第1032話:VS.【吸血淫魔】リリエット=ルージュ“異聞”⑤ / その選択を貫き通す意志
「〜〜〜〜っ!? あが……っ!!?」
「グ、グェ〜…………」
――――脚を掴んで思いっ切りリリエット=ルージュを振り下ろし、不幸にもノアはリリエット=ルージュの豊満な胸に頭部を強打して、そのまま下敷きになって潰された。
リリエット=ルージュの下でノアは潰れたカエルみたいな格好をして気絶している。そう、“魅了”で操られた者を解放するには気絶させるのが手っ取り早い、この手に限る。
「くっ……あなた正気!? 自分の主君を手に掛けるなんて!? それでも騎士を名乗るつもり!?」
「よくも我が王を……絶対に許さないぞ!!」
「わ、私のせいにされてるーーっ!? じ、冗談じゃないわ、なんて理不尽な男なの! さっさと私の脚から手を離せクソ野郎!!」
ノアという手駒を失ったリリエット=ルージュには最早、自力で窮地を脱する他に道は無くなった。彼女は即時に翼を拡げると羽ばたいて俺の拘束から逃れようとした。
何度も何度ももう片方の脚で俺の顔面に蹴りを放ってくる。だが、俺は一歩も怯まずにリリエット=ルージュを睨み付けていた。
「言っただろう……このまま決着を着けると。もうなにがあってもお前の脚は離さねぇ……なにがあってもだ!」
「だったら……その腕を斬り裂いてやる!!」
このままでは俺から逃れられない、そう悟ったリリエット=ルージュは尻尾に魔力を纏わせ、尻尾そのものを鋭利な“刃”に変えた。
そして、彼女はそのまま尻尾を全力で振り抜いて俺の左腕を切断してみせた。装甲を容易く両断する切れ味に、俺の左腕は綺麗に分離されていた。
「あっ……アハハ♡ どうだざまぁみろ! あんたの左腕はもぎ取ってやったわ! 主君を傷付けたのにまんまと逃げられて残念ね♡ アハハ、アッハハハハ!!」
「…………」
「距離さえ取れればこっちのものよ! このまま遠距離からじわじわとなぶり殺しにしてあげるわ! そこで潰れたカエルみたいになっている主様をせいぜい護る盾になることねぇ♡」
十メートル程の空中に逃げたリリエット=ルージュは優位性を取り戻したのか高笑いしている。このまま俺とノアを狙い遠距離攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。
だがリリエット=ルージュは気が付いていなかった。自分の右脚をまだ俺の左腕が掴んだままな事に。
「さぁ、空中から攻撃を……痛っ!? なっ……」
「そうか、お前は知らないだな……俺の左腕は義手なんだ、遠距離でも操作できるタイプのな。古代文明で造られたアーティファクトって代物さ……」
「左腕が……勝手に動いて……痛っ!!?」
「離さないさ……腕を切断したって一緒さ。嫌なら自分の脚を自分で切り落とせ……それが“選択”ってものだろう? 迷えばお前に待っているのは敗北だけだぞ……」
「離せ、私の脚から離れなさい……この、この!」
俺の左腕はアーティファクトの義手、身体から分離しても脳波で操れる。だから切断されても問題は無い。リリエット=ルージュが逃れるには自分の脚を切り落とすしかないだろう。
だが、彼女は俺の左腕を蹴落とそうとガンガンと蹴りつけるだけだった。我が身可愛さに自分の脚を切断するという“選択”を選ぼうとはしなかった。
「そうか……我が身が可愛いか。なら……お前にはとびっきりの敗北をくれてやろう! 超電磁式ワイヤー展開……接続!! さぁ、こっちに来な!!」
「身体が……引っ張られて……!?」
切断された腕の断面から電撃で構成されたワイヤーを伸ばして、リリエット=ルージュを掴む左腕の断面と接続する。これで切り離されているが腕はつながった。
そのままワイヤーをゆっくりと引いてリリエット=ルージュを俺の元へと手繰り寄せていく。空中に逃げた筈の彼女は少しずつ地上に引きずり落とされ始めていた。
「こ、この……やめろ! “鵯越ノ逆落”!!」
このままではまずいと悟ったのか、リリエット=ルージュは大きく拡げた四枚の翼から魔力弾をガトリングのように撃ち出してきた。
俺は倒れたノアの盾になって攻撃を受けつつ、それでもリリエット=ルージュを手繰り寄せていく。あとは俺が倒れるのが先か、彼女が手繰り寄せられるかだ。
「たしかに……俺と出逢わなかった“異聞”のお前は強いよ。本物のリリィも強いけどな、お前の戦い方には容赦が無い……」
「この、このォォーーーーッ!!」
「けどな……俺が好きなのはお前じゃない。いつも俺にベッタリで、けど時には厳しく俺を諭してくれる……そんなリリエット=ルージュの方が好きなんだ!!」
「違う……私こそがリリエット=ルージュよ!」
「仮にお前の方が本物だとしても……俺が求めるのはリリィの方だ! だから覚悟しろ……お前という“異聞”を乗り越えて、俺は自分のした“選択”を最後まで貫き通す!!」
そして、リリエット=ルージュがあと数メートルまで近付き、俺は右手に呼び戻した魔剣を掴んだ。彼女の倒し方は分かっている、もう一度それを実行するだけだ。
あと少しまで距離が縮まったことに焦りが生じたのか、リリエット=ルージュは弾幕をやけくそ気味にばら撒き始めた。それでもどうにもならない、俺はまったく怯まなかったからだ。
そして、最後の数メートルを左腕を手繰り寄せて一気に縮めてリリエット=ルージュを地面に引きずり落とし――――
「貰うぞ……お前の矜持、その全てを!!」
「やめ、私の角を……ぐがッ!? がぁぁ!?」
―――そのまま魔剣を真横に振り抜いて、頭部の四本の角を一気に切断してリリエット=ルージュの魔族としての矜持を全て粉々にしたのだった。




