第1048話:VS.【預言天使】ジブリール“異聞”② / 戦争と平和
「出力向上……臨界、臨界、臨界」
――――ジブリールは自らの炉心を臨界させ、その性能を完全に引き出し始めた。全身からエメラルド色に輝く粒子状のエネルギーを放出し、背中の翼を一回り大きくなっている。
まるで天から舞い降りたような神々しくも美しい姿は、まさしく天の御使いを想像させる。彼女の目的が『殲滅』でなければ、その姿に見惚れていただろう。
「ウィング展開――――“天の裁き”」
「これは……さっきよりも激しい……!?」
ジブリールのバイザーの“一つ目”が朱く輝いた瞬間、彼女の翼からは巨大な光弾が雨のように射出され出した。
さっきまでのシールドで防げる程度の牽制弾ではない、直撃すればタダでは済まないであろう威力の“大砲”が無数に撃ち出されている。
「メトロポリスを数分で火の海に変える光の雨……ソドムとゴモラを呑み込んだ神罰の再現。一個人に使うには火力が過剰、この軌道エレベーターに損傷を与える可能性が極めて高いですが……どうぞご堪能下さい」
「――――ッ! “光の羽根”!!」
咄嗟に翼を拡げ、光弾を撃ち出す事で抵抗を試みた。俺の目の前で光弾と光弾が激突し、空中で大爆発を引き起こす。
爆発の一つひとつがちょっとした建造物を一瞬で破壊する威力を秘めている。壁や地面は爆発で壊れ、“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトが再現した回廊の映像に激しくノイズが走る。
「荷電粒子砲……セット」
「まだ余力が残っているか……!」
さらにジブリールは荷電粒子砲を構え、砲口を俺へと向けてきた。すでに大規模爆撃をしている状態でさらに高出力砲撃を撃とうとしているのだ。
ジブリールは躊躇う事なくトリガーを引いて荷電粒子砲を撃ち込んできた。凄まじい空気の嘶きが起こり、白く輝くエネルギー状の砲撃が俺へと迫りくる。
「炉心臨界――――【オーバードライヴ】!!」
これ以上の出し惜しみは“死”を招く。俺は心臓を臨界状態させ、ジブリールの猛攻に対する反撃を試みる事にした。
翼から放つ光弾の出力を引き上げ、魔剣を腰に装着して格納しつつ両手に可変銃を握りしめる。
「“可変銃”、対艦砲撃形態! 砲撃開始!!」
そして、両手の可変銃の引き金を引いて、高出力砲をジブリールの荷電粒子砲に向けて発射した。空中で高出力の砲撃と砲撃が激突し、激しい爆発が発生する。
そのあまりの衝撃に“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトが激しく揺れ、嵐のような衝撃波にノアはふっ飛ばされて壁に激突している。
「弊機たちに匹敵する火力……人間に出せる出力を遥かに超えています。ラムダ=エンシェント……貴方の出す力はすでに人智を超えています」
「…………ッ!!」
「それはすでに“兵器”と呼んで相違ない出力です。人間の文明を容易く破壊する程の力を得てまで……貴方はノア様の騎士をしたいのですか?」
ジブリールの猛攻に拮抗はできている。しかし、真に重要なのは『機械天使の火力に対抗できている』という点だった。
今のジブリールの火力は大都市を数分で灰燼に帰す程のものだ。それを俺自身も扱える事になってしまっている。つまり、俺がその気になれば大都市すら数分で消し炭にできる。
「不可視の壁に激突して気絶し、潰れたカエルのように伸びているノア様は……古代文明の“戦争”は非効率なものだと考えました」
(また潰れたカエルになってる……)
「大型ロボットである鋼鉄巨兵とそれを支援する艦隊による不毛な撃ち合い……資源と時間の無駄です。人間と同サイズの兵器かつ超高出力である弊機たち機械天使による短時間の殲滅こそが効率的な戦争です」
「戦争に“効率”を求めるのか……お前!」
「肯定――――結末が分かっている戦争をダラダラと長引かせるのは非効率です。開戦から三年続いた『神託戦争』は機械天使の実戦投入から僅か一週間で終結しました」
「…………!」
「各地のメトロポリスを一気に失い、聖地すら陥落させられ……旧き“神”を信仰していたアースノイドたちは降伏した。弊機たちは最短最速で戦争を終わらせ、世界に“平和”を齎したのです」
「それを平和と呼ぶのか……」
「戦争が起これば、勝敗が決さぬ限り戦いは終わらない。話し合いで戦争が終わるケースの場合、それはあらゆる陣営が大打撃を受けた……手遅れであるケースが大半です。それよりはマシだとは思いませんか?」
砲撃を撃ち合いながら、ジブリールは機械天使としての『戦争』を語った。それは圧倒的な火力で敵を瞬きの間に殲滅し、戦闘を短期間で終結させると言った内容だった。
起きてしまった戦いはなるべく早く終わった方が良い。それは事実だが、その為に相手を容赦なく殲滅するのは俺の美学には反する。
「その表情……納得しかねる、と言いたげですね。ですが、この先……貴方は否が応でも非情にならねばなりません。弊機はその心理を貴方に伝えます……伝えて苦しめと管理者は命じています」
「トネリコの差し金か……」
「戦争に個人の“美学”を持ち込んで、それで無意味に戦争を長引かせれば……最も被害を被るのは巻き込まれる民間人です。それでも貴方は戦争に“騎士道”を持ち込むおつもりですか?」
「…………ッ!」
「貴方の手にした“兵器”……その引き金一つで数万人の命が消し飛ぶ。その重さを理解していますか? 戦争は“英雄”を生み出す為の『演劇』ではありません……相互理解できない者たちの歪んだ『対話』なのです」
戦争は“英雄”の為の舞台ではない、あくまでも対話なのだとジブリールは指摘する。確かにその通りかも知れない。何万もの人命の屍の上に“英雄”が生まれるような舞台であってはならない。
「貴方は戦いを武功を立てる場だと考えている……それは騎士の家系ゆえの思想でしょう。それはこの先、捨てる事を推奨します。戦争とはもっと残酷で、英雄無き戦場でなければなりません」
「…………」
「無慈悲に引き金を、冷酷に殺戮を、兵器に“愛”は不必要……真に平和を願うなら、戦う貴方に意志は不要です。ノア様の意志を代行するのなら、“兵器”としての自覚を持つのです、ラムダ=エンシェント」
まるで俺を諭すように、ジブリールは戦争への心得を説く。それは“英雄”が当たり前のように存在する俺たちの時代には無い、英雄無き世界の考え方だった。
ジブリールの言葉を聞いて、自分の中で考え方が少し変わった。俺は戦いで“ノアの騎士”である事を証明しようとしていたが、それはきっと傲慢な考え方だったのだろう。
「ラムダ=エンシェント、貴方はこのユグドラシル・シャフトで変わる……極致へと至るのです。これはその為の儀式……全ての試練を乗り越えた時、貴方はアーティファクトとして完成に至るのです」
「…………ッ!!」
「その為にも……この弊機を討ち倒すべきです。貴方がノア様に真に忠誠を誓う“騎士”ならば……自覚して下さい。貴方はノア様が振るう“兵器”なのだと」
そして、この“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトの試練は俺に課せられた『儀式』なのだと宣言し、ジブリールは攻撃の威力をさらに増大させてくるのだった。




