第1046話:Beat the Angle
「第四十階層……やっぱり見覚えのある場所だな」
――――“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフト、第四十階層。“異聞”ゼクス=エンシェントを撃ち破り、さらなる上層階に辿り着いた俺たちを待っていたのは、またしても見覚えのある景色だった。
何処までも続く白亜の回廊、その最深部に聳える巨大な門。時間に忘れ去られたように佇む“永遠の今日”の牢獄。
「“逆光時間神殿”ヴェニ・クラス……」
グランティアーゼ王国の一画に在った迷宮、“逆光時間神殿”ヴェニ・クラス。エルフ族から代々選出される“時紡ぎの巫女”が管理する神殿、古代文明の遺産である旗艦アマテラス、その内部に眠る九番目の終末装置“光の化身”アルテマを封じた場所だ。
「此処で俺たちはアウラと出逢い、ツヴァイ姉さんと協力して魔王軍最高幹部のレイズ=ネクロヅマと戦った。あの時はみんなゾンビ化させられそうで大変でしたね、我が王?」
「ええ、そうですね……」
「そして、俺はこの場所……“天ノ岩戸”であいつと戦い、旗艦アマテラスであなたの出自を知った。古代文明が造り出した人造人間……ノア=ラストアークを」
“逆光時間神殿”ヴェニ・クラスに侵攻してきた魔王軍最高幹部レイズ=ネクロヅマを撃退するべく、ツヴァイ姉さん率いる竜騎士部隊、当代の“時紡ぎの巫女”だったアウラ=アウリオンと協力して俺たちは戦いに関与した。
そして、その戦いの中で俺はノアの出自を知った。古代文明の科学者たちが人為的に生み出した人造人間、通称“人形”と呼ばれる少女ノアの事を。
(だけど、俺はまだ古代文明でのノアの事をちゃんとは知らない。その時の事を知っているのはホープとトネリコ、機械天使たち、そしてノア本人だけだ……)
だが、まだ俺は『ノア=ラストアーク』という少女の全貌を掴めてはいない。ただ命を賭けて仕える意義のある人物だと感じ、この剣を捧げただけにすぎない。
いずれ、俺はノアの全てを知ることになるのだろう。目の前に聳える門を眺めながら、そんな予感を俺は感じていた。
「物思いに耽るのはここまでです、我が騎士。上を……この階層のガーディアンが現れました」
そんな俺に気を引き締めるようにノアが促す。どうやら此処を守るガーディアンが出現したらしい。ノアが指差す頭上を見上げれば、其処には輝く翼を広げた天使が一機浮かんでいた。
黒いレオタードのようなボディースーツを纏い、手脚に機械式のアーマーを装備し、その眼を朱い一つ目が特徴的な仮面で覆い隠し、背中から白く輝くエネルギー状の翼を生やした、ピンク色と水色の二色で構成された髪をした少女。
「起動、起動、起動……」
「ジブリール……!」
その名は機械天使ジブリール――――ノア=ラストアークが開発した人型戦闘兵器。“逆光時間神殿”ヴェニ・クラスの深部にて旗艦アマテラスへと続く“天ノ岩戸”を守り続けていた天使だ。
ジブリールは頭上からゆっくりと降下して地上に降りると、バイザーの一つ目を輝かせて俺たちを凝視し始めた。
「お前が此処のガーディアンか?」
「肯定――――軌道エレベーター:ユグドラシル・シャフト管理システム『A.E.S.C.』より要請を受理、幻影体を構成。機械天使ジブリール“異聞”、本階層のガーディアンとして侵入者ラムダ=エンシェントを排除します」
「狙いは俺か……!」
「肯定――――弊機はシステムによって再現された幻影、本物ではありません。ですので、申し訳ございませんが弊機の命令権は管理者トネリコにあります。弊機は貴方をマスターとは認めません、ラムダ=エンシェント」
本来のジブリールはノアの護衛としてラストアーク騎士団に同行しているが、目の前に居る“異聞”ジブリールの命令権はトネリコにありようだ。
両腕に主武装である荷電粒子砲を装備し、ジブリールは俺とノアに狙いを定めている。相手は人型の戦闘兵器、話し合いには応じてくれなさそうな雰囲気だ。
「弊機は……人間的な揺らぎで貴方を評価はしません。弊機はあくまでも測定します……貴方がこの軌道エレベーターを制覇するのに相応しい実力者であるかを」
「なら壊していく……構わないな?」
「肯定――――弊機を破壊する事で上層階への道が開かれます。しかし、ラムダ=エンシェントを全力で排除せよと指令を受けています。手加減できませんので予めご留意下さい」
ジブリールは淡々と機械的に、ラムダ=エンシェントを排除する、手加減はできないと通告してきた。
そして、敵を排除しなければならないのは俺も同じ。左手に魔剣を、右手に可変銃を握り、ノアに下がるように促しつつ俺はジブリールと相対する。
「対象:ラムダ=エンシェントの武装を確認、殲滅形態へ移行します。起動、起動、起動……人型戦闘兵器『機械天使』、タイプ:β’,ジブリール……起動開始」
「我が王よ……離れていて下さい」
「これより指令に従い、ラムダ=エンシェントを排除します。全機関、限定解除……駆動開始。対象を殲滅せよ、対象を殲滅せよ。荷電粒子砲……放て」
そして、ジブリールが大きく浮き上がり、両手に握った荷電粒子砲から砲撃を躊躇なく撃ち出した瞬間、冷酷無比な殺戮兵器との死闘が幕を上げたのだった。




