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第107話:終末装置【光の化身】


「行き先は旗艦『アマテラス』の動力炉リアクターがある機関室――――トラム、発進!」



 旗艦『アマテラス』、艦内トラム――――時刻は夕暮れ前。レイズとの戦いで消費した体力を回復させた俺たちは見張り役で聖堂に残ったツェーネルたちに見送られて三度みたび迷宮ダンジョン攻略を開始。


 ノアの手で行き先を定められて走り出したトラムに揺られながら、俺たち【ベルヴェルク】とツヴァイ姉さんは来るべき決戦に備えていた。



「う~ん……うう~ん……頭がズキズキしますぅ……!」

「大丈夫、オリビア? ツヴァイが持っていた頭痛薬飲む?」

「ありがとうございます、リリィさん〜……!」



 あの時の()()()()()()オリビアの異変を本人から聞きたかったが、生憎あいにくとオリビアは酷い頭痛に頭を抱えてリリィの介護を受けている真っ最中。


 それに、本人はどうやら前後の記憶が曖昧あいまいな模様……俺はオリビアが回復するのを黙って見守るしかなかった。



「あ~、アリア……その、マフラー……落ちてたよ……」

「あっ……/// あ、ありがとう……ラムダさん///」

「…………///」

「あの……/// ごめんなさい……///」

「気にしてない、俺は何も見ていない……マ、マフラーを拾っただけだから……///」

「うん……///」



 で、黙っている時間が窮屈きゅうくつで昨日拾ったマフラーを隣でもじもじしていたミリアリアに()()()()()()()()返却したが、やっぱり少し気まずくて、ミリアリアもいつもよりも“女の子”のような仕草で恥ずかしそうにしていた。


 意識しているのか、俺も、ミリアリアも…………てっきり、俺たちはお互いを『仲間』だと思っていたが、やはり“性別”の壁は越えれないのだろう。


 オリビアの指摘のせいで……俺はミリアリアを『異性』として意識し始めてしまっていた。



「うぅ……恥ずかしい///」

「…………」



 動きやすいように肩までで切り揃えられた淡いピンク色の髪、上質の“翡翠エメラルド”のような碧い瞳、冒険者用の軽装のせいで程よく露出した健康的な素肌、昨日の出来事を思い返しているせいか羞恥心ちゅうちしん上気じょうきした頬、上着とズボンの隙間からちらりと見える臍部さいぶくぼみ。


 意識していないように見せかけて、さり気なく『女』を主張したミリアリアの容姿が俺の脳裏に焼き付いていく。


 他の女性陣とは違う『恋』を知らなかったであろう無垢な少女が、初めて『恋』を自覚したが故の気恥ずかしそうな横顔がとても魅力的に映ってしまう。


 だから、気になった……ミリアリアが俺をどう思っているか。



「アリア……俺のこと、どう思っているの?」

「う、うぇ……/// ぼ、僕はその……ラムダさんのこと……あの、ええっと……///」



 言葉に詰まるミリアリア――――当然だ、俺に向かって『好き』と臆面もなく言えるノアとオリビア、リリィとレティシアが積極的すぎるだけだ。


 普通は恥ずかしくてこうなる……俺もオリビアと『婚姻関係』だった頃は奥手で、メイドだった母さんによくからかわれていたからよく分かる。


 俺も……少しオリビアたちの『積極性』に感化されたのかも知れない。



「僕は……その、僕は……あの、えっと……ううう……/// 僕は……ラムダさんが……その……す、す――――」

《到着――――機関室、機関室。入室の際はIDカードの提示をお願い致します》

「はい、到着〜♪ こちら旗艦『アマテラス』の心臓部……動力炉リアクターになりまーす♪」

「ふぅ……このトラムに乗っていないと格納庫の【機械天使ティタノマキナ】が一斉に起動する可能性があるとか、考えただけでも吐きそうですわ……あっ、乗り物酔い……オェーーッ!!」

