。残すは斉射を盾で耐えたオクタビアス卿だけだ。
「これで一対一だ、オクタビアス卿!!」
「ラムダ卿……ここまで肉薄するか!!」
オクタビアス卿の目の前に着地して、右手に魂剣を生成して握り締める。もうオクタビアス卿を守る“駒”は居ない、今から召喚しても間に合わない。
「だが、私とて意地がある……“黄金王”!!」
「自分に黄金を纏わせて……!!」
俺と対峙したオクタビアス卿は自身に大量の黄金を纏わせて、自分の甲冑と武具を強化した。甲冑は動きが鈍重になるぐらいに分厚くなり、剣と盾も巨大化している。
オクタビアス卿は自分を“王”の駒に見立てたのだ。つまり、このままオクタビアス卿を討ち取ればめでたく“チェックメイト”である。
「さぁ、私を超えてみろ……ラムダ卿よ!!」
「これでチェックメイトだ、オクタビアス卿!」
オクタビアス卿が盾を構えつつ、巨大化した剣を振り下ろしてきた。剣の強度はオクタビアス卿の方が上だ。それに俺が手にした魂剣はトドメ用だ。
俺は魂剣を握ったまま人差し指と中指を立てて迎撃用の魂剣を作り出した。生成場所はオクタビアス卿の真上、全長三メートルにも及ぶ巨大な蒼剣だ。
「王を討て――――“王殺しの剣”!!」
「真上……しまった!?」
立てた指を再び柄を握るように動作させた瞬間、オクタビアス卿の頭上に生成した蒼き大剣が勢いよく落下し始めた。
頭上からの攻撃に気が付いたオクタビアス卿は咄嗟に盾を構えて防御体勢に入った。しかし、彼は失念していた。自分の纏う防具や盾も、武舞台のマグマ化の影響を受けて脆くなっているのを。
「これは……耐えきれ……ぐあッ!?」
落下してきた大剣を受け止めきれず、オクタビアス卿の盾は粉々に粉砕した。その衝撃でオクタビアス卿は体勢を崩してしまった。
それでも彼は手にした剣で俺を斬ろうとしたが、姿勢が崩れたせいで軌道の逸れた攻撃を躱すのは容易かった。身体を駒のように回転させつつオクタビアス卿の振り下ろした剣を躱し、トドメの一撃は放つ体勢に入る。
そして、オクタビアス卿が反撃するより疾く――――
「チェックメイト――――“蒼終閃”!!」
「避けきれ……ぐっ、オアアッ!!?」
――――蒼き魂剣は彼の胸部を深く斬ったのだった。




