第1036話:VS.【古の勇者】クラヴィス=ユーステフィア“遺物”① / 〜Brave of Exorcism〜
「…………ッ」
「…………っ」
――――“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフト内部に再現された『試練の間』にて、俺は再現された勇者クラヴィスと相対する。
勇者クラヴィスは聖剣を構え、俺に向けて不敵な笑みを向けている。だが、彼女の意識は研ぎ澄まされている。迂闊に隙を見せれば、彼女はあっという間に俺を斬ってくるだろう。
「どうしたんだい……攻めて来ないのか?」
「そう言うあなたこそ……怖いのですか?」
お互いに睨み合いが続いている。分かっているのだ、相手が迂闊に攻め込めば的確な反撃をしてくる手練れだという事に。
勇者クラヴィスは獲物を狙う獅子のようにジッとこちらを見つけている。弱いからではない、如何に相手を仕留めるかを考えている故に慎重になっているのだ。
「隙のない構え、一切途切れぬ意識、常に相手を分析し続ける思考……いずれをとっても以前相手した時よりも格段に進歩している。すでに君は一流の剣士だ……」
「…………」
「まいったね……前のように狂犬じみた戦い方をすると思ったが……どうやら私の相手は孤高の“狼”のようだ。ならば……私の方から攻めようかッ!!」
そして、最初に攻撃を仕掛けてきたのは勇者クラヴィスの方だった。彼女が聖剣を目にも留まらぬ疾さで振り抜いた瞬間、翼を広げた鷲のような白い斬撃が放たれた。
空気を切り裂き、獲物を狙う猛禽類の鳴き声のような風切り音を奏でて、斬撃が俺へと迫りくる。
「――――ッ!! ズアァッ!!」
その斬撃を俺は魔剣を振り下ろして一刀両断してみせた。魔剣の刀身に触れた斬撃が断末魔を上げながら粉々の粒子になって霧散していく。
そして、斬撃を払った俺の目の前には聖剣を構えて突っ込んでくる勇者クラヴィスの姿が在った。彼女は聖剣の切っ先をこちらに向け、刀身に魔力を集束させている。
「穿て――――“誉れの騎士”!!」
刺突と同時に集束させた魔力を切っ先から撃ち出す剣術だ。後方に下がるだけでは躱しきれない、攻撃の軌道そのものを逸らす必要がある。
「――――ッ!! ハァァッ!!」
「なっ……シャルルマーニュを蹴って!?」
俺は魔剣を振り下ろした姿勢のまま右脚を振り上げて、勇者クラヴィスの握る聖剣を思いっ切り蹴り上げた。
聖剣こそ弾き飛ばせなかったものの聖剣の切っ先は大きく逸れてしまい、刀身から撃ち出された衝撃波は誰を捉える事もなく遥か後方の壁に直撃して爆発を引き起こしただけだった。
「このまま一気に……!!」
その蹴りの勢いのままに俺は身体を反時計回りに捻りながら浮かせ、蹴り上げたのとは反対側の右脚で勇者クラヴィスを蹴りつけようとした。
踵で彼女の脇腹を蹴り飛ばして、そこから追撃に転じる。聖剣を蹴り上げられて体幹の崩れた勇者クラヴィスに防御は難しいと判断したからだ。
「甘いな……ふんっ!!」
「――――ッ! 膝でガードを……」
しかし、勇者クラヴィスは咄嗟に左脚を振り上げて、俺の踵蹴りを膝で防御してみせていた。脚と脚が激突した瞬間、その時の衝撃波で周囲の彼岸花が激しく揺れる。
「この……ズアァァ!!」
俺はそのまま勇者クラヴィスを無理やり蹴飛ばした。しかし、蹴りを受け止めた勇者クラヴィスが吹き飛ばされる事はなく、彼女はほんの数十センチメートル地面を擦っただけですぐに蹴りの威力を抑え込んでいた。
「――――はぁぁっ!!」
「くっ……オオッ!!」
勇者クラヴィスは蹴り上げられていた聖剣を腕力で無理やり制御して、俺に向かって聖剣を振り下ろしてきた。
その攻撃に対して俺はさらに身体を捻りつつ魔剣を振り抜いて応戦、聖剣と魔剣が火花と閃光を散らしながら衝突した。
「この……“視閃光”!!」
「おおっと……危ない!」
すかさず俺は両眼からビームを勇者クラヴィスの胸元目掛けて放った。しかし、彼女はとっさに上半身を後方に逸らせてビームを回避してみせた。
「それ、喰らいなっ!」
「――――ッ! ちっ!」
ビームを回避した勇者クラヴィスはそのままバク転をしながら右脚を蹴り上げて俺の顎を蹴ろうとしていた。
俺はとっさに顎を引いて蹴りをギリギリ回避して、そのまま数歩後退して勇者クラヴィスの追撃に備えた。彼女は華麗なバク転を披露して姿勢を正し、同時に聖剣に魔力を集束し始めた。
「――――はぁぁ!!」
勇者クラヴィスが聖剣を振り抜いた瞬間、鳥
鷲を模した斬撃が再び放たれた。今度は極至近距離での攻撃だ、魔剣を振っている暇すら無かった。
「この……舐めんじゃねぇ!!」
「なっ……素手で斬撃を掴んで……!?」
俺はとっさに左手で迫りくる斬撃を文字通り鷲掴みにして防いでみせた。左手のアーティファクトが凄まじい音と振動を発しながらガリガリと削られていく。
それでもできたコンマ数秒の猶予の内に、俺は斬撃を思いっ切り握り潰してみせた。至近距離で放った有効打が力業で防がれた事に驚いたのか、勇者クラヴィスは啞然とした表情をしている。
「驚いた……今のを防ぐか。しかも素手とは……相変わらず多芸で面白い男だ、君は。なるほど、世界に影響を及ぼすのも理解できる……」
「…………ッ」
「久々の強敵だ……我が聖剣シャルルマーニュも昂ぶっている! これほどに撃ち合える相手はアワリティア以外に居ない……まさしく勇者の相手に相応しい」
勇者クラヴィスは俺との決闘を楽しんでいた。以前、“深淵牢獄迷宮”インフェリスで戦った際は魔王アワリティアの封印を守る為の義務から戦っていた。
しかし、今回は“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトが見せる幻影として、何の気概も背負わずに戦えるのだろう。以前戦った時よりも勇者クラヴィスの聖剣は強く、そして自由だった。
「さて……そろそろ準備運動はおしまいにしようか。君も身体が暖まってきた頃だろう? お互い……自慢の剣にやる気を出して貰おうじゃないか」
「相変わらず……準備運動がお好きですね」
「君の実力を、その信念を余すとこなく見定めたいからね。では……いよいよ我が本領を発揮しようか! いでよ……聖剣の“影”よ!」
そして、いよいよここからが勇者クラヴィス=ユーステフィアの本領になる。彼女が聖剣を祈るように掲げた瞬間、彼女の頭上に眩く輝く光球が出現した。
その光に照らし出されて、聖剣シャルルマーニュの“影”が幾つも地面に投影される。そして、その聖剣の“影”が一振り、また一振りと地面から浮き上がるように実体化していく。
「固有スキル【聖剣投影】――――発動!」
勇者クラヴィスを取り囲むように出現したのは、聖剣シャルルマーニュを模した六本の“影”の剣。それが彼女が女神アーカーシャから授かった術式だ。
聖剣を携え、聖剣の“影”を従えた勇者は楽しげに笑みを見せる。そう、ここからが決闘の本番だ。