「キャアーーッ!? レティシア様、何をいきなり吐いているんですかーーッ!?」

「あっ……残念、もう着いたのか……レティシア、また吐いたのか……」

「――――き……うぅ、ラムダさん……聴いてなかった……」



 思い切ってミリアリアに俺をどう思っているか聴いてみたが、残念な事にトラムは目的地に到着してしまい、音声案内アナウンスとノアの大声でミリアリアの声はかすれて聴こえなかった。



「ごめん、アリア……また今度、聞かせて?」

「うぅ……ラムダさんのいじわるぅ〜///」



 他愛ない会話だったが、今はアウラの命に関わる時…………ノアの案内の元、俺たちはトラムの駅から機関室へと向かう。


 パイプから漏れる蒸気スチーム、不気味に回り続ける換気扇、壁一面に取り付けられた何かを計測するメーター……不気味な程に静まり返った狭き道を俺たちは奥へ奥へと歩いていく。



「ノア……そろそろ教えて欲しい――――このふねに何があったんだ?」

「そうですね……皆さんには識ってもらわないといけませんね――――この旗艦『アマテラス』の、そして【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】の隠した『秘密』について……!」



 息苦しい空間を歩く中で俺はノアに問う――――この旗艦に封じられた存在、アウラを襲った【光の化身】と呼ばれた怪物は何者なのかを。


 そんな俺の言葉に観念したように、ノアは語り始める。


 古代文明の遺構、旗艦『アマテラス』を襲った悲劇と、その裏に隠された『秘密』を。



「この旗艦の墜落はある実験が原因でした。ベンタブラック博士……私の『開発計画』にも携わっていた博士が行った実験――――【光の化身】と呼ばれた“怪物”をこの『アマテラス』の動力として利用しようとした実験です……!」

「光の化身……魔物モンスターの一種なの、ノア?」

「いいえ、リリィちゃん……そいつは、太陽系第3惑星【地球】…………私たちがいるこの惑星ほしに飛来した外宇宙からの脅威……!」

「え~っと? がいうちゅう?? コレットにはさっぱり意味が分かりません……??」

「“意志を持つ光”――――地球に時折飛来する『世界を滅ぼす終末装置』……通称、【アル・フィーネ】と呼ばれた存在の一つです!」



 俺たちが進む先にいるのは【光の化身】と呼ばれた怪物――――古代文明に於いて、世界を滅ぼす厄災と怖れられた禁忌の存在。



「私が造られるよりも前にこの世界に現れて、たったの1日で世界の20%を光へと飲み込んだ……『この世の終わり』の具現……人類史に名を刻んだ悪夢、絶望という名の光の化身、名を――――光の巨人【アルテマ】。私が識りうる限りで、9番目に地球に飛来した終末の使者……!」

「あれは……ゼクス兄さんが使っていた【漆黒剣ブラック・セイバー】と同じ素材で出来た巨大な結晶……!?」



 その名を【光の化身(アルテマ)】――――この惑星ほしに降り注いだ“9番目の厄災”、人類を滅ぼす悪夢。


 ノアが案内した旗艦『アマテラス』の動力炉リアクターのある機関室、大きな球体状の部屋の中央に安置された黒い水晶……その中に今にもはち切れんばかりに輝く『光』があった。


 そして、その強烈なまでの『光』を内在した黒角柱ブラック・プリズムの前にたたずむのはひとりの少女。



「アウラ! 無事だったんだな!」



 消えた筈のアウラ――――腹部を貫かれた傷も無く、しっかりと自分の足で立っている彼女に俺は安堵し、近寄ろうとした。


 けれど、彼女の『異変』にすぐに気付いてしまって、数歩走っただけで俺の脚は止まってしまった。



「アウラ……?」

「ようこそ……我が墓標へ! 歓迎するよ……ラムダ=エンシェントお兄ちゃん……くふふ……あはははははは!!」

「貴様……アルテマか!!」

「――――如何にも。我の名は【アルテマ】……貴様たち地球人が【終末装置(アル・フィーネ)】と呼び恐れた怪物…………遥かなる銀河の彼方かなたよりこの惑星ほしを喰いに来た……“上位存在”だ!」

