第1038話:VS.【古の勇者】クラヴィス=ユーステフィア“遺物”③ / 君臨せよ、偉大なる大帝よ
「くっ、私とした事が……迂闊!」
「ちっ、傷が浅い……しとめ損ねた……!」
――――“神殺しの魔剣”ラグナロクの剣閃は勇者クラヴィスを斬った。しかし、とっさに後方に身体を逸らして回避行動を取ったからか、彼女は致命傷だけは避けていた。
そのまま勇者クラヴィスは後方に大きく跳躍して俺の射程から逃れて距離を取った。血反吐を吐きながら傷口を手で抑え、俺に対して笑みを見せている。
「ふっ……げほッ! 今のは君が一枚上手だったようだ。まさか私の出した“影”を逆に利用してくるなんて……よく研究してるじゃないか」
「…………」
「しかし……踏み込みが甘かったね。その僅かな“差”が今の君の現状を現している。このままでは……その詰めの甘さのせいでで、大事な局面で失態を犯す羽目になるぞ」
勇者クラヴィスは決して軽傷ではない。魔剣は彼女の腹部から胸元をバッサリと斬りつけて、その傷は臓器にも達している。
だが、勇者クラヴィスはその程度では動揺もしない。俺の手際を褒めつつも、仕留めきれなかった甘さを指摘していた。
「だが、まぁ……倒しきれていないにせよ、傷を負わせた事は事実だ。この傷ではパフォーマンスの低下は避けられない……この勝負は君の勝ちになるのかな?」
「その割にはまだ手札がありそうな表情ですね」
「ふふっ、そうだな……まだ私にはとっておきがある。それで勝負を着けさせて貰おうか。なにせ私は勇者……諦めるのは性じゃなくってね!」
そして、まだ勝負は着いていないと不敵に微笑んで、勇者クラヴィスは聖剣を高く掲げだした。聖剣の刀身には眩い虹色の光が灯りはじめ、身震いするような魔力が集束し始めている。
その輝きを俺は知っている。彼女の持つ“破邪撃滅の聖剣”シャルルマーニュが放つ必殺の一撃だ。勇者クラヴィスはそれを俺に向かって放とうとしている。
「ラムダ=エンシェント……君は世界を救う“救世主”となるか? それとも世界に破滅を齎す“厄災”となるか? その回答次第で、我が聖剣は君の邪心を討つ輝きになろう……」
「俺は“ノアの騎士”……全ては我が“神”の御心のままに」
「なるほど……君が望むのは“剣”としての在り方か。それは自らの意志を王に託すも同義! ならば、その在り方を貫き……全ての困難を乗り越えてみせよ!!」
勇者クラヴィスが掲げた聖剣からは圧倒的なまでの重圧が放たれる。周囲に広がる彼岸花が激しく揺らぎ、試練の間を再現するバーチャル空間にノイズが走る程だ。
俺は魔剣を両手でしっかりと握りしめ、勇者クラヴィスに真っ正面から挑む意志を表す。彼女を正々堂々と打ち負かし、自らの矜持を示す為に。
「これなるは破邪撃滅の聖剣……彼岸より来たる厄災を討つ神の剣!! 廻りて来たれ、集いて廻れ、星の息吹よ高らかに…………破邪、撃滅!!」
勇者クラヴィスが高らかに詠唱を唱え、必殺の一撃を放つ準備を整える。それは女神アーカーシャの代行者である“勇者”が来たる厄災を討つ為に撃ち出す聖剣の輝き。
“傲慢の魔王”と恐れられた今の俺に向けられて然るべき一撃だ。だけど、その光に屈する訳にはいかない。俺は両脚に魔力を溜めて駆けだす準備を整え、大きく息を吸ってその時を待った。
そして、聖剣が光を集束しきり、試練の間に僅かな静寂が訪れた瞬間――――
「行くぞ――――“君臨せよ、偉大なる大帝よ”!!」
――――勇者クラヴィスは聖剣を振り下ろし、その刀身からは虹色に輝く衝撃波が撃ち出された。
聖剣から放たれた虹色の輝きは凄まじい魔力の奔流となって、まるで津波のように俺へと迫りくる。飲まれれば勝敗は一気に決してしまうだろう。
まさしく起死回生の一撃だ。それを正面から撃ち破るべく俺は勇者クラヴィスに向かって一気に駆け出し、魔剣を居合切りのように腰に構えた。
「聖剣の輝きを喰らえ、“神殺しの魔剣”!!」
そして、俺は魔剣を勢いよく振り抜いて、聖剣の放つ輝きに真っ正面から斬り掛かった。
魔剣の刀身が虹色の光に触れた瞬間、全身に隕石が落ちたような衝撃が走り、身を焦がすような灼熱が俺を包み込んだ。
「どうした、ラムダ=エンシェント! 私が認めた男はこの程度の輝きに屈するような軟弱者ではないぞ! さぁ、歩け、歩け! 私という“壁”を乗り越えて征け!!」
「この……俺はあなたを超えていく!!」
「そうだ、何者も負けるな……全てを薙ぎ倒し、乗り越えて征け!! これまで君が踏みしだいた全てを引き摺って、それでも信念を貫け! それだけが君に残された道だ……進め、進め!!」
一歩、また一歩、聖剣の輝きを押し込みながら歩いていく。勇者クラヴィスはそれを望んでいる。俺が聖剣の重圧を押しのけて、自らの信念を貫き通す事を。
しかし、彼女には一切の容赦は無い。
この程度で負ける男には世界に挑む資格は無いと言うように。そして、そんな事は百も承知しているのだと、俺は地面を力強く踏み鳴らし、足下の彼岸花を踏みつけながら歩いていく。
「我が騎士よ……我が意志を勇者に示しなさい!」
「…………イエス、ユア・マジェスティ!!」
ノアの激励を受けて、俺はさらに大きく一歩踏み込んだ。その瞬間、足下の彼岸花が全て散っていった。
聖剣の輝きが魔剣に弾かれて霧散していく。その光景を見て、勇者クラヴィスは静かに微笑んでいた。
そして、俺が魔剣を渾身の力で振り抜いた瞬間――――
「俺はあなたを超えて……先に進む!!」
「そうだ、それで良い……征け、旅人よ!!」
――――聖剣の輝きは全て霧散して消え去り、俺の目の前には無防備な勇者クラヴィスが姿を現した。
もはや、俺には躊躇する事は許されなかった。たとえ再現された幻影であるとはいえ、勇者クラヴィスは善人である。それでも俺はノアの為に彼女を斬らねばならない。
俺は一気に距離を詰めて、魔剣を構えて勇者クラヴィスの心臓を狙った。彼女も俺を迎撃する為に聖剣を振り上げようとしている。だが、俺の方が僅かに疾い。
そして、俺が突き出した魔剣は勇者クラヴィスが振り上げた聖剣を弾き――――
「大帝を討て――――“鬼謀の王”!!」
――――そのまま勇者クラヴィスの心臓を射貫いて、戦いに完全な決着を齎したのだった。




