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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十七章:神が生まれ落ちる日

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第1022話:仮面を脱ぎ捨てて


「トネリコ……タウロスを失った今、何を考えているのかさっぱり分からないな。次の“無限螺旋迷宮ユグドラシル・シャフト”にノアは同行させない方が……ううむ、どうするべきか?」



 ――――デア・ウテルス大聖堂を出立して六時間後、戦艦ラストアーク中央連絡通路にて。昼食をとるため食堂に向かいながら、俺は次に向かう“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトへの作戦を立てていた。

 相手はいまだ攻略者の居ない難攻不落の世界最大の迷宮ダンジョン、そしてその軌道エレベーターを管理するトネリコ=アルカンシェルだ。今まで散々顔を合わせてきた相手だ、油断はできない。



「ん……リブラ!」

「ああ……イレヴンさんですか」



 そんな事を考えていたら、目の前からリブラⅠⅩ(ナイン)が歩いて来た。

 彼女は車椅子を押している、そしてその車椅子には一人の女性が座っていた。白髪と青い瞳がが印象的なリブラⅠⅩ(ナイン)の実の姉だ。



「ヴァルゴさん、体調は如何ですか?」

「ふん……あなたに心配される筋合いはありません」



 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)、彼女はリブラⅠⅩ(ナイン)がラストアーク騎士団に同行させる事にした。両脚の不自由な姉の介護をしたいと言って聞かなかったからだ。

 ただヴァルゴⅤⅢ(エイト)はラストアーク騎士団に居るのが不服なのか、常に不機嫌そうな態度を取っていた。姉のご立腹顔を見たリブラⅠⅩ(ナイン)が困った表情をしている。



「もう、お姉様……イレヴンさんに失礼ですよ。イレヴンさんはお姉様の怪我を案じてくれているだけなのですから……」


「…………」


「ごめんなさい、イレヴンさん……お姉様はまだ心の整理がついていなくて。じきに落ち着いてくると思います、私が精一杯看護しますので、どうかご容赦ください」



 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)は新しい世界についても、女神になったノアについても特にコメントはしなかった。思うところはあるのだろうが、それを俺たちに語ろうとはしてくれないらしい。

 彼女は幼い妹を養う為に悲惨な境遇で過ごしてきて、最終的にアーカーシャ教団に救われた。そのアーカーシャ教団を打ち破った俺たちが気に食わないのだろう。



「はぁ……もう行きましょう、リズ」

「もう……ジニーお姉様ったら……」



 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)は俺にそっぽを向いてしまった。どうやら彼女と和解するにはまだ時間が掛かりそうだ。

 ヴァルゴⅤⅢ(エイト)はリブラⅠⅩ(ナイン)に早く俺から離れるように急かしている。リブラⅠⅩ(ナイン)はそんな姉の態度に少し呆れたような表情をしている。完全に立場が逆転してしまったようだ。



「それでリブラ……君たちは今後どうするんだ?」


「ええ……ラストアーク騎士団の戦いを見届けた後、私たちはこの騎士団、アーカーシャ教団からも足を洗います。お姉様と二人でまた新しい道を歩いて行こうと思っています……」


「そうか……その時は協力するよ」


「今度は私がお姉様を護る番です。幼い頃に両脚に大怪我を負っても私を育ててくれたお姉様に……今度は私が恩返しをする番なのです。幸い、ヴェーダ様から新しい生活を始める為の資金も融通して頂いたので……何か小さなお店でも開きたいですね」


「そっか……たった一人の家族だもんな」



 リブラⅠⅩ(ナイン)は俺たちの旅が終わった後、ラストアーク騎士団もアーカーシャ教団も抜けて姉と二人で静かに暮らすらしい。

 散々世界の為に働いてきたのだ、静かな生活に戻っても誰も文句は言わないだろう。リブラⅠⅩ(ナイン)は姉と二人で小さなお店を経営する事を夢見ているようだ。



「ですので……もう私は光導騎士『リブラⅠⅩ(ナイン)』ではありません。どうかリーズリット……リズとお呼びください、()()()()()


「分かった、そうするよ……リズ」


「ありがとうございます……これでようやく心の整理が付きました。もう私に“天秤”は必要ありません……これからは自分の意志で何が正しいか、何が間違っているかを考えます」



 リブラⅠⅩ(ナイン)は光導騎士としての仮面を脱ぎ捨てて、本来の名前である『リーズリット』を取り戻した。

 本来の自分を取り戻したリブラⅠⅩ(ナイン)……リズは嬉しそうに微笑んでいる。お互いに本当の名前で呼びあって、俺たちは本当の自分を取り戻した。



「私たちはお互いに……素性を偽った状態で出会った。私はリブラⅠⅩ(ナイン)、あなたはイレヴン……思えばお互いに嘘つきですね」


「けど、もう嘘は必要ない……お互いにね」


「そうですね……改めて感謝を、ラムダさん。あなた達のおかげで……私もジニーお姉様も自分を取り戻せました。アーカーシャ様のお導きを否定はしませんが……これから自分なりの考えで生きてみます」



 リズは深く俺に一礼すると、車椅子を押して歩き始めた。女神アーカーシャの加護から外れた彼女たちはきっと険しい道を歩くことになるのだろう。

 それを承知の上でリズは姉であるヴァージニアさんと行くことを決めたのだ。なら、俺から言うことは何も無い。彼女たちが困っていたら手を差し伸ばせば良いだけの話だ。



「ああ、そうでした……あなたに伝えたい事があったのでした、ラムダ=エンシェントさん。別に他愛もない話です……わたしの独り言と思って聞き流してください」


「? ヴァージニアさん……?」


「妹を……リズを護ってくれてありがとうございます。その……今後も妹とは仲良くしてあげてください。この子、あなたには好意を抱いているようですから……」


「も、もう……ジニーお姉様っ///」


「わたしが言いたいのはそれだけです……さっ、行きましょう、リズ。わたしのリハビリに付き合ってくれるのでしょう? 早く医務室に行かないとラナさんに怒られますよ」



 最後にヴァージニアさんはリズとこれからも良好な関係を続けて欲しいとだけ言い残し、リズに連れられてその場を去っていった。

 彼女たち姉妹もルチアと同じように、過去に決着を付けて新しい人生を歩み始めた。きっと信仰よりも大切な何かを見つけたのだろう。



「頑張れよ……リズ」

「あなたこそ……ラムダさん」



 お互いに笑い合って、俺たちはその場を後にした。こうして、幾つもの物語を経てデア・ウテルス大聖堂での戦いは幕を下ろしたのだった。

 願わくは、この『醜くも美しい世界』でリズたちが“希望”を見つけられますように。

これにて第17章『神の生まれ落ちる日』は終了です。長い期間お付き合いいただきありがとうございます!


次回からは第18章『虹を越えて、無限の彼方へ』が始まります。引き続きよろしくお願いします!

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