「そんな……『なのだ』口調の幼女のアウラちゃんが……尊大不遜そんだいふそんな我様系キャラに……!?」



 アウラは既にあの白い人影に乗っ取られていた。


 いまアウラの身体を使って喋っているのは【アルテマ】と名乗った怪物。俺たちの世界に存在する“魔物モンスター”とはまた別種の怪物。



「くふふ……人間どもに敗れ、この鬱陶うっとうしい黒水晶に閉じ込められて幾星霜いくせいそう……艦内の人間を喰い散らかしても復活までの生命力エナジーを賄うことも出来ず困り果てていたが……ようやく自由に動ける“からだ”が手に入った! 人間基準で言うと『幼女』というのが気に食わんが、まぁ良いだろう……余計なパーツが付いていなくて動きやすいからな……!」

「アルテマ……!!」



 そんなアルテマはアウラの身体を使って意気揚々と自身の野望を語る。奴の目的は完全復活――――古代文明時に襲来し、当時の人類に敗北を喫し、永きに渡り目の前にある黒水晶ブラック・プリズムに封印されていた本体の解放。


 それが、目の前の怪物の目的だった。



「この我を封じ込めた巫女を殺し、かつ自由に動ける“からだ”を手に入れる……だが、はからずも巫女本人が我と適合する“からだ”だったのは好ましい! お陰で……ようやくこの忌々しい旗艦から出れそうだ……!! あのジブリールとか言う天使に我の“欠片いしき”を潜ませておいて正解だったな!」

「ジブリールに……潜んでいたのか……!?」

「応とも! お陰で、『時間逆行』で我を封じていた絡繰からくりも知れた……! 感謝するぞ……ラムダ=エンシェント『お兄ちゃん』……!!」



 そして、奴の最後の一手をこしらえたのは、他ならぬ俺だった。


 外に連れ出してと懇願したジブリールの中に潜んでいたアルテマは、遂にアウラ本人を捕捉して襲い掛かったのだ。



「いつもは我の本体を封じ込めた【時の歯車(クロノギア)】なる遺物越しに攻撃をしていたが、こうして直に身体を奪えたのは……人間風に言うと『ラッキー』と言うのかな?」

「ふざけないで!! 私の為にジブリールを運び出してくれたラムダさんの気持ちを、よくも利用したわね……アルテマ!!」

「んっ……貴様、ベンタブラックのクソジジイの小間こま使(づか)いだった『ノア』か? 久しいな……ほぅ、随分と“メス”の顔になったな……!」



 そんな俺の失態を庇って怒ったのはノアだった。


 目の前で俺を嘲笑あざわらうアルテマに必死に喰いかかるノア――――しかし、ノアの顔に見覚えがあったのか、アルテマはニヤリと笑いながらノアへと語り掛ける。



「虚ろな瞳で我からデータを採取していた哀れな人形よ……! 貴様は人間ではない……どうだ、我の物にならないか? 貴様の『あり方』は我の好みだ……あと数年、壊れるまで愛でてやるぞ?」

