第1055話:VS.【黄金卿】ゴルディオ=オクタビアス“異聞”② / “Check Knight”
「さぁ、ラムダ卿。我が布陣、どう攻略する?」
「…………ッ!」
――――オクタビアス卿を護るように八騎の“歩兵”と一騎の“騎士”、俺の背後には迂闊な行動を咎める一騎の“騎士”。一手間違えれば即座に刈り取られる、まさにチェスの盤面さながらだ。
殺気を放ち威圧感を放ちながらその場に留まり思考を回転させる。勝つための作戦、オクタビアス卿を上回る戦術を。
(“駒”はオクタビアス卿の術式で魔力が続く限り精錬される……倒してもキリが無いのは明白だ。ならば“打ち手”であるオクタビアス卿を倒すのが王道か……)
使役されている“駒”を薙ぎ倒しても意味が無い。術式の使用者であるオクタビアス卿、“駒”の打ち手である彼を倒さなければならない。
しかし、オクタビアス卿は大量の“駒”に守られている。その気になればさらに追加の“駒”を召喚できるので守りも盤石だろう。
「随分と長考だな……チェスは苦手か? そうやって盤面を俯瞰しようとするのはアハト卿に似ているな」
(オクタビアス卿に食い付かないと……)
「だが……生憎とお前の手番を待つほど私も暇じゃ無い。攻め込まぬのなら……私の方から攻めさせて貰うぞ! 騎士よ、ラムダ卿を討ち取れ!!」
俺が持つ“神殺しの魔剣”ラグナロクは刀身から魔力を放出できる性質のおかげで火力自体は高い。オクタビアス卿の“駒”を大火力で薙ぎ払うこと自体は可能だろう。あとは“駒”を薙ぎ払った隙にオクタビアス卿に距離を詰めるだけ。
しかし、その隙すら与えさせない、というのがオクタビアス卿の戦術らしい。俺の背後では“騎士”が剣を振り上げて攻撃を仕掛けようとしていた。
「――――くっ!」
“騎士”の攻撃をバックステップで躱し、振り向きざまに反撃に転じようとした。だが、今度は背後でオクタビアス卿を守る“駒”が俺に剣を振りかざしていた。
「仕留めろ!!」
「――オオッ!!」
“騎士”と“歩兵”たちが剣を振り下ろす直前、攻撃に勘付いた俺はその場で大きく跳躍した。
“駒”たちの攻撃は何も無い地面を砕き、同時に俺は空中で宙返りをして今しがた攻撃を仕掛けてきた“騎士”の上に着地しようとしていた。
「この野郎……フンッ!!」
「騎士を……踏み台に!?」
“騎士”の頭に着地した瞬間、思いっ切り踏み込んで再跳躍する。そのままオクタビアス卿を飛び越えて着地し、オクタビアス卿の背後を取ることに成功した。
「これなら……!」
「飛び越えとは……“騎士”らしいな!」
オクタビアス卿の背後で魔剣を構える。今なら彼を守る“駒”は居ない。魔剣の火力を直に叩き込む事ができる。
オクタビアス卿は俺の方向に振り向いて盾を構えている。お互いの距離は三メートル、魔剣の射程範囲内だ。俺は魔剣を刺突の体勢で構え、刀身に魔力を集束した。
「魔剣駆動、喰らえ――」
「甘いぞ! “黄金僧正”!!」
「――ッ!? 伏兵……!?」
しかし攻撃しようとした刹那、俺の斜め後ろから“僧正”を模した“駒”が急降下して落下攻撃を仕掛けようとしてきていた。
オクタビアス卿が背後を取られた際の保険として後方に予め配置していたのだろう。慌てて真横に転がって回避行動を取り、俺は“僧正”による奇襲を躱していた。
「出でよ――――“黄金女王”!!」
「くっ……召喚の隙を与えてしまった……!」
俺が回避行動を取った一瞬の隙を突いて、オクタビアス卿は目の前にティアラを着用した女性を象る、“女王”の駒を召喚していた。
“女王”は手にした杖を高く掲げると、その杖の先端に黄金に輝く雷を迸らせていく。
「喰らえ――――“黄金雷撃”!!」
「――――ッ!?」
繰り出されたのは“女王”の杖から全方位に放たれる雷の雨だった。雨のように振り注ぐ雷撃が武舞台を無差別に攻撃する。
雷は当然、俺にも容赦なく振り注ぐ。魔剣で雷をガードする事はできたものの、俺の動きは完全に止まってしまった。
「いい反応だ、だが……これならどうだ!」
「――――うわ……っと!?」
そして、“女王”が放った雷の一つが俺の目の前に落下し、その際の衝撃波で俺は大きく弾かれてしまった。
そのまま数メートル吹っ飛んだ俺は空中で宙返りして着地して体勢だけは立て直す事ができた。しかし、オクタビアス卿との距離は大きく開いてしまった。
「…………布陣を敷き直されてしまった」
「残念だったな、ラムダ卿……実に惜しかった」
体勢を立て直した時、オクタビアス卿はすでに布陣を敷き直していた。オクタビアス卿の前には“歩兵”がズラリと並び、二騎の“騎士”が待機している。
俺の左右には二騎の“僧正”が待機しており、オクタビアス卿自身は“女王”を脇に配置している。
「その魔剣での大火力も、お前自身の動きも、我が“駒”が封じ込める。猪突猛進では“王”を討ち取ることは不可能だ……さぁどうする?」
(やっぱり……“駒”をどうにかしないと……)
オクタビアス卿を打倒しようにも、彼が操る“駒”の連携がそれを阻んでくる。やはり、“駒”に対処しなければ勝機は薄いだろう。
俺はしばし考えた。
どうすれば“駒”を封じれるか。
純金で精錬された“駒”は熱に弱い、しかしただ熱しただけでは即座に新しい“駒”を補充されていたちごっこになる。もっと根本的な、永続的に駒を熱せる手段が欲しい。
(一か八か……やってみるか)
手にした魔剣をほんの少しだけ眺めて、俺はある手段を思い付いた。それはあまりにも無謀で危険な賭けだ。
しかし、オクタビアス卿の意表を突けるかも知れない。俺は自身の直感を信じて魔剣にありったけの魔力を注ぎ、刀身が赤熱化する程の熱量を与えた。
「また駒を熱する気か? それは無駄だと……」
「いいや、無駄じゃない……こうするんだ!!」
「……っ! 剣を武舞台に突き刺した……?」
そして、俺は熱した魔剣を武舞台に思いっ切り突き刺した。その数秒後、魔剣から放出された膨大な熱量が武舞台に伝わり、武舞台そのものが熱せられ始めた。
石造りの武舞台が赤熱化してマグマのようになり始める。同時にオクタビアス卿が配置した“駒”の全てが熱せられて脆くなり始め出した。
「これは……私の駒が!?」
「さぁ、どうする……こうするんだよ!!」」
そして、武舞台に突き刺した魔剣を握ったままの左腕を切断して置き去りにして、俺はオクタビアス卿への反撃の準備を整えたのだった。




