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第106話:死して屍拾う者なし


「アーティファクト【閃光剣ライトニングセイバー】転送! 今度こそ、倒されて貰うぞ……レイズ!!」

「カカカッ! 出来るかな……アーティファクトの騎士よ……いでよ……死したる巨人……!!」

「レイズ……アレイズ……ネクロ……ネクロフォビア……ネクロヅマ……!! 我が霊廟れいびょうより目覚めよ……死者たちよ……生きとし生けるもの……全てを……引き摺り込みなさい……!!」



 逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】大聖堂、女神をたてまつった神聖な祈りの場はレイズ率いる屍人ゾンビの軍団に埋め尽くされていた。


 俺と相対するは【冒涜】のレイズと彼を守る巨人のむくろ、姉さんたちと相対するはレイズの腹心・ネクロ操るエルフの屍人ゾンビたち。


 幸いな事に敵の数自体は多くない、アシュリーに配下の殆どを預けていたのが原因だろう。



「時間魔法ゥ……“時間の足枷(タイム・フェターズ)”……!」

「なっ……!? 脚に時計盤のような拘束具が!?」

「いけないのだ! それは時間停止による拘束具……今あたしが解除するのだ――――時間よ動け、“進め、時の針(タイム・ディスペル)”!」

「ツヴァイさん、ご無事ですか!?」

「オリビアちゃん、私は平気……! 無理に動こうとして少しひねっただけだから……! なんなの、このゾンビエルフは!?」

「歴代の“時紡ぎの巫女”……役目を終えたら自由になれるってアーカーシャ様、言っていたのに……嘘つき、嘘つき、嘘つき!! あたしも……捨てられるの……?」



 だが、相手はアウラの前任者たち、歴代の“時紡ぎの巫女”たち――――この神殿で祈りを捧げ続け、“魂”が擦り減り、女神によって『ゴミ』のように捨てられた哀れな祈り子たち。


 姉さんの足を拘束するような高度な『時間魔法』を操る一級の術師たちが俺たちの前に立ち塞がっていた。


 その巫女たちの無惨な姿に取り乱すアウラ。自分も()()()()()事を想像したのだろう。


 杖を片手に懸命には戦っているが、明らかに怯えた表情かおのアウラは残った手でノアの腕にしがみついていた。



「嫌だ……嫌だ……嫌だ! あたしは……本当は世界を旅したいの!! 色んな景色を観て、色んな人に会って、たくさん勉強をして、いつか恋をして、子どもが欲しいの……! こんな所で……死にたくないよぉ……!!」

