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第105話:最後の『はじめまして』


「まったく……何を考えているの、ラムダ! もう少しオリビアちゃんの治癒魔法ヒールが遅れていたら大変な事になっていたのよ!?」

「ごめんなさい……姉さん……」

「ラムダ様、お怪我はもう大丈夫ですか!? あぁ、申し訳ございません……わたしが遅れたばかりに……!!」

「オリビアのせいじゃないよ……俺が『我儘わがまま』を突き通しただけだから……! ありがとう……助けてくれて……!」

「ふぇ〜ん……/// ラムダ様の馬鹿〜……!」



 夜明けから暫くして、俺は神殿内にある聖堂で姉さんに叱られていた。


 アウラが正体不明の“光”に貫かれても殺されるのを知っていながら、アウラを放さずに諸共貫かれたから。



「はぁ……無鉄砲なのは私含めて兄弟全員なのね……! ともかく……無事で良かったわ」

「うぅ、ラムダさん……心臓に悪いですよぉ〜! 初の被弾が『幼女とキスするのに夢中でした』とかどこの変態ですか〜……! 私だって……まだ……キスして貰えてないのに……///」

「なんで知ってんだよ、ノア……」

「ラムダ……? まさかアウラ様も手籠めにする気なの……?」



 俺の腹部を愛おしそうに擦りながら様子を確認するオリビア、俺とアウラの様子をどこからか聞き付けたのか心配そうに声を掛けるノア、俺の無事に呆れながらも安堵して深くため息をつく姉さん。


 心配を掛けたのは申し訳ないが、あの出来事で俺の意思はしっかりと固まった。



「そうだよ……! 俺はアウラを【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】から解放して、【ベルヴェルク】に加える!」

「い、言い切った……!? ラムダ……あなた、本気なの!?」

「本気だ! アウラは俺が貰う! 女神アーカーシャなんかに彼女を任せてられない!!」

「やだ、ラムダ様……ワイルド♡ 幼女でもお構いなしにキスしてハーレムに加えるのですね♡」

「あぁ、いや……アウラは見た目だけが幼いだけだろ……!? 『神授の儀』を受けている筈だし、不老長寿のエルフ族だから、きっと歳上だろ……!? なっ……?」

「言い訳ですね……ラムダさんの節操なし……! ノアちゃん、キスして貰ってないので拗ています〜!」



 うむむ……ノアの視線が厳しい。


 これはノアの『女心おんなごころ』を読み間違えたか?


 今度、オリビアに教えてもらおう。



「まぁ、ラムダの『アウラ様の解放』には私も賛成です。これ以上、彼女が苦しむ必要は無い……でも、どうすれば良いのかしら?」

「ノアさん……知っているんでしょ? アウラさんにアーティファクトが絡んでいる理由……」

「えぇ、識っています――――旗艦『アマテラス』の動力炉リアクター……其処に、この神殿の『秘密』があります……!」

「――――【光の化身】!」

「今日は、旗艦『アマテラス』の最深部へ……そこで、全てを終わらせましょう!」



 とにかく、今日の目的は旗艦『アマテラス』の最深部への到達。そこにアウラ解放の手立てがある筈だ。



「誰なのだ……お前たち……?」

「アウラ……」



 そして、聴こえてきたのは少女のか細い声――――おそらく寝起きであろうアウラが、俺たちを見て不安そうな表情かおをしていた。


 彼女にとってはいつもと変わらぬ『2日目』の朝。だが、アウラの顔には疲れが見えた。


 きっと、【破邪の聖剣(シャルルマーニュ)】の言う通り、アウラの“魂”の摩耗まもうが酷くなってきているのだろう。


 そして、その最大の原因は……俺だ。



『一目惚れ……しちゃったのだ……! 約束だよ……あたしを……『明日』に……連れて……行っ……―――――』



 アウラは俺に『一目惚れ』をしたと言っていた。きっと、運命の相手に出会ったせいで、無意識に“巻き戻し”による別れに忌避きひ(かん)を覚えてしまったのだろう。


 今なら分かる――――喪失を恐れた俺と、アウラは同じ状態に陥っている。


 今日中に決着けりを付けなければ、アウラは保たない。



「はじめまして、アウラ……俺はラムダ=エンシェント……! あなたを、迎えに来ました」

「は、はじめまして……なのだ/// アレ――――なんでなのだ……?? 急に涙が……」



 3度目の『はじめまして』――――それが、アウラと交わす()()()()()()()


