第1042話:VS.【黒騎士】ゼクス=エンシェント“異聞”③ / “Black Butterfly”
「さぁ~て……ほんじゃ殺すわ、ラムダちゃん」
――――ゼクス兄さんが魔法陣から召喚したのは十基の短剣状のアーティファクト、“駆動斬撃刃”。脳波によって遠隔で操ることができる兵器だ。
それを周囲に従えてゼクス兄さんは俺に照準を定めている。そのアーティファクトを見た瞬時、俺はある不安を抱いた。
「止めるんだ、ゼクス兄さん! それは……」
アーティファクト“駆動斬撃刃”は操作するのに脳波を用い、駆動に電力代わりの魔力を相当に費やさねばならない。一基扱うだけでも頭痛と疲労を伴う諸刃の剣だ。
本来のゼクス兄さんはこのアーティファクトを扱えきれず、最終的に自分を刺してしまい自滅した。またそうなるのではないかと危惧してしまったのだ。
「その反応……どうやらコイツのデメリットは知っているらしいな。ああ、たしかにコイツはとんだじゃじゃ馬だ……最初に使った時は俺様も制御できずに自滅して重傷を負った。優秀な治癒術師がいなかったらヤバかったぜ」
「ならなぜ使用を……!」
「だから俺様はこのアーティファクトを使用する方法を模索しまくった! 駆動の為の魔力を前もって充填して負担を減らし、予め『どう動くか』を指定した呪文を刻んで脳波コントロールを無くし、才能の無ぇ俺様でも扱えるように工夫に工夫を重ねた……」
「…………ッ!」
「才能が無ぇなら知恵を絞って工夫する、天才に凡夫が勝ちてぇなら搦め手を磨く……そうやって俺様は這い上がったんだよ! 最初からアーティファクトに……運命に愛されたテメェと一緒にすんじゃねぇよ!!」
しかし、“異聞”のゼクス兄さんは“駆動斬撃刃”を扱えるように工夫を重ねて、自身への負担が最小限になるようにしていた。
ゼクス兄さんは言う、才能に愛された天才たちに喰らいつく為に、凡夫である自分は知恵を絞って邪道な戦い方をするのだと。それが“異聞”ゼクス=エンシェントが“選択”した戦い方だった。
「そう言う訳だ……心配するなら自分の心配をしな、ラムダちゃん。言っておくが……この“駆動斬撃刃”にも俺様の針を射ち込んである。受ければテメェを蝕むぞ」
「…………ッ!!」
「俺様を甘く見積ったな……この馬鹿が! ゼクス=エンシェントを舐めんじゃねぇ! さぁ、獲物をズタズタに切り裂けや、ビットォォ!!」
そして、ゼクス兄さんの叫びと共に、“駆動斬撃刃”が一斉に俺に向かって翔んできた。動きはどれも単調な直線移動だ、回避するのは訳ない。
問題があるとすれば、今の俺はゼクス兄さんの術式で身体能力が下がっている事だろう。身体能力は通常の三割程に低下している。このままではまともに動くこともままならない。
「くっ……【オーバードライヴ】!!」
「ハッ、俺様相手に全力かよ……なっさけねぇな、ラムダちゃん。それが英雄様の姿か? 呆れすぎてムカつくぜ……さっさと死ねや!!」
「それを誇れないなんて……捻くれてますね!」
一か八か、俺は【オーバードライヴ】による身体能力の瞬間強化に賭ける事にした。心臓で精々される魔力量を限界以上に引き出し、能力を肉体スペック以上に引き出す決戦術式だ。
それを用いて低下した身体能力を補った俺は後方に大きく跳躍して、迫りくる“駆動斬撃刃”と距離を取った。ゼクス兄さんが操るアーティファクトに対抗する手段を用意する為に。
「来い……“駆動斬撃刃”!!」
「へぇ……テメェも持ってやがったか……」
俺が取り出したのはゼクス兄さんが操るのと同じ短剣状の兵器、アーティファクト“駆動斬撃刃”だ。それを相手と同じ数である十基展開し、俺は迎撃の準備を整えた。
(しかし、ゼクス兄さんのビットは衰弱付与の特性が付与されている。同条件で打ち合えば、俺のビットは次第に性能が落ちていく筈だ。今さらゼクス兄さんの術式を分析する暇は無い……殺られる前に殺るしか勝機は無い!)
懸念点はある。ゼクス兄さんの“駆動斬撃刃”には無機物にも有効な衰弱付与の特性が付与されている。打ち合ってもその内に俺の“駆動斬撃刃”が押され始めるだろう。
そうなる前に、お互いに実力が拮抗している内にゼクス兄さんに決定打を与える必要がある。そう判断して、俺は“駆動斬撃刃”をゼクス兄さんの“駆動斬撃刃”を迎撃するように飛ばした。
「ビット、ゼクス兄さんのビットを迎撃しろ!」
十基と十基、合計二十の短剣が闘技場内で激しく激突し合う。あちこちで火花を散らし、剣戟の音を鳴り響かせながら。
ゼクス兄さんの“駆動斬撃刃”は弾かれると同時に俺に切っ先を向けて再度加速をし始める。迎撃に動く俺の“駆動斬撃刃”は完全に無視してる。
(ゼクス兄さんが刻んだ命令呪文は『ゼクス=エンシェントが定めた標的に向かって攻撃しろ』という内容か? それなら対処は可能か?)
時折迎撃をすり抜けて飛んでくる“駆動斬撃刃”の攻撃を躱しながら、ゼクス兄さんの動向に気を付けつつ対策を練る。
ゼクス兄さんが操る“駆動斬撃刃”は単調な動作しかしていない。負担にならないように複雑な呪文は刻んでいないのだろう。
「まずは動きを観察して情報を得る……思ったより冷静じゃねぇか、ラムダちゃん。だがよ……あんまりビットや俺様に気ぃ取られてるようじゃまだ拙いな」
「これは……最初に見た黒い蝶……?」
「言っただろ……術式を改良したと。格上の猛者を狩るために俺様は技を徹底的に磨き上げた! ラムダちゃん、テメェを殺して俺様は自分の価値を証明してやる!!」
ふと、自分の周りに黒い蝶が数匹飛んでいるのが見えた。ゼクス兄さんが現れる前に目撃したのと同じ黒い蝶だ。
間違いなく、この黒い蝶たちもゼクス兄さんの術式で構成された“攻撃”だ。俺がそう思った時には、すでにゼクス兄さんの攻撃は始めっていた。
「そいつは“黒死蝶”……獲物に“死”を告げる俺様の使い魔よ! さぁ、蝶どもよ、ラムダちゃんに針を射ち込んでやりなァ!!」
「これは……口が針になって!?」
「戦いってのは……最後に勝った奴が正義なんだよ! ラムダちゃん、テメェは俺様よりも弱ぇって事実を教えてやんよ……ヒャッハハハハハハ!!」
黒い蝶たちは口部に装着された衰弱の針を俺に向けて、猛スピードで一斉に飛び掛ってきたのだった。“駆動斬撃刃”すら囮、ゼクス兄さんの本命はこの蝶たちだ。
そして、逃げ場の無い包囲攻撃が俺に向かって、容赦なく迫ってき始めるのだった。