「いや……気持ち悪い……!! 私は……もうラムダさんの『所有物』なの! 気安く喋りかけないで!!」

「ほう……それは残念だ……! 貴様なら乗ると思っていたが……我よりも先にその男に調教されてしまったのか……」

「そうよ、毎晩ハードよ!! 私のラムダさんはけだものよ!!」

「えっ……やだ、うちの弟……夜はけだものなの/// “攻め”に回ってお父様をヒィヒィ言わせてたシータさんみたい……///」

「やってない、やってない!? 『調教』の言葉ワードに反応して変なこと言わないで! って言うか母さん何やってんのーーーーッ///」



 どうやらアルテマはノアを気に入っているみたいだ――――気に食わない。俺のノアに手を出そうだなんて俺が許さない。


 絶対に始末してやる。


 だが、相手はアウラの身体を乗っ取っている。なんとかしてアルテマをアウラの身体から引き剥がさないと。



「くふふ……このツルペタ幼女を取り返したいようだな、お兄ちゃん……!」

「あのアルテマって人外じんがい、意外と『ツルペタ』とか『クソジジイ』とか変な語句を使いますわね……」

「この“からだ”から得た知識だ……なんとなく使いたい……」

「アウラ様の知識が偏っていそうですね〜」

「アウラを……返せ!!」

「断る……! そして、貴様たちも我の一部となるが良い!! 時間魔法――――“進め、時の針(タイム・ディスペル)”!!」

「まずい……黒水晶ブラック・プリズムを壊す気だ……! ラムダさん、急いで旗艦『アマテラス』から避難を!! これは罠よ!!」



 アウラの杖を使って自身の本体を封じた巨大な黒い水晶に魔法を掛けるアルテマ、奴が俺たちをここまで誘い込んだ()()を理解して撤退を促したノア。


 そして、俺たちの目の前でアウラの魔法で作られた“時の歯車”の効果で破壊されていく黒水晶ブラック・プリズム――――最悪の『終焉』が幕開ける。



「なんだか嫌な予感がしますわ……! 急いで旗艦ここから避難を!!」

「クハハハハハ!! さぁ、逃げ惑え! そして絶望と共に“光”に飲み込まれると良い!!」

「ラムダさん、急いで避難を! ラムダさんの【第十一永久機関(λドライヴ)】ならトラムを爆速で――――きゃあ!?」

「ノア!!」

「ノア……貴様は逃がさん……!! 我と共に人類の破滅を成し遂げようぞ……!!」

「脚に……光の触手が……!!」



 荒れ狂う【光の化身】、それを見て高笑いをするアルテマ、撤退の準備を始める姉さんたち、そして……アルテマが出した触手に脚を絡まれて倒れたノア。



「ノア! いま助け――――」

「行って! オリビアさんたちを逃がすには、ラムダさんのアーティファクトが無いと駄目です!!」



 触手に引き摺られて膨張していく【光の化身】へと連れて行かれるノア。


 彼女を助けようと俺は無我夢中で飛び込もうとしたが、ノアはそんな俺を制止する……オリビアたちを逃がすことを専念してと俺に言って。



「でも……俺にはノアが居ないと……!!」

「私はまだ諦めません!! アルテマが私を取り込むなら――――中からアウラちゃんと【時の歯車(クロノギア)】を取り返します!!」



 ノアはわざと【光の化身】に取り込まれて、内部からアウラを救うと言う。


 無茶だ――――もし、万が一があればノアはあの怪物に取り込まれて死ぬ。


 そんな事になったら、俺は耐えられない。



「ノア……俺の前から……居なくならないで!!」

「戻ります、必ず!! 私を信じて!! あなたが愛した私を――――もっと頼ってください!!」



 けれど、ノアは絶体絶命のこの状況下で俺に笑いかける。愛おしいほどに優しく、狂おしいほどに『幸せ』そうな表情かおで――――俺を信じていると笑ってくれた。


 いつか観た、最初の依頼クエストおもむいた時のような笑顔で。



「――――――ッ!! 死ぬな、俺の愛しいノア!!」

「死にません……だって、私のラムダさんが迎えに来てくれるって……識っているから……!!」

「愛してる……愛してる! 必ず迎えに行くから――――ノア!!」

「愛しています……愛しています……! 必ず迎えに来てくださいね――――ラムダさん……!」



 だから、“光”に消えていく君に背を向けて、俺は走り出した。


 再会を約束して。


 オリビアたちを救う為に俺は脇目も振らず走る……眼から溢れた涙を乱暴にぬぐって、まっすぐと。



「美しきかな人間の『愛』よ!! 我が喰らうに相応しき感情よ!! さぁ、再び人類の終末を始めよう!! 我の名は【アルテマ】――――史上最も『愛』に満ち満ちた人間を排除するべく遣わされた使徒しとなり!! いざや死ね、希望ぜつぼうの光に歓喜せよ、愛しき者に口づけを交わして絶えるが良い、貴様たちの終わりこそが――――我なり!!」

「あの……その必死に考えた前口上まえこうじょう……私しか聴いてませんよ?」

「……………………はよ吸収されろ!」

「ギャーーッ!? ラムダさん、早く迎えに来てねーーーーッ♡」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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