 この『はじめまして』を、俺は最後にしてみせる。



「あぅ……お、お兄ちゃんを見ていると……胸がドキドキするのだ/// なんで……なんで、涙が溢れてくるの……??」

「君の“魂”は憶えているんだ……記憶から消えた真実を……!」

「分かんない……お兄ちゃんの言っていること……分かんないよ……!! でも……怖い……なんで、あたし……神殿ここに居たくないって思うのだ……!?」



 俺の顔を見て狼狽えるアウラ。きっと、“魂”に刻まれた思い出に苦しめられているんだろう。


 深層心理に刻まれた俺との思い出――――傲慢な言い方だが、俺と出会ってアウラの心に初めて“時紡ぎの巫女”の使命以外の喜びが芽生えたのだろう。


 だから、その『喜び』を失うことを恐れている。



「アウラ……約束を果たしに来た! 今日、君に俺は『夜明け』と『明日』を贈る!」

「なんで……あたしの事を……知ってるの……?」

「知っているよ……俺は()()()()()()()()()()()()――――俺は君を忘れていない……!」

「あぁ……あぁ……あたし……何を忘れているの……? きっとあたしはあなたに会っている……なんで、なんで、思い出せないの……!? うぅ……あぁああああああ!!」



 頭を抱えて、膝から崩れ落ちて慟哭どうこくするアウラ。


 何千年もの間、“時紡ぎ”をし続けた代価がこの苦しみだとしたら……俺は女神アーカーシャを絶対に許さない。



「アーカーシャ!! 俺はアウラをお前から奪う!! お前が建てたこの【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】を――――完膚なきまでに破壊してやる!!」

「お兄ちゃん……!」

「行こう、アウラ! 君が望んだ『冒険』を……一緒にしよう!」

「冒険……! 行きたい……行きたい……生きたい!! あたしは――――『明日』が欲しい!!」



 神殿の床にへたったアウラに手を差し伸べる。アウラの思い描いた『幸せ』は俺が叶える。


 そして、涙で頬を朱くしたエルフの少女は俺の手をそっと握る――――こんな俺を、独占欲が強く、執着心が強い俺を選んだことを……絶対に後悔はさせない。



「それは……困るな……この神殿は……魔王グラトニス様には……必要なのでな……!」

「この声――――レイズ!?」



 そして、俺の道を阻む敵は現れる。



「レイズ……! やはり生き延びていたのか……!!」

「アーティファクトの騎士……ラムダ=エンシェント……レイズ傷付けた……殺す……殺す……殺す……!!」

「あわわ……聖堂内にいっぱいエルフのゾンビが湧いて出てきた……!? ラムダさん、ど、どうしよ〜!」



 聖堂の奥から現れたのは骸骨姿の老父――――【冒涜】のレイズ。昨日の探索でジブリールとの戦闘のどさくさに紛れて消えていた魔王軍の最高幹部。


 そして、骸の男に肩に乗り、俺への怒りに燃える青い肌の幼子・ネクロの声とともに湧きいでるはゾンビと化したエルフの女性たち。



「あぅ……せ、先代の……“時紡ぎの巫女”たちなのだ……!」

「なんだと!?」

「カカカッ! 迷宮ダンジョンの秘密の部屋に……大量に遺棄されておったのでな……余が拾ったのだ……!!」

「あぁ……あぁあ……許さぬ……許さぬぞ……女神アーカーシャ……!! よくも……よくも……私たちを騙したなぁあああああ!!」

「行け……捨てられた巫女……全員……バラバラにしなさい!!」



 歴代の“時紡ぎの巫女”――――永きに渡り【逆光時間神殿ヴェニ・クラス】の時間を巻き戻し続け、“魂”が擦り減って捨てられた犠牲者たち。


 永遠の『今日』に閉じ込められて、希望の『明日』を迎えれなかった亡者たちが、俺たちを道連れにせんと迫りくる。



「第二師団、緊急事態だ!! 全騎、直ちに戦闘状態に移行しなさい!!」

「ノア! アウラを頼む!」

「はい、任されました!」

「ラムダ様、お気を付けを……!!」

「アリア、コレット、リリィ、レティシア――――今すぐ起きろ!! レイズが攻めて来たぞ!!」



 アウラを巡る戦い、その最終日――――『過去』は巫女の足を掴んで離さず、『現在』は巫女に覚めない悪夢をせ続け、『未来』はいつ来るやも分からぬ巫女を待ち焦がれる。


 その鍵を握るは“希望ぜつぼうの光”――――俺たちを観察し続ける光の影。



ワレ……人間ニンゲンヲ滅ボス――――“光ノ化身”ナリ……!!」



 長い長い一日が、始まる。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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