「無駄……無駄……む~だ!! あなたも……わたしの……人形コレクションにしてあげる……! あなたの『夢』……わたしが……“冒涜”してあげる……!」

「悪趣味な幼女ゾンビね……! いえ……あなたは――――屍人ゾンビじゃ無い……!?」

「少し黙ってて……お人形さん……! あなたも……わたしの……かわいい人形に……してあげる……!!」

「私は貴女の『人形』になる気は無いわ! 私はラムダさんの『人形』……私を愛でて良いのは、あの人だけ……!!」



 そんなふたりに詰め寄るはネクロ――――不気味に笑い、ふたりを亡き者にせんと青い肌の少女は歩を進めていく。



「ラ、ラムダさん……!! 大丈夫!?」

「アリア……! 良かった、無事だったんだな!」

「う……うん……/// それより、この事態は一体……?」

「レイズの奇襲だ! 俺は巨人の屍人ゾンビを抑える! アリアたちはレイズの妨害を!」

「オッケー、御主人様ダーリン♡」

「コレットはツヴァイ様の援護に回ります!」

「わたくしはラムダ卿の援護を! あの廻廊かいろうでの借り、きっちりとお返しします!」

「第二師団は散開してツヴァイ団長とラムダ卿の援護に回ります! いいか全騎、一人も死なせてはなりません!!」



 そして、遅れて現れたのはミリアリアたちとツェーネル率いる第二師団の竜騎士たち。


 彼女たちの合流で戦局には余裕が出来た。なら、すぐに終わらせてやる。



「アーティファクトの騎士潰せ……巨人のかいなよ……!!」

「同じ手を2度も喰らうか! 光量子展開アイン射出式超電磁左腕部シュタイナー……最大出力!!」

「ぬぅ……!? 巨人の剛腕ごうわんを……左手だけで……受け止めただと……!?」

「そのままさらに――――光量子輻射砲フォトン・ウェイブ!!」

「ば……馬鹿な……!?」



 開幕はレイズ操る巨人の右腕から繰り出される剛腕の拳。だが、前回の戦いで巨人の屍人ゾンビが手駒にいると分かった以上、対策は取ってある。


 迫りくる巨大な拳を左腕アインシュタイナーの手で受け止めて、そのまま手のひらから発射されるビームを零距離でねじ込んで、一気に巨人の腕を粉砕する。


 水を入れ過ぎた風船のように膨らんで弾けた巨人の腕、驚愕の声をあげるレイズ、抄きを突いてレイズを取り囲むミリアリアたち――――このまま一気にレイズを攻め落とす。



「致し方なし……巨人よ……その巨躯きょくを持って……アーティファクトの騎士を……すり潰せ……!!」

固有ユニークスキル発動――――【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】……!! 来たれ……巨人殺しの大剣よ……!!」

「何あれ……? 巨人の上に……すっごく大っきな剣が現れた……!?」



 巨大な魔法陣よりその全身を晒した巨人の屍人ゾンビ――――俺に破壊されて消えた右腕、建物と見紛う程の巨大な大剣を構えた左腕、俺を見定めた瞳、小さき人間を踏み潰さんとする巨躯が大きく猛る。


 だが、姿を晒した時点でお前の負けだ――――左腕を掲げて、巨人の頭上に召喚するは蒼き大剣。


 レイズとの再戦に備えて用意した必殺剣、ただ()()()()()()()()単純シンプルな攻撃。



「落ちろ――――“滅びの剣(ダーインスレイヴ)”……!」

「――――ガッ!?」

「余の……巨人が……一撃……だと……!?」



 俺が落とした蒼き大剣に胴を両断されて崩れ落ちる巨人の屍人ゾンビ、聖堂の床をえぐり土埃を巻き上げながら突き刺さる蒼き大剣、背後で沈黙した巨人に視線を向けて意識を裂いたレイズ――――これが決着の隙。



「今だ、レイズを囲め!!」

「覚悟なさい、悪趣味な【死霊使い(ネクロマンサー)】!!」

「ぬぅ……!? 放せ……小娘ども……!!」

御主人様ダーリン――――今よ!!」

閃光剣ライトニングセイバー――――断ち斬れ!!」



 ミリアリアとレティシアの剣を、リリィの尻尾を身体に突き刺されて身動きの取れなくなったレイズ、そのレイズに向けて飛び掛かった俺。


 俺の姿を視認したレイズは咄嗟の反撃にと右腕を前に差し出すが……奴は一歩遅かった。


 俺の剣は一筋の閃光を煌めかせながらレイズの首を斬り抜けて、光刃が発する超高温の放熱スパークによって溶断されたレイズの髑髏しゃれこうべが聖堂の宙を舞う。



「不覚……すまぬ……ネクロヅマ様……! 役目……果たせなんだ……!!」

「レイズ……あぁ……わたしのレイズ……レイズがぁ……!!」



 断末魔すらあげずに残された少女に懺悔の言葉を遺すレイズ、宙を舞い床に落ちて砕けた頭蓋ずがいに絶望の声をあげるネクロ。



「ラムダさんがレイズを倒した……!!」

「まさか……リリエット=ルージュに続き、レイズまで倒したの……ラムダ……!!」

「お兄ちゃん……!!」



 その光景に歓喜の声をあげるミリアリアたち、驚きの声をあげる姉さんたち。



ワレヲ閉ジ込メタ、祈リ子……我ガ墓標ヘト来イ……!!」

「ノア、アウラ!! 後ろだ!!」

「あの光……わたしたちを殺した化身の光……!!」



 そして現れる怪物の声。


 寄り添うノアとアウラの背後に現れた光の人影――――この神殿の迷宮ダンジョンで幾度か見かけた白い影だ。


 その白い光には見覚えがある――――俺の目の前でアウラの心臓を貫いた光と同じ光だ。レイズが屍人ゾンビにした歴代の巫女の怯え具合から見ても間違いない。



「まさか……【光の化身】……!?」

「あぁ……! だめ、だめ、お姉ちゃん……あたしから離れて!!」

「アウラちゃ――――きゃあ!?」

「――――ぐぅ……!?」

「アウラ……アウラーーッ!!」



 それは一瞬の出来事だった――――咄嗟にノアを突き飛ばしたアウラを襲った白い光は、小さなエルフの身体を貫いて宙釣りする。


 口から血を流して激痛に顔を歪めるアウラ、その表情を観てケラケラと嗤う人影。


 俺の目の前で異常事態が立て続けに起こっていく。



「わたしのエルフゾンビが……あの人影に……怯えている……!? くっ……撤退ね……!!」

「ネクロが逃げた……!? いや、それよりも……!!」

「アウラちゃん……私を庇って……!!」

「あぐ……!? い、痛いのだ……あぁ……あぁあああ!!」

()()()()()……貴様ハ、我ノ新タナ“ウツワ”――――サァ、忌マワシキ旗艦『アマテラス』ヘト案内アナイシヨウ……!!」



 アウラを掲げて連れ去ろうとする白い人影――――顔も無く、ただ輪郭だけの存在だが俺には分かる。


 嗤っている。


 奴はアウラを傷付けて嗤っている……許さない、絶対に許さない。アウラを何千年も殺し続けたアイツを俺は許さない。



「アウラを放せ……この化け物!!」

「ククク……傲慢ナ人間ヨ……貴様タチハジキニ殺ス――――楽シミニ待テ……!!」

「お……兄ちゃん……助けて……!」

「アウラ……アウラ!!」


 

 アウラの元へと俺は駆ける。懸命に俺へと手を伸ばしたアウラの小さな手を掴もうと走る。



 けれど――――


「フフフ……取リ返シタクバ旗艦『アマテラス』の動力炉リアクターマデ来ルト良イ……!!」

「お兄ちゃ――――」

「うっ……眩しい!? アウラ……アウラ……アウラーーッ!!」


 ――――俺の手はアウラの手を握ること叶わず、小さなエルフの巫女はまばゆい光とともに消えていなくなってしまった。



 残されたのは静寂――――寸断されて沈黙した巨人の亡骸、砕けて散ったレイズの頭部、ネクロと共に消えたエルフの屍人ゾンビたち、聖堂に残された【ベルヴェルク】と【竜の牙】の面々。


 激闘は終わり、魔王軍最高幹部であった【冒涜】のレイズは討ち取られた――――けれど、事態はまだ何も終わっておらず。



「遂に出てきましたね……“光の化身”……【アルテマ】!!」

「オリビア……どうしたんだ……? 眼が朱く……!?」

「あれこそはこの【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】に『私』……いえ、女神アーカーシャが封印した“人類を滅ぼす厄災”【終末装置アル・フィーネ】……!!」

「【終末装置アル・フィーネ】……!?」

「貴女が滅ぼし損ねた“人類の脅威”ですよ……ノアさん?」

「なんで……その事を……オリビアさん……?」



 俺が好きな“紫水晶アメジスト”のような透き通る紫色じゃない朱い瞳を輝かせたオリビアが語った敵の名は――――アルテマ。


 この逆光時間神殿【ヴェニ・クラス】の最深部、旗艦『アマテラス』を墓標に眠る“人類の脅威”。



「さぁ、いよいよ終焉しゅうえんの時です! アウラ=アウリオン……『今日』に囚われた哀れなエルフの祈り子を救いたければ、見事、【光の化身】を討ち取ってみなさい――――期待していますよ、ラムダ=エンシェント……!」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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